エピローグ
「第三回、魔法少女軍会議ー!」
「「いえーい!!」」
いつものごとく、私のタイトルコールとチィビィのファンファーレで始まりました魔法少女軍会議。
開催場所は前回、前々回に引き続き神恵邸の大浴場。
第三回の今回は、第二回からトキアさんが居なくなり、代わりにヒメとムツキが加わっている。
「わあ! 広いお風呂!」
「ヒメ! そんな、すっぽんぽんで歩き回らない!」
「どうして? みんな歩き回ってるよ?」
「この人たちは、ちょっと変だから……」
さくら地区との直通ゲートはまだだから、今回はムツキがヒメを送ってきてくれた。
「大丈夫、私もバスタオルだから」
ソラが二人の後ろから浴室に入ってくる。
「……そりゃそうでしょ……」
と呟くムツキもバスタオルを巻いている。
「トア様ー♪」
ムツキに構わず、ヒメは湯船の中の私に早足で向かってきた。
「ちょ、ヒメっ!? あなたそんなおてんばだったの!?」
ヒメがお湯に入り、私に抱き付いてくる。
受け止めて、抱き返した。
「凄いでしょこのお風呂。まあ私のじゃないけど」
「はい! すっごく楽しいです!」
「いつかみんなとも入りたいね」
「はい。待ち遠しいです」
――あの後。
ヒメはみんなの前で、
「リトルウィッチィズの役に立ちたい、それが私の『楽しく生きる』です!」
と、ヒメは直訴してきた。
戦えない状態でも、できることはある。
私たちは、ピュアパラにとってのギルドや、インピュアズにとってのホムラ――はちょっと違うかもしれないけど――のような、援助者や援助組織がない。
現状はなんとかなるけれど、今後、戦いが激化すればするほど、非戦闘要員は必要になるはずなのだ。
今はレクしか居ないし、そう言ってくれるのは私としても助かる。
戦いのことは置いておいても、私を慕ってこう言ってくれてるわけだし。
「まったく……お熱いことで」
半分愚痴りつつ、半分微笑ましそうにヒメを見るムツキ。
ソラと並んで湯船に入ってきた。
「抱き付きながらお風呂入ってくれる子が増えて良かったね、お姉ちゃん」
と、レクが私の隣にやってくる。
「……そんな、人を抱き付き魔みたいに言わないでよ」
「みたいなもんでしょ」
「レクさんもご一緒にどうですか?」
「えっ?」
ヒメの提案がそんなに意外だったのか、レクはたっぷり3秒ほど固まった。
「……私は、大丈夫。家で散々されてるから」
「そう、ですか……?」
露骨に悲しそうな顔をするヒメ。
……レクと同い年で、頭も良い、という共通点がある二人だけど。感情が表情に出るか出ないかは、真逆みたいだ。
「え? 私ともしたいの?」
レクが問いただす。
「私、お友達とお風呂なんて、初めてで。是非一緒にしたかったんですが……」
「……じゃあ、教えてあげる。裸で近付くのって、恥ずかしいことなの」
「そうなんですか? 私、いつもお母さんとかに抱えられながらお風呂に入るので。そういうの良く分からないんです。
教えてくれて、ありがとうございます」
ふわりと、本心からの感謝と分かる、優しい笑みでヒメが笑う。
レクが気まずそうに目を逸らした。
……珍しい。レクが、ヒメの純真さに気圧されている。
「そっか、ごめん。私が、考えなしだった。
……そっち行って良い?」
「はい! もちろんです」
ということで、私が両手に花状態になる。
右にレク、左にヒメ。
終始ニコニコと嬉しそうなヒメだった。
「ずるいにゃ!」
「私らも混ぜるにゃ!」
そこにチィとビィまで飛びかかってくる。
「きゃっ!?」
「ちょっ……」
「あははっ♪」
三人と二匹が団子になった。
楽しいし可愛いし嬉しいんだけど、流石に動きづらい。あと熱い。
――レク、今夜はお風呂一緒に入ってくれなそう……
ちなみに今回はまだお昼前の開催だ。
「……着々とハーレム作ってるじゃん」
最後にナナがやってきて、ザブン、と豪快にバスタブに飛び込んだ。
「だとすると、ナナもその一員だから」
「……そういう反論は予想外だったわ」
よしよし、ナナに一矢報いれられたみたい。
「ハーレム、ってなんですか?」
ヒメが私の首に手を回しながら尋ねてくる。
「ヒメは知らなくて良いの」
「? そうなんですか?」
「私も知らないにゃ。トア様教えてにゃ!」
「ナナだけ分かる会話だめにゃ! 仲間はずれ反対にゃ! 目をウルウルさせて母性本能に訴えかけるにゃ!」
「ということで! 全員揃ったし会議はじめるよ!」
収拾付かなくなってきたので、半ば……どころじゃなく誤魔化すように、私は大きな声を出した。
「まず、改めてだけど、ヒメはレクと同じ、非戦闘員としてリトルウィッチィズに正式に加入したから。
あらためて、仲良くね」
ソラが拍手して、みんなも拍手をヒメに捧げる。
ヒメはぺこりと頭を下げた。
「ムツキも、さくら地区のピュアパラをやりつつ、私とタマハガネのランクアップを目指していく予定。
ピュアパラ版のスパイになるかな。
まあ、ペロと同じく周知のスパイだけど」
「それはスパイって言うの……?」
「言わないかもしれないけど。ウチはそれで通してるので」
「はあ……」
「他の子たちも、ヒメがここに居る以上はなんらか関わってくれるかもしれない。まだその辺はちゃんと話し合えてない」
「でも、いいのか? シチビは本格的にトアを狙いに来るんだろう?
