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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
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17

「ヒメっちが攻撃を食らっただと……?」

「そもそも、なんなのあの速さ。普通なら、音を頼りにしなくたって、近寄れるわけ無いのに……」


 騎士の子が二人、回廊に出てこちらを見ていた。ふとももの少女――あまりに印象的すぎて、そう呼んじゃう――と、ソラが膝枕してた子。


「……準備、遅かったか」

 その後ろから、浴衣の子が現れた。


「いや、まだ間に合うぜ」

「そっか。なら、良かった」


 浴衣の少女が両手を前にかざす。

 その両手に、一瞬で莫大な妖力が収束していった。


 ――騎士長に次ぐ役職持ち。その妖力操作は、見事に尽きる。

 この子もこの子で、充分人間やめてるレベルだ。


「アキラ、エル。……後は、任せたよ」

「ああ」

「必ず、仕留めて見せます」



「騎術。――我が主と同志よ、(パーフェクト・)完全に癒え(ヒーリング・)たまえ(オール)――」



 両手の妖力を、トスするように上に広げる。

 降り注ぐ妖力は光になって、二人の騎士、それに下のヒメに向かって、真っ直ぐ飛んでいった。


「……頭に血が上ってレオを襲って、返り討ちに遭うような無能。

 これが私ができる、せめてもの最良だと、信じてる――」


「アンジュ……」

「アンタを無能なんて言うヤツ、この場に居るわけないだろ。

 だから、ちょっと休んでろ。

 ……次起きた時は、全員で、無茶したこと叱ってやるからよ」


「ふふっ、お願いね。二人とも……」


 浴衣少女の変化が解ける。

 気を失って倒れるところを、二人が支えた。

 そのまま、店の中に優しく横たえる。


「……おい、アンタ。黙って見てて良いのかよ?」

 膝枕されていた子――口の悪い方が、私を見上げて言った。

「今、私たち、副騎士長の最強治癒術でギュンギュン回復中なんだけど?」


「綺麗な光ね。……仲間思いの良い子だって、それだけで分かる」

「仲間思いじゃないヤツなんて、ここに居ねえ。

 まあ? ボクは気に入らないヤツをズタズタにできれば、それで満足なんだけど」


「? ムツキを人質に取られて泣いちゃったのに?」

「……余計なとこ見てんじゃねえよ」


「ヒメちゃんに一撃当てたくらいで余裕ね。

 今のうちに私たちに攻撃しなかったこと、後悔させてやるわ」


 二人の体の光が、徐々に収束していく。

 ダメージも妖力も回復しきった、二人のインピュアズが、そこに立っていた。

 それぞれランスと大剣を具現化して、その手に持つ。


「攻撃してる隙に撃たれそうだからね」


 二人に答えると、ヒメが高速で戻って来た。

 二人の頭上に浮かんで留まる。


「……見透かされてましたか」

「あんなに吹き飛ぶ威力じゃなかったはずだもの」

「悔しいです。駆け引きのレベルが違いすぎて」


 そこは100年以上経験の差がある。私としても負けられない。


「でも、そのお陰で私たちは回復しきったわ」

「そうそう。最後に笑うのは、ボクたちってこと」


 それぞれ、大剣とランスを構える。


 それとほぼ同時に、ついさっき聞き慣れた蹄の音が、下から聞こえた。

 私を見て興奮したか。甲高く嘶く声がする。


「侵入者。慈悲に感謝する。

 ……私にとどめを刺さなかったこと、あの世で悔いるがいい」


 鎧も完璧に回復した、チャリオットが空中を歩いてきた。


「そんなこと悔いるわけない。たかが勝ち負けで大げさなのよ、あなたたち」

「そうよアヤ! とどめとか、あの世とか、言っちゃダメ!」


 ――ヒメが私の言葉に乗って来た。


「……なんで敵と仲間から同時に叱られてるの私……?」

「やーい、叱られてやんのー」


