【サイパンの戦い】
ひっそりと始めます(;^_^A
だいたい土曜日に更新したいと思っていますが、今のところは不定期だと思って下さいm(_ _"m)
南国の夜。
煌びやかに輝く星空。
磯の香りを含んだ冷たい風。
眼下には沢山の寄せ書きが記された日の丸と旭日旗が静かにはためいていた。
パンパンパンと立て続けに拳銃による銃声が闇に鳴っては解けてゆき夜の湿った風にすすり泣く声が運ばれ、おびただしく並ぶ黄土色のヘルメットの群れが波にさらわれる小石のように項垂れる。
たった今、陸海軍の基地司令官たちは自決した。
怒鳴るようにこれから行われる作戦を伝える高級将校の声は、その意に反してこの戦いで勝つことよりも既に絶望的な状況であることを集まった兵士や住民に伝えている。
俺の肩の近くにあったプルメリアの花が、揺れた。
私は今、猛烈に腹立たしい気持ちでこの光景を遠くから見ていた。
つい1ヶ月ほど前、東条首相をはじめ陸海軍部首脳は米国のサイパン島上陸作戦の情報を知ったとき小躍りして喜んでいた。
これでミッドウェイの仕返しが出来る。
敵をサイパン島に引き付けて、陸海軍共同で袋のネズミにしてやると。
ミッドウェイ海戦の敗因として挙げられるのは、決して沈むことのない陸地であるミッドウェイ島付近で戦闘を行った事。
もちろんミッドウェイ島への上陸作戦である以上、島に近付くのは致し方ないが、奇襲攻撃を目論んだために偵察も出すことなく敵上確認が不十分なまま作戦を行ったことが敗因の要因であることは間違いない。
島には3角形に組まれた3本の滑走路があり、そこには日本の攻撃に備え既に100機以上に増強された航空戦力が待ち構え得ており、その一部は航空攻撃から機を守るためにシェルターに収められていた。
ちなみに我が方の予想では、飛行艇24機、戦闘機11、爆撃機12の合計47機程度の航空戦力と砲台20前後に過ぎないと予想されていた。
またミッドウェイ島の東海上には、我が航空戦隊の奇襲時に即刻連携が取れるように3隻の空母が隠れていたことが挙げられる。
このミッドウェイ島と米3隻の空母が保有する航空戦力は、我が海軍の空母赤城・加賀・蒼龍・飛竜・翔鶴・瑞鶴による攻撃を想定して、その数を上回る戦力になるように島の航空機戦力を大幅に増強していた。
そこに米国の想定を下回る4隻の空母だけで、しかもミッドウェイ島と米空母と言う2正面作戦を挑んだだけでなく。
先ず敵空母がどこに居るのかも分からない状況で、我が方の存在を明かしてしまう恐れのあるミッドウェイ島を攻撃したことが敗因として私は見ている。
もしこの作戦に勝つつもりであれば、ミッドウェイ島の航空機の行動半径の外からひたすら米空母の存在を確認すべきであったと思っている。
今回のサイパンでの戦いに失敗は許されない。
大本営作戦本部でも、天皇陛下直々に陸海軍が協力して万全の体制を敷くようにとの通達もあり、サイパン島の航空戦力の増強と防衛力の強化に努め滑走路も1本増やして、海軍空母部隊と共同で近付いてきた敵空母部隊を殲滅するはずだったのに……。
“それが、何で、こうなった⁉”
それを調査するのが、私の仕事。
私の名前は柏原総一郎。
陸海軍のどちらにも属さない大本営から派遣された研究員。
大本営というのは大日本帝国陸軍および大日本帝国海軍を支配下に置く、戦時中のみの天皇直属の最高統帥機関と言う事になっているが、その実行力はほぼ無いに等しく作戦は陸海各々の参謀本部が立案したものを承認するに過ぎない。
また政治士官として戦争の現地に赴くことも無いので、戦果は陸海軍部から出されたものを鵜呑みにするしか手立てがない。
もしこのサイパンを取られたら、敵は直接日本本土を爆撃してくる可能性が高い。
そうなれば各都市で多くの市民が巻き添えを受けるだろう。
更にその先にあるものは、敵の日本本土上陸……。
今回私は陛下から嘘偽りのない戦争の実態を調査してくるように命じられここに来た。
サイパン島に新しい滑走路は作ったものの、一向にその滑走路に並ぶはずの航空機は増強されず、新しい滑走路には木製の飛べないダミー機が並べられた。
コレでは何の戦力にもならないばかりか作業で兵は疲弊し、本来作るべきはずの防衛拠点も海岸線に構築された塹壕のみと言うお粗末さであった。
米軍のサイパンへ島への攻撃は6月11日より始まった。
主な目的は、島の航空戦力を削ぐこと。
そして我が方の連合艦隊が米空母部隊に口火を切ったのが6月19日で、もうその頃にはサイパン島にある基地航空戦力は既に壊滅していた。
おそらく先のミッドウェイ海戦に於いてもし米国もこのサイパンの日本軍同様に基地戦力と海軍の連携がとれていなければ、我が軍は難なくミッドウェイ島攻略作戦を成功させていただろう。
海岸線に構築された塹壕は米海軍艦艇からの艦砲射撃によりその殆どは破壊され尽くし、陸海軍の地上部隊は上陸してくる敵に対して波打ち際に突撃を繰り返し、無駄に戦力を減らした。
海上の戦闘では敵潜水艦郡に囲まれた状況の中、本格的な戦闘が始まる前に最新鋭空母大鳳と、歴戦の主力空母翔鶴が潜水艦による魚雷攻撃で早々に沈み航空戦力の半数近くを序盤で失う羽目になり最終的には参加した9隻の空母のうち3隻が沈没し残りの6隻うち4隻が損害を受けると言う一方的な敗戦となってしまった。