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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
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25

 四人の妖眼の設定を書き換える。

 四人とも問題なく、ヒメと同じ状態になったみたいだ。


「あの、ありかとうございました」

 深く頭を下げるのは、下ろした前髪で両目を隠した女の子。


 小さい声で、おどおどしているけれど、物腰は丁寧。


「……どういたしまして」

 そう返すけど、未だに違和感は強い。


 ――最初に妖眼の設定変えた後。目を開けたら知らない人が居て、びっくりした。


 みんなが言うには、彼女は間違いなくアキラ本人らしい。

 今のアキラはいきなり土下座しなそうだし、間違っても大剣の子のことエロももとか呼ばなそうだ。実際『エルちゃん』と呼んでる。


「そりゃ、驚かれるわよね」

 私の反応を見て、エルと呼ばれる子がクスクスと笑う。


「これがアキラの素よ。……あの人格がもう見れないと思うと、少し寂しいかもね」

 ムツキが説明する。


 ――これが素?

 いや、どちらかというとむしろ……


「ん、うぅ……」

 と、そこでヒメが目を開けた。


「ヒメっち」

 アキラが髪で隠れた目でヒメに振り向く。

 呼び方は変わらないらしい。


「……みんな……」

 仲間たちを見渡す。


 次に私を見上げて、僅かに頬を赤くした。

「……王子様」


「……王子様ではないけどね」

「すみません。……つい」


 ――ますます分からない。

 けどまあ、まだ朦朧としてるみたいだし。

 それより、夜ももう遅い。


「さて。それじゃ、用も済んだし。丁度ヒメも起きたし、解散しましょう。変化できなくなったみんなは、私たちが送るから」

 次に、ヒメを見る。

「ヒメ、降りてくれる?」


「え、あ、申し訳ありません……」

 恥ずかしそうにヒメが私の上からどいて、立ち上がった。


「謝らなくて大丈夫よ」

 私も久しぶりに立ち上がる。

「レオたちも、この子たち送るの手伝ってくれる?」


「やらないとライン交換してくれないんでしょ? 頑張りますよ」

「ありがと」


 と、そこでヒメが私の腕にしがみつく。

「? どうし……」



 そのままヒメは、胸を押さえて倒れた。



「ヒメ!」


「貴様! やはり騙したのか!」

 アヤが私に拳を振り上げる。


「やめて、アヤちゃん……」

 ヒメが息も絶え絶えにアヤを止める。

「違うの……。これは、私の体が、ガラクタだから……」


 妖眼が起因なら、胸を押さえているのは不自然だ。

 ――おそらく、妖眼を大幅に調整したことで、ヒメの体に負担が掛かりすぎてしまっているんだろう。


「ヒメ、大丈夫!?」

 しゃがみ込んでヒメの様子を窺う。


「前から、ときどき、ありましたから……。

 いつもなら、じっとしてれば妖眼が治してくれますので……」


 ――そうとは限らない。

 今回は妖力の流れから何まで変更させたのだ。

 実質、別物に作り変えたと言っても良い。


 その変更部分が負担が大きいのかもしれないし、そもそも調整が足りていなかったのかもしれない。


「……ごめん、ヒメ。私の考えが足りなかった」

 ――システムメッセージを信じすぎたんだろう。


「い、いえ……私の体のせいですから。

 夜も遅いですし、放っておいていただいて大丈夫ですので」


「今すぐ再調整する。直接私が全部確認するから、下手すると一晩かかるかもしれない。

 ヒメ、今から親御さんへ連絡できそう? 今夜はここで泊まってもらうつもりだけど」


「これ以上、ご迷惑をおかけするわけには……」

「迷惑なんて1ミリも思ってない。お願い。私に、ヒメを助けさせて」

「そんな、私の方が、お願いする側なのに……」


「私たちはもともとここに泊まるつもりでした。明日の朝早くにシチビが来るから」

 そこでアキラが教えてくれた。

「だからみんな、親には施設で友達と寝泊まりする、って言ってあります」


「なるほど。どこで寝る予定だった?」

「みんなバラバラです。休憩所の仮眠室とか、マッサージ店とか、家具屋の展示品とか」

「じゃあ、みんなも今夜はそうして。もしヒメみたいに具合が悪くなったらすぐに教えてほしい」

「分かりました。……私たちは大丈夫だと思いますけど」


「ペロ」

「はいペロ!」

 いきなり呼ばれてちょっとびっくりした様子のペロ。


「もしレクが起きてたら、帰れなくてごめん、って伝えておいて。

 あと、お父さんお母さんにバレたら、知らない、って言うように」

「分かったペロ」


「ナナとソラとレオと、あとユミさん。今日はありがとう。もう帰って大丈夫」


「いや、私たちも残るよ。妖玉にアクセス中は意識なくなるだろ」

「うん。もし他の子にも異変があった時、人手は多い方が良いでしょう?」


 ナナとソラがそう答えた。


「……ごめん。ありがと、助かる!」

 一瞬考えたけど、思いっきりその言葉に甘えることにした。


「私はトアとライン交換するまで居るつもりだよ」

 とレオ。


「なら、ナナかソラ、教えてあげて?」


「トアが言ったんだよ? 『困った時にお互い助け合うのが、本当の友達だ』って。

 居た方が良いなら、私も付き合う」


 ――一番悩む存在だ。

 なにせ、ホムラ側の陣営なのだから。


 彼女が回復したあと、敵対されたら、ナナとソラだけで止められるか分からない。


