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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
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24

 いろいろなものが決壊したように泣き続けるヒメ。

 抱き返してあげると、徐々に勢いは弱まって。


 やがて、眠ってしまったようだった。


 ――この子が背負ってきたものは、前世の私すら凌駕するものだったのかもしれない。


 それを、こんな小さな体で運んできたこと、ただひたすらに敬意しかなかった。


 やったことや、やろうとしたことは、無かったことにならないけれど。


(……今くらい、泣いて寝かせてあげたって、許されるでしょう)

 というか、私が許す。




 それはそれとして、さっきからずっと背後に気配を感じる。

 私が妖眼を治した瞬間から感じてたから、それより前からそこに居たのだろう。


 振り返ると、ナナとソラ、それにランスの子と大剣の子。

 二人の聖騎士化は解けて、元の衣装に戻っていた。


「……今の話、本当なのか?」

 ランス少女が尋ねてくる。

「ヒメっちは、助かったのか……?」


 ヒメを抱えたまま、体を反転。

 彼女達の方を向き、大きなクマのぬいぐるみにもたれかかるような体勢になった。


「嘘なんかつかない。今のヒメは、右目だけちょっと特殊だけど、ほとんど普通の人間と同じ状態よ」


 ――と言うけれど、証拠もない。

 証言してくれるはずのヒメも、可愛い寝顔で寝ちゃってるし。


 ヒメが私のこと両腕でがっしり固定してるから、いきなり襲われることはないだろうけど……


 と、次の瞬間、ランスが地面に落ちた。


「よかっ……良かったぁ! ヒメっちの、さっきの悲鳴、マジでもうダメだとおもっ、……うああああああああっ……!」


 堰を切ったようにランスの子は泣き出して、その場で崩れるようにうずくまる。


「ありがとう! ありがとう、ございますっ! 本当に、本当に……」

 言いながら、両手を床に付こうとする。


「ちょ、なにしてるの!? そんなことしなくていいから!」

 びっくりして、思わずヒメが寝てるのに大きな声を出しちゃった。


「アンタは恩人だ! ヒメっちの恩人は私の恩人だ! 本当にありがとう! ヒメっちを助けてくれて、本当に、うぅ……」


「誰か止めてあげて!」


 ソラが前に回って肩を押し上げ、大剣の少女が傍らで膝を付く。


「アキラ、落ち着いて。そう言ってるだけかもしれないでしょ? 妖眼のせい、ってことにして、私たちを騙そうと……」


 そこまで言った大剣の少女の胸ぐらを、アキラと呼ばれた子が凄い勢いで掴み上げた。


「ざっけんな! ヒメっち、叫びながら妖眼をえぐり出したがってただろ! どう見たって、あれは妖眼のせいじゃねえか!」

「だ、だから、そう見せようとした、敵の作戦かもしれないって……」

「なんの作戦だよ! どうやったんだよ! 敵のボスが妖眼抉り捨てるなら放っておきゃ良いだろ! 私らに背中見せたまま、それを治す意味なんかねえだろうが!」


 ――ヒートアップしてるようで、意外と論理的に反論するアキラ。

 根は頭の回転が速い子なのかもしれない。


「すんません。コイツ、髪とふとももに栄養持ってかれて、頭悪いんで……」

 言って、アキラがまた私に頭を下げる。


「アンタね……#」

 青筋立てる大剣の子。


「いや、あなたたちの立場なら、そう警戒するが普通よ。仲良くしてね、お願いだから」

「はい! ありがとうございます!」


 腹の底からの大音声で返事するアキラ。

 ……やりにくいことこの上ない。




 そこでレオがやってきた。

 背中にチャリオットを背負っている。


「……どういう状況、これ?」

 チャリオットを横たえて、戸惑ったようにレオが私たちを見渡した。

「いや、なんとなく声は聞こえてたけど」


「私が勝って、ヒメの妖眼を制御した、って状況よ」

 とりあえず簡単に説明してあげた。


 と、そこにさらにもう一人、着流しの子がやってくる。

 その背中に、ムツキを背負って。


「あれ? 来たの?」

 レオが尋ねた。


「いや、モールからものすごい音したから。

 ムツキちゃんが、絶対行く、って走り出して。

 んで、このまま暴れさせるくらいなら、って連れて来た」


 着流しの子が答えながらムツキを下ろす。


 ムツキはこちらに走って来た。

 ヒメの寝顔を見て、アキラの横で立ち止まる。


「そちらは、お知り合い?」

