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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
1章 セヴンスヘヴンズ
9/77

2

 その日の放課後。

 

 学校終わり、ペロに案内されて境世界へ。

 そこにあるカフェへとやって来た。値段が高すぎて、普通だったら縁遠いお店だ。


 ドアを開けると、カランカラン、とドアベルが鳴る。

 その音で、入り口に近いテーブル席に座っていた面々が私に視線を向けた。


 そこに居たのは五人。うち四人は昨日見た顔。


「春日野さーん!」


 カリンさんが立ち上がって私を呼ぶ。

 会釈を返して、彼女らに合流。


「はじめまして、春日野トアさん」

 知らない人が立ち上がって、私に声を掛けてきた。

 良く見ると大人の人だ。多分24、5歳くらい。

蒼野(あおの)(トモエ)と申します。元ピュアパラで、今はギルドの東三地区副理事をしています」


「はじめまして。春日野です」

 私は両手を揃えてお辞儀をした。

「あの、ギルド、というのは……?」


「ギルドは、元ピュアパラを中心に、今のピュアパラを援護する組織の通称ペロ」

 ペロがふよふよと私の横を漂いながら説明する。

「元ピュアパラは変身能力こそ無いけど、境世界に入ることは引き続き出来るんだペロ」


「昨日の話はカリンちゃんから聞きました。初日からタマハガネを使いこなして、アバター顕現までした、と。それを確認したくて来ちゃいました」


 ――つまり、ギルドとしても私の存在を目視で認識しておきたい、と。


「どうぞお座りください。今飲み物用意しますね」

 にっこり笑ってトモエさんが私を見下ろす。

「あ、私が用意しますよ」

 カリンさんが言って、立ち上がる。

「そう? ありがとう」


「春日野さん、オレンジジュースとミルクとコーラがあるけど、どれがいい?」

「ありがとうございます。じゃあ、オレンジジュースで」

「コーヒーは機械の使い方が誰も分からなくて淹れられないのよ。せっかくカフェなのにごめんね」

「いえ、苦いの苦手なので」

「あはは、私も」


 というわけで、私が座るのと入れ替わるようにカリンさんがカウンターの中へと入っていった。

 冷蔵庫から紙パックのオレンジジュースを出し、コップに注ぎ始める。


「それぞれ自己紹介して貰おうかしら。隣のシラハちゃんはもうご存じでしょうから、こっちの奥側から」


 トモエさんの仕切りで、他の二人から自己紹介してもらう。


伊藤(いとう)宵子(ショウコ)です。ピュアネームはタンザナイト。あらためて、昨日はありがとう」

 そう言って座礼する彼女は、カリンさんと同じ高校の制服。

 肩まで伸ばした髪は綺麗に揃えられ、眼鏡の奥には柔和な瞳。普段は誰より優しそうだが、怒らせたら誰より怖そう。


幡多(はた)(カエデ)だ。ピュアネームはそのままメイプル。同じ中学だったんだな。これからよろしく!」

 茶色のベリーショートに、オーバーサイズのTシャツだったけれど、スカートは確かに私の中学と同じものみたい。

 言われてみれば、その恰好は入学時にバスケ部の勧誘で見た気もする。


「ピュアネーム言う流れみたいだから、私はリリィだよ」

 続けてシラハさんが言う。

「ちなみに、カリンさんはガーネット」


「その……、ピュアネーム、ってなんなんです?」


 そう尋ねたと同時に、オレンジジュースが私の前に置かれた。


「ピュアネームは変身後の名前だね。『ピュア・ガーネット』みたいに呼ぶこともあるし、ピュアは略すこともある」

 戻ってきたカリンさんが私の隣、シラハさんとの間に座って答える。


「ひまわり地区は違うけど、中には本名を一切知らせない地区もあるんですよ。あと、別地区の子と協力する時とか。個人情報が大事な時代だからね」

 そう補足するのはトモエさん。


 ――カッコイイから、とかじゃなくて、個人情報が理由なのか……


「トアさんはどうします? ピュアネーム」

「私ですか。そう、ですね……」

「基本的に、植物や宝石の名前から取ることが多いです。後は色とか」

「植物……宝石……色……」


(……いまいちピンと来ないな……)


