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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
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16

Interlude(インタールード) 【ソラ 4】~



「さて。妖力も整ったところで、そろそろトアのところに戻るとしようか」

 レオがユミさんから手を離して、モールの方へ視線を向ける。


「よくも、いけしゃあしゃあと言えたなコイツ……」

「トアちゃん、本当に友達になる気なのかな……」


「私はコイツとたもとかつんで! 今日お二人のファンになりましたんで!」

 ユミさんが清々しいくらいの速度でレオを裏切った。


「あれでファンになられても嫌ですけどね……」


 ――レオの指揮で動くのは癪だけど、トアちゃんのところに行きたいのも間違いない。

 本当に癪だけど!


 私はカミソリを取り出した。

 ――さっき、キスしながら変化しちゃえば良かったかも。

 とはいえ、わざわざここでまたキスするのも避けたい。今度こそ恥ずかしさで死ねるかもしれない。


「ナナ、お願い」

「おう」


 ナナも一度変化を解く。

 同じくカミソリを取り出して、お互い人差し指を切りつけた。


 傷口と妖玉を合わせて、「「変化」」。


「それじゃユミ、ムツキの監視と、後詰めよろしく」

 レオがユミさんに振り返って言う。


「えっ? 私まだ帰っちゃダメなの? もう夜遅いけど」

「ボスが戦いにいくのよ? この二人を見習いなよ」

「それは、お二人が素晴らしい人格者なのと、トアさんが素敵な人だからだろ。一緒にすんな、失礼だ」

「……まさか、本当に袂分かつ気じゃないわよね? あれはただの冗談よね?」

「さあ、どうだか」



「待て! 私も連れて行け!」

 と、そこでムツキさんが叫んだ。



「……連れて行く? なんで?」

 レオがムツキさんを見下ろす。


「お前たちの話を……ヒメの耳にも入れておく。

 あんな話、信じてないけど……

 そんなホラが出回ってる、ってことは、ヒメや皆も知っておくべきだから」


「却下に決まってる。なんで、あなたの都合で、私たちが邪魔者を連れて行かなきゃ行けないの?」


 言いながら、レオはムツキさんに歩み寄る。


「連れて行かないなら、私はここで自害する。

 あなたたち、私を保護しに来たんでしょ?

 なら私が、人質だ」


 そこで、レオがムツキさんの頭を鷲づかみにした。


 ――さっきまでの、おどけた雰囲気とは一転。

『敵』への態度は冷徹だった。


「図に乗るんじゃない。自害? やれるならやってみれば?」


「できないと思ってる?

 ……多分、そこの二人と同じ気持ちよ。

 ヒメが居ない人生なんか、要らない。

 あの子が幸せになるなら、命なんか惜しくない!」


 レオとムツキさんが、しばし睨み合う。

 ムツキさんは一瞬たりとも目を離さず、敵意をむき出しに見上げていた。


「……『すぐピュアパラを見下すのも悪い癖』、か……」

 レオは小声で呟いて。

 ……うっすらと、笑った。


「ムツキさん」

 そう、声を掛ける。

「……私は、トアちゃんと違って、約束なんてできない。断言なんて、できない。


 でも、私達はトアちゃんのやりたいことを、命を賭してでも、成し遂げたい。その気持ちは、さっきも言ったとおりです。


 だから、私たちはともかく、トアちゃんのことは、信じて欲しい。

『誰一人見捨てない』『一緒に、笑える未来を作りに来た』って言葉を。

 私もナナも、命を懸けて、それを叶えに行ってくるから」


 真っ直ぐに目を見て、そう言う。


 ……しばらくして、ぽろぽろと、ムツキさんは涙を流し始めてしまった。


「なんで、なんで……くそっ……」

 涙が出てきた理由が自分でも良く分からないらしい。

 袖で雑に目元を拭き始めた。


「目の周り傷付いちゃいますよ」

 そっとムツキさんの両腕を押さえて、代わりに優しく、目元を拭ってあげた。


「なんで……。こんなことになるまで、そう言ってくれる人が、現れなかったんだよ……」

 ムツキさんは悔しそうに……小さな声で、呟いた。

「もう、手遅れだよ……」


「……どういう、意味です?」


 そう聞き返すと、バッ、と腕を振り払われた。


「ヒメはもう、見切りを付けたんだよ!

 晴眼者の視力を奪おうとしてるんだ、ヒメは。

 それが、シチビと約束した、報酬だから!

