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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
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Interlude(インタールード) 【ソラ 2】~



 ムツキさん以外のさくら地区のピュアパラが三人。

 ぽぷら地区から応援に来てくれたピュアパラも、三人。


 話し合いの結果、まずは意識の無い三人をギルドまで連れて行く、ということになった。

 一人ずつ背負って飛んでいくピュアパラたちを見送る。


 ゲートとは反対方向だったので、私は彼女達に付いていかなかった。


 ここは、後詰めに待機してもらっていた広場。

 今、残されたのは私とナナ、それにレオとムツキさん。

 レオはムツキさんの近くに立っている。警戒はしているようだけど、拘束は解いていた。


「さて。んじゃソラも送るよ」

 と、ナナが私に近付く。

 

 けれど私はそれに応えられず……つい、モールの方に視線が行ってしまう。


「……トアのことは、信じるしかないだろ。ソラはどっちみち妖力不足なんだから」

「……そう、だけどさ……」


 後悔する。

 後先考えず、思い付くまま必殺技を放ったことを。


 ――どう考えても、あんな威力要らなかったのに。


(……ごめんにゃ。出し惜しんでたら危ないかも、って思っちゃったにゃ)

 ビィが謝ってくる。


(ううん。ビィは何にも悪くない。謝らないで)


 私の無意識にあの技を浮上させたのはビィらしい。

 けれどもちろん、この子を責められるわけがない。

 私もビィも、初のインピュアズ戦で必死だったし、ランスの子のスピードに手加減できなかったんだから。


「……あなたたち、もしかして知らないの?」

 と、それまで傍観してたレオが口を開いた。


「主語のない会話すんなよ」

「ごめんごめん。いや、妖力って人から人に移せるのよ。

 てっきりナナちゃんを優先する作戦なのかな、って思ってたけど。聞いてたら、そういう発想すらない感じだったから」


「妖力を移す……。そっか、そういえばそ……」

 そこまで言って、ナナが固まる。


 ――私も、全く同じ。

 なんで忘れてたんだろう、って思った次の瞬間、あの時のことを思い出して、すぐに頬が熱くなる。



 ……トアちゃんが、血を吐きながら、キスし続けてくれた時のことを。



 ナナの脳裏に浮かんだのも、その光景だろう。


 ナナと目が合う。

「……あー、でもあれ、血でも良いんだっけ……?」

 ナナが頬を掻きながら言った。


「できなくはないけど、血だと効率が悪いわ。だから、普通は唾液」


 沈黙。

 どちらからともなく、視線を逸らす。

 ――ナナと目が合わせられない。


「? 双子の姉妹でしょ? キスなんて10回でも100回でもしてきたんじゃないの?」


「んなわけねえだろ!」

「双子をなんだと思ってるのよ!」

 同時に叫んだ。


「……全く、トアちゃんもレオも変なこと言わないでよ」


「なるほど。いや、姉妹揃って初心うぶなのは、とっても萌えるんだけど……。

 でも真面目な話、変化できる程度に妖力を分ければ、ソラちゃん飛んで帰れるでしょ?

 そうすれば、その分ナナちゃんも早くトアの援護に行ける。

 そっちの方が良いと思うけどな。


 口を付けるって言っても、人工呼吸みたいなものじゃない? 女の子同士なんだし。

 まあ、無理にとは言わないけど」


「……いや、ぐうの音も出ないくらい正論だけどさ……」


 ――恥ずかしい、ってのもあるけど。

 なにより、レオの言うとおりになるのが癪だ。


 ……シチビが悪だと分かっていて、それでもそちらに付くような女の言うとおりになるのが。


(いや、分かってる。これは、ただの感情論だ)

 ――でも、そう自覚していても、割り切れないことだってある。


「トアは多分、分かってて言わなかったよな」

「……私たち揃って、あれだけ拒否したしね……」


 ――そう考えると、ますます自分が情けない。

 一人で戦いにいくトアちゃんに、気を遣われたことが。


 ……『キスなんか我慢して、付いてきて欲しい』と言われない程度の、自分達が。




「まだここに居たのね、レオ」


 と、そこで空から女の子が降りてきた。

 レオと似た着流し姿のインピュアズ。ただし紐はちゃんと結んでいる。

 ポニーテールに結った、凜々しい印象の美人さんだ。


「やっと来た、妖力タンク」

「は? 刺すよ?」


 レオの軽口に、刀の切っ先を向ける着流し少女。


「……てか、こんなとこでなにやってんの?」

「新しい友達と一緒に帰ろうと思って」

「友達? ここの連中と? 気が合うヤツいたんだ」

「ううん。リトルウィッチィズだって」

「なにそれ?」

「最近できた、ピュアパラ陣営でもインピュアズ陣営でもない、第三勢力。この子たちもその仲間よ」


 言って、レオが私たちの方に視線を移した。

 それにつられて、着流し少女もこちらを見回す。


「紹介するわね。私の仲間、ユミ」

「ども。お揃いのネコミミ、イカしてるっすね」

 軽く会釈するユミさん。


「ありがとうございます。私はソラで、こっちがナナといいます」

「……どうも」

 礼をする私と、少しだけ頭を下げるナナ。


「なんか、二人ともシチビに似てる……?」

「聞いたことあるでしょ? 胎児の頃、シチビの妖力を浴びたインピュアズ。あれが、この子達よ」

 ユミさんの疑問に、レオが説明を入れた。

 

「え? ああ、そういえばなんか聞いた覚えある気がする。双子のインピュアズと、めちゃくちゃ強いピュアパラが手を組んだ、って」


「そう。その子達。で、まだモールの中で一人戦ってる子が居るの。

 助けに行きたいから、妖力分けて」


「え? ここで? いいけど……ちょっと恥ずかしいな……」


 ――人前でキスするのが、『ちょっと恥ずかしい』程度なんだ……


 私達が意識しすぎなんだろうか?

