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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
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Interlude(インタールード) 【レオ】~



 ナナちゃんはエル相手につかず離れずを保っている。


 初戦は勝った相手のはずだけど、そこはヒメの聖騎士化。

 かなり一方的な防戦を強いられている。

 トアを庇った時は不意を突けたけれど、今は逸らさせてくれないだろう。


 さっきの外での会話からも、瞬間火力に乏しいらしいし。

 聖騎士となり、破壊力だけはこの場でトップクラスになったエルの大剣は、かなり相性が悪そうだ。


 ソラちゃんは、ナナちゃんよりは善戦してる。

 が、妖力保有量に不安があるソラちゃん。いつまで炎をまといながら戦えるか。

 かといって、短期決着付けようにも大技は放てない。


 アキラの直進速度は最早トアの域に達しつつある。

 万が一、あの花火みたいな技を外したら、変化も解けて一瞬で負けるだけだ。

 ソラちゃんも分かってるんだろう。苦しそうに歯を食いしばるのが見える。




「はぁ、はぁ……」


 んで。

 私の相手のアヤ――チャリオットは、かなり疲労困憊ひろうこんぱいの様子。


「だいじょぶ? 妖力分けてあげようか?」

「……ふざけるな」

「確かに。手袋持ってきてないから、キスするしかなかったわ」

「……それも嫌だが、そういう意味ではない」


 懲りずに突進してくる。


 ――チャリオットは多分、対集団戦用の駒なんだろう。

 その質量で、大勢を踏み潰しながら走るのが本領のはず。


 1対1をするなら、本人も武器を持たないと。

 さすがにガントレットで殴るだけじゃ、ねえ。


「トアみたいに近接戦専門なら、辛いかもしれないけど」


 あいにく私は、こんなもん真っ向から当たってあげない。


 チャリオットを上に飛んで避ける。

 と同時に、真下に氷剣ひけんを振るった。


 凍気の煙。

 チャリオットはそこに突っ込んで行き――

 反対から出てくる頃には、鉄の鎧も、アヤの髪や服も、霜にまとわりつかれて凍っていた。


 馬が苦しそうに鳴く。

「くっ……」

 アヤ本人も、そのイケメン顔を歪めてる。


 ――涼舞すずまい鈴瞞すずまか

 

『煙』の秘氷剣。一定時間凍気のトラップを置く技だ。

 周囲にはすでに10以上設置してある。


 妖力の燃費も良いし、なによりチャリオットと相性が良い。

 このままなら、いずれ倒せるだろう……けど。


「はぁ、はぁ……」

「く、うぅ……」


 ナナちゃんとソラちゃんが、そろそろ限界だ。

 初戦の疲労も残ってるだろうし、無理もない。


「どうした! さっきは遠慮無く打ち上げてくれたくせに! あの花火はもう撃たねえのかよ!」

「悪いわね。見逃してもらった恩はあるけど。だからって見逃し返してあげられない」


 一方、体力も回復してるエルとアキラは元気いっぱいだ。


(うーん……。リトルウィッチィズは一応敵だし、あんまり手の内見せたくなかったんだけどなあ)


