表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

 昨日総菜売り場で助けてくれた女子に、『冷蔵庫が壊れて困っている』事を、レジに並びながら打ち明けたら。

「常温保存出来る、ジャムとかシーチキンあるよ! あとパック入りのご飯とか、便利かも!」

 わざわざ売り場に戻って、色々と教えてくれた。


 ついでにお互い自己紹介をして。

「じゃあ立花くんも、今5年生?」

「うん、高木さんも?」

「そう、有川小の。先週、お母さんと妹さんと一緒に、うちの学校来てたでしょ? 転校して来るの?」

 と(たず)ねられて、

「うん、2学期から。夏休み中なのに、学校にいたんだ?」

 ちょっと首を傾げたら。

 

「手芸部の活動日だったから。

 あのね、百均ショップで買った物を工夫して、ドールハウスみたいな部屋とか小物、作るのが好きなんだ」

 少し恥ずかしそうに教えてくれた後、

「2学期になったらきっと、大人気だよ立花くん! 6年の先輩たちも、『かっこいい』『アイドルみたい』って騒いでたし!」

 にっかり笑顔を返された。

 

「いや別に、そんないいモンじゃないし……」

 口の中でもごもご言い訳しながら、キャップのつばをぐいっと下げる。

 ハーフの父親譲りの、癖のある茶色い髪とダークブルーの瞳。

 この見た目のせいで、どこに行っても必用以上に人目を()く。

 髪と目の色が少し明るいだけの(あん)には、『お兄ちゃんだけずるい!』って、良く言われるけど。

 変われるもんなら、変わりたかった。


 いつの間にか(うつむ)いていた顔を、頭半分小さい黒髪の女の子に、ひょいっと(のぞ)き込まれた。


「どうして? そんなにキレイな目なのにっ!」

 

 裏の無い、まっさらな笑顔に細められた、黒い大きな瞳。

 肩先でぱつんと切られた毛先が揺れて、こちらの頬に触れそうになる。

『近い! 近いって!』

 ぼわっと顔に血液が集まる音が、聞こえた気がした。


「ねぇ、それって伊達メガネ?」

「ひゃいっ……」

 緊張して噛んで、ますます頬が熱くなる。

「もったいない! 立花くんがそれかけるの、人類にとって大きな損失だから!」

「人、類……?」

「そうっ!」

 真面目な顔で、きっぱりと言い切る高木さん。

 意味も分からず、こくこく(うなず)いていた。


◇◆◇◆◇

 昨日の会話をぼんやり思い返している内に、あれこれメニューを考えるのが面倒になって来たので、夕飯はカップ焼きそばで手抜きすることに。

 エコバッグを下げてスーパーを出ると、火属性攻撃みたいな熱気が、ぶわっとまた押し寄せて来た。


「あっつ......」

 買ったばかりのスポーツドリンクを取り出し、1本を杏に手渡しながら、大雅(たいが)はふと思い出す。

『わたしの家、こっちなんだ。じゃあまたね!』

 昨日手を振りながら、右側の道に走っていった、高木さんの後ろ姿。


「お兄ちゃん? 早く帰ろーよ!」

 スポドリを飲みながら、妹に促されて、

「えーと――今日はこっちの道、通ってみないか? 裏道見つければ、近道になるし」 

「いいよー、行こ行こ!」

『この辺歩いてたら、ばったり会えるかも!』

 商店街のある賑やかな通りの、1本裏の道に、兄妹は足を踏み入れた。

 

 ラーメン屋や居酒屋の前を通り過ぎて奥に進むと、いきなりギラギラと、ネオンが輝く店が現れた。

 よく分からない横文字の店名と、何だかキラキラしたお姉さん達が並んで、にっこり笑う看板。


 やばい。

 ここは、小学生が近づいちゃいけない通りだ!

「杏! 戻るぞ!」

 ほぇ~っと目を丸くして、看板を見上げている妹の手を引っ張り、元の大通りに戻ろうとした大雅の前に、


「あれあれーっ? 随分と可愛いお客さんじゃーん!」

 店の影からぬっと現れた、スーツ姿のゴツイ男。

 ピアスまみれの耳をいじりながら、にやりと笑いかけて来た。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