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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
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23

Interlude(インタールード) 【ヒメ 2】~



 王子様は現れなかったけど……

 妖魔は現れた。私たち五人の前に。


「私に協力してくれるなら、目が見えるようにしてあげる」

 なんて、使い古された悪役みたいなセリフを言って。


 すぐに、この存在は悪だと直感した。

 けれど、他の皆は、そうではなかったみたい。


『目が見えるようになる』


 その言葉に、取り憑かれてしまったようだった。


 最初に手を挙げたのは、意外にもアキラちゃんだった。

「私が、実験体になる。……もし私が見えなかったら、みんなすぐに逃げて」


 シチビと名乗ったその妖魔も、

「見えなかったら、もちろんこの話はなかったことにしてくれて良いよ」

 と、アキラちゃんを後押しする。




 ――それから、アキラちゃんへの妖眼移植があって。


「……見える。本当に、目が、ちゃんと見える。世界って、こんななんだ……。あはは、あははっ!」

 アキラちゃんは、そう言って笑い出した。


「目が見えるだけじゃない! 力が湧いてくる。こんな重そうな槍も、軽々持てる!

 ヒメっち! 今度は私の番だ!

 私が、助ける番だ!

 やっと……恩返しできる時が来たんだ!」


 それからは、もうこの子たちは止められない。


 一人、また一人と妖眼を埋め込まれる中、私は覚悟を決めた。


 ――みんなが、この妖魔と行く未来を望むなら。

 私も、一緒だ。

 ずっとずっと……


 みんなと、一緒だから。


 ――たとえその先に、破滅しかなかったとしても。


(……破滅しかないなら、私が救えば良い。

 世界を救う、姫と王子に、私がなればいいだけだ)


 私が死んだ後も、みんなが幸せに生きられる……

 そんな世界を、作るんだ。



   †



 シチビさんが私たち五人に頼んできたのは、『拠点を作る』こと。

 各地に散らばるインピュアズを一堂に会し、この世界を制するための、基地を作ることだった。


 その時、ピュアパラたちとの戦闘は不可避。


 ということで、模擬戦で戦闘経験を積むよう言われた。

 お互いがお互いの技の性質を知り、時に成長させ合う。


 三ヶ月もすると、他のインピュアズたちと試合が組まれるようになった。

 ――スポーツ系の部活の遠征みたいに。


 その時知り合ったのが、レオと、彼女率いる0番台の妖玉を持つ人達。通称『ゼロナンバーズ』の五人だった。


 最初は、1対1の団体戦。

 先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の5人ずつ5試合。


 結果は、1勝1分け3敗。

『ゼロナンバーズ』はとにかく、個々の戦闘力がズバ抜けていた。他のインピュアズチームよりも、圧倒的。


 ただ、私たちにも収穫はあった。

 大将戦、私がレオを完封しての一方的な勝利だったこと。

 私の暗目に、レオは為す術なかった。


 他のチームと試合をした時もそう。

 1対1で暗目が破られたことなんて一度も無かった。


 結果は私たちの惨敗だったけど。

『レオが完封負けした』というのは彼女達にとって衝撃だったみたい。


 その次は集団戦。5対5の、なんでもありバトル。

 私と一緒に戦う時だけなれる『聖騎士』のお陰で、みんなは団体戦の時よりずっと善戦してくれてた。


 ――が、集団戦では暗目があまり機能しない。仲間にも当たっちゃう。


 明目メインで戦ったけれど、結果は敗戦。

 最後は私1人と相手4人の構図になって、降参した。


 自分たちの課題と長所が浮き彫りになった、良い試合だった。




 ――思えば、その頃からだ。

 シチビさんが私たち五人を見る目が渋くなってきて。会話や扱いもぞんざいになってきたのは。


(見捨てられるほどの試合じゃなかったはずなのに、なんで?)

