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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
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Interlude(インタールード) 【ソラ 3】~



「まあ、私もシチビがここのインピュアズを処分する、って考えは知ってたから。

 話し合いで決裂しても敵対はせず、そのまま撤退してあげることにしたの」


 首を押さえながらレオが立ち上がった。


「でも状況が変わったし、私の気も変わったわ。

 どうせシチビが捨てた連中。敵対したって構わない。

 それより、トアの無事が最優先よ。

 だから、ヘッドロックじゃなくて妖力ちょうだい」


「……てめーにやるの癪だわ」

 白い目でレオを見るユミさん。


 ――気持ちは分かる。すごく良く分かる。

(だけど……)

 

 一人で副騎士長に圧勝して、トアちゃんの必殺技も真っ向から受け止めたというレオだ。

 戦力になってくれるなら、こんなに心強い増援はない。


「気持ちは、分かります。そりゃもう、私がユミさんの立場だったら、絶対分けてあげたくないです」

 ユミさんを見る。

「ですが……どうか、お願いします。

 正直、私もレオのことは信頼できないし、こんなこと頼むの嫌だけど……

 今は、トアちゃんのために戦ってくれる人が、一人でも多く欲しい。

 だから、お願いします」


 頭を下げる。


「いやそんな、頭あげてくださいって。

 99%敵同士なのに……」


「……確かに。そちらがシチビに協力する限り、私たちは敵同士。

 でも、レオが本当にトアちゃんと友達になるって言うなら、それはそれ。これはこれです」


「はー。いやぁ、すげえっすね……。

 トアって人、愛されてるんすね」


「彼女は、私達にとっての、全てです。

 この体も、命も、全て捧げると誓いました。……本人には内緒ですけど」


「ああ」

 ナナが頷く。

「トアが居なきゃ、シチビに殺されて終わってた。私らの命くらい懸けなきゃ、釣り合わない」


 ――トアちゃんは『自分を大事にしろ!』って怒るだろうけど。

 こっちが心で思っておく分には勝手だもんね。


「……なるほど。そりゃ、シチビとつるんでるウチらと仲良くしたくはないっすよね」

「いえ、そんなことはありません。これはトアちゃんの方針ですけど……

 悪いのはシチビだけで。それに巻き込まれた人に罪はない。むしろ、助けてあげたい……。

 だからトアちゃんは、モールを制圧しに行ったんです。

 きっとレオのことも、そう思ってるハズ。


 ……私がレオを嫌いなのは、単に個人的感情です」


「えっ? 嫌いまで言われちゃう私?」

 意外そうに目を丸くするレオ。


「あっはっは! 分かるわぁ。気が合いそうですね私ら」

 豪快に笑うユミさん。


「はい。仲良くしてくれたら嬉しいです」


「トアに比べて人望ないなあ……」

「自業自得じゃね? 詳しく知らんけど」

 嘆くレオに、ナナがぽつりと呟いた。


「ともかく。分かったっす。

 んじゃまあ、まず先にソラさんに分けますよ」


「……えっ?」

 ――そういえば、そんな話になってたんだった……。


「その後、ついでにレオにも分けてやるよ。ソラさんに感謝しとけ」

「うん。ありがと、ソラちゃん」

 ユミさんに言われ、素直に感謝を言うレオ。


「さて。んじゃ早速始めますか」

 大股でズカズカ歩いてくるユミさん。足長いから歩くのも早い。


 ――本気?

 本気で、今ここで、初対面なのに、口付けする気……?