 他のピュアパラに私を知ってもらうためのもの、ということならば、分かりやすい方が良いだろう。

 そして大前提、私が自分で気に入るような名前じゃないと名乗りたくない。

 となると……


「すぐじゃなくて構いませんよ。一応考えておいてください」

「いえ。じゃあ、ブレイドで」

「……ブレイド?」

「変身後は、私本人より刃の方が目に入るでしょうから」


『ピュア・ブレイド』。

 うん、良いじゃん。シンプルで。

 ……とか言ったら、イズミ辺りはからかってきそうだけど。


「いいねぇ、カッコイイー!」

 とシラハさんが笑顔で続く。

 イズミや他の大勢を魅了した笑顔で。


「凶器の名前は珍しいですが……わかりました、そのようにギルドでも記録しておきますね」

 トモエさんが紙のメモ帳にペンで書き込んでいた。


 というわけで、私のピュアパラとしての名はピュア・ブレイドに決まったのだった。




「ところで春日野さん。今日の本題なんですが……」

 トモエさんがメモ帳をしまって私の目を見る。

「トアで良いですよ。敬語もいりません。私の方が年下なんですし」

「そう? ありがとう。じゃあトアちゃん、でいいかな?」

「はい、もちろんです」

「実はね、今日は二つお願い事があってきたの」

「お願い事、ですか?」

「一つ目は、アバター顕現を見せて欲しい。皆の話を疑うわけじゃないけど、一応ね」


「構いませんよ。スォー」

 私の後ろにスォーが顕現する。


「識別名スォーです。主である春日野トア様の魂鋼にして隷従にございます。以後お見知りおきを」

 スォーがみんなに向けて礼をする。


「……すごいわね。この目で見るのは、現役の時以来二回目だわ」


 昨日からすごいすごい言われるけど、私はあんまり実感無いからどういう顔して良いか難しい。


「あ、ごめん、これは本題じゃないんだけど……『完全隷属』ランク、って聞いたんだけど、それ本当?」

「なんかそうみたいです。正直ちゃんとメッセージ読んでなかったんですが」


「……読んでおられなかったのですか……」

「急いでたし、似たような文字が羅列されて良く分かんなかったんだもん」

「誠に至らず、申し訳ございませんでした。今後は私めが直接お伝えいたしますので、そのようなことが無いよう……」

「堅い堅い。過ぎたことだし、謝らなくて良いの。とりあえず座りなさい」


 スォーの小さい頭を撫でて、そのまま隣に座らせた。


「ごめんなさい。続きをどうぞ」


「これまで、タマハガネと信頼関係や友情を育むことでピュアパラとして強くなれる、と思われていたの。

 でも今回、魂鋼を隷属させる、という真逆の価値観が生まれて、私たちも少し混乱してるのね。その辺、どうしてそんなに強いのか、っていうのを掘り下げたくて」


「なるほど。……なんでなの?」


 トモエさんの質問をそのままスォーにスルーパス。


「はっ。トモエ様の認識は間違いではありません。魂鋼と所有者の絆が増すのは、強くなる要素の一つです。

 が、それはあくまで事後策。

 魂鋼は道具として生み出された物です。

 そのため『主より自分の方が格上』状態が一番弱く、『自分と主が同等』が中間、『主の意のままに使役される』ことで最も真価を発揮します。

 ただし、使役には所有者の側にそれ相応の能力が必要になります。人格面も含めて」


 ざわつくピュアパラの皆さん。


「現実の道具も、使い続けて変形した結果、新品より使いやすくなることもあるでしょう。

 魂鋼と仲の良い状態とは、それです。

 隷属している状態と、仲の良い状態というのは、相反さないのです。むしろ相乗して、より強くなります」


 そこでスォーが私をちらりと横目で見た。

「……とはいえ、主様はいささか度を過ぎていると存じますが」


「そうだったんですね……。ただ、これまで顕現した魂鋼達は、誰もそんな話をしていなかったんですよ……」

 と、再びメモ帳片手にトモエさんが考え込む。


「親友以下のランクは、一部の記憶と人格に制限が掛かります。

 友達に対して『自分を道具扱いすれば良い』と言うのは不自然でしょう。

『親友ランクがふさわしい』とシステムが判断した場合、それ相応の人格と記憶のみになります」


「……なる、ほど……」

 その話に思うところありそうなトモエさん。


「ちなみに、初期状態は対等ランクと同等です。私も、初対面の時は主様に大変失礼な物言いをいたしました」


「……ちょっと話戻すけど、つまり私とスォーがもっと仲良くなれば、もっと強くなる、ということ?」

 トモエさんが静かになったタイミングで、スォーに確認した。


「左様でございます。主様は歴史上初解放の実績を達成されておりますから、その効果はさらに倍以上となっております」

「なるほど」


 次の瞬間、スォーを持ち上げて私の膝の上に乗せた。


「……主様、人目がございます……」

「オレンジジュース飲んだことある?」

 無視してコップをスォーに渡した。


「いえ、ございませんが……」

「じゃあどうぞ♪」

「……御意に」


 クピクピ飲むスォー。

「はぅ……」

 と吐息。


「美味しい?」

「はい。これは……素晴らしい水物でございます」


「どうです? 飲んでるスォー、可愛いでしょう?」


 約半数が、どこか引いてる顔していた。


 ――あれ、私、やっちゃいました?


 唯一「かわいいー」と手を合わせてくれるシラハさんが救いだった。

 そういうシラハさんこそ、とっても可愛い。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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人目もはばからずイチャイチャしてるの最高ですね!しかも可愛い自慢まで!!
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