 って、ずっと疑問だったけど。


 ――あのインピュアズの言葉で、疑問は氷解した。


(私たち自身が弱いから、じゃなくて。『妖眼の埋め込み方ミスった』って、その時気付いた、ってことね)


 ……それでも。いまさら、後に退けない。


 彼女らの言う言葉は、嘘か勘違いで。

 シチビさんに雑に扱われてる、っていうのも私の自意識過剰なだけ。


 そう、信じるしか、無いんだから。


 

   †



(……いやだなあ)


 こういう、過去のことを連続で思い出すの、走馬灯って言うんだよね。

 人が死ぬ間際に思い出す、って言われてる。


(私、死ぬんだ)


 まだ、なにも成し遂げられてないのに。

 まだ、世界を変えられてないのに。


 ――このままじゃ、みんながまた、暗い世界に逆戻りしちゃう……


 死ぬ前に、それだけは、私がなんとかしなきゃダメなのに……



 

 と、思ったところで、気付く。


(……なんか、口が、柔らかい。暖かくて、ちょっと気持ちいい……)


 目を開く。

 まず、開けられたこと自体に驚いた。


 てっきり死んだと思ったのに、普通に意識がある。

 右目の痛みも消えてる。

 お腹はまだジンジンするけど。


 次に、状況にびっくりだった。


 ――ちゅー、されてる……?


(……どういうこと?)


 戸惑っていると、その人が顔を離した。

 トアさんだった。


「良かった! 間に合って……」

 トアさんは、涙目で笑って。

 その後、安心しきったように、脱力して私に覆い被さってきた。


「なっ……え、なにが……?」


 私が呟くと、またトアさんは体を起こした。勢い良く私の両肩に手を置く。忙しい人だ。


「ヒメの妖眼は、私の支配下に置いた。妖力の流れを調整して、視神経や脳のダメージがなくなるよう設定してきたの。

 だからもう、大丈夫よ」


 ――大丈夫? なにが?

 私が大丈夫だったことなんて、人生で一度も無いけど。


「妖眼が原因で死ぬことは無くなった。

 でも、妖力の流れを制限したおかげで、もう変化はできないはず」


 ――変化できない? でも、今、目が見えてるけど……?


「システムが言うには、妖眼はヒメの悪いところを治したり強化してるみたい。

 その機能が変化と結びつけられてたから、それは切ってある。

 だから変化できなくなっても、目は見えるし歩いたり立ったりできるよ。普段からね」


 自分の体を見下ろす。


 ――お気に入りの、ワンピースドレス。こんな色だったんだ……

 形的に、間違いないはずだけど。

 どこか違うものみたいに、脳が錯覚しちゃいそうだった。


「その目のまま普通に生きるのは難しいと思って、妖眼の見た目を変えるように指示したけど……。まだちょっと、違和感あるね。また今度、変えさせるから」


 ――普通に、生きる……?

 無理だ、だって、私は……


「わたしは、もうすぐ、しんじゃうのに……」

「死なないよ」


 即座の断言。


「要約すると、妖眼の悪いところは全部設定切って、良いところだけ残した、ってこと。

 ……あなたを死なせる原因は、全部、治ってる。もちろん、目もね。

 妖眼のおかげっていうのが癪だけど。今の私の力じゃ、そこまでの治癒はできない。だからこの際、使えるものは使わせてもらいましょう」


 体も目も、全部治っている……?

 

 ――それじゃ、私は……

「……まだ生きてて、良いの?」


「当たり前よ!」

 力強くそう言って、私に笑いかけるトアさんが。


 美しくて、可愛らしくて、

 ――格好良い。


 ただただ、そんな彼女に、見入ってしまった。


(……ああ、なんで、気付かなかったんだろう)


 キスで女の子を救う存在なんて、昔から決まっているのに。


(この人が、私の……)



「……王子様……」



 ――まさか、こんな可愛い王子様だったなんて。

 予想外だったけど、これはこれで、とても嬉しい。


「……王子様?」


「あなたを、傷付けたのに。

 あなたを、殺そうと思ったのに。

 それでもあなたは、私を、救ってくれんですね……」


「言ってるでしょ? あなたたちを罪に問う気なんて、最初からない」


「そう、でしたね。本当に、私、バカみたい……。

 ……王子様。

 ずっとずっと、お会いしたかったです……!」


「……その、王子様、ってなに……?」


 なんて尋ねる王子様の姿が歪む。

 気付けば涙が、溢れて。


 しがみつくように……もう、手放さないように、抱き縋る。


 そんな私を、トア様は優しく、抱き返してくれた。

 それが嬉しくて、暖かくて、心地良くて。


 夢のような幸せが、全身を包んでくれてるみたいだった。

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