日曜日―中編―
スォーとお風呂に入った後、神恵邸に遊びに行った。
「トア様にゃ!」
「トア様遊びに来たにゃ!」
猛ダッシュで出迎えてくれた二匹を受け止める。
いつでも大歓迎してくれる二匹が、回を増すごとに可愛くなってきて仕方ない。
「こうやって会うのは久しぶりね。この前のモールの時はありがとう」
「? 私らなんにもしてないにゃ」
「ナナとソラが頑張っただけにゃ」
「それもそうだけど、チィとビィがいなかったら無理だったんだよ? この私がお礼言ってるんだから、二人はとっても偉いの!」
「にゃふふ、そう言われちゃしょうがないにゃあ」
「これは鼻に掛けるしかないにゃ」
それぞれ頭を撫でてあげる。
どちらも気持ちよさそうに小さく鳴いて、目を閉じた。
「いらっしゃい」
そこでナナがやってくる。
「良い匂いするね」
ナナの向こう側、リビングの方を見て言う。
「今ソラがおやつ作ってる。そろそろできると思うぞ」
「楽しみだね」
「楽しみにゃ-」
「トア様とおやつにゃー」
そのまま四人でリビングへ。
「いらっしゃいトアちゃん」
キッチンで作業してるソラがこちらに振り返る。メガネとエプロンをかけていた。
「お邪魔します」
「……昨日は残念だったね」
「ソラにとっては良かったんじゃない?」
「そりゃ、レオは好きではないけど……。そんな風には、思えないよ」
「優しいんだから」
昨日の概要は二人にもラインで伝えてある。
詳しくは今日話すつもりでやってきたのだ。
「もうちょっとでできるから待ってて。チィビィ、飲み物用意してー」
「にゃー」
「しょうがないにゃあ」
トテテテ、と足音を立ててソラの元へ行く二匹。
「スォーも手伝ってあげて」
スォーを顕現させる。
「御意に」
顕現した瞬間二匹にもみくちゃにされるスォー。
それを尻目に、ナナと二人でソファへ。
神恵邸のソファは、いつ座ってもふわりと良い匂いがする。
ナナはテーブルの上にあった勉強道具を片付けていた。
「勉強してたの?」
「まあな」
「偉いなあ。私なんか、昨日も今日も遊びほうけてる」
「イヤミか? やんなくても平気だろトアは」
「そんなことない。日々勉強よ」
「それは勉強の意味が違うだろ」
勉強道具を片付け……というかテーブルの下に押し込んで、ナナは私の隣に腰掛けた。
「……あんまり、気負い過ぎんなよ」
「ん?」
「いや、今日のトア、ちょっと表情硬いから」
「嘘、そんなに?」
「私の気のせいかもしんねーけど」
左右の頬をマッサージする。
――自分では正直、良く分からない。
「トアにそんな顔させんなら、レオのヤツ、あの時殴っときゃ良かったぜ」
「それは、流石に可哀想よ」
にっ、と笑うナナに、私も目を閉じて笑った。
†
二人と二匹に昨日の顛末を話し終えた。
「……なるほどねえ」
テーブル上のお菓子は半分ほど私たちのお腹の中に消えた頃。
チィは私の膝の上で両手にクッキーを持って、ビィはスォーとゲーム中。
「……一番驚きなのは、そんな話になったのにラインしてるところだけど」
「そう? さっきここ来る途中も来てたよ」
スマホの画面を二人に見せる。
『トアはちょっと上目遣いのこの角度が一番可愛い!』
というメッセージと、昨日撮られた写真の一枚が添付されていた。
「くっ、ちょっと分かるの悔しい……」
ソラが歯噛みして呟く。
「よく撮れてるな。被写体への愛を感じる」
ナナが写真評論家みたいなこと言い出す。
「絶対分かってないでしょ」
「トア様かわいいにゃー」
「ホント!? 見せるにゃ!」
ビィがコントローラーを置いて突っ込んでくる。
「……確かにかわいいにゃ。でも、本物の方がいいにゃ!」
「それは私もにゃ!」
「ふふ、ありがと」
スマホをしまって、あざとさ満点の二匹の顎下を撫でてあげた。
最近知ったけど、ここも好きみたい。流石、元は猫の妖怪。
「……まあ、そういうのがあるとはいえ。
結局言葉じゃ止められない、って分かったのはキツイかもな」
「……そうだね」
思い付いた反論の話は、黙っておいた。
――今言っても、仕方ない。
「『他のゼロナンバーズやインピュアズに負けないで』って言ったんでしょ?