 レオに着流しの子のことを尋ねる。


「まあ一応仲間」

「初めまして、ユミって言います。ボスがお世話になってるっす」

「いえいえこちらこそ。ご丁寧にどうも」


 頭を下げられて、こちらも礼を返す。


 そこで最後に、副騎士長と呼ばれていた子が、フラフラと今にも堕ちそうな速度で飛んで来た。


「アンジュ! 無理しないで」

 大剣の子が彼女に気付いて回廊まで出迎える。


「いや、無理しない方が無理でしょ。こんなことになって……」


 崩落したモールを振り返って言うアンジュ。


 ――それは、ごめんなさい。

 もうちょっと勝ち方考えないとね……。




 こうして――ほぼ私が天井崩したせいだけど――今回の騒動の当事者全員(被害者側除く)(+ユミさん)が、ぬいぐるみショップに勢揃いした。

 


   †



「姫様……」

 目を覚ましたチャリオットが、ゆっくりと立ち上がった。


 覚束ない足取りでこちらに近付いてくる。

 一歩ごとにパキパキッ、と体中の霜と氷が落ちる音がした。


「アヤ、見てみろよ」

 アキラが視線でヒメを示す。

「こんな穏やかな寝顔のヒメッち、いつぶりだ?」


 アキラとムツキに並んで、チャリオット――アヤも、ヒメをしばらく見下ろしていた。


「……さあ。少なくとも、妖眼を得てから見覚えがない」

「だよなあ」

「ずっと、気を張り詰めておられたからな」


 そんな会話の間に、アンジュと呼ばれた子も近付いてヒメを見る。


「丁度良かった。みんな、聞いて」

 私はこの場の全員、特に妖眼を持ってる子たちに向かって切り出した。

「ソラが言っていた、妖眼を使い続けたら死に至る、という話。あれは、事実だったの。

 ヒメが、そうなりかけたから。

 さっきヒメの妖眼は治したけど、みんなの分はいつ限界が来るか分からない。

 だから、今すぐこの場で、全員分の妖眼を治させて」


「私たちのを、治す? ヒメっちみたいに?」


「そう。ただ、ヒメの妖眼を治して分かったんだけど……。

 妖眼は、普通の妖玉とかなり構造が違う。

 まず、本来居るはずの魂……レオにとってのゼロ、って言えば伝わるでしょう。そういう存在が居ない。

 あと、視神経を通して変化するシステムになってるから、その影響を抑えると二度と変化できなくなる。

 それは、最初に謝っておく」


「変化が、できなくなる……」

 誰かがオウム返しに呟いた。


「変化できる状態だと、いつ死ぬか分からない。

 変化できなくなれば、この世界は変えられない。

 ――土台、はじめから詰んでいたということか」

 チャリオット……アヤが、天井に向かって独り言のように言った。


「変化しなくても、目が見えるようにはなる。

 でも、世界中の人を盲目にする、なんてことは無理になるでしょう。

 まあ、拒否権なんかあげないけど」


 そう宣言すると、みんなが私を見る目が変わる。


「戦って死にたい、って喚かれようが。

 夢を叶えたい、って暴れられようが。

 シチビの方を信じる、って抵抗されようが。

 私は誰一人として、あなたたちの妖眼をこのままにするつもりはない」


「……私たちの夢を摘む、と」

「今あなたが言ったとおりよ。どのみち、詰んでたの」


「そういえば、言われたわね」

 大剣の少女がナナを見た。

「『その明るい未来がまやかしだった』って」


「まあ、まやかされた先輩だからな」

「……国語の点数低そう」

「うるせー」


「いや、それはダメです、ブレイドさん!」


 アキラが両腕を広げて、みんなを後ろに下げさせようとする。


「拒否権なんかあげないってば。ナナ、カミソリ貸してくれる?」

「あいよ」


 横に来たナナからカミソリを受け取る。


「……なんですかそれ?」

 両腕を広げながらアキラが尋ねた。


「妖眼にアクセスするために、ちょっとだけ傷を付けさせてもらう。血を媒介にする必要があるから」

「……さっきヒメっちと、ちゅー、してませんでした?」

「あれは、ヒメが暴れるから。こういうカミソリもなかったし。唾液を媒介にしたの」

「じゃあ、私らはちゅーする必要ない、ってことですか」

「うん。……え? もしかしてキスの方が良い?」


「んなわけねえです!」

 思いっきり首を左右に振られた。

 ――それはそれで、ちょっと傷付く。ちょっとね。


「なあんだ、傷で良いなら言ってくださいよ」

「……だから今言ったけど……」

「ならどうぞどうぞ! ガンガン治しちゃってください!」

「あなた、情緒大丈夫?」

「そりゃもう。ヒメっちの王子様の貞操守れるなら、全然オーケーですよ」


 ――また出た王子様。

 この子たちの中での共通言語なのだろうか?


