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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
序章 はじまりはじまり
7/77

7

「くぅ~♪」


 湯船に浸かると、思わず声が出てしまう。

 誰もいない家でお風呂に入るなんて、こんな贅沢、そうそう無いからね。


 家族のことは好きだが、それはそれとして、子供に自由がないのもまた事実なのである。


「主様、私は、どのようにしたらよいでしょうか……?」


 まず体を洗うと思っていたのか、スォーが戸惑ったように体を縮こまらせていた。


「お風呂というのは、まず最初に湯船に入るのが礼儀だったの。先に体を洗うというのは、もともとローカルルールに過ぎないのよ」

 ※諸説あります。

「そう……なのですか?」

「つまり、まずは湯船に入りなさい」

「ですが、今は主様が……」

「一緒に入ればいいでしょ」


 スォーの手を引いて、半ば無理矢理湯船に入れさせる。

 一般家庭のバスタブだ。私とスォーは密着する形になる。


「主様お一人でのびのびと入られた方がよろしいのでは……?」

「誰かと入るのも楽しいよ」

 昔は妹の恋久(レク)とよく一緒に入った。最近はもう入ってくれなくなったけど。


「で、スォー。早速本題だけど」

「はっ」

「その戦国武将に仕える家臣みたいな態度、やめて」

「態度ですか? 具体的には、どのように……」

「跪いたりとか、敬語とか」

「それは、主様に仕える道具として……」

「まあ、私も前世だったら気にしなかったけど。人間はね、子供に傅かれるなんてあんまり良く思わないの」

「そう、でございましたか……」


「あなたくらいの年齢の子は、ちやほやされて、可愛がられて、ワガママも許される、守られる存在だから。

 あんまり(へりくだ)られるのは、本能的に忌避しちゃうんだよ」


「この見た目は、あくまで同年代のピュアパラ達との会話をスムーズにするためのインターフェイスでございます。本当の意味での年齢などございません。どうかお気になさらず……」


「気にするなって言われてもね……。あなたくらいの子を(はべ)らせるのは、やっぱり思うところあるよ」


 ――っていうか、よく考えたら、命令してお風呂に入れてる時点で犯罪では……?


 魔力の感覚を取り戻したと同時に、前世の感性が少し戻ってきてるかもしれない。現代人の感性をトレースするのも大変だ。


「ご心労おかけし申し訳ございません。かしこまりました、なんとしてでも態度を改めたく存じます」

「そういう言い方がすでにズレてるって言いたいんだけど……。スォー自身はどうなの?」

「……どう、と申しますと?」

「敬語とかめんどくさくない?」


「滅相もございません。魂鋼は道具です。人に行使され、世界を救うために使い捨てられる無機物です。

 然るべき主君に使っていただくことが幸福であり、世界のために役立つことが至上でございます」


「それで、あなたは私を『然るべき主君』だと思っている、と」

「はい。主様の、この世界を愛する思いと、救世の女神を簡単に凌駕する強大で凶暴な……けれどとても優しい魔力に貫いていただいてから、私の思いは変わりません」


 そう言うスォーの目は、熱を帯びて真っ直ぐに私を見つめてくる。

 

「先ほどの戦いでは、背筋が粟立つほど感動いたしました。この方の武具たるが、私の生まれた意味なのだと。確信に打ち震えたばかりでございます」

「そ、そう……」


 あまりに熱心に語られて、引いてしまう半分、なんだか微笑ましい半分。

 前世で一番私に心酔してたのはリディオだったけど、彼女よりも深度で言えば深いかもしれない。


(道具とか無機物とか言っておきながら、めちゃくちゃ感情あるなこの子……)

