表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3.5章 魔王ちゃんの休日
73/77

土曜日―前編―

 土曜日。午前11時、の15分前。


 目的の駅で電車を降りる。


 構内を進み、待ち合わせ場所のインフォメーション横。

 一瞬分からなかったけど、レオはそこに立っていた。


 オーバーサイズ気味でボタンを全部外したブレザー。その袖から覗く白い指は、あの日、刀を握っていたのと同じ。

 サラシから伸びてた細いふとももが、今はわりと常識的な丈のスカートから見えている。


 ということで、今日はレオとデートの日だ。




「レオ」


 目が合った瞬間、パァ、と笑顔が咲く。


「トア!」

 

 お互いに近寄る。


「早いね。まだ15分前だよ?」

「トアに早く会いたくて」

 ニコニコと言われるから、腹の探り合いをするのも馬鹿らしくなる。


「制服、セーラーなんだ。可愛いー♪」

「レオも萌え袖可愛いね」

「でしょでしょ、……って言いたいけど。

『まだ成長するから』って言われて大きめにしたのに、あんま成長しなかっただけ」


「そう? 私よりは大きいけど……」

「それはトアが小さいだけ」


「レオって今何年生? てか中学生?」

「そう。中学三年」

「じゃあもう受験だ」

「いや、うちは中高一貫。受験は小六の時にしたから」

「進学できるの?」

「……失礼な。これでもトップ10から落ちたことないわよ」

「すごっ、頭良いんだ」

「尊敬しなさい」

「わー、そんけー」

「トアも相当頭良いでしょ?」

「まあ、地理と英語以外はいいかも」

「あー、じゃあどっちかというと理系なんだ」

「どうだろ、どっちかと言えばそう……なのかな?」

 

 ただ、この世界の成り立ちや仕組みには興味あるから、社会科全体むしろ得意な方だ。

 地形は、空からこの目で見ないと頭に入らないだけで。


「んじゃま、まずはお昼食べちゃおうか」

「うん」


 12時前後は混むから早めに食べちゃおう、と昨日ラインで話した。


「しかし、太陽の下で見るトアは、また格別だなあ。間近で見ればそりゃ、ヒメも堕ちるわ」

「そう言ってくれるけど……そんなにかな? そこまで言われるほど美人じゃないと思うんだけど」


「は? それ、他の女子の前で言わない方が良いよ? 刺されても文句言えない」

「そんな大げさな……」


 ――単にレオの審美眼が特殊なだけだと思うんだけどな……



   †



「それで、レオはなんで、シチビに付いてるの?」

 店で注文した後。料理を待つ間、そう聞いてみた。


「まあまあ。クライマックスは後半にとっておきましょう」

「クライマックス……?」

「それより、トアのこともっと知りたいな」

「私もレオのこと知りたいから、質問したんだけど」

「じゃあ、その質問以外で」

「そんなこと言われても……」


 それが最大の関心であり、一番気になってるんですが。


「本名とか、趣味とか、好きなものとか、そういう定番から攻めようよ」

「いや、そんな興味ない……」

「持て。持たなきゃ今日帰してあげない」


「それじゃ、レオが私のこと可愛いって言うの、実際本音なの?」

「本音ですけど。え? そんな変?」

「私から見たら、レオが騙そうとしてる可能性もある。

 人間、褒められたら悪い気はしないから。そこに付け入ろうとしてるんじゃないか、って」


「……トアは午前中からクライマックスだなあ」

「だからなんなの……」


「まず、トアは滅茶苦茶に、破壊的に、神的に可愛い」


「……え? あ、はあ……」

「ただ『絶世の美人』とか言うと、それは違うと思う。そう、『可愛い』……これに尽きる。

 笑顔が可愛い子は居る。普段の顔とか、アンニュイな顔が可愛い子もたくさん居る。

 でも、真剣な顔とか、刃迫り合いの顔まで可愛い子はなかなか居ない。なのに、トアは、むっちゃくちゃに可愛い。

 カッコイイのに、可愛い。

 最高にタイプ。

 好き。

 キスしたい。

 お持ち帰りしたい。

 お姉ちゃん、って呼ばせたい」


「どうしよう、段々頭悪くなってきた……」


 あと、普通に店内だからやめてほしい。

 せめて声のボリューム落としてほしい。


「そもそもさ。それ以外、私があの日手伝うような理由ないじゃない」

 

 ショッピングモールでの戦いのことだろう。


「信用を得るためとか。いくらでもあると思うよ」


 と、そこで料理が運ばれてきた。


「……続きはまた後にしようか」

「そうね」

「あ、すみません、料理の写真って撮っても良いですか?

