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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
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18

「……ここにきて援軍か。副騎士長のお陰でいけそうだったのに……なにもかも、上手くいかねえな」

 炎柱を回避しきった後、ヒメの近くに寄ったランス少女が愚痴った。


「そもそも私たち、生まれた時から上手くいってないから」

 ヒメはそう言って、直剣を目の前に真っ直ぐ掲げた。


「はっ、違いねえ」


「上手く行かないなんて慣れっこよ。ここは、そういう……私たち視覚障碍者に冷たい世界なんだから。

 だから、私たちの手で壊すのよ」


「……分かってる。分かってるさ」

 ランスの少女は一度目を閉じて。


 勢い良く開き直した時には、また獰猛な獣のように、犬歯を剥き出しに笑った。



「妖眼を持つみなさん! 聞いてください!」



 そこでソラが大きな声で、ゆっくりと飛んできた。


「先ほどレオと、レオの仲間の子から聞きました!

 妖眼は、何度か使うと視神経と脳に大きな負荷を与えるんです。


 だからシチビは明日、皆さんの命と共に、妖眼を取り出すつもりです!

 そのまま所有者が死に至ったら、妖眼も使えなくなるから、って」


(……えっ?)


 てっきり、ホムラは何か対策を取って埋め込んだものだとばかり思っていた。

 いくらホムラでも、そんなの埋め込む前に分かるはず……。


 ――まさか。本当に、なんの対策も処置もせず、埋め込んだだけなの……?


「みなさん、これ以上妖眼を使ってはいけません!

 これ以上は、脳や視神経を壊すだけです。

 もう、止めにしましょう!

 私は……私たちは、みなさんをシチビから守ると約束します」


「…………」

「…………」


 沈黙する全員。


 そこでヒメが前に出て、ソラと視線を合わせた。


「その話が本当だとしても。退く気はありません」

 相変わらず11歳と思えない、重く冷たい口調でヒメは言う。


「……どうしてです?」

「今更、目も見えず変化もできない人生に戻るくらいなら……死んだ方がマシなので」


 微笑みさえ浮かべて言うヒメに。

 ソラも、私も、なにも言ってあげられない。


「目が見えるって、素敵なことです。初めてこのモールに来た時は、素敵すぎて、30分近く泣いてしまいました。


 色とりどりのイルミネーション。

 綺麗で可愛いファッションの数々。

 見てるだけで楽しい食べ物やスイーツ。


 楽しそうにデートをしているカップル。

 笑顔でお店を選ぶお兄さんやお姉さん。

 駆け回る子供たちと、優しく見守るご両親。


 ……その光景を、また奪われるくらいなら。

 私に付いてきてくれる、この子たちから奪うと言うなら!

