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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
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21

 鼓膜が裂けそうな轟音を上げて、天井が崩落する。

 戦ってた皆も、声を掛け合いながら避難しはじめた。


「……やって、くれましたね」

 ヒメのそんな声が聞こえた気がする。


 落ちてくる瓦礫に紛れて、ヒメに近付く。


 この状況なら、ヒメは目視で瓦礫や私を見なければいけない。


 目が開いてる状態なら、明目なのか暗目なのか判断付く。

 事前に明目か暗目か分かるから、もし見られてもそんなに怖くない。


 が、この時間は決して長くない。

 ――瓦礫が落ちきる前に、決着を付ける。

 

 瓦礫から瓦礫への移動中、暗目が私を捉えた。

 すぐに加速して、衝撃を回避。


 再び私を見失ったヒメに、瓦礫を蹴って接近する。


「くっ!」


 私を見るのを諦め、ヒメは南に向かって加速した。

 瓦礫が振ってこない場所まで逃げようとしてるのだろう。


 思考の切り替えが早い。


 ――でも、残念。


 もともとの速度は私の方が早いし。

 障害物がある場所を飛ぶのも、私の方が慣れている。


 ヒメに追い付く。

 私の薙刀が届く距離まで。


 気付いたヒメが振り返って、暗目。

 それを回避すると、音に頼れないヒメは、また私を見失う。


「誰か……誰か助けて! アヤちゃん、アンジュ、アキラちゃん、エルちゃん……ムツキちゃぁん!」


 ヒメの、悲鳴のような叫び。

 ――小さい子の悲痛な声は、やっぱり、心が痛い。


「……とはいえ、あなたがやろうとしてることを、止めないわけにはいかないのよ」


 自分に言い聞かすように、呟いて。


 こちらに気付いて振り返ったヒメの、その胴体を撃ち付けた。


「うわああっ!!」

 涙の線を引きながら、ヒメの体はぬいぐるみショップの中に吹き飛んでいった。


 ――落ちる瓦礫が直撃しない場所。もちろん、狙って飛ばした。


 とか言って自分が瓦礫に当たったら世話ない。

 回避しながら、ヒメの方へ向かう。




(まだ瓦礫の音が鳴り響いてるうちに、追撃を……)

 と思ってぬいぐるみショップを覗く。


「あ、う、ひぐ、痛い、いたいぃ……」

 ヒメはお腹を押さえて、蹲っていた。


(……そんなにダメージあるわけない。演技よね)


 衣装の上からだったし、必殺技も乗っていない。

 ――でも、溢す涙は、とても演技と思えないくらい迫真のものだった。


 と、そこでバッと顔を上げたヒメと、目が合う。

(しまった!? やっぱり不意打ち狙い……)


 急いで壁裏に隠れる。けれど、ヒメ相手にはすでに間に合わない……


 ……はずだったが、暗目も明目も飛んでこなかった。


「いやあああ!」


 瓦礫の音にも負けない悲鳴が聞こえただけ。

 次いで、ヒメのいた方向からぬいぐるみが投げられてくる。

 どうやらここはクマのぬいぐるみの専門店らしい。


「くるな、くるなぁ!」

 震える涙声でヒメが叫ぶ。


(……取り乱してる。あのヒメが……)

(主様。もしやヒメは、防御が弱いのでは……)


 スォーに言われて……

 心当たりが、あった。


 一撃目だ。同じく必殺技が乗っていない攻撃にもかかわらず、ヒメは大きく吹き飛んで、しばらく姿を現さなかった。


 ――副騎士長の完全治癒の妖術があるまで。


(……必殺技が強力な分、防御が薄い、ってことなのかな……)


 防御分の妖力を技にあてがったと考えれば、確かに、あの性能もギリギリ理解でき……

 いや、やっぱできない。だとしても飛び抜けすぎてる。


 とはいえだけど、そう考えるのが一番自然な気がした。


 ぐす、ぐす、とぐずる声。


 再び壁から姿を出してみるけれど、やはり攻撃は来ず。

 その代わり、クマのぬいぐるみが投げつけられる。


「いやだ、いやだ! 誰か、誰かぁ……」

 蹲って、本格的に泣き始めてしまう。

「どうして、誰も、助けに来てくれないのぉ……」


 ――戸惑う、というレベルじゃない。

 さっき話したヒメと別人なんじゃないか、と思う。

 完全に、何がどうなってるのか分からない。


 ヒメの涙に、思わずもらい泣きしちゃいそうだ。

 それくらい、今のヒメはか弱くて、年相応だった。


 本人が痛みに弱いから、その傾向が変化後の能力に反映されている……のかもしれない。




 瓦礫の音が止んでくる。

 照明が無くなったモールは、穴から降り注ぐ月明かりだけになった。

 ショップ内の照明はまだ生きているけれど。


 ――なにはともあれ、ヒメに近付く。


 すると私の足音を聞いて、またヒメが泣き出した。

「いや、いやです、いたいこと、しないでください……、おねがいですから、あやまりますから……なんでもしますから……」


「大丈夫。ヒメが攻撃してこないなら、私も痛いことなんてしないから」

「ほんとう……?」


 ヒメの前で膝を付く。

 大粒の涙を流しながら、ヒメは私を見上げる。


 ――あまりに隙だらけ。

 騙そうとしている可能性は、もはや考えなくていいだろう。


「その代わり、他の人を全員盲目にするの、やめて」


 ヒメは泣きながら、唇をぎゅっ、と強く噛み締める。

 堪えるように。

 ……勇気を、振り絞るように。

 痛いことをされても、言わなければならないことが、あるかのように。


「でも、それをやめたら、みんなが……みんなが、またひどいことされる! また、いじめられちゃう!

