【番外編6】降誕祭
12月25日。
世間一般ではクリスマス当日。
東京都の端っこにある都立有川中学校では、2学期の最終日であるこの日。
終業式に大掃除、ホームルームを終えた生徒たちが、
「じゃあまた、3学期な!」
「お前のじいちゃん家、静岡だっけ? 新幹線ホームでニュースに映れよ!」
「お年玉貰ったら、イ〇ン行かない?」
「イオ〇? 行く行くーっ!」
と賑やかに帰宅する中、こっそり家庭科室に集合した、女子3名。
「うぉっ、指が挟まる! 何でこんな形してんの――罠かっ!?」
「アン、だいじょぶ?」
「だいじょぶ、だいじょぶ! 咲花ちゃん、ちょっとだけ、じっとしてて!」
「分かった……!」
真面目な顔でこくりと頷き差し出された、高木咲花の左手首。
立花杏の少し震える指先が、2歳年上の幼馴染の手首にチェーンを回し、ブレスレットの丸い留め金――『引き輪』のツマミを押さえながら、慎重にプレートの穴の部分に引っかけた。
「でっ、出来たーっ!」
昨日のクリスマスイヴ、アドベントの最終日に、兄の大雅がプレゼントした、クローバーモチーフ付きのシルバーブレスレット。
何度か失敗しながら、やっと付けることに成功した杏が、はーっと安堵の息を吐く。
「ありがと! じゃあ今度は、杏ちゃんの番ね」
咲花が両手で持ったブレスレットを、2歳年下の幼馴染の手首に、素早く取り付けた。
「えっ、もぉ出来たの!? さっすが器用だね、部長――じゃなくて、前部長!」
「大雅くんも昨日、ささっと付けてくれたよ? 何だか、こーゆうの――その、ちょっと慣れてる感じで……」
先日2年生に引き継いで引退したばかりの、前家庭科部部長が。
少し目を伏せて、口ごもりながら呟く。
「それはね、咲花ちゃん! お兄ちゃんが小さい頃から、ママのネックレスとか付ける『係』だったから、慣れてるの! ほら、わたしもパパに似て、こーゆーの苦手だから!」
『心配しなくて大丈夫』と笑顔の杏が、銀色のハートモチーフを揺らしながら、グッと親指を上げた。
「そっかぁ……お母さんの。大雅くんらしいね?」
ほっとした様に、にっこり頬を緩めた咲花に、
「らしいよね! 陽太くんは、苦手っぽかったよ! 『うぉっ!』とか『意味分からん!』とか叫びながら、何度もやり直して。
『罠かっ!?』って言ってたの、めちゃめちゃ面白くて、真似しちゃった」
てへっと杏も、少し照れた顔で笑いかける。
「2人とも、良く似合うヨ!」
調理台の向こうから、むふっと満足そうに声をかけて来た、乃愛・ベネットに、
「あっ、ごめんねノア! お待たせ!」
「乃愛ちゃん、忘れ物見つかった!?」
杏と咲花が、慌てて振り向いた。
「ありまシタ!」
乃愛が両手で掲げたのは、50cm四方位の平たい包み。
オーストラリアにいる兄に編んだ、ネックウォーマーのプレゼントだ。
「クリスマス間に合わなかったカラ、ニューイヤープレゼントに送りマス」
「お兄さん、喜ぶよきっと!」
「国際宅急便て、どのくらいで着くの?」
「うーん――1週間クライ? あの雲みたいに、ビュンって届くとイイナ」
窓の外、青空にたなびく、白い飛行機雲を指さして。
乃愛が眩しそうに、アンバーグリーンの瞳を細めた。
「ちょっと遅くなっちゃったね!」
「お兄ちゃんたち、待ちくたびれてるかな?」
急いで靴に履き替え、3人で校門に向かうと、
「あれっ……?」
待ち合わせ相手の大雅と陽太が、見知らぬ人物と身振り手振りで、何やら話しているのが見えた。
180㎝近い大雅より、頭半分上にある金色の前髪を、大きな手がかきあげる。
困った様に少し眉をひそめた、整った顔。
広い肩にカーキのモッズコートを羽織った、陽太たちより2つ3つ歳上に見える男子。
「誰だろ? 海外のスポーツ選手とか、俳優さんみたい!」
「うん、かっこいい! うちらの学校に、何か用かな?」
首を傾げた咲花と杏の間で、乃愛が目を大きく見開く。
「留海……」
「えっ?」
「ノア、知ってるひと?」
「My big brother!」
全開の笑顔で答えた、ハーフの転入生。
「big brotherって――『お兄さん』!? 乃愛ちゃんの!?」
「ほら早く! バッグとか持つから、行って!」
「ハイッ……!」
スクールバッグと荷物を親友2人に、ノールックで渡した乃愛が、飛ぶように走って行った。
「ルカーッ!」
「ノア……!」
かさりと枯葉が転がる、殺風景な校門へのアプローチ。
そこがまるでイルミネーションに輝く、ライトアップされた大通りの様に、キラキラした瞳で駆けて来た妹を。
日本のウィンターホリデーに合わせて、サプライズでやって来た兄が、嬉しそうに抱き留める。
「1日遅れのクリスマスプレゼント、かな?」
「だね? サンタさん、ちょーっと遅刻しちゃったけど!」
目を丸くして固まっている、ネイビーとライトグレーのネックウォーマーを付けた大雅と陽太に。
銀色のブレスレットを揺らした咲花と杏が、頭上の飛行機雲に負けないくらい、大きく手を振った。
乃愛メインの番外編です。
こちらで一旦完結になります。
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