表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/25

放課後はケーキと噂と悪口で

 私たちは、学校からほど近いカフェに入る。

 休息日ともなれば、生徒でごった返すこともあるけど、今日はすんなりとテーブルにつくことができた。

 しばらくして、注文したケーキとお茶のセットが運ばれてくる。


「やっぱり、そっちも、おいしそう」


 私のチョコレートケーキを見て、エリーが言う。彼女は最後の最後まで悩んで、フルーツタルトを選んでいた。


「一口、食べる?」


 尋ねると、エリーは、「え?」と驚いた様子で、目を瞬く。

 もしかして、こっちの世界じゃ、ケーキのシェアとか、はしたないことだったっけ? そういえば、ティナとはシェアしたことはなかったけど。

 考えている間に、


「じゃ、遠慮なく」

 

 エリーのフォークが突き刺さっていた。その言葉通り、少しの遠慮もない。一口どころか一欠片、えぐり取っていく。

 まだ一口も食べてないのに、三分の一が消えてしまった。


 嘘でしょ。


 呆気にとられていたら、「はい、これ!」と、フルーツタルトが、返ってきた。持っていかれた以上の大きさがある。続けてエリーは、気前よくティナにもおすそ分けをした。


 ……はい、ごめんなさい。大人げがありませんでした。


 心の中で、エリーに謝って、私も残ったケーキを半分に切り分け、ティナのチーズケーキと交換する。

 三つのケーキは、どれも美味しくて心が癒やされた。


「二人とも、今日は本当にありがとう」


 ケーキを食べ終えたあとで、私は改めて頭を下げた。


「お礼を言われることでは、ありませんわ。きちんと調べもせずに、初めからロベリアを犯人だと決めつけていましたもの」

「ホント、今、思い出しても腹が立つ。結局、うやむやになったけど、あれって、スカーレットが自分でやったってことでしょ?」


 多分と、私はうなずく。


「でも、スカーレットがやったという証拠もないから」

「だよね……でも、最後はいい気味だった! ロベリアに裁判って言われて、オロオロしちゃって。ホント、いい気味よ。私、あの子には散々な目に遭って、腹を立てっぱなしだったから」


 エリーが笑ったあとで、「実は」と、ティナも切り出した。


「わたくしも、スカーレットさんには、少し腹が立っておりました」

「そうなの?」


 何だか意外だった。

 ゲームでは常にロベリアの右側にいて、悪役令嬢の一味だったけど。ここでは、彼女が誰かの悪口を言ってるのは、聞いたことがない。


「スカーレットさんは、転入してきて、すぐに、ルカ様と仲良くなって……とても、うらやましく思っていたのです。わたくしなんて、この二年で挨拶を交わすくらいしか、ルカ様とおしゃべりしたことありませんのに!」

「そうだったの?」


 ティナがルカを? 

 ずっと一緒にいたのに、初めて知った。同時に、悪役令嬢の側についていたのは、ただの幼なじみというだけでなく、そんな裏設定があったのからかと、納得もする。


「わたくしだって、スカーレットさんとルカ様が、両思いになられて、二人がお付き合いを始めるのなら、それは仕方のないことだと、諦めておりました。わたくしは、ルカ様を眺めるばかりで、声をかけることもできなかったのですから……それなのに、」


 彼女は、ぎゅっと拳を握りしめ、大きなため息をこぼす。こんなティナも、私は初めて見た。


「それなのに、スカーレットさんは、ジョシュア様とも仲良くしだして。あれほど、ルカ様にベタベタとしていたのに」

「分かる」


 エリーが、しんみりと言う。


「好きな人がさ、自分以外の女子とすごく仲良くしてるのはイヤだけど、その女が別の男子とも仲良くしてるのも、それはそれで腹が立つんだよね。『私の好きな人は、本命がダメだった時の保険なの⁉』って」

「えぇ、本当に!」


 エリーとティナは、手と手を握り、うなずきあった。

 私は二人の話を聞きながら、やっぱり、スカーレットは転生者かもしれないと、思っていた。しかも『マジですか』を知っている可能性が高い。

 スカーレットは今、ダグラスとルカ、ジョシュアの三人を攻略中(・・・)なのだろう。共通ルートでの複数同時攻略は、『マジですか』のあるあるだし。


「それにしても」


 ふと、エリーがつぶやいた。


「学校中のイケメン集めて、スカーレットはハーレムでも作る気?」


 エリーのその言葉に、横の席に座っていた女子が、「えっ?」と、こちらを見た。


「ちょっと待って。ねぇ、今の話、スカーレットがハーレムって、何?」


 話に割り込んできたのは、見覚えのある、隣のクラスの子だった。

 ちなみに、希少な聖属性の持ち主ということで、途中編入してきた特別待遇のスカーレットは、全校生徒が知る有名人でもある。


「スカーレットって、イケメンばっかり狙って、次々と仲良くなってるみたいだから」


 エリーが説明した。


「何それ?」

「どういうこと?」


 彼女の方も三人のグループで来ていて、他の二人も話に興味を持ったらしい。ガタガタとテーブルをこちらへ寄せてくる。


「スカーレットって、最近、うちのクラスのオーランドとも仲がいいんだけど⁉」

「私は、この間の休息日、ちょうど、このカフェで、マーティン先輩とお茶してるの、見た!」

「でも、あたし、あの子が付き合ってるのは、一年のアンセルって子だって聞いたよ? しかも、三年のダグラス先輩とも二股かけてて、二人が鉢合わないよう、学年が別々なんだってウワサ!」


 次々、飛び出す彼女たちの話に、私たちも驚いた。


「結局、何股なの?」

「今のところ、六股ですわね」


 一体、誰がスカーレットの本命なのかと、話が盛り上がる。

 みんなで追加のケーキを頼んで、ますます会話も弾む。そのうちに、話は段々、スカーレットの悪口へと変わっていった。六股疑惑も浮上して、みんな、思うところがあるらしい。これまた、大いに盛り上がったところで、お開きとなった。


 自宅通学の子たちと別れ、寮に戻った私は、確信していた。


 オーランドに、マーティン、アンセル。そして、ダグラス、ジョシュア、ルカ。

 六人全員、『マジですか』の攻略対象。そこだけを狙って近づいている。学校には他にも大富豪のイケメン御曹司や、イケメン留学生だっているのに。

 これはもう、間違いない。

 スカーレットも転生者。そして、そこそこ『マジですか』をやったことがあるはず。


 そう思えば、髪飾りの件も納得できた。

 私に悪役をやらせるため、ゲームと同じようなイベントを起こそうとしたのだろう。


 それにしても……。


 ここは確かに『マジですか』の世界だけど、この世界はゲームじゃない。

 食べた分だけきっちり太るし、ニキビもできる。攻略キャラだって、ゲームスチルみたいにいつだってキラキラしてるわけじゃない。隠しキャラのバーノンは、水曜以外もうろうろしてるし、攻略対象に思いを寄せる女の子もいる。

 それなのに、ゲームの攻略と同じように行動していたら。


『スカーレットって、なんか、ムカつく!』


 思い出したのは、三人組の一人がつぶやいた言葉だった。

 学校の人気者とばかり仲良くなれば、そう思われるのも当然。これには、あの場にいた全員がうなずいたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