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隻眼の野良ねこ  作者: かぼちゃ汁
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つるんとしたガラス玉はほんのり虹色に光っていて、キラキラしたものが好きなエラは心が沸き立つのを感じた。


「あの、これって触っても大丈夫ですか?」


「もちろん。そのために持ってきたんですよ。さあ、ゆっくり手を近づけてくださいね。」


真っ白な髭を蓄えて、真っ白な格好をしたおじいさんは細い目をもっと細くしてエラにガラス玉を近づけた。

薄い虹色の光がゆっくりと瞬き、パッと光る。

その眩しさにエラは思わず手を引っ込めたが、手のひらからガラス玉に金色の光の線が伸びていた。


「ほう!これは珍しい、治癒の属性をお持ちです。魔力量も申し分ない、ぜひ医務官を目指していただきたいですね。」


きょとんとしたエラを置いて、大人たちで何か話が進んでいく。

今までだと、この流れは売られるか捨てられるというものだったが、ここにいる大人たちはどうやら少し違うようだった。


「エラちゃん、医務官ですって!かなり珍しいのよ、これで一生食いっぱぐれなくて済むわね!」


ガッツポーズをしているお姉さんは、リンお姉さん。

優しくて、ふわふわの可愛いドレスを着せてくれる人。ヴィーはひらひらして嫌だっていうけど、私は嬉しかった。お姫様みたいな格好で、どこも痛くない、寒くないから、ここは好き。


「ご飯いっぱい食べられるなら、”いむかん”になります!」


お腹いっぱいになれるほどご飯があるなんて、すごいことだ。

嬉しくて大きな声が出てしまったからか、大人たちは上や下を向いていた。


「そうだね、お腹いっぱい・・・。だめだ、僕この手の話弱いんだよ。リンさん、おやつにしよう。」


「すぐに持ってきます。・・・エラちゃん、いっぱい食べて大きくなりましょうね!」


よくわからないけど、お昼ご飯の後にまだ何か食べるものが出てくるらしい。

みんなは難しい顔をしていたけど、ここはやっぱり素敵なところだと思った。





 一人ずつ検査を行う、というアサの一声でフェイはみんなと話されてがらんと広い部屋に連れてこられた。


「はい、このキラキラしたところに手をかざしてくださいね!」


若い女は白い服を着ていて、ふわりと石鹸の匂いがした。ニコニコとした女性に敵意は感じられなかったので、言われた通り丸くてキラキラしたものに手をのせる。

ほんのり虹色に光っていたガラス玉は、じわりと墨を落としたように黒く滲んだ。


「うわああ、初めて見た!これは珍しいね、フェイくんは闇属性だ。リンさんが影属性でタイプ近いから、またお話し聞くといいですよ。」


テキパキと片付けながら、女性は色々と話をしてくれた。

闇属性はさまざまな属性と相性がよく、いろんな魔法が使えるようになるらしい。魔力量も十分なので、魔法師を目指してはどうかと言われた。


「魔法師って、どんなことするの?」


「魔法師と一言で言っても、土地を守る人、戦う人、研究する人といろんな方がいらっしゃるんです。フェイくんは魔法への適性は抜群なので、自分がやりたいことできますよ!」