 前にトアちゃんも、人工呼吸みたいなもの、って言ってたし……。


「なんなら、あっちの変化解けてる子にも分けてあげて。変化できる程度で良いから」

 レオが私を目で示す。


「マジで妖力タンク扱いじゃんか。まあ別に良いけど」


「別に良いの!?」

 思わず叫んじゃった。


 ビクッ、と驚いてユミさんが私を見る。

「いや、妖力全部あげるのは無理だけど、変化する分くらいなら……」


 ――いやいや! 流石にこの子達の方がおかしい! 私たちの感覚が正常なはず!


(なんで、見ず知らずの他人と、いきなり言われて口付けできちゃうの!? 絶対変!)


 ……とは、流石に初対面相手に言えないけど。


「でも、リトルウィッチィズの子が戦ってるのって、ここの連中でしょ? えっと……姫様と騎士達」

「うん。そうよ」

「なら、別にわざわざ戦う必要なくね?」

「……まあ、そうなんだけど」


 レオが遠い目でモールの方を見る。



「放っておいても明日には全員死ぬんだから」



 ――その何気ない一言で、場は静まりかえった。


「……何言ってんの、アンタ」

 そこでムツキが、モール外に出て初めて口を開く。


「んにゅ? なに? 説明してないの、レオ?」

「まあ……なんとなく、切り出しづらくて」


(『んにゅ?』って言った……?)

 なんて聞き返す空気じゃないのがもどかしい。


 ユミさんが私達三人に向き直る。


「シチビが言ってた。ここの連中、目に妖玉埋めてるんだけど……。

 視神経や脳への負荷がヤバいらしくて。何回か変化や技を繰り返したら、廃人か、最悪死ぬんだって。

 完全に失敗したにゃー、とか唸ってたわ。


 で、そうなったら妖玉もダメになるから、その前に取り出しておくんだと。目に埋めたのは失敗だったけど、出来自体はこれまでで一番だから、廃棄するのもったいない、ってさ。


 今日ここを制圧した時点で全員用済みだから、明日の朝一で処分に行くって言ってたよ」


「……ごめんユミ。言い忘れてたわ」

「なに?」

「リトルウィッチィズは、99%ピュアパラ側の勢力だから」

「はっ?」

「99%、私達の敵だから」


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 見合う私たち四人。


「いやいや! アンタが友達の第三勢力とか言うから! じゃあ私もお近づきの印に情報共有しとこっかな、って……」

「だから悪かったって。まさか、そんなペラペラ喋っちゃうと思わなかったんだもん」

「え、なに? じゃあ私、敵にタダで情報漏らしたってこと?」

「まあ、そういうこと」

「『そういうこと』じゃねえよ! さっさと止めろやこのボンクラがぁ!!!」

「やめて! 暴力反対! 痛い痛い!」


 レオをヘッドロックするユミさん。

 

 私とナナは、顔を見合わせて……

 同時に、ムツキの方を見た。


「……騙されないわよ」

 私達が見る中、ムツキが絞り出すように口を開いた。

「そんなわけない。私も見てる前で、シチビはヒメに約束してた!

 この世界を乗っ取った後、協力の報酬に、世界の一部を望むままにあげる、って……」


 ヘッドロック掛けたままのユミさんと、掛けられたままのレオが、ムツキを見る。


「……ユミ。ちなみにこの子はリトルウィッチィズじゃなくて、姫側だから」

「……お前、リトルウィッチィズだ、つって紹介したじゃねえか」

「いや、それはこっちの二人のこと」

「紛らわしいし訂正が遅えんだよ! 最強なら何しても良いと思ってのかああっ!?」

「ぎ、ギブ、ユミ、ギブ……ホントに落ちちゃう……」


 ギリギリ、とレオの首の骨が軋む音が聞こえてきた。

 ――まあ、止めてあげる気にはならない。


「……漫才までして騙そうなんて、手が込んでるわね。

 そんな情報操作して、一体何が狙いなの?」


 睨むムツキの視線を平然と受け止めて……

 そのままユミさんは、レオをゴミのように放り捨てた。

 軽く服を叩いて整える。


「……まあ、言っちゃったからにはしょうがないや。

 悪いけど、全部事実だよ」

「言うだけならなんとでも言える。私はこの目で見たの!

 シチビとヒメが、約束を交わすところを」

「その時のシチビ、語尾付いてた?」

「……語尾?」


「アイツ、語尾に『にゃ』を付けてない時は、感情がちゃんと制御できてる証拠だから。

 そういう時の発言は9割がた、人間を騙すための嘘よ」


「わけわかんない。でたらめ言うにもほどがある」


「……ムツキさん。それは、私たちも証言できます」

 そこで二人の話に入っていった。

「普通の口調のシチビが言ってることは、信じちゃダメ。それだけは、断言できる」


 ――あの頃の、時々シチビが遊びに来た日々を、思い出す。

 一緒に未来を語り合った、あの頃を……。


 不意に、無意識で、少しだけ涙が零れてしまった。


「……あなたたち全員、何言ってるの?

 いちいち『にゃ』とか付けて喋るヤツ、現実に居るわけないでしょ」


 ごもっともすぎて、涙を拭きながらちょっと笑っちゃった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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