「アキラもよ! ズタズタとか言わないの!」

「……こっちまで飛んできた……」


「――でも、皆、無理して強い言葉を使ってるのも、分かってるつもりよ。特にアキラは。ずっと、辛い思いさせちゃってるよね」


「別に、ボクは辛くなんか無い」

「……ごめんね。そして、本当に、ありがとう。

 皆、大好きよ。

 もうすぐだから。

 もうすぐ、そんな無理しなくても、自分らしく生きられる世界が、やってくる。

 私たちで、つかみ取るのよ!」


 ヒメの衣装が光って、形を少し変える。



「光暗。――いつか晴と宵が結(ブライト・ブラインド)ばれる日を(・ブライダル)――」




 平額は横に広がり、ティアラのように変形。

 両腕の肘から先には、豪奢なガントレットが生成され。

 スカート部もサイドに鎧が付いて、曲線的なシルエットから直線的に。


 掲げた右手――その先に伸びる光を掴むと、鞘に収まった直剣が姿を現した。


 鞘から抜き放つ。

 刀身から広がる光に、思わず目を細める。


 私には特に影響はないみたい。

 その光は、騎士の少女達に触れ、その身と衣装にまとわりついて、やがて形を成していく。


「――私の騎士たちよ。聖騎士と成りて、共に悪を屠りたまえ」


「当然よぉっ!」

「もちろん!」

「無論です。姫様」


 返事と同時に光から出てきた三人は、全員ベースそのまま、豪華な衣装に変わっていた。


 大剣少女の頭には、ベールのように半透明で、角隠しのように頭部を覆う白い布。黄色のコサージュが刺さってる。服は後ろだけシッポのように大きく伸びて、代わりに肩が露出するように。


 ランス少女は髪の形も色も変わった。淡い緑髪はサイドでまとめ、赤紫の簪が刺さっている。全体的にフリルが増え、特に袴は色合いも変わって、よりスカートっぽい。


 チャリオットは、とにかく真っ白だ。髪も、鎧も、馬も、ガントレットも服も。唯一胸元のリボンが鮮やかなブルー。なにかを誓うように、その結び目を握りしめていた。




「4対1になっちゃいましたけど。まだ、暴力を振るわれるおつもりですか?」

 輝く剣を掲げ、光を宿した左目で私を真っ直ぐに見、姫は尋ねてきた。


「それでしか止められないなら、もちろん」


 ――とは答えるけれど。

 実際、どうしものか……

 チャリオット一人ですでに厳しいのは、さっき分かってる。


 しかもなんか、ヒメのお陰で全員さらに強くなってるっぽいし。


 あの、アンジュと呼ばれた副騎士長の全体完全回復術が計算外すぎた。

 ……とはいえ、だからといって泣き言言ってられない。


「未来とか、聖騎士とか、耳触りの良い言葉を並べて……結局やってることは、罪のない人々の目を見えなくさせた上、死地に追いやる手助けでしかない。

 それを正義とは認めない。

 たとえ、どんな事情があったとしても。


 ……あなたたちのしていることは、純粋に、悪だ」


「強がってろや! お嬢ちゃんよぉ!」


 ランスの少女が飛び上がる。



聖騎槍せいきそう。――ひれ伏せ(楽しい人生は)世界ども(これかランス)――」



「アヤ、合わせるよ!」

「ああ」

 大剣少女とチャリオットが示し合わす。



聖騎剣せいきけん。――暗闇を斬(シャイニング・)り開く聖(フューチャー・)なる特大剣(グレート・ソード)――」



聖騎馬せいきば。――あの子を(ナイツ・)涙から(オブ・)救え極光(グローリー)――」



 正面から大剣、後ろからチャリオット。


 三方向からの攻撃を、左上に飛んで回避。

 三人は綺麗に同士討ちを回避してすれ違って行く。丁度、光の筋が空中に十字を描いた。


「くっ、やっぱり速い……」

 大剣少女の呟き。


 ――三人とも速いけれど、ヒメの暗目よりは避けやすい。

 ただ受け止めたり、まして打ち勝つのは無理だろう。


 ヒメは三人に任せるわけでなく、少し後ろで私を見据えていた。……多分、まだなにか隠し持ってるんだろう。


(主様、いかがなさいますか?)

