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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
60/77

19

(なにが……!?)

 なんて思考はすぐ捨てて、咄嗟に体を捻って躱す。


 が、完全には間に合わず。

 右脇の下、あばらの上を服ごと斬られた。


 斬った勢いでヒメはそのまま私の背後に抜けて、弧を描いて滑空。


「なんか、えっちな恰好になっちゃいましたね」

 私を見下ろしてヒメが言う。


「今の……」


 返事を遮るように、またヒメの左目が光る。

 嫌な予感がして右に動いた瞬間、左肩を斬られた。


 またもや、ヒメは背後に去って行く。


(……速いとかいうレベルじゃない。これは……)


 空間移動。

 そうとしか思えない。


 ――ありえない。現代の人間が、空間移動の妖術なんて。


 これまで見たヒメの能力は3つ。


 1つめは、視界内のものを拒絶する衝撃波。

 2つめは、自身や仲間を強化する光。

 そして3つめは、視界内のものに密着する空間移動――。


 まず、1つめの時点で異常すぎる。

 2つめは、1つめほどじゃないけどまあ強力だ。

 が、それに加えて3つめを扱えるのは、流石に意味が分からない。


 この子はちょっと、天才が過ぎる。


「……なんでこれも避けられるんです? 天才ですか、あなた」

 天才な彼女は、不服そうに頬を膨らませて私に振り返った。


 今はその目を閉じて。


「あなたほどじゃないけどね」


 ――攻撃が軽いから、まだ助かってる。

 あれがランスや大剣だったら、この程度の傷じゃ済んでない。


 ヒメの妖力を纏ってはいるけれど、剣自体は軽そうだ。

 とはいえ、急所を貫く威力はある。空間移動があるから、それで充分という計算なんだろう。

 ……実際、充分だと思う。


「なら、お得意の読み合いといきましょうか」

「読み合い?」


 ヒメが目を開く。

 左目が輝いて、また急接近。


 回避も防御もしきれず、右ふとももから血が吹き出す。

 三度、ヒメは私の背後へ去って行く。


(落ち着け。この三発を見るに、術理は暗目と同じ。

 視界内の対象物への、直線的な空間移動。だから、背後に現れることはない……!)



 ――ということは、事前にそこを攻撃すれば、当たるはず。


 ヒメが四度、目を開く。

 私は薙刀を構えて――



「暗目。――我が目に映る(ブリンク・ブランク)物は無し(・ブラインド)――」



 ――開かれた左目には、昏い魔法陣が描かれていた。


「うわぁっ!?」


 衝撃に、床に叩き付けられた。

 右脇下、左肩、右ふとももの傷口が衝撃で広がって、また血を大量に溢す。


「さあ、はじめましょう。今度の読み合いは、負けませんから」


 吹き抜けにエコーするヒメの宣戦布告。

 見上げると、ヒメは目を閉じつつも、私の方を真っ直ぐ見下ろしていた。


 ――明目か暗目かの読み合い……


 床から離れて、私も空中へ。


 ……ヒメの瞼が、開く。


 とにかく右に移動。

 が、光る左目のヒメに、掬われるように右足首を斬られた。


「くっ!?」


 空中を一回転させられる。

 なんとか姿勢制御。


 ヒメはまた目を閉じて、私に次を読ませない。


 ――明目は、見てから回避が間に合わない。

 移動すれば致命傷は避けられるけれど、ダメージは確実に負ってしまう。


 そしてそのダメージは、暗目を受けるとより深手に変わる。

 今も右脇下と左肩、右ふとももは、治癒が間に合わず血を流し続けている。


 ――攻撃を当てるために留まったら、暗目が避けられない。

 ――深手を避けるために移動したら、明目が避けられない。


 この読み合い、私が不利過ぎない?

 考えれば考えるほど、泣きたくなってきた。


(……それでも、なんとかかいくぐって、勝機を見出すしかないんだけど)

(主様。私に案が)

(お?)


 ――それからのスォーの案は、とてもシンプルで。

 絶対に有効だ、と確信を持てた。


(流石私のスォー。それでいきましょう!)