 慕われて悪い気はしないけどね。


「……分かった。さっきの話は撤回する」

「いえそんな! 主様がお気に召さないのでしたら、なんとか改善を……」

「いいから。スォーは、心の底から私にそうしたい、って思ってるってことでしょ?」

「それは、その通りでございます。ですが、主様が少しでも精神的な負荷を覚えられるのでしたら……」

「気が変わった」

「……左様でございますか?」

「無理矢理させてるかも、って心配してたけど。単に『やりたいからやってる!』ってのが分かったから。もう止めないよ」


 なんと答えて良いか考えている様子のスォー。

 そんなスォーに、くすりと微笑んで見せる。


「でも、あなたがそう来るなら、私もやりたいようにやらせてもらうから」

「は、はい。それはもう、私にできることでしたらなんでも」

「こっちに来なさい」

「はっ」


 スォーが前に出て、私に密着する。


「背中を向けて、私のふとももの上に座るように」

「……? こ、こうですか?」


 言われたとおり私の上に座るスォー。


「これから一緒にお風呂に入る時は、基本この体勢になること。命令ね」

「は、はい、かしこまりました……」


 落ち着かない様子のスォーに、私の口元はまた緩んでしまう。


 そんなスォーの頭に右手を置いて、優しく撫でてやる。


「今日はあなたのお陰で、皆を助けることが出来た。ありがとう」

「あ、主様……?」


 いよいよ戸惑いはピークの様子で、スォーは私を伺うように、どこか助けを求めるような横目で見てきた。


「初対面の時は、思い切り頭掴んじゃったね。ごめんなさい。もう痛くない?」


 最初に私が掴んだところを重点的になで回す。


「謝られる必要などございません! 痛みなど感じませんし……」

「そう。なら良かった」

「主様、このような扱いは身に余ります。どうか私の事は、ただの一道具として……」

「まだ口答えする?」

「い、いえ、そのような意図は決して……」

「あなたがやりたいようにやるなら、私だってやりたいようにやるって言ったでしょ?」

「……これが、やりたいことなのでございますか……?」

「そう。ちやほやして、可愛がる。ワガママも聞いてあげたし」

「ですが、私は……」


「敬語や態度は変えたくない、ってワガママ聞いてあげたでしょ? それ以上求めるなら、今度はそっちが私のやりたいことを聞いてからね」

「ですがこれでは、その……私ばかりが、幸せなだけでございます……」


(それ赤面して流し目で言われるの、なかなか破壊力ある)

「それ赤面して流し目で言われるの、なかなか破壊力あるね」


 おっと。つい頭と口とリンクしてしまった。


「は、破壊力ですか……」

「可愛いって意味よ」

 左腕でぎゅっ、とスォーを抱き寄せた。


 そして耳元に口を近づける。

「これからよろしくね、相棒」

「はっ……」


 スォーは目に見えるくらい耳まで赤くして、

「はいっ! 全身全霊で、お仕え申し上げましゅっ!」

 語尾を盛大に噛んでいた。



   †



 それから、スォーに体を洗ってもらったり、逃げ惑うスォーを隈無く洗ってあげたり(ボディソープやシャンプーもあった)、のぼせたスォーに夜風を浴びせてあげたりした。


 久しぶりの二人風呂はとても楽しかったが、スォーはかなりグロッキーな様子。

 でもまあお風呂を出て一緒に服を着てる時、ニコッと笑ってくれたから、それなりに楽しんでくれたはず。


「ずいぶんお楽しみだったみたいペロね……」


 脱衣所を出ると、廊下でペロが浮いていた。


「うん。めちゃくちゃ楽しかったよ。ね?」

「は、はい。幸せな一時(ひととき)でございました」

「言わせてる感すごいペロ……」

「ひゃっ、そ! そのようなことは決して!」

「明らかに動揺してるペロ」

「まあ最初は緊張してたからね。次からはちゃんと楽しめるようになるから」

「そういうものペロ?」

「あ、いえ、私は本当に幸せで……」


 と小声で言うスォーをよそに、ダイニングからキッチンに入る。

 コップを二つ並べ、冷蔵庫からペットボトルのお茶を出して注いだ。


「……トアちゃん、その、ボクの正体についてなんだけど……」

「はいスォー」

「え、あ、申し訳ございません、気付きませんで……」

「無視……?」


 腰に手を当ててお茶を飲み干した。


「かぁ~、たまらん!」


 お風呂後の一杯も、これまた最高だ!