(各個撃破しかない。まず、ランスか大剣)

(……かなり勝率は絶望的だと思われますが)

(だね。だから、助けて)

(無論、全霊を込めて)


 ――まずランスと大剣を、必殺技無しで撃破する。

 チャリオットには使っても良い。その場合、ヒメには使えないけど。


 ことここに至ったら、絶望なんてしてる意味も無い。

 状況が絶望的なんて、チャリオットが復活した時点でとっくに分かってるんだから。


 それでも退かない、って決めたんだ。


 周囲や、現実世界もそうだけれど……

 なにより、この子たちを救えるのは今、私しか居ないのだから。




「同時がダメならズラしていくぞみんな!」

「でかい声で作戦喋んな委員長!」

「確かに! 頭良いなエロもも!」

「縮めんな! いや、エロって呼ぶな!」


「やってる場合か! どうせ作戦なんか読まれてる! 気にせず行くぞ!」


 三人が再び構える。


 先陣は、ランス。

 その後ろから大剣が、半身をランス少女に隠すように、迫ってくる。


 ……となると、三連撃の最後はチャリオットだろう。


(とにかく、チャリオットを最警戒)

 あの突進を受けるのが一番マズい。

 

 となると、受け止める選択肢は他二人にできない。

 体勢を崩されるわけにもいかない。


 さらに、ヒメへの警戒も怠れない。


 ならば、まずこのランスをどう回避するのが正解か……


 そう、思考と視野を巡らせていた、最中――



 視界の右下から、炎の柱が吹き上がってきた。



 炎柱はランス少女を目掛けて、僅かに湾曲しながら伸びていく。


「ぬおっ!?」

 私への攻撃をやめて、急降下して回避するランス少女。


 けれど炎柱はランス少女を追うのをやめない。ぐるりとUターンして、再び狙いを定めた。


「まさか、この炎……?」



 振り返ると、ソラが三階のエスカレーター前に立っていた。



「ソラ!?」


「トアちゃん! 良かった、間に合って……」


 ソラは変化して、妖力も回復してる。

 ……ってことは、まあ、そういうことよね。


(我慢してくれたんだ。ありがとう)


 ……ただ、そうと分かると、ソラが妖力補充する瞬間を見れなかったのが途端に残念になってくる。

 ――帰ったら、感想掘り下げちゃお!

 

「委員長!? くっ!」


 大剣少女は心配そうにランス少女を見るけれど、勢いは止めず。

 すぐ私に向き直って加速してきた。


 大上段からの振り下ろし。


 けれど、横合いから車輪に叩かれて、大剣は大きく軌道を逸らした。


「なっ!?」


 空中を泳ぐ大剣少女。



「ジャストタイミングだったみたいだな」



「うん、最高!」

 横目で言うナナに、思わず笑みが零れた。


 次に、チャリオットの方を見る。



「相変わらずの規格外ね。騎士長さん」



「……貴殿の技よりは常識的だ。『絶零ぜつれい』の『レオ』」

 騎士長は、浮いてるだけで周囲を凍らせる、着流しと日本刀の少女と相対していた。


 レオは私と目が合うと――チャリオットに構わず――ひらひらと手を振ってくる。


「レオ……」

 ――立場で言えば、私なんて見捨てて構わないはずなのに。


 最初に『うわべだけ』とか煽ったの、謝らないとね。




 ――奇しくも4対4の構図。


 四対よんつい八個の目と、四妖眼四個の目が、睨み合う。

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