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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
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30

 それから、約束の五分前になって、さくら地区のピュアパラと精霊――ポムがやってきた。


 挨拶を交わしたあと、ヒメと五人は、謝罪の意を表す。


 すでにポムから昨日の経緯は聞いていたらしく、また以前よりムツキから彼女たちのことを聞いていたということで、説明はすぐ済んだ。


「……じゃあ、今はもう変化もできないんだ」

 さくら地区のピュアパラの一人が、そう確認する。

 多分三人の中で一番年長、高校生らしき子。


「はい。そのとおりです」

 ヒメが真っ直ぐ目を見て答える。


「そっか。ならじゃあ、私とも友達になってくれる?」

「えっ?」


 その子はヒメに手を伸ばして、握手を求めた。


「……ずっと、気にはなってたの。でも、ムツキが独り占めして、会わせてくれないから」

 と、むくれてみせる。


「独り占めとかじゃないけど……」

 ムツキの反論は小声で、あんまり反論になっていない。


「こちらこそ! よろしくお願いします!」

 その手を握り返すヒメ。


「なるほど。……これは、独り占めして守りたくなっちゃうね、ムツキ」

「だから、独り占めとかじゃなくて。

 ……単にあなたたちが、信用できる人物か分からなかっただけ」


「それは、ごめん。ずっとムツキにおんぶにだっこで、甘えっぱなしで。

 ……『あの子は私たちと違って、才能あるから』なんて、自分に言い訳して。正直、腐ってたよ」


 そこで、二人目の子が前に出る。ぱっと見、中学生後半か高校生前半くらいの子。

「でも今朝、ポムに言われたの。『ムツキちゃんは、ずっと努力して、一歩ずつ強くなったんだ』って。

『才能じゃなくて、いろいろ試したり、練習したりするのを続けたから、タマハガネにも認められたし、あんなに強くなったんだ』って……」


 三人目の子も、意を決したように顔を上げた。私と同い年くらいに見える。

「私たちが、もっとちゃんとしていれば。

 ムツキと信頼を築けていれば。

 ……こんなことに、そもそもならなかったかもしれないのに。

 ごめんね、ムツキ。私たち、これからもっと、頑張る。

 そう、三人で誓ったから」


「……そんな。なに言ってるの、そんなこと言ったら、私こそ……」

 ムツキが独り言のように呟いて。


 ……真っ先に泣き出したのは、ヒメだった。


「良かった……良かったねえ、ムツキちゃん……」

「なんでヒメが泣くのよ……」

 言いながら、ムツキの目からも涙が落ちた。


「だって、だって……。ムツキちゃん、ずっと、悩んでたから……」


『しょせん、ピュアパラなんてそんなものか』

 これまではきっと、そう思って諦めてたんだろう。ヒメも、ムツキも。


 ただ、そこは天界と精霊が選んだ子たち。

 本当にダメな子なわけがない。心が汚いわけがない。


 ほんの少しだけ、すれ違いがあっただけ。


 それが知れて、ヒメは安心しちゃったんだ。

 ――友達の仲間が、良い子たちだと分かって、嬉しくなっちゃったんだよね。


 と、そこでアキラが三人の前に歩き出る。


「ヒメっちとムツキのこと、許してくれてありがとう。

 ただ……私だけは、許さなくて良い」


「……どうしてまた?」

 一番年長らしい、最初の子が聞き返す。


「……ペットショップのガラスの前に並べて。そこに売り切れの値札を貼って、笑いものにしていた」

「そうなの? 見てないから分かんないんだけど……

 ちなみに、誰が一番高かった?」


 その言葉に、目を見開いて見上げるアキラ。


「……高かった?」

「そう。値段書いてなかったの?」

「最初から売り切れで作ったから。値段はもともと書いてない」


「なら、今書くとしたら誰が一番高い?」

 両膝に手を当てて、視線の高さをアキラと合わせ、興味深そうにその子は尋ねた。


「え……えっ?」


「直感で良いからさ」

 にっこり。


「えっと、じゃあ……」

 まず、三番目に話した子を指さす。

「あの子が一番高い」


「どうして?」

「……一番若くてカワイイから」


「その理屈だと、私が一番安いってこと?」

「まあ、そう……かな」

「ふうん、そうなんだ。大人しい顔して言うじゃない」

「あ、いや、違……ごめんなさい、こんなこと言いたかったんじゃなくて……私、本当に謝りたくて……」


「いや、怒ってないよ? 私が聞いたんだもん」

「……嘘。目が笑ってない」

「怒ってないけど、値段気になるな。私はいくらくらい?」

「この話やめません?」

「やだ。答えるまでやめない」

「えぇっ……?」


 困ったように周りを見渡す。


 ヒメたちも、この状況どうしていいか分からない様子で、オロオロしていた。