自分がやりたいこと、というのが今まで選択肢に出てきたことがなかったのでフェイは混乱する。生きることに必死で、生きていく中身まで考えたことがなかったのだ。


「えっと、オレは。エラに笑っててほしい。ヴィーとか、カイも、イサも。みんなと一緒にいたいんだ。・・・魔法師になったら、それ、できるかな。」


一生懸命考えて喋ったら、なぜか白い女性が泣いてしまった。

泣きすぎていて何を言っているのかよくわからなかったけど、魔法師になればみんなを守る力を得ることができると教えてくれた。

フェイにはじめて人生の目標ができた瞬間だった。




「さて、カイくん。君は僕が検査することになりました。」


アサの手にあるガラス玉はほんのり青い光を放っている。

あれは、魔法師たちが自分の適性を知るための水晶だ。街の魔法師がもっと小さいものを持って、適性のある子どもを探しているのを見たことがある。


「僕、何もないです。昔見てもらったので。」


2年前、スラムの入り口にあった魔道具店の下働きをしていたカイは、この水晶のせいで酷い目にあったのだ。

赤毛だから炎属性の魔力があるという謳い文句で売られた子どもだったカイは、他の孤児たちよりほんの少し割高だったらしい。

魔道具屋の店主は、魔力持ちの子どもを買ったと言いふらしていたのだ。なのに、水晶は何も反応なかった。詐欺だ、話しがちがう、と酷い折檻を受け、その時の怪我で今も左足は引きずっている。


「ああ、なるほど。粗悪品の被害にあったんですね。ただのガラス玉を魔水晶だと言って売るのは昔からある古典的な詐欺なんですよ。」


ほら、と魔水晶を渡されれば、ほんのりオレンジ色に光る。


「ふむ、少しではありますが炎の魔力がありますよ。日常生活で使える程度ですがね。」


手の中のオレンジ色を見ながら、苦く笑う。この魔水晶があれば、あんな目に遭わずに済んだが、この魔水晶があったらヴィーたちに出会うことはなかった。


「こんなもののせいで、僕色々と大変だったんですよ。なんだか、複雑な気分です。」


ひょいとカイの手の中から魔水晶を取り上げて、アサは爽やかに笑った。


「君はまだ10年そこらの人生でしょう。大変だったことなんてあっという間に過去のことですよ。

いいですか、大切なのは魔力や筋力といったものではありません。そんなものがいくらあっても使う頭が無ければ、ただのデクのぼう。私たちには恵まれた頭脳が授けられています。そこを伸ばして、君は君の人生を守りなさい。」


ほら、と渡されたのはこの国で使われている大陸の共通言語の辞書だった。


「まずは読み書きを完璧にしましょうね。次はアルダーの言語、あそこは共通言語以外に大陸の古語を使います。言語と並行して、大陸の歴史と政策について、世界の仕組みを叩き込みますのでついてきてください。」