戦闘能力無いのに近くに居るのは危険じゃないか?
レクは、同じ家に住んでるからどうしようもないだろうけど」
「私は正直、あれをそのまま受け取って良いか、疑うべきだと思うの」
「……ていうと?」
「いえ、本音ではあると思う。でも、妖魔の幹部は、シチビだけじゃない。持って帰って話し合った結果、窘められる可能性はあると思う」
「……待て。シチビ以外に幹部クラスが居るのか?」
「居る。少なくとも、そう考えて動くべき」
――そうでなかったら、シチビはとっくに単独で現世に乗り込んで、破壊の限りを尽くしてる。
人間や召喚獣を使って、現世を破壊せず支配しようとするような性格じゃない。
破壊と暴力で支配しきった後、ゆっくり自分の奴隷や部下を作るだろう。
そうしないのは、なるべく無傷でこの世界を奪いたい、上位の存在が居るからだ。
センガ……は作戦を立てるようなタイプじゃない。とするとナキソラか、さらに上――今代の魔王か。
いずれにしても、ホムラが指揮官でないのは確実だ。
――それにもし、ナキソラが来ているなら……
彼女のことだ。ホムラの話だけで、私が本物のトゥアイセンだと感付いているかもしれない。
「シチビ以上の妖魔が、まだ居る、ってこと……?」
ソラも驚いた様子で言う。
――あ、そうか。この世界のみんなはまだ知らない情報だったか。
私の中ではとっくに確定だったから、つい口に出しちゃった。
「……ナナやソラに言ってたでしょう? ゲームとか食べ物を『仲間と一緒の方がもっともっと楽しい』って。だから、そう思ったのよ」
「言って……たか。言われてみれば、そんなようなこと言ってた気もする……」
「言ってたわよ。……そうか確かに。あの時は、洗脳されてる、って思ってたけど……。そうじゃなかったんだから、本当に仲間が居る、って意味だったのね……」
――あぶないあぶない。なんとかごまかせた。
「……話を戻すけど、『私を狙う』がブラフじゃなかったとしても、ここ以上に安全な地区は無いと思うの。
この前ちょっと言ったけど、他のインピュアズが襲ってこないとも限らない。裏切り者を始末する、とか、理由なんていくらでもつけられるでしょうし。
全員が全員、シチビの言うとおりに動いてるとも思えないもの」
「……まあ、そりゃそうか」
「私一人ならともかく、ナナもソラも居るしね。
トキアさんの居るあざみ地区とも、もうすぐゲートが繋がるらしいし」
「それじゃあ、今後も動きとしては変わりなし?」
「そうだね。この地区で見慣れない、インピュアズになれそうな年代の女の子には注意する……、くらいで良いんじゃないかな」
「うん、分かった」
「今回の議題としては、まあこれくらいかな」
と、そこでヒメが右手を上げる。
「ん? なにヒメ?」
「もしよければ、後ほど今のインピュアズの勢力をご説明させていただきます。地図を交えた方が理解いただきやすいと思いますので」
「そんなの分かるの?」
「はい。インピュアズになってから、いろいろなインピュアズと試合を組まされた経験がありますので。レオたちのチームともその時知り合いました」
「試合? そんなことしてるんだ……。もし良かったら、勢力もだし、それ以外の情報も教えてくれるかな?」
「はい、もちろんです!」
「そうか。ヒメ、各地のインピュアズと関わりあるんだ。
あんまり考えてなかったけど、ヒメの情報はかなり大きそうね」
「ナナさんやソラさんはそうでもなかったんですか?」
「私らは1号と2号だったからな。まあ、0だったレオとも会ったことなかったけど」
「そもそも軟禁状態だったからね。私たちの家にできたゲートは、シチビしか通れない特殊なものだったし」
「……軟禁状態?」
「その辺の話はまた食事の時にでも話すよ」
「あ、いえ、もし言いたくないなら大丈夫です」
「ううん、そんなことない。むしろ、聞いてもらいたいのよ」
「分かりました。それでは、是非」
ということで。第三回も無事、終了となった。
――このあと地図を挟んで、詳しい勢力の位置や特徴を教えてもらった時に、『あれ? こっちの方が会議っぽくない?』って思っちゃったけど。
……魔法少女軍会議でお風呂は、今後も欠かせないのだ!
お風呂外は会議でなく、ただの話し合いなのだ!
王がそう言うんだから、絶対そうなのだ!
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