 どうしよう。

 善意の行動、しかもトアちゃんのために役立つことを、拒否もしづらい……


 ――と、色々考えてフリーズしてる最中……


 ナナに、強く抱き寄せられた。

 右腕が私の肩に回されて、ぴったりくっつく。


「ナナは私がやる」

 強い口調で断言するナナ。


「あ、そっすか?」

「私はまだ6、7割は残ってるし。変化する程度なら、全然問題ない」


「りょっす。……じゃあいきなりレオか、しゃあねえなあ」

「露骨に嫌な顔しないでよ。私も傷付く時は傷付くのよ?」

「嘘こけ。この程度で傷付いてたら、今こんな関係になってねえだろ」

「そんなことないと思うけどなあ……」


 ユミさんは踵を返して、レオの方に歩いて行った。




 ナナに振り向く。

 後ろから抱きしめられたまま、気付けば、ナナの顔はすぐ目の前。


「……いきなり、どうしたのよ」

 小声でそう尋ねた。


 ――あれだけ嫌がってたのに。私もだけど。


 ナナは私と目を合わさず、反対を見ている。


「……ソラが、嫌そうだと思ったから」

 ナナがぼそぼそと答えた。


「否定はしないけど……。でも、効率で言えば、ナナに貰うより良いと思うよ……?」

「……効率で、初対面のヤツと、その、そういうこと、できるのかよ、ソラは」

「そりゃ嫌だよ! ……だけど、トアちゃんのためだもの」


「……っ、ああもう!」

 ナナが顔を真っ赤にして、私に振り返る。

 耳元に口を寄せて、


「私が、そんなの見るの嫌だったからだよっ」


 小声だけど、はっきりと、そう言い切った。


「ソラが別の女と、その、そんなことするの見るくらいなら、私が自分でやる。そう決めた! ……これでいいか?」


「ば、バカッ、なに言ってるの……」

 今度は私の顔が熱くなってきた。

 耳どころか、後頭部やうなじまで真っ赤になったのが、自分でも分かる。


「……うっさいな。さっさと顔あげろや」

 口調は乱暴だけど、ナナは優しく、私の頬と顎を持って固定した。

「ソラが言ったとおり、トアのためだ。我慢するし、我慢しろ」


「わ、分かったわよ……」


 視線は、ナナの唇から離れてくれなくて。

 みるみるうちに、それが近付く……


 私とナナの唇の距離は、すぐにゼロになった。



   †



 ――どれくらい経っただろう?

 体感では1時間以上経った気がするけど、実際は1分も経ってない気もする。


 段々、体の芯から、不思議な暖かさが込み上げてきた。

 力が湧いてくるようで、今なら変化できそう、となんとなく分かる。


 ナナが顔を上げて、唇が離れた。

 そこで(体感)久しぶりに、呼吸を思い出す。


「……どうだ? 変化、できそうか」

 ナナが人差し指の付け根で乱暴に唇を拭って、そう聞いてきた。


「多分、出来ると思う」

「そうか。なら……」


 ――このまま、帰る――


 ナナが言おうとしてるのは、そういうことだろう。


 ぐっ、とナナの肩を掴む手に力がこもった。

 ――そこで初めて、自分がナナの肩を掴んでいたことに気付く。


「私も、連れて行って」

 真っ直ぐにナナを見上げて言う。

 今はもう気恥ずかしさは――なくはないけど、大分薄れた。


「……言うと思った」

「私だけ帰って、トアちゃん……と、ナナに、もし何かあったら、後悔してもしきれない」

「そんなの私らも一緒だぞ? ギリギリ変化できる程度のソラを連れてって、ソラが危険な目に遭ったら、トアが一番悲しむだろ」


「……だから、もうちょっと頂戴」


「…………」

「…………」


 はあ、と小さくため息をつくナナ。


「一回しちゃったんだから。二回も三回も変わんないでしょ!

 ほら、ナナ、早く!」

「……適応早すぎだろ」

「しょうがないじゃない! 私だって、そりゃ、恥ずかしいわよ……」


「……まあでも、私も正直、妖力は全部ソラが持ってる方が良いと思ってた」

「全部とは言わないけど」

「じゃあ、良いんだな? もっかいいくぞ」

「ちょっと待って、ナナは自分の分ちゃんと残しておいてね?」

「分かったよ」


 二回目。

 今度は、さっきより少しだけ乱暴だった。

 ――ナナも、ちょっと自棄やけだったのかも。




 さっきより込み上げてくる暖かさが、大きい。段々、熱いくらいになってくる。

 それは、全身に駆け巡って。


(凄い。段々、気持ちよくなってきたかも……)


 妖力が満たされる感触が、心地良い。

 それは、睡眠の気持ちよさと似ている。

 寝てる間に妖力が回復しているという、間接的な証明かもしれない。


(……でも、くれすぎじゃない? もう、ほぼ満タンになってきた気がするけど……?)