カイはゆっくりと部屋の窓から空を見上げた。勉強をしたいとは思っていたが、願っていた何十倍もの濃度で希望が叶ってしまったらしい。




ばきん、ごき、どごん、と鈍い音が響く。

片方は歯を潰した真剣、片方は木製の模造刀での打ち合いは、真剣が弾け飛ばされたところで終止符が打たれた。


「はー、しんど。若人の相手はきついんだよなあ!」


ヤダヤダ、と手を振る男はセリフの割に汗ひとつかいていない。

イサは大きく息を吸って、無理やり立ち上がった。


「ゼッドさん、俺、使い物になりますか。」


正直、真剣を握っていた手は震えていて、握力を感じられない。

それなりに傭兵業もしていたので自信はあったのだが、やはり本職で腕を振るっている大人相手だと話にもならなかった。

それでもイサは引けない。白い服を着た男性から告げられたのは、魔力はあるが魔法を使う適性が全くない、という結果だったからだ。

人よりも頑丈だったり、力が強いのは体内を魔力が回っているから。しかし、それも多少の上乗せ程度とのことだった。


「使い物ってのが実戦での話なら、今は無理だ。」


グッとイサの拳が白く固まる。

それを見て、ゼッドはごんとイサの頭に拳をのせた。


「ばか、今はって言ってるだろ。14か15そこらのお前が、俺と同じ基準で使い物になってたまるか。」


ちなみに、この国の治安を守るため全ての街に配置されている自警団へ入団出来るのが16歳からだ。その年齢を考えれば、イサはかなり恵まれた資質を持っている。


「とりあえず3ヶ月、急ピッチだが一通りの型を教えてやるよ。その間に鍛え上げろ、飯も食え、身体でかくするぞ。お前の骨格なら、多分まだ成長する。」


ほらよ、と渡されたのは先ほどの真剣よりもずっと重い木製の模造刀だ。


「俺らみたいに身体を魔力が保護してる奴らはとにかく丈夫なんだ。無茶苦茶してもなんとかなるから、とにかく身体動かせ。いいな。」


アサが聞けば失笑間違いなしの体育会系な教育方針に、イサはもう一度拳を握りしめる。

いつもは無茶するヴィーを止める役だが、なんだかんだイサも考えるよりは動く方が好きなのだった。




カツカツカツ、と高い音が響く。スリをしていたときは足音なんか立てたら仕事にならないので、布靴がほとんどだったヴィアはこの音が居心地悪い。


「なあ、どこいくんでスか。」


「んー、顔見せだよ。君のその不気味な敬語も何とかしないといけないし。」


前を歩く王子は同じような靴を履いているのに、ヴィアより足音は柔らかで、姿勢も美しい。

こうしてみれば、間違いなく高貴な身分だというのが分かるのだが、どうにも口調や態度がらしくない。


”今日から3ヶ月、君たちはそれぞれの教育を受けてもらう。自由時間はほぼないと思って欲しい。それぞれ必要なことを叩き込むんだ。いいね。”


これが先ほど全員に知らされた内容だ。

ヴィアもイサと一緒に戦闘訓練が受けたかったのだが、それは却下された。


ぎい、と軋む扉をひらけば、さっきまでいた執務室よりずっと豪華な部屋が現れる。そして、その部屋の真ん中にあるどっしりとしたソファに、小柄な老人がちんまりと座っていた。


「お久しぶりです。先生。」


王子の挨拶に、ゆっくりと顔を上げた老爺はギロリと辺りを睨んだ。


「おう、久しぶりじゃの。このクソガキが。」


しゃがれた声で暴言を転がす姿に、ヴィアは思わず笑ってしまう。あの王子をクソガキ呼ばわりするなんて、こんなおかしいことはない。


「全く、先生だから許してますけどね。王族への無礼は罪になるんですよ。」


「何が無礼じゃ。手紙一枚で勝手に養子を押し付ける方が無礼で常識知らずじゃろうて。」


じろっと厳しい目線が飛んできて、口元が緩んでいたヴィアもグッと背筋を伸ばす。もしかしなくとも、このジジイが養父となった人物なのだろう。


「こんなどこの馬の骨かも分からんもん拾ってきよって、そんな癖まで母親に似る必要はなかったんじゃぞ。」


「ははは、やだな。そんなところ似てるだなんて言うの先生くらいですよ。・・・昔話は、もう少し落ち着いてからじっくりとしましょう。今日は顔合わせとご協力のお願いをしたかったんですよ。」


部屋の空気が糸をピンと張ったように緊張する。空気を変えたのは、老爺だった。


「・・・動くのか。」


「はい、次の式典で。」


「それで養子をのう。カモフラージュにしては派手すぎんか。」


「派手な方がごまかしが効くでしょう。ちょうどいい拾い物だったので、少し前倒しにしたんですよ。」


「ほんまに、お前さんはあの男の息子じゃの。まあ良い、ここまで巻き込まれたら逃げられもせんだろう。・・・お嬢さん、名前は。」


突然声をかけられて、びくりと身体が震える。重い空気に肩がガチガチに固まっていた。


「え、あ。ヴィアです。」


「ヴィアか、美しい響きじゃの。よし、わしのことはお祖父様と呼ぶがいい。父と呼ぶにはいささか歳が離れすぎているしの。」


「はい、お祖父様。」


はあ、と老爺はため息を吐いて天井を見あげる。


「この歳で中央へ呼び戻されるとはな。しかも孫まで出来てしもうた。」


「先生を引退させるのは国の損失ですからね。諦めて働いてください。」


にっこりと笑う王子とは対照的に苦い顔をした老爺は、ゆっくりとソファに腰掛ける。


「まずは孫娘と話をさせてくれ。わしらはあまりにもお互いを知らなさすぎる。」


「もちろんです。ヴィア、おいで。」


促されるままにヴィアは向かいのソファへ腰掛けた。ぐんと身体が沈み込むソファに驚いてばたついてしまったが、それをみた老爺は笑うことなく手を貸してくれる。


「さあ、まずは自己紹介からじゃな。」




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