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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
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29

 ムツキが一人、私の前で立ち止まる。


「……エリンと、話をさせて欲しい」

 じっ、と私の目を真っ直ぐ見るムツキ。


「あ、そうだ。忘れてた。

 トア、ムツキからエリンに伝言があってな。

『ごめん』ってさ」

 横からナナがそう言ってきた。


「……今言う、って、どういう了見よ」

 ムツキがジト目でナナを睨む。


「それどころじゃなかったんだから、しゃーねえだろ」

「なら別に言わなくて良かった、って言ってんの」


「まあまあ」


 私が制止する中、エリンが顕現。


「だってさ。エリン」

「…………」


 エリンとムツキが、互いを見つめ合う。


「エリン。その、ごめんなさい。

 私が、間違ってた。もう、奴隷みたいに扱わないって約束する。

 ……だから、戻ってきて、ほしい。私には、あなたが必要なの」


「それは、またヒメさんたちを守る必要が出てきたから?」


「それもある」

「……も?」



「これまで一緒に、幼なじみを守ってきてくれた親友と、仲直りがしたいだけ」



「……ムツキちゃん」

「あなたに見捨てられて、離ればなれになって。

 ……癪だけど、そこのマヌケな双子と話したあと、無性に、そう思ったの」


「マヌケっておい」

「……って言いたいけど、反論する資格無いわよ私たち……」


 ――私と離れている間に、何かあったんだろうか?

 妖力移す時は、どこか物陰に隠れただろうし。

 あれだけ嫌がってた二人が、まさかちゅーするところ見られるような真似するはずないもんね。


「今度は私が、首輪付けられる側になってもいい。……だから」


 エリンが小さく笑う。


「そんなこと、しなくていい。

 言ったでしょう?

 首輪が嫌だったんじゃない。

 乱暴にされるのが嫌だったんじゃない。

 ムツキちゃんが、そう言ってくれるなら……私は、大歓迎だよ!」


 心底嬉しそうにエリンはそう答えて、一歩ムツキに近付く。


 ……が、ムツキはその分、一歩下がった。


「……大歓迎なの?」

 ムツキは驚きながら聞き返す。


「? もちろんだけど……」

 不思議そうにエリンは小首をかしげた。


「……エリン、その……ああいうの、好きだった?」

「ムツキちゃん、1階で別れる時の話、聞いてた? 好きとかじゃなくて、私はそういう風に作られたんだよ」


「……なるほど」

 ムツキが深刻に考え込む。

「じゃあ、その……あんまり首に食い込まない、柔らかめの首輪買っておくわ。あるか分かんないけど」


「……待って。なにか勘違いしてない?」


「言われてみれば、最初の頃はそれで強くなれたわけだし。

 私はてっきり、エリンは嫌なんだと思ってた。でも、あの頃は大歓迎だったってことでしょ?

 私が強くなれたのは、隷属ができたんじゃなくて、エリンの趣味に合ったからであって……」


 ……エリンが静かに、耳まで真っ赤になっていった。


「なわけないでしょ!!!」


「ううん、大丈夫よ。私、エリンがどんな趣味持ってても、エリンの友達だから」

「その優しい目やめて!」

「本来は隷属するように作られてるんだもんね。そういうの好きでも変じゃないよ」

「だから! 風評被害やめてってば!」


 ――地味に『好き』という点は否定しないエリンだった。


「……まあ、ムツキも反省してるみたいだし。エリン返すね。

 ただ、やりすぎないように。あと、公の場では配慮するように」


「ええ」

「ブレイドもなんの話してるのかな?」


「エリン、昨日は力を貸してくれてありがとう。ムツキと末永く仲良くね」

「……いやまあ、仲良くはするつもりですけど」


「ムツキも、流石に腕が痙攣するレベルはやめてあげて」

「本人が良くても?」

「本人が良かったら……まあ、止められないかも」

「その辺は調整するから」

「そうね。今度は見限られないように」

「うん。分かってる」


「なんの調整よ! 私は無垢な戦士の武器であり防具なの! 変な扱いしないで!」


 そんなエリンの訴えに、笑う子が過半数、気まずそうな子が数人。

 ――ちなみに私は、笑っちゃう方。


 あと、ヒメはよく分かってない様子だった。一人だけ?を頭に浮かべてる。




 変化ができなくなった子を、私たちが運んでゲートまで帰ることに。

 ナナはエル、ソラはアキラ、ムツキがアンジュ、レオがアヤ。


「じゃ、ヒメは私とね」

「は、はいっ!」


 ヒメをおんぶしようと近付く。

 が、ヒメは私の正面に回って、両手を伸ばしてきた。


 ――前だと、だっこになる。

 それだと、お互いの体格的に、飛んでる間不安定になっちゃいそう。


 私は一瞬考えて……

 お姫様だっこで抱き上げた。


「わっ!」

 ヒメの足と頭が同じ高さになる。


「それじゃ行きましょうか、ヒメ

「は、はいっ!」

「飛んでる最中は危ないから、しっかり掴まってて」

「あ、ありがとうございます……」


 私の首に両手を回すヒメ。


 すぐ目の前に、ヒメの顔。

 恥ずかしそうに、目をキョロキョロするヒメ。


「みんな居るから、ちゅーはまた今度ね」

 ヒメの耳元に、囁いた。


「わ、分かってますからっ」


 なんて、小声で振り絞るようなヒメが可愛い。

 