 私は、あなたたちを排除します」


 ヒメの言葉に、悲しそうに唇を噛み締めるソラ。

 けれど、ナナとレオは、無表情のまま。

 ……多分、私もそうだっただろう。


 ――ヒメのその返事を、予想できていたから。


「夜も更けてきました。私、そろそろ寝る時間なんです。

 もう、終わらせましょう。

 勝って、ムツキちゃん返して貰います。

 そして、明日はぽぷら地区を侵略するので」


「どうしても……戦わなければいけないんですか!」

 悲鳴のように叫ぶソラ。


「ソラ。……その話は、私がもうしてる」

 私は言って、薙刀を持ち直した。

「もう、し終わって……。どうしようもないことが、浮き彫りになって。

 だから、私たちは、戦ってたんだよ」


「トアちゃん……」

 今にも泣きそうな顔で、ソラは私に振り返る。


「この子たちは、もう言葉では止まらない。

 だから、まず力を奪う。

 これ以上の会話は、そうしないと成立しないから」


 ――往々にして、戦争の始まりもそんな理由なんだろう。魔界でも、この世界でも。


「一ヶ月前の私らもそうだったろ、ソラ。

 言葉じゃ止まれない時ってのは、あるもんだ。

 ……だから、止めてやろうぜ。シチビ被害の先輩としてさ」


「……それしか、もう無いのね」


 ナナの言葉に、ソラは斧を両手で持ち直す。

 顔を上げた瞬間、一粒だけ、涙が流れた。


「レオ、そっち任せて良いか?」

 ナナはレオの方を見ず、大剣少女を正面に見据えながら尋ねた。


「もち。私が一番相性いいと思うし」

 レオは右手を柄に掛け、騎士長に向かって半身になる。


「この子は私が見る」

 ランス少女を見上げて、ソラが宣言。



「みんな! 任せた!」

 それだけ言って、私は真っ直ぐに、ヒメを見上げた。



「おう!」

「うん!」

「さっさと済ませちゃいましょ」


 ナナの車輪が回り出す。

 ソラの体を炎が覆い始める。

 レオが鞘から刀を抜き放つ。


「あと一晩で一段落付いたってのに。……何度も何度も来やがって、うざってえんだよテメエら!」

「落ち着いて。私たちみたいに完全回復したわけじゃない。妖力量なら私たちの方が上よ!」

「ああ。完全治癒を受け、聖騎士に叙された私たちだ。恐るるに足らん。……圧殺するぞ」


 ランスの周囲に渦巻くような妖力が纏われ。

 大剣の放つ光が強くなり。

 騎馬が味方を鼓舞するように、高らかに嘶いた。




「ナナちゃん、ソラちゃん。無理する必要はない。

 無理して負けて、トアの方へ援軍に行かれるのが一番マズいわ。

 私たちがすべきなのは、この三人の注目を貰いつつ、トアが勝つまでの時間を稼ぐこと。

 ヒメを倒せば、向こうの強化術も消える」


「分かった」

「……分かったわ」

 レオの言葉に頷くナナとソラ。


「向こうが言ってたとおり、私たちは万全じゃない。私は技撃てて一発だし、ナナちゃんも妖力4割くらいだったよね。

 ……ソラちゃんは、愛の力で万全かもだけど」

「姉妹愛ね、姉妹愛」

「無理も深追いも禁物。嫌かもだけど、今は私を信じて」


「大丈夫だ。アンタが強いのはなんとなく分かってる」

「……癪だけど、参考にしてやるわよ」

「ありがとソラちゃん、ナナちゃんも」


 レオは嬉しそうに笑って、刀身に冷気を纏わせる。


「それじゃ、『私たち時間稼ぎ要員が耐えてる間にトアに勝ってもらおう』作戦、開始!」

「長いしバレバレ過ぎるだろ、その作戦名」

「そもそも思いっきり聞かれてるでしょ」


「舐めやがって。なら私らも『さっさとモブども倒してヒメっち援護するぞ』作戦開始だコラ!」

「ノらなくていいから、そんなの」

「そもそもお前が仕切るな、騎士長は私だ」


「足並み揃ってなさそうだけど大丈夫そ?」

「癪に思われてるお前が言うんじゃねえ!」


 三騎士が同時に仕掛ける。


 ――最後の戦いが、始まった。



   †



 三人と三騎士の戦いが始まっても、私とヒメは互いに牽制し合っている。

 私は、剣の能力を警戒して。


「……お姫様だと思ったら、剣を召喚するなんてね。似合ってるけど」


 ヒメの持つ剣は形こそ直剣だけど、かなり小ぶり。大人が持ったら短剣に見えそう。


「……私の元には、とうとう王子様は現れませんでした。

 だから私は、暗目だけじゃなく、明目を同時に持つことにしたんです。

 その両方が揃えられないと、誰も救えないから」


「……とうとう?」

 不思議な言い回しだ。


 まず、『王子様』が何を指すのか分からない。


 まさか『明目の王子』が実在するとは思ってないはず。

 もし仮に実在を信じてたとしても、11歳の子が、まるで間に合わなかったかのように言うのは変だ。


「あなたには関係の無いことです」

 直剣の先端をこちらに向ける。

暗明あんめいが揃った時、悪の魔女は滅びるのですから」


「私たち、魔女じゃなくて魔法少女リトルウィッチだから」

「似たようなものでしょう」


 ぞんざいに言い返して、私を見下ろすように顎を上げる。


「……私の称号は『英雄姫』、あざなは『ロイヤル』」

 言いながら、ヒメは剣を真上に真っ直ぐ掲げた。

高貴ロイヤルの姫して、集団戦ロイヤルの長。

 私はこの力で、冷徹な世界を優しい世界に作り変えるんです」


「優しい世界、ね。大多数の視力を奪うのが、優しい世界?」

「無論です」


「……あなたほど賢い子が、気付かないわけ無いでしょう?

 多くの人から視力が奪われた世界は、奪った者……ヒメへの憎しみに満ちた世界になる。

 そんな世界の、どこが優しいの?」


「そうですね。それも、素敵な未来です。

 ……あと11年生きて友達が増える、次くらいには」


「……? あなた、なにを考えて……」


 ――言いかけて。ふと、その可能性に辿り着く。

 降って湧いたように、閃いてしまった。


(……もしそうだとしたら、辻褄が合う。……合ってしまう。さっきの、『とうとう』と合わせて)


 ヒメの剣が妖力を帯びる。

 黒いもやのような残滓と、白い星のような粒子が、刀身から舞い上がった。

 それを構えるヒメの姿は、どこか神秘的で、儚い。


「ヒメ。あなた、まさか……」

「さあ、どうでしょうね。ご想像にお任せします」


 続きは言わせてくれず、ヒメは会話を断ち切る。

 ――文字通り、その手の剣を私に振り下ろすことで。


 それを回避しながら、思う。



『この子は寿命が長くないのでは?』と。

 脳裏によぎった、その可能性。



 そう考えれば、全て納得できてしまうんだ。


 11歳とは思えないほど成熟している理由も。

 騎士たちの異様な忠誠心と献身の理由も。


 ――『全員同じ境遇におとしいれる』なんて強引な方法を選ぶ理由も。


 自分に時間が無いから、時間が掛かる方法を選べなかっただけ。

 無理矢理でも、短時間で効果を見込める方法を選んだだけ。


 妖眼を得ても、長寿を得られる保証なんて無い。


 晴眼者の憎悪を全て背負ってでも。

 たとえ、仲間たちから恨まれても。


(……それでもこの子は、仲間が幸せになれる世界を、作ろうとしてるのか……)


「まあ、暗目を躱せるんですから。私の剣なんて簡単に避けますよね」

 剣を振った勢いのまま空中を流れつつ、ヒメは独り言を呟いている。


「ヒメ。確認させて、あなた……」


「断ります。お喋り時間は、もうとっくに終わったんですよ」

 止まって、体を真っ直ぐに。

 直剣を正眼に構える。


 ヒメの左目が、まばゆいほどの白い光を帯び始めた。


 

「明目。――未来を照らす勇(ブライト・ブレイズ・)気の祝光(ブレイブリー)――」



 ――次の瞬間。

 5メートル以上離れていたヒメが、キスできるくらい間近に現れた。

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