 私はアキラの側に行って、

「正直に答えてあげな」

 と囁いてあげる。


 私を見るアキラに、小さく頷いて笑って見せた。


 アキラが再び前にいる彼女を見上げる。


「……いっせんまんえんくらい」

 消え入りそうな小さな声で、アキラは言った。


「妙にリアルな値段ね……。いや、安いは安いけど」

「違うんです、こんな、侮辱するようなこと言いたくなくて……」


「んじゃ、キミが将来一千万出してきたら、買われてあげるよ。それでチャラね」


 言って、その人はアキラの頭をくしゃくしゃに撫でた。

 犬歯を剥き出しにして、満面の笑みで。


「あっ……」

 それで、アキラも気づき。


 誘われるように、ぎこちなく笑った。


 ――なかなか不謹慎な会話だけど。

 それくらい言わなきゃ、アキラが自責で押しつぶされるかもしれない。

 彼女は、それを見抜いたのだ。


(やっぱり、ピュアパラに選ばれる子は、凄いわね)


「あ、でもそれだと一つ問題が……」

 と、アキラが気付いたように言う。


「ん? なに?」


「私が一千万貯める頃には、お姉さん、もっと年取ってるから。もっと安くなっちゃう」


 静寂。

 ヒメやエルの顔が蒼白になった。


「余計なこと言わなくて良いの! せっかく優しくしてくれたのに……」

 エルが思わずアキラに駆け寄ってきた。


「あ、いやっ……!」

 気付いたように、アキラの血も引いていく。


「……ぷっ、あははっ!」

 一方、言われた本人は盛大に笑い出した。

「いやいや、だいじょぶよ。それよりキミ、おもろいね! 実は結構ヤンキーじゃん! 気が合いそうだわ。

 でも、いくら年取っても一千万からまけてあげないけどね!」


「……じゃあ、いらないかも」

 また小声で呟くアキラ。


「言ったなコノヤロッ!」

 なおも楽しそうにアキラの背中をバシバシ叩く、さくら地区のピュアパラ。


 ――横にいた私の肝も冷えた。


 けれどある意味、大物なのかもしれない。アキラも、彼女も。



   †



 なにはともあれ。

 ちょっと、色々と危ういところはあったものの。

 最後は、さくら地区の皆が私たちに「助けてくれてありがとう」のお礼を言って、円満に解散となった。

 

 そして、その帰り道。


「アキラは怖いとこあったけど……。みんな、ちゃんと謝れて偉い!

 偉いので、これからみんなは私が守る。

 ペロ、この地区直通のゲート作っておいて」


「分かってるペロ。すでに動き出してるペロ」

「ナイス。仕事できるじゃん」

「へっへーん」


「私たちを、守る……?」

 ヒメが不思議そうに聞き返した。


「そう。もしかしたらシチビが、また妖眼を無理矢理取ろうとしてくるかもしれない。

 他のインピュアズが、裏切り者として狙ってくるかもしれない。

 特にみんなは、自分で戦う力がもうないから。

 それを奪った分、私が、なんとしてでも守る」


「奪っただなんて、そんな……」


「ムツキも、インピュアズやシチビ相手には無理せず私たちを呼んでね」


「……いいの?」

 ムツキの聞き返し。


 他のみんなも、遠慮がちに、申し訳なさそうに……居心地悪そうに、私を見返していた。


「いいとかじゃないから。

 さっき、ちゃんと謝れた瞬間から、あなたたち全員リトルウィッチィズの仲間よ。

 私は魔法少女の王。臣下に当たるあなたたちに、拒否する権利なんかあげないから」


 そう言うと、ナナとソラが小さく笑った。


「うちの王は横暴だからな。こうなったらなに言っても無駄だぜ」

「そうそう。諦めた方がいいわ」


 臣下の先輩たるナナとソラに言われて、各々苦笑いをしたり、目を見合ったりする。


「あなたたちへの命令は、ただ一つ。

 とにかく、これからの人生を楽しみなさい。


 昨日まで晴眼者に思うところあったあなたたちも、今は立派な晴眼者よ。

 もし後悔してるなら、それを償うも良し。別のこと見つけて忘れちゃうも良し。

 後悔なんてしてないなら、それはそれで思い出として生きるも良し。


 あなたたちには未来がある。自由に生きる権利がある。

 私がそれを保証する。

 もし誰かが……たとえあなたたち自身が、それを否定したとしても。その否定を、私は否定する。


 とはいえ、他人に迷惑掛けたり、犯罪に手を染めたりしないようにね」


 ……泣き出したのは。やっぱり、ヒメで。


「やっぱりトア様は、私の……私たちの、王子様(救い)だったんですね……」


「……王子じゃなくて、王だけど……」


「えへへ」


 ――抗議しても、ヒメは可愛く笑うだけで聞き入れてくれなかった。


「いいんです。私にとっては、王子様なので」


 と、満足そうに言われちゃうので、私もついつい釣られて『まあ、いいか』と笑っちゃうのだった。




 こうして。

 私たちの、さくら地区奪還戦は完了した。

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