ということは、ゼロナンバーズの全員が全員レオの言うこと聞くわけじゃないのね」
「ユミもあんま言うこと聞いてなかったしな」
「まあ、私たちのやることや目標は変わらない。
ゼロナンバーズっていう勢力の情報が増えたのを良ししましょう」
「……なあ、トア」
そこでナナが私に向き直った。
「ん?」
「私、強くなりたいんだ。どうすればいいかな?」
「……ナナも?」
「も?」
「いや、さっきスォーからもそんな話されたからさ」
「……そっか。そりゃ、あのモールでの戦いは、思わされるよな。特に私は一番役に立ってないんだ」
「安定感はナナが一番だったでしょ。ソラに補給……じゃなくて、ちゅーしてくれたし」
「……言い直さなくていい」
「次は私が居る時にやってね」
「なるべくやらないに決まってんだろ」
「それはもう、ナナの言うとおりなんだけど……。
でも、役に立ってるか立ってないかはともかく、もっと攻撃力が欲しいんですって」
と、ソラが補足する。
「攻撃力ねえ」
「前までは、ある方だと思ってたけど……。二人が抜けすぎて、今じゃ大量の妖力使いこなせてないヤツになっちまってるからな」
「魔法も妖術も、要は『想像の具現化』だから。
しかも私たちは、自分一人じゃ使えない。
そこはスォーやチィビィが主体だからね。主体側の想像を、私たちが間違いなく受け取れなきゃ、発動までできない。
だから必殺技は、相互理解を深めていくしか無いと思うよ」
「『想像の具現化』……? そうなんだ……?」
「……ずいぶん詳しいんだな」
「えっ!? あ、ああ……、まあ、スォーに、教えてもらってね」
いけないいけない。さっきまでスォーの相談受けてたせいか、スォーと話す時のモードになっちゃってた。
「……なるほど。ともかく、必殺技は私一人じゃどうにもならんのか」
「だから言ったにゃ! 私と良く遊び、良く笑い、良く寝るのが一番、って!」
チィが腰に両手を当てて胸を張った。
「……いや、スォーみたいに具体的に教えろや。想像のその字も言ってないじゃねえか」
「そんなん私に無理に決まってるにゃ! ナナはバカにゃ?」
「んだとこの! 先にバカ言った方がバカじゃねーか!」
「そうにゃ! チィはバカにゃ! だからバカって言うにゃこのバーカ!」
「開き直ってんじゃねえよこのバカ!」
追いかけっこはじめるナナとチィ。
「ちょっともう! ホコリ立つから!」
ソラが一人と一匹を注意するが、当然聞き入れられることはなかった。
†
ナナがチィを捕まえて、こめかみをグリグリしながら戻って来た。
「トア様ー、ナナがイジメるにゃー」
ナナから逃れて、チィが私に抱き付いてくる。
「まあ、あれはチィが悪い」
「にゃにゃ!?」
「人にバカとか言っちゃダメだし、自分自身をバカとか言っちゃダメ。そんなこと言うチィ、嫌い」
見る見る顔が青くなっていくチィ。
「二度と言いません! すみませんでしたトア様! あとナナも!」
凄い勢いで私とナナに頭を下げた。
「トア相手だと聞き分け良いな。トア、これからも頼むわ」
「まあ、ケンカするほど仲が良いってね」
「んで、話戻すけど。技が無理なら、私、体術を鍛えようと思うんだ」
「体術? 体術ねぇ……」
「ほら、トアがソラと戦った時、体術の差で勝ったじゃんか。
あれを見習おうと思って」
「あれは真似しなくて良い。
あの時のソラは、妖力を全部武器に注いでたから。
今は、体中に炎を纏うようになったでしょ? あれだけでもう、ただの蹴りや掌底は通用しないよ。
武器以外に魔力や妖力を込められない以上、徒手空拳は考えなくて良い」
「あー、そうか……。じゃあ、なんだ、車輪術みたいな?」
「いや、車輪術はないでしょうから……。
似たような武器を習うのは良いかもね。槍術はあんまり習えるところなさそうだから、薙刀が無難かな」
「なら、トアちゃんから直接習えば良いんじゃない?」
そこでソラが閃く。
「……なるほど?」
ナナがソラを見る。
「薙刀も体術も、トアちゃんの方が上手いだろうし。一番の先生じゃない?」
――なるほど。その案……
「異議なし!」
「言ってて私も習いたくなってきた」
「じゃあさ、実戦的な練習は三人でするとして、薙刀はうちのおばあちゃんのとこにも来てよ!
その後に三人で道場使わせてもらえないか、掛け合ってみるからさ」
「そうね! それで行きましょ!」
私とソラが盛り上がる中、ナナは顎をさすっていた。
「……盛り上がってるとこ悪いけど、普通の習い事じゃないんだぞ?
絶対に勝たなきゃいけないから、会得したいんだ。
インピュアズだけじゃなく、ゼロナンバーズも敵になった今。
そんな、『友達と』なんて浮ついた理由じゃなくて、効率を目指してやりたいんだよ」
「ナナの言いたいことは分かるけど。
でも、『楽しく続ける』が一番効率良いのは間違いないよ。
そもそも効率を言い出したら、現代の習い事化した武道は全部効率悪いし。
私たちくらいの年齢は、『友達とやれる』も立派な理由だと思うけどな」
そう言って、立ち上がる。
「だって、二人と一緒にやれるってなったら、私はこんなに嬉しいんだもん!
楽しみでワクワクして来ちゃうんだもん!
それが悪いことであるハズない!」
「いいないいな、私も一緒にやりたいにゃ!」
「私も! なんか知らんけど楽しそうにゃ! 仲間はずれはダメにゃ!」
チィビィが手を挙げた。
「スォーも一緒にやるにゃ!」
「そうにゃ! 私たちは仲間はずれ反対にゃ!」
「私はそもそも主様の……ああいや、分かったから! 服引っ張らないで!」
「……ホント、トアには敵わんな。こりゃ、レオもたらし込められるわけだ」
「なんか言った?」
「あはは……トアちゃんって、本当に魅力的だねってさ」
「? そう? 今そんなこと思うところあった?」
「この、無自覚ハーレム系主人公め……」
「いやあ、今日ばっかりは、ナナに同感かなあ……」
「? 二人ともなに言ってるの?」
「なんでもないよ」
「なんでもねえよ」
この双子、ほとんど無声量で意思疎通できるの卑怯すぎるんですけど!?
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