【番外編1】ほしこよい 後編⠀
「付き合いませんっ――!」
一瞬固まった後で、きっぱりと否定した立花大雅。
「そう、なの?」
「『今は部活、バレー部に集中したいから』って、いつも通り断った」
「そっか――立花くん、『「次期正セッターの座」を、他の部員と争ってる』って言ってたよね?」
「うん!」
高木咲花の明るい声に、ほっと笑いながら大きく頷く。
「高木さんは、家庭科部だよね?
俺のせいで部活行くの、遅くなってごめん! 後やっとくから、先に行って?」
申し訳なさそうな言葉に、
「大丈夫! 今日は顧問の先生がいないから、休みなんだ」
ニッコリ返したけど――さっきの『いつも通り』って言葉が、『告白され慣れてます』って感じで、ちょっとカチンと来たから。
「立花くんは、きょうもモテモテでした」
わざとはっきり呟きながら、学級日誌にシャーペンを走らせる。
「ちょ、高木さんっ! 今のまさか――『今日の出来事』に、書かないよね!?」
「んー、どーしよっかな?」
にんまり笑いながら、幼馴染の慌てた顔に向かって、日誌をばっと開いて見せた。
「『理科の授業、『星の動き』が楽しかったです。今夜は「星今宵」。キレイな星空が見えるといいですね』……『ほしこよい』? って、何?」
日誌を読み上げた大雅が、少し傾げた首の後ろに右手を当てて尋ねる。
「『七夕』の別名。キレイな言葉でしょ? おばあちゃんに教えてもらったんだ!」
『首痛いポース』に見惚れながら、ちょっと得意気に、咲花は答えた。
「あっ、今日は7月7日かぁ……」
『今気が付いた』と日誌の日付を見下ろす、ファッション雑誌に載っていそうな横顔に、
「そうだ! 今夜うちの商店街で、『七夕まつり』があるんだよ?」
ワクワクと、高木玩具店の孫娘は告げた。
「へぇ――お祭りって、屋台とか?」
「屋台も出るし、各店舗が目玉商品を、お手頃価格で提供するし!」
「なるほど?」
「それにウチの店では、おばあちゃんとわたしが、浴衣姿で接客します!」
ばーんっ!と、指2本を立てた右手を上げて発表した、『七夕まつりの目玉』。
「なるほ――ゆか、た……?」
黒板周りをキレイにした後、教室中の机と椅子を整えながら、気の無い返事を返していた、大雅の動きがピタリと止まり。
ぎぎっとバグったゲームキャラの様に、ぎこちなく振り向いた。
「そうだよ! めっちゃレアな『おばあちゃんの浴衣姿』、立花くんも見たいよねっ!?」
『よっしゃ、食いついた!』と、目をキラーンと輝かせた咲花が、ここぞとばかりに言葉を重ねて。
「いや、ばあちゃんのは特に……」
「杏ちゃんもお母さんと、一時帰国してるお父さんと一緒に来るって言ってたし! それにあれやるよ、『ルービックキューブ大会』!」
ぼそぼそと否定する、大雅の声をかき消すように、びしりと宣言した。
「ほほう――それは、『前回王者』の俺に対する挑戦状かな?」
くいっと、かけていないメガネを押し上げる仕草をした大雅の、ダークブルーの瞳がキラリと輝く。
50年も前に大ブームになったらしい、立方体パズル。
キューブを回転させ、6面全ての色を揃える速さを競うゲームを、『ばあちゃん』に教わってすぐに、大雅は夢中になった。
「そぉ! 10秒03! 王者の記録に、集え挑戦者!大会』。
もちろん――キングも出るでしょ?」
「出ましょう……!」
闘志丸出しで拳を握る姿に、『可愛いなぁ……』と、咲花はこっそり口角を上げた。
きっと、月野先輩は知らない。
一見クールな立花くんが、負けず嫌いで、ちょっと天然なところを。
家族思いで、特に妹の杏ちゃんに弱いところ。
それから――うちのおばあちゃんが、大好きなところも。
「いつか、おばあちゃんに勝てるといいな」
こっそり囁いたら、
「ん? 何か言った、高木さん?」
明るく透ける茶色の前髪を揺らしながら、きょとんと首を傾げる。
「ううん。今夜は晴れるといいなって!」
「――だね?」
天の川を待ちわびるように、顔を見合わせて笑う、高木玩具店の乙姫と天然彦星。
2人が『両片想い』に気付くのは、まだ少し先のお話。
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