表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/25

それ、ヒロインハラスメントです

 翌日。

 スカーレットが、また、やってくれた。


 普段より遅めに、教室に入ってきた彼女。いつもはやたら元気な挨拶が、どういうわけか、今日はしょぼくれていた。すぐに、ルカがかけ寄った。ちなみに、ジョシュアはまだ登校していない。


「どうしたんだよ、スカーレット。元気ないじゃん?」

「まぁ、ちょっと、色々あってぇ……」


 スカーレットは思わせぶりに答えて、髪をかきあげる。その動作で、制服の袖口から、左の手首にちらりと白いものが見えて。それに、ルカがすばやく反応した。


「その包帯、ケガしたのか?」

「あっ……うん。ちょっとねぇ……」


 スカーレットはすっと手首を隠しながら、これまた、思わせぶりに答えた。

 今朝、寮の食堂で見かけた時には、包帯なんて見えなかったのに。今度は一体、何をするつもりなのか。

 そんなことを考えていたら、スカーレットと目が合った。彼女はあからさまに「あぁっ!」と、目をそらす。これにも、また、ルカが反応した。


「まさか、ロベリアに何かされたのか⁉ 昨日の放課後、ロベリアと話をするって言ってたよな!」

「ち、違うのよ? 私が勝手に転んで、ケガをしただけで、ロベリアは関係ないの。ロベリアのせいじゃないわぁ!」


 またしても、でっちあげるつもりらしい。

 これにも、思い当たることがあった。

 ゲーム中、ロベリアに突き飛ばされて、怪我をするイベントがある。スカーレットは、シナリオ通り、それを強引に起こすつもりなのだろう。


「ロベリアは、なぁんにも、悪くないの!」


 スカーレットの声が、教室中に響き渡った。口では否定してるけど、私のせいだと言いふらしているのも同然。

 どうあっても、私に悪役を強要したいらしい。

 ヒロインだからって、何をやっても許されるわけがない。ここまで来るとパワハラ。いや、これはヒロインハラスメント。

 私だって自分が可愛い。当然、降りかかる火の粉は、払わせてもらう。

 私はスカーレットの所へ行くと、包帯が巻かれた手首を掴んだ。


「きゃぁああ、何するのよぅ!」


 スカーレットは、ぎゅうっと目を閉じる。殴られるとでも思ったのか。いや、もしかしたら、それが彼女の想定だったのかもしれない。

 スカーレットは棒立ちのまま。身をかばうそぶりや、逃げるそぶりを見せなかった。そして、思った通り、手首を痛がる様子もない。


 私は呆れながらも、隠し持っていた魔法の杖を取り出し、呪文を唱える。


「聖なる癒やしよ!」


 魔法の杖から、小さな光がシャワーのようにスカーレットの手首へ降り注ぐ。しかし、光の粒はパチンと弾かれて、消えてしまった。

 その瞬間、スカーレットの顔がまずいとゆがむ。


 普通、回復魔法の光は、患部に吸い込まれていく。弾かれてしまったのは、癒やすべき場所がなかったから。


「残念だったわね」


 私はスカーレットにささやいた。

 スカーレットは、私の腕を振り払うと、教室から出て行った。あとに残されたルカが、ぽかんとした顔で私を見る。


「大したこと、なかったようね」


 私は、にっこりと笑ってみせる。

 むしろ、ケガなんてなかったわけで。魔法を学ぶ者なら、スカーレットの嘘は誰が見ても分かること。


「え、あぁ、うん……」


 ルカもまた、すごすごと自分の席に戻っていく。

 けれど。

 スカーレットは、とても諦めが悪かった。

 うんざりするほど。

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