その後の悪役一家のある日の晩餐
この日は、父に呼ばれ、家へ戻ることになった。
三年生に進級し、テストや進路相談で忙しい中、重要な話があるとのこと。やっと兄の結婚でも決まったのかと、思っていたのだけど。
父はいつものこととして、二人の兄も、いつにも増して様子がおかしかった。三人とも元気がないというか、暗いというか。
「それで、重要な話って?」
お茶を一口飲んでから、尋ねると、二人の兄は顔を見合わせてから、父の方へと視線を向けた。
その視線を受けて、勢いよくソファから立ち上がった父だったが。
「それは、その……」
沈黙したままの父に、すっと執事が側に寄ってささやく。
「旦那様、先に例のデザートをお出ししては?」
「おぉ、そうだ、そうだ! とても美味しいと評判のデザートを手に入れたのだ。ロベリーちゃん、一緒に食べようではないか!」
屋敷中に響くほどの大声で言った。ただし、両腕をぴしっと伸ばした直立不動で、セリフも棒読み。何かあったのは確定だった。
しばらくして執事が、ケーキボックスを持ってきた。
「お嬢様。こちらは旦那様がお嬢様のためにと、お求めになられた評判のデザートでございますよ」
告げられたのは、バーノンと一緒にアップルパイを食べた、あのレストランの名前。
開封とともに、甘くて香ばしい匂いがふわり、辺りに広がった。そして、箱から出てきたのは、まさにツヤツヤ三角のアップルパイだっだ。
「実は、この店はな、バーノン殿下もお気に入りで、お忍びで度々、いらっしゃっているらしい」
ドヤ顔の父に、
「へぇ、そうなんですか。お父様、ありがとう」
知らぬ顔でにっこりと笑って、アップルパイを食べる。
うん、いつも通りにおいしい。
半分ほど食べ終わったところで、重要な話について尋ねると、ようやく父も重い口を開いた。
「縁談? 私に?」
「あぁ。ロベリーちゃんにも、悪い話ではない」
相手は長兄の親友でもあり、うちへ遊びに来るたび、私にもよくしてくれた人。家柄もその人柄も申し分はない。
「もちろん、ロベリーちゃんが魔導院に入るため、毎日、頑張っているのは知ってる。しかしだな、」
父の言いたいことは分かる。
普通の令嬢は、早ければ十六かそこらで結婚する。もしくは婚約者がいたりする。しかも、この世界では二十歳で年増、二十五で大年増なんて言われて。二十五で未婚の女性は、行かず後家なんて呼ばれたりもする。父は私がそうなることを、心配しているのだろう。
「お断りしてください」
「ももっもしや、ロベリーちゃん、好いた男が……」
私は、お茶を飲んで答えを濁す。
その好いた男とは、この一ヶ月、連絡も取れていなかった。一体、どこで何をしているのか。でも、彼が学校を卒業してから、こんなことは日常茶飯事だった。
「……まさかまさかぁあああ! その男と結婚の約束を? どこのどいつだ! 生半可な男は許さんぞぉおおお! わしの目の黒いうちは、」
「しません」
「うへ?」
「お慕いする方はいますが、結婚はしません」
できるとも思ってない。
だって彼は王子様で。色々と背負うものがあるのだから。
私はいつも呼びつけられて、馬車で運ばれるだけ。都合のいい女ってやつなのかもしれない。それでも構わない。これで彼がいいかげんな男だったら、とっくに会うのをやめていたけど。
ただ、一度だけ、弱音を吐いたことがある。
王子なんていいものじゃない。自分には本当の意味で自由など存在しないのだと。
そんなセリフを吐いて、あんな儚い笑顔を見せられたら……。
まぁ、いいかと思ってしまった。
彼が私を呼んでくれる限り、私は会いに行く。
「ロベリーちゃん、それはどういう、」
「私は、魔法学校を卒業したら、魔導院に入って国のために尽くすつもりです」
「しかしだな」
「まぁまぁ、父上。ロベリーちゃんは昔から、そう言っていたじゃありませんか。僕たち家族が応援しなくてどうするのです」
「そうですよ。魔導院に入って、ゆくゆくは宮廷魔導師になるのが夢だって」
そう、それが夢だった。
悪役令嬢の私は、どうにか断罪エンドを回避して、上級国民になることを目標に生きてきた。
『宮廷魔導師になれば、側にいられるかもしれない♪』……なんて。甘っちょろいことを考えていた時もあったけど。
私は私にできることをするだけ。それで少しでも支えとなれたらいい。近頃はそう思い始めていた。
「ですから、縁談はお断りしてください。お父様、お願い」
私は、とびっきりの笑顔を父に向けた。