 ……でも、敵勢力のはずなのに、ここまで私たちを助けてくれたのは事実なわけで……


「……分かった。そう言ってくれるなら、もう聞き返さない」

「ええ。もちろん」


 私と連絡先を交換したい、という言葉を信じることにした。


「……どうしよう。めっちゃ帰りにくい……」

 困ったようなユミさん。


「良いんじゃない帰って? ユミは別に友達じゃないんだし」

「いやまあそうだけど」

「敵陣営が二人も居たら、みんな安心できないでしょ。さっさと帰れって」

「それ言ったらアンタはそのボスだろ」

「私は、トアの連絡先、って人質があるからいいの」


 レオがユミさんに目配せする。

 それを受けて、ユミさんはポリポリと頭を掻いた。


「……コイツと一晩過ごすのも癪だしなぁ」

「こっちのセリフよ」

「そんじゃみなさん、すんません。お先に失礼します」


 なんて掛け合いをしつつ、ユミさんは一人、モールから去って行った。


 ――おそらく、レオはここの見張り。ユミさんは連絡役として、ホムラに情報を伝える気なんだろう。

 そのやりとりを、さっきの目配せでしたんだと思う。


 だとしても仕方ない。

 今はそんなことより、ヒメが何より優先だ。


「アキラ、一番大きいベッドか布団がある場所教えてくれる?」

 ヒメをお姫様だっこで抱き上げて、アキラに近付く。


「こっちです」


 アキラの後ろについて回廊を進む。


「……申し訳ありません、トア様……」

 熱に浮かされたような、ヒメのうわごと。


 ――王子様を否定したら、トア様になっちゃった……


 ……今は気にしてもしょうがない。

 治ったあとじっくり、話をするとしよう。



   †



 従業員用の通路の先、入り口に『リフレッシュルーム』と書かれた大きな休憩所。その奥にある、仮眠用の個室。

 アキラが開けてくれたドアを通って、中に入った。


「私、今日は休憩所のソファで寝ます。ここにはなるべく誰も入れないようにするので」

 と言ってアキラは仮眠室のドアを閉める。


 ――出て行く瞬間、『がんばれヒメっち』なんて聞こえた気もした。


『別に全然入ってくれて良いけど』

 なんて反論する隙は与えてくれない。


 ともかく。ヒメをベッドに横たえる。

 断続的に、浅い呼吸を繰り返していた。


 途中でお店から拝借したカッターナイフ。そのパッケージを開ける。


「……それは……?」

 ヒメが焦点の合わない目でこちらを見た。


「少しだけ傷を付ける。血を媒介にアクセスするから」

「……血でも、良いんですか?」

「そう。他のみんなは血でアクセスし……」

 そこまで言って、気付いた。


「そうだ! さっきはごめんなさい。あの時は、こんな道具もなかったし、他に手が思い浮かばなくて……。

 大事にしてたなら、本当にごめんなさい」

「そんな、謝られることありません! それに……」


 ヒメは思い出したように唇に手を当てた。

 みるみる顔が真っ赤になっていく。


「……あれが初めてで、本当に、良かったと思ってます」

「そう? 無理してない?」

「無理なんてしてません! ……心からの、本音です」

「なら良いんだけど……」


「……他のみんなは傷だった、っていうのも、良かったと思ってます……」


 パキッ、ガサガサ!


「? ごめん、封を開ける音でよく聞こえなかった」

「いえ、なんでもありません。なんでも……」


 ナイフを取り出す。

 とりあえず、これで準備はできた。

 ベッドの横にしゃがみ込む。


「ちょっとじっとしててね」


 刃先をヒメの額に向ける。

 ヒメは体を縮こまらせて、その先端を見つめていた。


「……あの、トア様」

「ん?」

 ――用件より、様付けの方に『ん?』だけど。とりあえず気にしない。


「本当に、差し支えなければで良いんですが……

 傷じゃなくて、その、先ほどのじゃ、ダメでしょうか……?」


 言われて、ハッ、と気付く。

 人より体の弱いヒメだ。傷の治りが遅いとか、あるのかもしれない。


「そうか。ごめんね、気が回らなくて」

「え? いえ、そんな……」


「確かに。かなりの長時間、傷に触れっぱなしになるもんね。

 ごめんなさい。どうしても私、根がガサツで」


「あ、いや……」

 そこでまたヒメの顔が赤くなった。

「その……私こそ、申し訳ありません。そういうんじゃなくて、私……」


「でも、平気?」

「……は、えっ? は、はい。私は、もちろんですけど……。トア様は、お嫌じゃありませんか?」


「私? 嫌なわけないよ」

 笑ってあげる。

 できるだけ、誤解を与えないように。少しでもヒメが気楽になれるように。


 実際、本音だし。



「こんな可愛い子相手に、むしろ嬉しいくらいだよ」



 ヒメは目を潤ませて、両手で顔を覆った。

「はぅぅ……」

 と小さく呼吸している。


 ――苦しくなってきたみたい。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫です。多分……」


「手、どかすね」


 ゆっくりヒメの手をどかす。

 耳まで真っ赤になっていた。


「途中で異変があったら、私の体を叩いたり揺すって。少しでも辛かったら、我慢なんか絶対しないで。約束よ」


「は、はい……」


 右手でヒメの頬を支えて、左手で少しだけ、抱き寄せる。


 顔を近付けると、ヒメはゆっくり目を閉じた。


 僅かに顎を前に出すヒメ。



 その唇と、二度目の口付け。



 ――ヒメの呼吸が口と鼻に掛かって、少しだけくすぐったい。

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