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「なーんだ! この子ら、高木のばあちゃんの知り合いなのー?」
「お前らこの辺、もぉ近寄んなよ? ホントにヤバい奴ら、いっからな?」
あっさり引き下がった『リサもどき』と、意外といい人だったらしいヒロキ。
ほっと肩から力が抜けた大雅と杏が、「こっちだよ」と肩を押されて横道を抜けた先には、ぱあっと――明るい商店街が広がっていた。
八百屋に総菜屋、肉屋に魚屋、ケーキ屋と和菓子屋、手芸店やカフェまで――通りの左右にずらりと並び、買い物客が賑やかに行きかう。
「おっ、高木のばーちゃん、今日はいいアジあるぞ!」
「コロッケ、揚げたてだよー!」
ぽんぽんと、店先から投げられる親し気な声に、
「はいはい、後で寄らせてもらうよ」
にこにこと返すおばあさんと一緒に、進んだ先にあったのは、
チョコレートそっくりの茶色い屋根瓦と、くすんだビスケット色の壁、絞ったクリームみたいな飾りに囲まれた、出窓のある一軒家。
まるで
「お菓子の家?」
「可愛いーっ! 童話に出てくるお家みたい!」
大雅のおののく声を、杏の歓声がかき消した。
『高木玩具店』と書かれた看板の下。
格子状の上半分にガラスがはめ込まれた、アンティークぽい扉を開くと、チリンとドアベルが鳴る。
「ほら、お入り。ここがわたしん家だよ」
「おっ、お邪魔します……」
「しますー!」
恐る恐る中に入ると、意外にもそこは――ヒーローや人気キャラクターグッズ、ぬいぐるみや人形等が棚に並ぶ――普通のおもちゃ屋だった。
「あっ、廃盤になってるボードゲーム!」
「可愛いー、シ〇バニア! わっ、これ完売してる子!」
思わず歓声を上げる兄と妹。
そこに
「おばあちゃん、お帰りー! お客さん?」
明るい声をかけながら、奥から出て来たのは、
「あっ!」
「あれっ、立花くん!?」
高木咲花さん、だった。
「やっぱり昨日、咲花がスーパーで会ったって、話してた子かい?
ここらで見かけない子達が、裏の通りに迷い込んで行くから、後を追いかけたんだよ」
店の奥手にある小さなキッチンで、冷たいカルピスをごくごく飲み干す兄と妹に、咲花の祖母はにんまり笑いかけた。
「あのっ、「「ありがとうございました!」」
揃って頭を下げた大雅と杏に、
「これからは気を付けるんだよ? あの2人は気のいい子達だけど、中には危ないヤツもいるからね。
それにしても小さいお嬢ちゃん? あの話術は見事だったねぇ!
ヒロキ達を一瞬で、ご機嫌にさせてさ――まるで魔法みたいに!」
おばあさんが楽しそうに、ぽんっと手を叩いた。
「あれはパパに教わったの、えっとね――『「親切心で殺す」作戦』!」
「『殺す』!?」
妹の口からいきなり飛び出した物騒な言葉に、兄はびっくりして、目を見開いた。
「前にね、クラスでいばってる子に無視された時、パパが教えてくれたの。
『全然気にしてないフリで、杏はその子にいつもより明るく、ポジティブに笑いかけるんだ。そしたら相手は「何で?」と動揺して、勝手にダメージ受けて、大人しくなるから』って」
淡々と話す杏の言葉に、更に目を丸くする大雅。
いつも楽しそうに学校に通っていた妹が、そんなイジメを受けていたなんて。
「あぁ、これだね……『Kill with Kindness』。
『アメリカで使われるフレーズ』って、ことわざみたいなもんかね?
なるほど、確かに直訳だと『親切心で殺す』だ――この歳になっても、まだまだ知らない事があるんだねぇ!」
素早くスマホで検索をして、丸いメガネ越しに、楽しそうに笑うおばあさん。
「そっ、それで? その作戦は効いたのか?」
「うん! ばっちり!」
にっとピースサインを出した妹に、ほっと息を吐いた兄を見て、おばあさんこと高木玩具店店主が、にんまり口角を上げた。
「お兄ちゃんも頑張ったね!」
「えっ? いえ俺は相手を、怒らせただけで……」
妹に助けられた不肖の兄は、肩をすくめて小声で返す。
「何言ってんだい! とっさに妹を、背中に庇ったじゃないか? 男だねぇ!」
『ちゃんと見てたよ』と玩具店の魔女は、優しく頭を撫でるような声で、大雅を褒めた。