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【番外編4】万聖節前夜 後編

 商店街まであと少しの交差点で、赤信号に引っ掛かる。

「あっつ……そういえば今朝、『念のためにもう1人、ボディガード頼んだ』って、母さんが言ってた」

 足を止めてジャージの前を開き、汗の浮かぶ額から黒い前髪をかきあげて。

 荒い息と一緒に、陽太(ようた)が告げる。

「『もう1人』――? って誰に?」

 少し癖のある茶色の髪ごと、大雅(たいが)が首を傾げた。


「聞いたけど、『ないしょ♪ めっちゃイケメンの王子様』って、はぐらかされた!」

「へぇっ……」

 珍しく、いらっとした表情を隠さない、172㎝のMBミドルブロッカーを、7㎝上から見下ろすセッター。

『そういえば夏休み明けから、こいつと(あん)の様子が、何か変わったんだよな』


 4月に杏のファンらしい奴らが絡んで来た後、『杏ちゃん』から『立花妹』に呼び方が変わった。

 それ以来少しぎこちなく、他人行儀だった距離が、また一気に縮んだ気がする。


「なぁ、陽太?」

「ん?」 

「あー……やっぱ、何でもない! 行くぞ」

『「杏の事好きなのか?」なんて、ドラマじゃあるまいし。俺が聞けるワケないだろ!』と心の中で、自分にツッコミを入れながら。

 緑に光り始めた、歩行者用信号機に急かされるように、横断歩道に足を踏み出す。

「心配すんなよ、『お兄ちゃん』!」

 その背中に真っすぐ、ジャンプサーブの様に、陽太の声が届いた。


「杏ちゃんの事、だろ? こないだまで小学生だった子相手に、そんな焦ったりしねーよ?」

 振り向くと、にっと口角を上げて、おどける黒い瞳。

「……そっか」

『お前は、ちょっと焦ろ』と小突かれて、ダークブルーの瞳が、照れ笑いを返した。


 ぜぇはぁ苦しい息を我慢しながら、やっとたどり着いた東駅前商店街。

「……あっ! あそこ!」

 陽太が指さした先に、仮装した子供たちが楽しそうに歩いている。

「はーい、ハロウィンパレード通りまーす!」

「ごめんなさい、写真撮影はご遠慮くださーい!」

 笑顔で誘導しているのは、肩までの黒髪に猫耳カチューシャ、白いエプロンに黒いメイド服を着た――高木玩具店の看板娘――咲花(はな)と。

 茶色のツインテールにうさ耳カチューシャを付けた、ダークブラウンのお揃いメイド服姿の杏。


「やっべ……」

「可愛いすぎだろ……」

 呆然と立ち尽くす、幼馴染と兄の視界の隅を。

 人混みに隠れてコソコソにやにやと、スマホを構える男子2人が横切った。

 どことなく見覚えのある、チャラそうな……

「あっ、あいつら!」

「『前方彼氏面(かれしづら)かよ』って絡んで来た………!」

 止めようと手を伸ばす大雅と陽太の前に、仮装したスタッフが、さっと割って入った。


 金糸の刺繍飾りが付いた、豪奢(ごうしゃ)な白いロングコートにリボンタイ。スリムなズボンと黒いブーツ姿の、陽太と同じくらいの長身。

 はらりと額に落ちる、アッシュブロンドの前髪の下で、アンバーグリーンの瞳がにこりと笑う。

「写真ダメ、だよ?」

 (りん)と響く、強い声。

 まるでディ〇ニーアニメか海外ドラマから抜け出して来たような、『王子様オーラ』を放っている。


「ほら今、子供たちのプライバシーとか、色々配慮しなくちゃだからねー!」

「俺らだったら、いくらでも撮っていいぞー!?」

 パレードの前にすばやく壁を作り、チラシやポスターを手にポーズを取る、商店街のおば様おじ様達。

「俺も俺もーっ!」

 その真ん中に割って入り、「イェイ!」とWピースを向ける陽太。

 にやりと口角を上げながら、全く笑っていない真っ黒な瞳と。

 その後ろから(にら)む大雅の、絶対零度なダークブルーの瞳を見て、チャラ男達の顔色が一気に青ざめた。

「すっ、すみませんしたーっ!」

 即座に白旗を上げて、そそくさと逃げ出した盗撮未遂犯達。


「カッコ良かったぁ……ノア様!」

「さっすがボディガード――ていうか、王子だよね?」

「ノア王子様ーっ!」

 付添のお母さん方やスタッフ達から、黄色い声援が飛ぶ。


「のあ……?」

「まさか、『もう1人のボディガード』って?」

 口をあんぐり開けた大雅と陽太に、

「遅いヨ――センパイたち!」

 腕を組んだ乃愛(のあ)・ベネットが、8㎝ヒールのブーツでガッと男前に立ち、にやりと笑った。


「あっ、お兄ちゃんたちー!」

 パレードの最後に子供達と、集合写真を撮っていた杏が、ぱあっと顔を輝かせて走って来た。

「練習試合は? 勝った?」

「「勝った」」

「やったぁ!」

 笑顔でぴょんっと跳ねると、うさ耳とツインテール、白いエプロンとフリルで飾られた膝丈のスカートが、ふわりと揺れる。


「やっべ、激カワ……」

 顔を真っ赤に染めて(つぶや)く陽太に、『「心配すんな」とか、確かさっき言ったよな?』と、苦笑する大雅だったが。

「タイガさん! 部長、あっちダヨ」

 さり気なくキョロキョロしている所を、にんまり笑った乃愛に指摘されて。

「えっ――俺、そんなに分かりやすい?」

「Busted, huh?(バレバレだよ?)」

 うろたえながら、目を向けた先。


 黒いネコ耳を付けた咲花が、先の尖った魔女風の帽子を被った祖母と、楽しそうに話している。

 そういえば『ハロウィン』って、日本語訳だと『万聖節前夜』って言うんだっけ。

 以前教えてくれた高木玩具店店主、通称『ばあちゃん』が、ふっとこちらに気付き。

 似合いすぎる帽子の下で、にやりと笑いながら、孫娘に何事かを告げた。

 

 ふわりと、肩までの黒髪を揺らして振り向き、少し恥ずかしそうな笑顔で小さく手を振る、ネコ耳メイドが視界に入った途端――他の事は全部、ボンッと吹き飛んだ。


 激カワだ。

 やばい。

 他の誰にも、見せたくないくらい。


『進め』と、信号機のようにウィンクする乃愛の、緑の瞳に背中を押されて。

 試合中は常に冷静なセッターの立花大雅が、高木玩具店の看板娘目掛けて、夢中で走った。


最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

ここで一旦完結します。

クリスマス頃に続編を更新予定です。


ブクマや☆☆☆☆☆評価を入れて頂けると、とても励みになります。

また読んで頂けますように.....!


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