 そうしないと、視覚障碍者の気持ちを理解してもらえない、って……」


 ムツキさんは一歩下がって、笑顔に……無理矢理口角を糸でつり上げたような、不格好な笑顔になった。


「正直、そんなのおかしい、って私だって分かってる!

 だけど、それ以外にヒメが……あの子たちが、幸せになる道がないなら!

 私は、それを叶える、って決めたんだ!

 アンタたちと……世界と、分かり合うなんて、無理なんだよ!」


 ――目が見えない自分たちの居場所が欲しいから、全員目を見えなくさせる……


 本当に、どこかで聞いた覚えがありすぎて。

 私はナナに振り返ると、同時に笑い出してしまう。


 急に笑い出した私たちに、目を丸くする全員。


「ふふっ、ごめんなさい。ああ、おかしい……」

 口元を隠すけど、隠しきれてなかっただろう。

「いやもう、まさに、私とナナも、そんな発想だったなあ、って思い出しちゃって」


「……なにがよ?」


「この耳と目の色で捨てられるような世界なら。

 私たちの方から、こんな世界捨ててやる、って。

 ……そう思って、シチビに協力してたの。

 友達を昏倒させて、記憶を弄って。


 ――トアちゃんのこと、一時は本当に、殺そうとまでして」


「なんか懐かしいな。もう、ずいぶん昔のことみたいに感じる」


 言いながら、私の隣にナナが立った。


「でもトアちゃんは、なんでも無い顔して、言うのよ。

『全部、許すに決まってる』――

 私たちのために血を吐きながら、一切ぶれずに。

 それで、私たちがどれだけ、救われたか……」


「あそこで戦ってるのは、そんな、超が付くくらいのお人好しだ。

 その程度のことで、簡単に見限ってもらえると思うなよ?」


「その程度って……。とんでもない大犯罪じゃ……」

 ムツキさんが、困惑したように言う。


「未遂は無罪、って思ってる節あるからな、トアは」

「確かに。もっと言うと、『私が止めればセーフ』くらい思ってるよね」

「ま、そんな人間なんだわ、私らのボスは」


 ムツキさんが私たち二人を見る。


「変身できない状態じゃ、インピュアズの戦いに巻き込まれて怪我するだけだ。

 そんなことになったら、怪我させた方も気に病むだろ?」

「だから、待っていてください。必ずヒメさんやお友達の皆、無事に連れて帰りますから」


 ムツキさんはまだ無表情なまま……

 ふいっ、と視線を下に逸らした。


「……人前でキスし始めるようなヤツの言うこと、信じられるわけないでしょ」


「あれは、ただの人工呼吸!」

「そうです! 聞いてたでしょう? 半分レオに騙されたようなものじゃないですか!」


「別に騙してはなくない?」

 レオが小首かしげてくる。その仕草もムカつく。


「うるせえ! そんな便利な手袋あるなら先に言えや!」

「そうよ! なにが、『普通は唾液』よ!」


「……そんなのあろうがなかろうが、せめて物陰に行くとか、あったでしょ」


 ムツキさんの正論に、私とナナの言葉は詰まった。


 クスクスと笑うレオに、ポリポリと頬を掻くユミさん。


「……ともかく! 今信用できないのは、仕方ありません!

 なので、ちゃんと無事に再会できるようにしますから!

 その時、また評価してください!」


 なんとかそう声を張る。


「……なんか、気を張ってるの、馬鹿馬鹿しくなってきた」

 言って、ムツキさんは後ろに体ごと振り返る。

「……今の私が行っても役に立たないし、巻き込まれるだけなのも、分かってる。

 これ以上抵抗しても、逃げられそうもないし。

 待っててやるわよ」


「……ありがとう、ございます」


「また人前であんなことするようなレベルのヘマ、しないでよ」

「……それはもちろん、改善します」


「それと……

 エリンに会ったら、ごめん、って伝えておいて」


 そのままムツキさんは歩き出して、ベンチの方へ向かう。


「ユミ、見張っといて。絶対自害なんかさせたらダメよ」

 レオがユミさんに指示する。


「また責任重大なことを……」


「私からもお願いします。あまり乱暴なことはせず……」


「もちろんです! 任せてください!」


「……露骨に態度変えすぎでしょ」


 ――正直、ここまで冗談を言い合える関係も素敵だな、って思っちゃうけど。

 レオとしては不服らしい。


 ……この贅沢者め。

 やっぱり、レオのことはとことん好きになれそうにない。


 


 そうして。

 私たち三人は、再びモールに向かって飛び立った。

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