 ……ありがとうこざいます」


 レオは店員に確認を取って、スマホを取り出した。


「トア、こっちこっち」

「え? 私も?」

「そりゃそうでしょ」

「そりゃそうなんだ……」




 レオの写真に付き合わされた後、お昼ご飯を食べた。


「トアはパスタなにが好き?」

「なんだろ。やっぱりナポリタンかな」

「ナポリタンとか、もう可愛いって言わせに来てるでしょ。あざといなあ。そういうとこも可愛いんだから」

「違うってば! 本当に一番好きなの! お母さんのナポリタン、凄い美味しいんだから!」


 そんな感じで、食べてる間はあたりさわりない会話を交わした。



   †



 食後。


「で、さっきの続きだけど。おべっかで私に取り入ろうとしてる、って可能性を考えちゃう、って話」

「こんな空気暖まったのに、冷まし返す?」

「冷めないでしょ別に」


「……あのさトア。相談なんだけど」

「なに?」

「夕方……そうだな、16時過ぎるくらいまで、そっち方向の話やめない?」

「? なんで?」


「まず前提として、取り入るとか、油断させようとか、そういう意図はない。本当に好みなだけ。


 でも、それを証明するには、私がシチビに付いてる理由の話になる。

 それをしたら、私たちは敵同士だ、って再認識するでしょう。


 ……まだ、敵味方が曖昧なうちに、トアとの思い出を作りたい」


 ――別に、なに言われても敵にはならないけど。

 まあ、それを言っても、それこそレオも信じられないんだろう。


「……ダメ?」

 レオが上目遣いで尋ねる。


 ――そんな捨てられた子犬みたいな目されちゃったら、ダメ、なんて言い返せない。


「……分かったよ。レオがそうしたいなら、そうしましょ。

 今日は、あの時手伝ってくれたお礼もかねてるわけだしね」

「ホント!? ありがと、トア」


 安心したように笑うレオ。

 ――なんか、変化中より素直で可愛いな、レオ。


 年上なのにそう思っちゃうのは、私の精神年齢が上というだけなのか。それがレオの人柄なのか。




 それから私たちは店を出て、デートを楽しんだ。


 お互い親からもらった交友費の範囲で、行けるところに行ってみる。


 ゲームセンターでパンチ力競ったり。銃で敵を倒しながら進んだり。太鼓をしたり。


 卓球やボウリングしたり。

 バッティングセンターで周りのお兄さんお姉さんからちょっと注目浴びたり。


 お揃いのアクセサリーを買ったり。

 ドンキにある物で、お互いがお互いにプレゼントを買い合ったり。


 とても、楽しい半日だった。



   †



「あ、満室ですか。分かりました」


 時刻は16時過ぎ。

 最後に、話をするために寄ろうとした駅前のカラオケボックス。

 ……だったけど、入ることはできず。私たちはすぐ店の外に引き返した。


「どうしようか。この辺のカラオケ、他はちょっと遠いのよね。あと値段もここより高い」

 レオがスマホで地図を見ながら言う。


「レオの家は隣の駅だっけ?」

「ん? そうだけど」

「駅から遠い?」

「ううん、歩いてすぐだけど……それがどうかした?」


 ちなみに私は3駅離れてる。別の路線だけど。

 そう、私たちの家は意外と近かったのだ。地区も隣だ。


「ここからそのカラオケ屋さんとレオの家、どっちが早く着く?」

「まあ、私の家……だと思う」

「今日、私行っても大丈夫?」

「……パパもママも仕事で居ない」


 ――一人っ子という情報は、卓球とボウリングの合間に得ている。


「じゃ、行こうか」

「ちょいちょい! えっ、本気? 私の家来るの?」

「ダメなら遠慮するけど」

「そりゃ、ダメじゃないし、私はむしろ歓迎だけど!