   †



 それから現実世界に帰って、レオやヒメたちと連絡先を交換して。


 両親にバレないよう二階から帰って。

 すでに起きてたレクに出迎えられて。

 不意打ち気味に抱きしめられ、ケガがないか心配されて。

「ちょっとしたけど、もう治った」と答えて。


 眠気覚まし兼、戦いの汚れを落とすため、朝風呂に入ることにして。

 そこにレクも付いてきて。

 ……着替えてる最中、「知らない女の人の匂いがする」とか言われて。


 その後、なんとか学校に行って。

 授業中に寝ちゃって。

 イズミやホウセンから珍しがられてたけど、なんとか誤魔化した。




 そんなこんなで、放課後。

 さくら地区のピュアパラたちの都合が付いたというとこと、境世界のモール、その駐車場で待ち合わせ。


 ペロに時間を聞くと、まだまだだ。

 みんなを運ぶ必要があったとはいえ、少し早すぎたみたい。


 待ってる間、ゆるやかな空気で雑談する。


「今日一日過ごして思ったけど、アキラの……『ペネトレイト』の人格と会えなくなったのが、ちょっとだけ寂しいわ」

 エルがそう切り出した。


『ペネトレイト』はアキラの変化後の二つ名なんだろう。


「まあ、確かに。気持ちは分かるかも」

 アンジュも同意する。


「本当のアキラちゃんは、大人しいけど、とっても優しい子だもんね」

 ヒメがアキラに向き直る。

「アキラちゃん、あらためて、今までありがとう。……私のために、無理してくれて。感謝しかないよ」

 ヒメがそう言って、アキラの右手を両手で掴んだ。

「ありのままのアキラちゃんで、これからもよろしくね」


「良かったな。もう戦う必要もなくなって」

 続いてアヤがアキラに言う。


「ホント。見てて痛々しかったんだから」

 ムツキもそんな二人の間から、アキラに笑いかけた。


「あ、う、うん……。みんな、心配掛けて、ごめんね」

 目元は分からないけど、アキラはそう言う。



「いや、どっちかっていうと、あれが素でしょ?」



 なにげなく私が言うと、アキラは驚いた……ような目をした気がした。


「何があったか分からないけど、どこかのタイミングで今の立ち振る舞いを覚えただけじゃない?」


「いや……それは、ない」

 と答えたのはエル。

「初めて会った七歳の時から、こうだった。私、この子イジメてた頃もあったけど、あんな素振り、変化できるようになるまで微塵もなかったもん」


「七歳なら演技なんてできる。

 ……でも、みんなが違うと思うなら、私の勘違いかもしれないね」


 ――けれど私には、土下座しようとした時のアキラが嘘だったとは、どうしても思えない。

 変化中の仲間たちとの掛け合いも楽しそうだったし。


 全員がアキラを見る。

 私の意見が即否定されないあたり、みんなも多かれ少なかれ、思い当たることがあるのかも。


 しばし、沈黙。

 みんながアキラの言葉を待っている。


「……さあ、どうなんでしょう」

 そう呟いたアキラは、変化中の時と同じ目をしている……ような気がした(パート2)。

「自分でも正直、どっちが本当か、分からない」


「そう、なの……? アキラちゃん……」


「大人しくしてれば、目を付けられない。嫌なことされないで済む。一日を何事もなく過ごせる。……それを覚えてから、素なんか出したことなかったから」


「覚えてから、って、あなたそれ、七歳から……」

 エルが、小さく戦慄わななきながら呟く。


「それに、これのおかげで、エルちゃんが構ってくれるようになったし。

 ……いまさら、これ以外の私になんて、戻れなければなれもしないよ」


「そっか。いつか変化とかしなくても、みんなの前で素を出せるといいね」


 私がそう笑いかけると、睨み返された……ような気がした(パート3)。


「……みんなの前で変なこと言わないでもらえます? せっかく、五年近く猫かぶってこれたのに」

「お、意外と早めに素を出せるようになった?」

「……私、頭の回転速いですから」


「ちょっと!」

 エルがそんなアキラの両肩を掴んで揺さぶる。

「なに、アンタあれ素だったの!? ヒメちゃんのためにメチャクチャな人格作ったこと、尊敬してたのに! 素なら全然凄くない! 私の尊敬返しなさいよ!」


「……ちっ。ごめんなさい、エルちゃん」

「ちっ、て聞こえたわよ!」

「うざっ。エルちゃん、ヒステリー女はもてないよ」

「うざって言ってんじゃねーか、このニセ二重人格!」


 なおも言い合いながら、揉める(じゃれる)二人。

 本当に仲良しで、微笑ましい。


 そんな二人を見るヒメも、楽しそうに笑ってる。

 ――でも、どこか羨んでるようにも見えた。……気がした(パート4)。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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