 私は牛乳があんまり好きじゃないので、水かお茶派。炭酸飲料もいいけど、一気に飲み切れないのがネック。


「スォーも飲みな」

「いえ、私はタマハガネに戻れば体調等リセットされますので……」

「だったらリセット前に飲んでみなさい」

「御意……」


 両手でコップを持って、ちまちまと舐めるようにお茶を飲む。

 明らかに飲むという動作になれていないスォーは、なんだかリスみたいだ。


「ほぅ……」

 美味しそうに息を吐くスォー。

「ね?」

「はい。とても、美味しゅうございます」

「うんうん」


 再びクピクピとお茶を飲むスォー。


「……で、ボクの正体の話なんだけど」

 ペロがなんか言い出す。


「ああ、なに?」

「まだ言えないんだペロ。ごめんなさいペロ……」

「まあ割とどうでもいいや。スォー、一度ちょっと降りてくれる?」


「ど、どどどうでもいい!?」


 スォーを下ろして椅子に座り、彼女の脇の下に手を入れる。

 そのまま持ち上げて、私の膝の上に座らせた。

「言ってくだされば自分で乗りますので、次からは……」


「どうでもいいはおかしいペロ! 今トアちゃんの目の前にある最大の謎ペロ! もっと気にするペロ!」


 スォーの言葉を遮って、ペロが机の上をバンバン叩きながら叫んでいる。


「んなこと言われてもなあ……」

 引き続きお茶を飲むスォーを両手で抱えて、滑稽な変態を眺めた。


「精霊じゃなくて天使が擬態してるんじゃないか、とか! 実は全部嘘で騙そうとしてるんじゃないか、とか! もしかして敵のスパイかも、とか! 本当の正体は美人なんじゃないか、とか! あれこれ想像膨らませるべきペロ!」


「おかわり要る?」

「いえ、大丈夫です。要るとしても自分で用意しますので……」


「うおおぉい!」


 ペロは小さい体で机の上で大立ち回りだ。


「なんで気になんないペロ! どう考えてもありえないペロ! ボクがキミを騙してたらどうする気ペロ!」


「まあ、その時はその時考えるよ」

「そんな悠長な……」


「正体なんて言い出したら、私だって隠してることあるし。お互い様だから」


 そう言うと、ペロが上げた拳を止める。


「あの時、ペロは私を信じてくれた。後で怒られるのを覚悟でタマハガネ、スォーを渡してくれた。私とあなたは目指す方向が同じ、って理解し合えたんだもの。それで充分よ」


 スォーが窺うような……どこか心配そうな目で振り返るから、私はその頭をそっと撫でてあげた。


「……そう言われたら、これ以上言いにくいペロ……。ずるいペロ」


「ま、正体なんて言いたくなったら言えばいい、ってことにしておきましょ。お互いに」

「……そう、ペロね」

「その変な語尾も、やめたくなったらやめていいよ。キャラ付け滑ってるし」

「滑ってないペロ! 他の皆には好評ペロ!」


 両手を挙げて吼えるペロ。

 くるくる表情が変わって、見てて面白い生き物である。




 それからスォーがお茶を飲み終えるのを待って、私たちは元の世界に戻った。

 まさか自分待ちと思っていなかったらしいスォーはしきりに謝るけれど、「あなたを可愛がるって決めたのは私。私の意思に逆らうの?」と言ったら静かになった。


「申し訳ないと思うのは勝手だけど、今謝罪するのはただの自己満足よ」

 と続けたら涙目になってしまった。

 慌てて、

「うそうそ! 強い言い方してごめんね♪」

 ってフォローしたら、


「……未熟で申し訳ありません……ご指導、ありがとうございます……」

 ってマジ泣きされた。


 そんなスォーをお姫様だっこして元の世界に戻る。


「……主様」

「なあに?」

「今謝るのも、違いますよね?」

「そうね」

「では……ありがとうございます、主様」

 って涙目で微笑まれた。


 笑っちゃうくらい、可愛かった。


「うん、ちゃんとお礼言えて偉い!」

 そうして、二人でしばし、笑い合う。


「……タマハガネとこんな親子みたいな関係築くの、初めて見たペロ……」

「そこはせめて姉妹って言いなさいよ」


 やっぱりこの毛玉は一言余計なのである。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
絶対タマハガネの先代持ち主ペロ
スォーちゃんとイチャイチャラブラブ!?最初からここまでラブラブだと鼻血が出ちゃいます!!ありがとうございます!!
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