 でも、もっと、自分の体大事にしなきゃダメでしょ!」


「体? ……なに? レオの家、体がどうにかなるの?」


「……どうしよう、鼻血出そう……」

 右掌で鼻の下を覆うレオ。


「急になんで!?」

 駅前で流血はやめてほしい。


「トア、冷静になろう。私は嬉しいけど……」

「ならいいじゃん。行こうよ」

「いや、でもさ……」


「嫌なら嫌、って言って。変に遠回りに断ろうとしなくていいから」

「いや、嫌じゃない。本当に、嫌じゃないんだけど……」


「あ、もう決めた。絶対レオの家行く。行かないなら今日帰してあげない」

「私のセリフ……」

「私が決めたんだから、それは絶対よ。ほら、レオ!」


 レオの手を掴んで。

 新しい友達の家に行くことに興奮しつつ、駅に向かって歩き出した。



    †



 レオの家は三階建ての一軒家。かなり大きい。

 控えめに言って、裕福な家の子みたいだ。


 私はレオの部屋に通されて、椅子に座らせてもらっていた。


 スマホを見ながらレオを待っていると、ドアが開く。


「お待たせ。はいどうぞ」

 レオが手に持ったトレイから飲み物を渡してくれる。冷たいお茶だ。

 他にもお皿に開けたお菓子類が載っている。


「ありがと」

「……トア、写真撮って良い?」

「え? いいけど……」


「トアが私の部屋に居る感動を、残しておきたくて」

 なにかの名セリフっぽい口調で言われた。


 それから軽く撮影会。

 ワンショットの写真を、「まだ撮るの?」って聞いちゃうくらい撮られる。

 レオとのツーショットも何枚か。が、そっちは割とあっさり終わった。


「あー、熱くなってきた……。夢中で上着脱ぐの忘れてたよ」

「なんか段々キモくなってない?」

「トアが部屋に居たらキモくなるでしょ!」


 ――イズミもホウセンもナナもソラもならないけどなあ。

 チィとビィは可愛くなるし。


 レオがブレザーを脱いでハンガーに掛ける。

 そのままブラウスの前のボタンも全部外した。

 薄手のキャミソールが露わになる。


「前開けるの好きなの?」

 ベッドに腰掛けるレオに聞いてみた。


「え? ……ああ、言われてみれば、そうなのかも」

 自分の格好を見下ろして言うレオ。

「普段もすぐボタン外すこと多い。体の前だけスースーする感じ、好きなんだろうね」


「変化の時はもうちょっと隠してよ。境世界には女の子しかいないとはいえ」


「前閉じるとダサいんだもん、あの衣装。

 それに私って、やせすぎのようでやせすぎじゃない、でも少しやせすぎなのが良いところじゃん?」


「食べるラー油みたいに言われても」


 そこでレオは立ち上がった。

 キャミソールに手を掛けて、胸元まで捲り上げる。


「ほらこのへん。あばらがちょっと浮いてるところ、私のチャームポイントだから」


 一歩近付いてきて、私にあばら部分を見せつけてきた。


(チャームポイント……?)

 あばらをチャームポイントって思ったことないからなあ……。


「トアには分からないか。

 浮きすぎず、うっすら見えてる感じ。これぐらいが、丁度良い女子のあばらなのよ」


「丁度良いあばらとかあったんだ……」

「私が思ってるだけだけど」


「まあ、あの格好で変化する理由はなんとなく分かった」

「それは確かに。前開けるの好きだったみたいだし。

 好みの格好で、自信あるとこ見せたがりなのかも」


「どれどれ」


 両手を伸ばして、左右のあばらに触れた。


「きゃあっ!?」

 レオが後ろに飛び退く。


 背中からベッドに倒れ込んだ。


「い、いきなりなにすんの!?」


「どうしたの? 自信あるチャームポイントなんでしょ?」

 立ち上がり、私はゆっくりと歩き出す。


「え、いや、そう、だけど……」

「なら逃げちゃダメでしょ? 目の前でひけらかしておいて」


「いや、だからって触らせようとしたんじゃなくて……」


「キャミソール下ろさないで♪」


「あの、トア? なにを……?」

「今から、本当にそのあばらがチャームポイントなのか、私が確かめてあげる」


「いや、あくまで見た目の話で……」

「見た目じゃあんまり分からなかったんだもん」

「それならそれでいいの。

 あと実は『あばらとブラをちょっと見せたら、トアどんな反応するかなー』って、ほんの出来心で……」


「ん? だったら、反応してる最中よ? 最後まで確かめないとじゃない?」


「どうしたの……? なんかちょっと、怖い……」

「怖くない。大丈夫よ。すぐ終わるから。そうね……天井のシミでも数えてて」

「今の時代、そんなのほぼ無い……」


 レオの目の前に辿り着き。

 キャミソールの下から両手を潜り込ませた。


 レオの悲鳴。


 構わず、あばらに触れる。


「あ、そんな、肋間を順番にぐりぐりするの、ぞくぞくするからぁ……」

「ふむふむ」


 レオは身をよじって逃げようとする。

 逃がさないよう、レオの上にまたがった。


「そんな、嘘、家に連れ込んだのは、私の方なのに……このままじゃ私……いやあ! お願い、トア!

 右上から三番目の先端、こねこねしないで!」


「ほうほう。こうしたらどうかな?」


「あ、うぅっ!? そんな、下から優しく擦り上げて……

 ダメェ! 胸骨との付け根、そんなにしちゃダメッ……」


「ちょっと弱すぎない? チャームポイントじゃなかったの?」


「ど、どういう理屈……

 ああっ! そこ、やめっ……!

 トア、謝るから! ごめんなさい、もう許して!」


「別に謝られるようなことされてないよ?」


「お、お願い、トア、そう、話!

 話をしよ! お昼ご飯の時の続き! なんでも喋るから!

 だから、あ、そこ、やめて、逆らえなくなっちゃう、あ、ああああああああ!」


 ――なんだろう。

 生まれて初めての感覚。前世でも、感じたことがない。


 なんか分からないけど、これ、すっごく楽しいかも!



   †



 レオが私の写真撮ってる時間と同じくらい、そうしていた。


 反応が鈍くなり楽しくなくなってきたので、椅子に戻ることにする。


「あばら触ってる間のレオ、可愛かった。確かに、チャームポイントだったね」


「……絶対、違う、チャームポイントって、そういうんじゃない……」

 息もえなレオ。

 ぐったりとして、起き上がる気配はない。


「ごめん、私も楽しくなってきちゃって。

 嫌だった?」


 そう尋ねると、しばらく間を開けて。


「……これはこれで、良かった、かも」


 と、良く分からない返事が返ってきた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

もし「面白い」、「続きを読みたい」などと思っていただけましたら、

↓にある星の評価とブックマークをポチッとしてください。

執筆・更新を続ける力になります。

何卒よろしくお願いいたします。

「もうしてるよ!」なんて方は同じく、いいね、感想、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