(お役に立てて光栄です)

(終わったらなんでもお礼してあげる。考えといて)

(お礼など不要でございます。主様なら、私が言わなくてもすぐに思い至ったでしょうから)

(私が思い付く前に言えたスォーは偉くて凄くて可愛いの)

(……可愛くはないかと)

(じゃあ命令。物理的かつ具体的にして欲しいこと考えて、後でちゃんと言いなさい)

(命とあらば。御意に)



   †



 それから、5回ほど読み合いを繰り返す。


 暗目4回、明目1回。

 ヒメはとにかく暗目の頻度を増やしてきた。

 明目に反撃されるのが一番の負け筋だからだろう。


 一方、私はそれに対して全部移動で対応。


 それに業を煮やしたか、明目は最後の一回だけ。

 左の首筋を斬られた。大きな血管は避けられたようで、出血は少なめ。


「…………」

 ヒメの表情には余裕がない。

 多分、私の考えが分からないから。


 当たり前だけど、私が勝つためには、一回でも攻撃を当てなければいけない。

 暗目は威力がそこまで高くないから、それを捨てて明目に反撃するのが普通だろう。


 だから、回避に専念してる私の意図が、読めないのだ。


 ――やはりその辺は経験不足。

 疑問や不安が、露骨に表情に出てしまっている。


 もちろん、私はスォーの作戦を成功させるために、そうしている。


 そして、その下準備は、すでに整った。


「逃げてばかりで、なんのつもりです? 『明目を撃った方が得』と私にすり込ませるためですか?」

「さあ、どうかな?」

「……まあ、敵に教えるわけありませんか」


 ヒメが直剣を構える。


「もう真上は天井。逃げ道は少ない……。

 ……だからこその、こっちです!」


 ヒメが目を開く。

 私は薙刀を構えて、迎え撃つ――仕草。


 ヒメの左目に浮かんでいたのは、魔法陣。


 私の体は一瞬で天井に叩き付けられた。

 全身の傷口が開いて、血が天井を放射状に塗りつける。


「ですよね? ふふっ、その手には乗りませんよ」


 久しぶりに笑顔を見せるヒメ。……この期に及んでも可愛いのがズルい。


 ――正念場だと思った読み合い、それを当てた喜びが。


 私とスォーの計算通りだからこそ、余計に愛くるしい。


 目を閉じるヒメ。

 暗目の効力も切れる。


 暗目は自身や仲間にも影響があるのだろう。

 そうでなければ、暗目を当てられたあと追撃されて終わってる。


 ――シチビから『ロイヤル』の名を与えられたヒメだ。


 高貴の姫として君臨しつつ、集団戦を統べる彼女の技は、撃破より制圧に重きを置いている。

 倒した相手を自分の仲間に取り込むためだろう。


 だから暗目も明目も、相手に絶望を与える性能であり、破壊力は低い。


 ――でも、残念。他の人ならともかく。

(この私を、倒すんじゃなく絶望させようとしたのが、そもそもの間違いよ)


 だからヒメは、自分ではなく、チャリオットを私にあてがうべきだった。

 読み合い以前の、戦術ミス。

 それが、ヒメの敗因だ。



はばたけ。――恣肆の却法(フォース・ブレット)――」



 私の四撃目の名は、スォーとエリンが念話で教えてくれた。


「えっ?」

 ヒメが笑みをやめる。


 4本目の核羽が砕けて、薙刀を黒光が覆う。


「この距離で? まさか、遠距離技……?」

 身構えるヒメ。


 私は薙刀を振りかぶって……

 ぐるりと、180度旋回。


「しまっ……」

 ヒメの愕然とした声。


 ――いまさら気付いても、もう遅い。 


「はああっ!」


 真上の天井を、斬り砕いた。



   †



 スォーの案はこうだ。


(最初の暗目は、瓦礫に隠れたことで効力を失いました。

 それにより、『直接見られなければ効力は無い』ことが判明したわけです。

 ここまで見る限り、明目も同じ仕組みでしょう。

 ですので、最初と同じ状況を作り出すのはいかがでしょうか)


(……瓦礫で、ヒメの視界を塞ぐ?)


(瓦礫が崩れる音で、聴覚も機能しづらくなるはず。

 問題は、視界を塞ぐほどの瓦礫をどう捻出するかですが……。

 天井の下におびき寄せ、それを破壊してはどうでしょう)


(そうか。それなら、瓦礫に隠れながら接近できるし……

 外から空気も入り込んで、さらに聴覚を妨害できる)


(懸念は、ヒメがかなりさといこと。なんとか悟られずに、良い位置におびき寄せる必要がございます)


(オーケー、その辺は任せて。私がなんとかする)


(お願いします)


(流石私のスォー。それでいきましょう!)




 ――可愛いし、美人さんだし、賢いし、私を慕ってくれるし、武器のセンスも良いし、可愛いし。

 やっぱり、私のスォーが最高のタマハガネなのよね。

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