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 着飾ったお姉さん達が接客する、飲食店街に紛れ込んだ、小学生の兄と妹。

 

 黒スーツに派手な柄シャツ、耳だけでなく眉や鼻にまでピアスを光らせた。

 背も身体もデカい、いかにも治安悪そうな男に呼び止められて、かちんと固まっていた所に。

「ヒロキー? だれ、この子らー?」

 

 胸元が開いた金色のドレスに、スパンコールが光る、ピンヒールのサンダル。

 目力強々がっつりメイクと、ワンサイドアレンジしたメッシュ入りの茶髪。

 『キャバ嬢ですけど、何か?』と全身で主張している、やたら語尾を伸ばす女子が現れた。


「えっと、道に迷って……」

 と言いかけた大雅(たいが)に、シャンパンブラウンのカラコンで盛った目を丸くして、

「やっば――この子らアレみたいじゃんー! ほらっ、『ヘンデルとグレーテル』!」

 指をさしながら大声で、けらけらと笑い声を上げる。

 

「はぁっ? 『へんでるとぐれーてる』? そんなアイドルいたか?」

「違うってー! ほらー、お菓子の家で魔女に食べられちゃう話だってばー!」

「あ? 知らね」

 お互い好き勝手、言い合ってる2人に、

『人を指さしちゃいけないし! ヘンデルじゃなくて、ヘンゼルだし! 食べられそうになるけど、魔女をやっつける話だよっ!』

 口をぎゅっと結んだまま、心の中でぐいぐいと、大雅が突っ込みを入れる。


 ふと目が合った『ヒロキ』が、

「なんだボクちゃん、ご機嫌ななめかー?」

 からかい口調で、頭を小突いて来た。

 反射的にさっと避けると、

「おっ? なっまいきー!」

 にやりと浮かぶ、凶悪な笑顔。

『ヤバい!』

 すばやく妹を背中に隠して、ぎゅっと兄は身構えた。


 その時、

 「ねぇねぇお姉さん! あそこのセンターって、お姉さんでしょ?」

 目をキラキラさせた(あん)が、3人の女子が並んだ看板を指さしながら、ワクワクと声を上げた。


「はぁー? そうだけどー?」

「すっごーい! センターってことは、No.1でしょ? 『アユ☆ラキ』のリサちゃんみたい!」

 『アユ☆ラキ』こと『Are you ☆ Lucky?』は海外でも大人気の、ガールズアイドルグループ。

 その一番人気メンバーの、名前を上げた杏に、

「まっ、まあねー? 良く『似てる』って言われるしぃー!」

 ご機嫌な顔で、前髪をかき上げる。


「やっぱりー!? そっくりだもん! ねっ、お兄さんもそう思うでしょ?」

 今度は『ヒロキ』を見上げて、にっこり。

「わぁっ、お兄さんもかっこいい! そのピアス、KーPOPのアイドルみたい!」

「そっそうかぁ――マジで?」

「うんっ!」

 三つ編みを揺らした可愛い小学生に、大きく(うなず)かれて、てへっと照れ笑いを返すゴツイ男。


 大雅がぽかんと見ている間に、その場の空気がほのぼのと……何とも(なご)やかな物に変わった。


 その時、

「はいはい、ごめんなさいよ。その子達がお世話になったね? 2人共、ワタシの知り合いなんだよ!」

 いつの間にか路地裏から現れた、一人のおばあさんが声をかけて来た。


 白髪混じりの髪を首の後ろで一つにまとめた、半袖の黒っぽいワンピースとエプロン姿。

 丸いメガネをかけた顔に、ほっそりと華奢(きゃしゃ)な身体。

 でも力のある目で、こちらを見据えて、ニヤリと笑う。

 まるで、

『「魔女」みたいだ……』


 一難去ってまた一難。

 大雅は汗ばんだ右手で、妹の左手をぎゅっと握り締めた。

 

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