a barefaced lie
この作品にはグロテスクな表現が多々使用されております。
苦手な方は注意して下さい。
感想、評価、批評等をいただければ嬉しいです。
拙い文章ですがお楽しみいただければ幸いです。
彼女はよく嘘を吐く人だった。
僕は彼女を愛していたし彼女も僕を(いつもの嘘でなければ)愛していた。両者が同じ気持ちを持てば自然と感情が高ぶるものだ、と僕は思う。
つまり僕が一度でも彼女を好きだと思えば彼女は僕に合わせてくれる。昇り上がる感情は止まることを知らない。一人愛という名の行動に狂う。
ああ、愛してる。
彼女にそう呟く。
彼女は瞳孔が開きっぱなしの虚ろな目でただ下ばかりを見つめる。生温い空気の中僕は彼女に頬を寄せる。血を頬に塗ったくった彼女はとても艶やかだった。
きっかけは何でもなかった。
彼女が小さなテレビで昔の映画を見始めたのは僕が少し前にコンビニで買ってきたラッキーストライクに火を付けた時だった。
白黒の映画は人形劇のような動きでストーリーが進んでいく。僕は何となしに彼女の頭越しに映画を見る。かわいらしい女の子が池の側で遊んでいる。人より寂ししがりやの怪物は女の子を抱き抱える。池には大きな蓮の葉が浮かんでいた。女の子は哀れにもその葉の上に投げられ池に沈み溺れてしまった。怪物が投げたのだ。
可哀想に、僕がそう言うと彼女はこちらを向き口の端を少しだけ上げて愛してる、と呟く。
僕が嘘吐き、と彼女を愛しく罵ると彼女はあなたは何もわかってないわ、と言った。
何がわかってないの。
あなたは一生かけても何も知ることが出来ないわ。
そんなことはない。
いいえ、私にはわかるの。
彼女は僕を哀れむような目で一瞥しまた映画を見るために前を向いた。
僕は煙草を灰皿に押し付け、その灰皿で彼女の頭を殴った。
彼女は小さくうめくとその場に倒れた。
長い爪がフローリングの床をひっかく。彼女は頭を少し上げ空中を掴む。僕は何だかとても腹がたって彼女の頭をもう二度、力いっぱいに灰皿で殴った。一度目に彼女の腕と頭は床に落ち、二度目に彼女の頭蓋骨は音をたてた。それからもしばらく彼女を殴ったり蹴ったり暴言を浴びせたり、そんな取り留めもないことをした。
しばらくすると僕の頭もだんだん冷静になってきて彼女を許してやろうかな、という気もしてきた。彼女にごめんよ、僕が悪かった、と言う。彼女は動かないし返事もしない、床は何だか彼女の体から流れる赤い液体やら頭から垂れ流れる汚い色をした液でいっぱいだし。僕は彼女に片付けてもらおうと思い彼女の背を支えつつ体を起こした。
彼女の頭はぐったりと上を向きだらしがなかった。口からは涎と血を垂らしてまるで赤ん坊のようだった。
僕はこんなにだらしがない彼女は生まれて初めて見るもんだから少し心配になって声をかける。
ねえ、ねえ、大丈夫かい。
ええ、大丈夫。
平気だわ。
彼女の声が頭いっぱいに響く。
ああ、なら何の心配もいらないな。
そうよ、あなたは何の心配もしなくていいの。
僕はこんなになっても大丈夫だと言う彼女を愛しく思い、服が汚れるのも構わずにキスをした。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
「愛しているわ」
彼女とのキスはストロベリーキャンディより甘いキスだった。