 ――でも、ナナちゃんソラちゃんを見捨てたら、トアに恨まれそう。ついでにユミにも。


 ……なにより、私が見捨てたくない。


 二人はとても、将来有望だ。

 絶望から這い上がった実績もある。

 こんなところで潰えて良い子たちじゃない。


 ――ちゅーするところも見せてもらったし。


 そもそも敵味方で言えば、チャリオットは本来味方だしね。


「ま、いっか」

 なんとかなるでしょ。


「聖騎士のいさおを戴いておきながら、簡単に負けるわけにはいかんのだ!」

 チャリオットの咆哮。


「ああ、ごめん。簡単に負かすわ」


 チャリオットの突進。

 これまでより、なんか気迫とか妖力とか込められてる……気がする。

 けどまあ、五十歩百歩。大差ない。


 ――私を突進で倒したければ、せめてトアの倍は速くないと。



とぐろけ。――秘氷剣、戯恋じゃれんれんじゃ――」



 チャリオットに向かって刀を空振る。

 まだまだ距離は遠く、もちろん刀身は届かない。

 でも、この技はそれでいい。


 そのままチャリオットを回避。

 翻って追ってくるけど、それも難なく躱す。


「くっ……」


 武器が馬である以上、三度も四度も追撃するのは難しいようで、チャリオットはそのまま距離を空けた。


 と、そこで急に馬が前足を折る。


「どうした!?」

 アヤが驚いて尋ねた。


 馬はなんとか立ち上がろうと、足をプルプルさせて力弱く鳴く。


「何をし……くっ!?」


 そこで、アヤも気付く。

 全身を這い上る、絶対零度の冷気に。


「鉄の鎧は冷気を良く通してくれるわ。

 一度凍らせれば、冷気の触媒にもなってくれるし。

 パージした方が良いんじゃない? できるか知らないけど」


 今頃、鎧に触れている場所の体温が奪われ続けているだろう。


 その熱は私の『塒』が奪い、それを栄養に冷気を生成し続ける。


 投げつけた先の熱を全て奪うまで止まないのが、『塒』。

 私も見えないし触れられないけど、多分大きな蛇のような形をしている……気がする。多分。おそらく。


 馬やアヤの表面を這いずり回り、ひたすらに熱を貪り喰らう。


 これも、効果時間のわりに燃費が良い。

 格下相手には、便利な技だ。


「剥がれろ!」


 鎧が一斉に外れた。

 ガランガラン、と大きな音を立てて、馬とチャリオット本人の素肌が露わになる。


 ――が、『塒』はそれでも彼女達から熱を奪うのをやめない。


「残念。パージしても無駄でした♪」


「どうなってる!? なにか、なにかが……いるのか?」

「さあ。私も分かんない」

「なんだと!?」

「なにかは居ると思う。でも生き物ではない気するわ。私の妖力から生まれた何かなんだろうけど、良く分かんない」


「なんだ、それは……」

「でも、私らの技ってそんなものじゃない? そもそも妖力がなんなのか未だに良く分かってないし」


「こんな、ところで……」

 チャリオットの唇が紫色になってくる。


 霜が首筋まで昇り、妖眼から光が消えていく。


「……一日で二敗、か……。

 一体、なんなんだ。貴様も、ブレイドも、理不尽すぎる……」


「少なくとも、私とは相性でしょう。

 逆にトアはあなたに苦戦したはず。近接戦専門っぽいし。

 ……と思ってたんだけど、それでもあなたが負けたのね……。本当トア、バケモノ過ぎて好き」


「情けない……。

 姫様に次ぐ戦力を持ってるはずなのに……。

 騎士長の座を戴いた、のに……この為体ていたらく


 霜は頬を染め、口と目に及ぼうとしている。


「降参って言えば解除してあげるけど?」

「……姫様、私は……」

「聞いてる? もしもーし」

「……いつまでも、愛して、おります……」

「あ、これ聞こえてない?」


「――先に、逝って参ります。いらっしゃった時は、私が、お迎えに……」


「ちょ、バカ死ぬな! 死んだら私がトアに殺されちゃう! 解除解除!」


『塒』が消える。

 

 馬が倒れた。

 チャリオットは覚束ない足取りで、吹き抜け……ヒメがいる方に歩き出す。

 一歩、二歩……三歩目で、力尽きたように倒れた。


 慌てて駆け寄る。

 とりあえずは、スゥスゥ、と規則正しく呼吸してる。


 意識はまだあるらしく、変化は解けてない。

 倒れた衝撃で霜や氷も剥がれたし、ひとまずは大丈夫だろう。


 ――ソラちゃんの火で暖めてもらおう。

 そう考えて、すぐにナナちゃんとソラちゃんの方を見た。



   †



「もらったぁ!」

 アキラの突き。


 ソラちゃんの反応が一瞬、遅れた。


 ――当たる。 

(私がいなかったら)


 アキラの前に出て、刀でランスを受け止めた。


「なにぃっ!?」

「レオ……」


 弾き飛ばす。


「うおおっ!」

 蹈鞴たたらを踏んでアキラが後退していく。


「ソラちゃん大丈夫?」

 振り返らずに問い掛けた。


「……まだ、全然平気よ」

 掠れた、全然平気じゃなさそうな声で言う。

 いじっぱり可愛い。


「なら邪魔しちゃったわね。ごめんなさい」

「別に、謝るようなことじゃないけど」

「実はお願いがあって」

「なに、こんな時に……」


「あっちの子、暖めてあげて欲しいの。やりすぎちゃって」


 ソラちゃんの視線がアヤに向く。

「……えっ?」

 信じられないものを見たかのように、ソラちゃんが固まった。


「こっちは私が見とくから。お願い」


「アヤぽん!? おい、嘘だろ……?」

 アキラも同様にアヤを見て叫ぶ。


「アヤ!」

 ナナちゃんとの戦いを切り上げて、エルがアヤの元へ飛んでいった。


「……『私たち時間稼ぎ要員が耐えてる間にトアに勝ってもらおう』作戦だったんじゃねえのか? なに普通に勝ってんだよ」


 ナナちゃんが少し離れたところから抗議じみて言ってくる。


「あれは二人に言っただけ。勝つのが一番時間稼げるでしょ?」

「技撃つ妖力残ってるのか?」

「いや、流石にもうないわ」


『煙』と『塒』どっちも燃費良いとはいえ、二発撃っちゃったし。ユミからもらった妖力はもう尽きている。


「だったら無理すんな。あとは私らがやる」

「いやでも、この二人なら素で余裕よ」


 そう答えると、エルとアキラの目の色が変わった。

「……おい、今なんつった?」


 アキラが大股で一歩、私に歩いてくる。


「アキラとエルなら、聖騎士? だろうがなんだろうが、妖力0でも余裕、って言った。

 所詮、ヒラの騎士だもん。アヤやアンジュは技使わないときついけど」


「言ってくれるわね」

「上等だエロサラシ。その下のさらに下まで抉ってやるよ」


「どこ見てんの、えっち」


「……それは隠さない方が悪いだろ」

 ナナちゃんが小声でツッコんだ。


 ――それにしても、意外だ。

 この二人自身が実力差を理解できないのはまだしも、アヤとかアンジュあたりがこの二人に教えてあげてないのが。


(とりあえず、殺しちゃわないように注意しないと)

 こういうとき、いつも困る。

 かすり傷くらいは負う可能性がある相手が、一番手加減しづらいから。


 そう考えながら刀を構えた……



 瞬間。



 立ってられないくらいの地震。

 太鼓の中に放り込まれたかのような、衝撃と轟音。


 上を見ると、モール北側の天井が、全部崩れ落ちてきた。


 その中心では、トアが薙刀で天井を攻撃しているのが見える。


「トア、何してんの!?」


 そんな叫びは、瓦礫と地鳴りで掻き消えてしまう。


 ナナちゃんとソラちゃんの無事が最優先! 二人と合流して、避難することにした。

 ――あ、アヤも連れてかないと!

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