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【番外編5】待降節 後編

 ぐりんっと勢いよく振り返った、男子2人の目に飛び込んで来たのは、

 ワイドストレートのブラックデニムパンツに、ボーダーニット。

 シルバーチョーカーをポイントに付け、オフホワイトのコートをふわりと羽織った、金髪の王子様。


「What a coincidence!――グウゼンだね? センパイたち」

 アンバーグリーンの瞳を細めて、乃愛(のあ)・ベネットが、にかっと笑った。


「えっ……ノアちゃん? 何でここに?」

 目をぱちくりさせた大雅(たいが)に、

「マムとダット――家族でショッピング。それぞれプレゼント選んで、1時間後に集合シマス」

 咲花(はな)(あん)と同じ家庭科部員の後輩が、手に下げたクリスマスカラーの紙バッグを掲げて見せる。

「へぇっ、家族にプレゼントって、海外ドラマみたいだな」

 感心する大雅の横で、

「とか言って――俺らが変なプレゼント買ってないか、チェックしに来たんだろ?」

 腕を組んだ陽太(ようた)が、わざと顔をしかめて笑う。


「そのとーり! ハナ先輩とアンは大事な友達――『親友』ですから! あとその本、2人とも予約してるヨ!」

 男子2人が手にした文庫本に向かって、チッチッと乃愛が指を振る。

「えっ、マジで!? それに『チェック』って、俺らがいる事何で知ってたの?」

 きょとんと(たず)ねた大雅に、

「『プレゼント買うなら、ここがオススメ』って教えてくれたの、ノアちゃんなんだよ」

 イタズラがばれた子供みたいな顔で、陽太が答えた。


「どうりで――陽太がこんな、女子ウケする場所知ってるの、おかしいと思った」

 大雅が(うなず)きながら笑う。

「近場でいい店ないか、こっそり聞き込みしてる所を見つかってさ」

「アドバイスしまシタ。ここならショップ、たくさんアルし!」

「あり過ぎて、すっかり迷子だよ」

 深くため息をこぼした陽太に、

「ナルホド……?」

 アンバーグリーンの瞳を、ぱちりと瞬かせて、

「ではワタシが、おススメショップにご案内しまショウ!」

 右手をコートの胸に当てた乃愛が、悪戯っぽく一礼した。


 大雅と陽太が連れて来られたのは、レディースだけでなくメンズアイテムも扱っている、落ち着いた雰囲気の店舗。

「ゆっくりご覧ください」と店員に、笑顔で告げられて。

 ほっとした2人が店の奥に進むと、

「コッチだよ!」

 ネックレスやピアスが並ぶアクセサリーコーナーで、乃愛が手招きしていた。


「このチョーカーも、ここで買いマシタ」

「へぇっ、可愛いね! 値段も手頃だし……私服の時に杏ちゃん達、ネックレス系付けてたっけ?」

「うーん――あんま見た事ないかな?」

 首を(ひね)った大雅が、ふと腰をかがめて、ディスプレイ棚の下段を(のぞ)き込んだ。


「これ、可愛いな」

「どれどれ――ブレスレットか?」

 細いシルバーのチェーンに、ワンポイントでハートや星やクローバー、それに小さなジルコニアが輝いている。


「杏ちゃんなら、ハートのとか似合いそう! そういえば夏に2人して、ビーズのブレスレット付けてたよな?」

「うん、部活で作ったって言ってた」

 陽太の問いかけに頷きながら、『咲花ちゃんは、これだな』と目を細めた大雅が、クローバーモチーフを手に取った。


◇◆◇◆◇

 週明けの月曜日。

 朝家を出る時、スマホに届いたメッセージに、高木咲花は首を傾げた。

『登校したら、机の中見て』

 幼馴染で、ちょっと――かなり気になる男子、立花大雅から。


「机の中? 何だろ?」

 とりあえず急いで教室に向かい、バッグを置いた自分の机に、ドキドキと手を差し入れる。

 かさりと、指先が触れた物を取り出すと、手のひらに乗るサイズの、ボタニカル柄の紙袋だった。

 そおっとシールをはがして、中を覗く。


「あっ……」

 入っていたのは、キラキラした包装紙に包まれた、星型のチョコが3個。

「可愛い! ちょっと早い、クリスマスプレゼントかな?」

 ほっこりしながら手にした袋を(なが)めると、丸いシールに『16』と書かれた数字が。

「『16』? って――あっ!」

 スマホで今日の日付、『12月16日』を確認した時、

『咲花ちゃん大変! 陽太くんからのプレゼント、机に入ってた! これって「アドベント」だよね!?』

 大雅の妹、杏からメッセージと、そっくり同じ紙袋の画像が送られて来た。


「24日まで毎日、お菓子のプレゼントしてくれるのかな? 楽しみー♪」

 放課後の家庭科室で、杏が弾んだ声を上げる。

「「アドベント」は、日本語だと「待降節」って言うんだっけ。前に、おばあちゃんが教えてくれたよね?」

「たいこうせつ?」

 首を傾げた乃愛に、

「『キリスト様の訪れを待つ時期』って事かな? 今だと『アドベント』の方が普通だよね」

『お裾分け』とチョコを一つ手渡しながら、咲花が笑う。

「ありがと」

 受けとった乃愛が、心の中で叫んだ。

『タイガさんとヨータ先輩、大成功ダヨ!』

 

 一昨日、駅ビルに入っていた輸入食品の店で『アドバイスのお礼』に、先輩2人が買ってくれたアドベント用のお菓子セット。

『ありがとうございマス! アドベントってワクワクするし、大好き!』

 嬉しそうに、乃愛が告げた言葉に、

『アドベントかぁ……クリスマスイヴまで毎日こっそり、杏ちゃん達の机ん中に、お菓子入れとくのって――良くね?』

 陽太がにやりと提案して、

『それいいな、楽しそう! 最後の24日はどうする?』

 大雅がソッコー賛同した。

『ラストはもちろん、このブレスレットでしょ! これだけは、それぞれ直接渡そうぜ』

 あっという間に計画を立てて実行に移した、いたずらっ子サンタ2人に。

 乃愛は胸の奥で、グッと親指を上げた。


「わたし達も、頑張って仕上げなくちゃだね?」

 咲花と杏がそれぞれ、幼馴染兼彼氏未満の2人に、クリスマスプレゼントとして編んでいる、ネックウォーマー。

 大雅のがネイビーで、陽太のがライトグレーだ。

 乃愛もオーストラリアにいる兄用に、オリーブグリーンの毛糸と、悪戦苦闘している。


 24日のサプライズをまだ知らない咲花が、かさりと紙袋から取り出した、小さな星型のチョコ。

 口に含むとどこからか、楽しそうな鈴の音が、聴こえた気がした。


最後まで読んでくださって、ありがとうございます!

次の乃愛メインで、一旦完結になります。

ブクマや★★★★★評価を入れて頂けると、とても励みになります。

また読んで頂けますように.....♪


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― 新着の感想 ―
これまで読ませていただいた、異世界恋愛系とはまた違ったキュートな世界を楽しませてもらいました…!! すべてのエピソードが短いながらも、最後は胸がキュンとなる。何よりも少し甘い香りの心地がいい風に吹か…
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