 女の場合、王子と呼ばず王女になるはず。

 まあ、王子も間違いでは無いんだろうけど……。


「よっしゃ。そんじゃ私から頼んます」

 とアキラが私に近付いてきた。


「……よく、そうあっさり切り替えられるな。

 私はもう、誰を信じていいのか分からない」

 アヤは虚空を見つめながら、苦しそうに吐き捨てる。


「私の切り替えが速いんじゃない。みんなが遅いだけだ。

 なに悩む必要がある?」


「シチビが私たちを使い捨てようとしていた……、それは分かった。

 だったらブレイドも、裏があるのかもしれん」


 しん、と静まりかえるぬいぐるみショップ内。


 はっ、と呼気のようにアキラが笑った。


「なあ、アヤぽん。さっき言ってたろ。ヒメっち、シチビと会ってから、ずっと気を張り詰めてたって」


「……それがどうした」


「ヒメっちは、嫌だったはずなんだ。辛かったはずなんだ。

 シチビの下に付いたのが。妖眼を得たのが。

 ずっと、私たちの……いや、私のせいで、ずっと……

 我慢、させてたんだよ」


「……? 妖眼を得たのは、全員の総意でしょう? なんでアキラだけのせいなのよ」

 と、大剣の少女が聞き返す。


「総意なんかじゃねえ。ヒメっちは、私らに付き合ってくれてただけだ」


 静まりかえるインピュアズたち。


 ――私たちには、正直良く分からない話だ。


「暗目のお姫様は、最後まで目が見えるようになんてならない。目が見えないことを、一つの個性として、明目の王子が受け入れる話じゃねえか。

 だから、ヒメっちが、『目が見えるようになる』なんて話に食いつくわけねーんだよ。

 ……まあ私も、気付いたのついさっきだけど」


「ついさっき?」

「ヒメっちが、ブレイドさん……いや、ブレイド様に、幸せそうに笑ったの見た時に、やっと、気付けたんだよ。

 ああ、私は、間違ってたんだ、って……」


「……そんな、それじゃ、さっきまでの戦いは……」


「私らのために決まってんだろ」


 みんながヒメを見る。

 ヒメはなおも、すぅすぅと気持ちよさそうな寝息を立てて、私のことを離さない。


 そこでアキラは、一人だけ一歩下がって様子を見ていたムツキに振り返った。


「ムツキは、気付いてたんだろ?

『ヒメがやろうとしてることは、暗目のお姫様なら絶対しない』ってヒメっちに言ってるの、盗み聞きしたことある。

 その時は、何言ってんだコイツ、って思ったけど……」


「……ずっと、違和感はあった。『そんなの、ヒメらしくない』って。でもその時、ヒメは世界を見限ったんだ、って思ったの。

 ……それで、私も付いて行こう、って」


 互いに互いを見合う騎士たち。

 誰も、アキラの理論に反論できなそうだった。


「……シチビの話に、真っ先に人柱になったのは私だ。

 あんたたちを引きずり込んで、ヒメっちを後に退かせなくしたのは、私なんだから。

 今度こそ、間違えない」


 言って、私に振り返る。丁度、他の四人に背を向けるように。


 と、そんなアキラの肩を叩く手が一つ。

 大剣の少女だ。


「あなたとヒメちゃんが行くなら私も行く」

「……行くも何も、ブレイド様が言ってるんだから強制だ。これだからエロももは」

「うっさい。委員長、『私』言いまくってるわよ。キャラブレブレすぎ」

「……TPOに合わせられるタイプの新しい二重人格なんだよ、ボクは」


 そこで二人が振り返る。

 その先にいるのはもちろん、アンジュとアヤ。


「……拒否権などない、か……」

「だねえ。二重の意味で」


 アヤとアンジュはそう言って、二人視線を交わらせた。


「すんません。よろしくお願いします、ブレイド様」

 アキラの真っ直ぐな視線。


「……様はやめて」

「分かりました! ブレイド殿下!」


 ――なに? 殿下って?

 今世で人の口から聞いたのは初めてかもしれない。


 色々諦めのため息をついて、カミソリの刃を展開した。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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