 ――と思った、次の瞬間。

 込み上げる熱は止まらず、さらにドンドン膨らんできて、破裂しそうなくらいに圧迫してくる。


 急いで、突き飛ばすようにナナを離した。


「ちょっと! なにやってるの! こんなにくれたら、ナナの分なくなっちゃうでしょ!」


 ……が、ナナはキョトンとして私を見ている。


「? こんなにって、まだ大して入れてないだろ」

「え?」

「ん?」


 沈黙の間。


「……私、多分これ以上無理。入らない」

「マジか。こっちはまだ4~5割は残ってるけど」

「ホント? ……なら、ナナは妖力の量が凄いんだ」

「……そうみたいだな。質のソラと、量の私か」

「てことは、ナナはまだ全然戦える?」

「ああ。技も10発は余裕だと思う」

「嘘ついてないでしょうね?」

「つかねえよ、そんな嘘」


 ――ナナの意外な才能が見えて、なんだか嬉しくなってくる。

 ナナ、私やトアちゃんより弱い、って気にしてたから。


 長期戦なら、私よりもずっとずっと、貴重な戦力だ!


「そっか。良かった、ナナはやっぱり天才だったんだ!」

「……妖力多いだけで、使い方が下手って気もするけどな」

「またすぐ卑下する。今回みたいに敵が多い時とかは、私より貴重な戦力じゃない!」

「なんでソラの方が嬉しそうなんだよ」

「そりゃあ、嬉しいもん!」


 ナナは苦笑いするけれど。

 徐々に、何か希望を得たように、ちゃんと微笑んでくれた。


「ともかく、だ。ソラも問題ないなら、そろそろ戻るか」

「だね」


「おいレオ、そっちも大丈夫そうなら行……」

 ナナがレオの方を見て、固まった。


「? どうし……」

 私もレオに視線を向けて……まったく同じリアクションになる。



 ――レオとユミさんは、なんか握手してた。

 それぞれの手に、見覚えのない手袋して。



 なんか、みょんみょん、て効果音立てながら、黒いオーラみたいなのがユミさんからレオの方に流れていくのが見える。


「あ、いや、すんません……。その、お二人が、そういうご関係だったなんて、つゆ知らず……」

 この場の誰より顔を赤くして、ユミさんが目を泳がせていた。

「凄かったっす。お二人、なんていうか、その、神々しいというか。可愛らしくもあり、美しくもあり、神秘的であり、芸術的といいますか。

 なんか、凄いもの見せて貰っちゃったな、って……」


「……その手袋、なんです?」

 自分でも声のトーンが低いことに気付いた。


「あ、これっすか? いや、妖力交換したり渡したりする道具なんすけど。もう、効率悪くって。

 すみません、お二人ほど、まだ妖力渡せてないっす……」


「……さっき、恥ずかしい、って……」

 ナナも私と似たような声だった。


「いや、人前で握手とか、この年になって恥ずかしいな、って。……本当、未熟でした。精進します」


 私とナナ、ユミさんと、どこか気まずい空気が流れる中……

 唯一、ニヤニヤしてるのがレオだった。


「いやあ、良いもの見せて貰ったわぁ。ありがと♪」


「笑ってんじゃないわよこの外道!」

「っざけんなこの○△×#$%&‘《=――!」

 ナナは最早なに言ってるのか聞き取れない。

 

「いやいや、ごめんごめん! まさか、本当にここでキスすると思ってなくて。

 二人のトアへの思いを舐めてたわ。盗み見するつもりじゃなかったのよ?」


「じゃあなに!? 『双子ならキスして当然』みたいな態度もわざとだったってこと!?」

「いやまあ、わざとかわざとじゃないか、って聞かれたら、わざとだけど」


 ――いちいち回答が回りくどいのも腹立つ。


「テメエ、今日が終わったら覚えとけよ……」

 ナナが昔のヤンキーマンガみたいなセリフ言い出した。


「私、やっぱりあなたのこと嫌い。大っ嫌い!」

 ……言ってから、自分でも少女マンガみたいなセリフだと思った。


「……なんか分からんけど、アンタが99%から100%敵になったのは良く分かったわ」

 同陣営のはずのユミさんが、どこか引いてレオに言っていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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