 それは、それだけは……

 わたしを、いっぱいまもってくれた、みんなだけは!

 こんどはわたしが、まもるんだ!」


「……みんな、いじめられたの?」


「『目が見えないくせに、普通の学校に来るな』って。

 『私はあなたたちの召使いじゃない』っていわれた、って……

 かいごなんて、たのんでないのに!」


 ヒメの涙がさらに増える。


「せんせいも!

『やっぱり普通の学校は難しいのかもしれない』とか!

 さいしょは、いい、っていったくせに……

 さべつしないがっこうだから、って、いってたくせに。うそばっかりだ!」


 ――後悔する。

 ひたすらに、猛省しかない。


 安易に『今が一番生きやすいはず』とか言った自分を、殺してやりたい。


「……ごめんなさい。軽々しく色々言って、本当に」


 思わず、本当に涙が出てきた。

 ヒメの言葉が、あまりにも、心に響きすぎて。


 そっと、ヒメの手の甲に触れる。


「約束する。あなたも、あなたの友達も。

 全員、私が守る。

 ……だから、お願い。もう……」


 私の手を、ヒメは振り払った。

 勢い余って、後ろの大きなクマに寄りかかるくらいに。


「うそだ! もうだれもしんじない!

 どうせ、みんなわるいやつなんだ。

 だったらせめて、シチビさんにかけるしかないんだ!」


 ヒメの妖眼に光が戻ってきた。

 ――痛みが治まってきたのか、心なしか、左目にも段々理性が灯ってきたように見える。


「ヒメ! 信じて! 私は、絶対あなたを裏切らない!

 私は、ここに来る前、『今行かなくちゃいけない』って強く思ったの! 妹が心配して止めるのも振り切って。

 それはきっと、ヒメたちを助けられるのが今だけだ、って直感してたんだよ!」


「綺麗事ばっかりだ! どいつもこいつも!

 耳触りの良いこと言うヤツは、どうせ裏切るかいなくなる、って

もう分かってるんだから!」


「ヒメ……」


 ヒメの左目に昏い魔法陣が灯る。


 ――この距離と狭い店内。もう、避けられない……



「暗目。――我が目に映る(ブリンク・ブランク)物は……(・ブラ……)


 

 目を閉じて、衝撃に備えるけれど……

 詠唱は途中で止まり、私も特になんともない。


 再び目を開くと、ヒメはクマのぬいぐるみのお腹の上で、自分の右目を押さえていた。


「あ……あ? なに、これ……い、痛い? いたい、いた、い、いた……い……」


「……ヒメ?」


 明らかに尋常じゃない。

 両目を見開いて、体をピンッと伸ばしてる。


「あ、いやだ……いたい、いたい、いやあああああああああああああああ!」

「ヒメ!」


 暴れ出すヒメを、反射的に押さえる。


 さっきまでの、胴体の痛みに呻いていたのとは違う。

 妖玉が自爆する時とも異なる。


(……もしかして)


 さっきソラが言っていた。

『妖眼は、何度か使うと視神経と脳に大きな負荷を与える』

『そのまま所有者が死に至ったら……』


「あ、ああ、あああああああ!」


 絶叫しながら、ヒメの変化が解けた。

 最初に会った時の、ライトブルーのワンピースドレス。


 その恰好のまま、バタバタとさらに暴れ出す。


 ヒメは妖眼に指を入れて、表面を爪で削るように掻いている。

 ――まるで、妖眼をえぐり出したいように。


 このままだと、指を奥まで突き入れて掻き出そうとするかもしれない。


「ダメ! 取り出したら確実に死んじゃう!」


 私は、なんとかその両腕を掴んで押さえる。

 ヒメはそんな私のお腹を蹴って、手を振り回して、喉が壊れそうなくらい絶叫を吐き出し続けていた。


(スォー、妖眼にアクセスするよ!)

(はっ!)


 ――が、ヒメはどこにそんな力があるのか、ってくらい、ものすごい力で暴れ続けている。


「ヒメ、少しで良いから、大人しくして……」


 なんとかしてヒメの額か、せめて頬あたりに傷を付けたい。

 けれど、今手元にある刃物は薙刀だけ。

 この状態のヒメに、こんなもので傷を付けようとしたら、最悪どこに刺さるか分かったものじゃない。


 けれど、もたもたしてる猶予もない。

 次の瞬間には、ヒメが死んでしまうかもしれないのに……!


(考えろ私、なんとか妖玉にアクセスする方法を……)


 ――妖玉にアクセスするには、魔力を介して、私の魂を彼女に入れる必要がある。


 魔力は、基本的に体液を用いて移動させられる。

 だけど今、血液を介するのは現実的じゃない。


 と、すれば……


 ――ある。今回の妖眼は心臓じゃなくて、目なんだから。


(目の近くには、そもそも傷なんかつけなくてアクセスできる場所がある!)


 ――ただ、唯一懸念があるとするならば。

 ナナとソラにした時もそうだったけど……


 これが初めてだったら、申し訳ない。


 けれど、そんなこと言ってる場合でもない。


 逡巡は一瞬。

 私は暴れるヒメの頭を両手で固定して。


 彼女の唇を、自分の唇で、奪った。

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おりゃー! 魔王様のキッスを喰らえー!!
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