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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
54/77

13

 変化したヒメは、ゆっくりと立ち上がった。


 長い黒髪はハーフアップにして、頭の上には大きな平額ひらびたい

 おでこを出して、顔がよく見える。今は目を閉じていた。


 肩と肩甲骨は露出させ、胸から下は豪奢な和洋折衷のドレス。


 十二単のように幾重にも重ねた、色とりどりの服を胸元で結んで止めて。

 大きく広がったスカート部分は、先端が床に付いている。後ろから出ている引き腰も、垂れて床に引かれていた。


 赤を基調とした衣装は日本のお雛様のようで、西洋のお姫様のよう。

 まさに彼女の呼び名に合わせてあつらえたみたい。


 ――正面から見る限り、武器らしい武器は見当たらない。




 店内は戦うのに狭すぎる。

 私は後ろに飛んで、回廊まで出た。


「助かります。せっかく、綺麗な宝石がたくさん並んでますから」

「どういたしまして。単に、狭いところが不得手ってだけだけど」


 壁や商品を斬り裂きながら薙刀を振るうのは、ちょっとね。


 ヒメの体が少し浮いて。

 次の瞬間、一瞬で外に出た。


 私の真横を掠めて、吹き抜けの上でドレスを翻す。


「もし私が勝ったら。先んじて、お友達になってください」

「……つまり、視力を失え、ってこと?」

「まあ、そういうことになります」

「それは、嫌」

「そうですか。仕方ありません……」


 ゆっくりと両目を開くヒメ。



「暗目。――我が目に映る(ブリンク・ブランク)物は無し(・ブラインド)――」



 その左目。光を映さないはずの黒い瞳に、幾何学的な魔法陣が浮かんでいた。


 ――ということに気付くとほぼ同時に、私の体は回廊に押しつけられる。


「がっ!?」


 途轍もない圧力。

 周囲がひしゃげて、回廊の形が歪む。



「なら、脅迫しますね」



 圧力がさらに増す。

 轟音を立てて、回廊が砕けた。


 受け身も取れず、一階の回廊に全身を叩き付けられる。

 肺から全ての空気が押し出されて、悲鳴も上げられない。


(なに!? 何が起きて……)

(主様、上です!)


 回廊の瓦礫、中でもひときわ大きい物が、私の上に落ちてくる。

 咄嗟に避けようとするけれど、やはり体は圧力に押さえつけられて動かない。


 上から、冷たい目で私を見下ろすヒメが視界の端に映る。

 その姿を、落ちてくる大きな瓦礫が隠した――


 瞬間。

 体が、自由になる。


 手で勢いを付けて、真横に飛んだ。

 

 そのまま近くの小物店に入って、棚の裏に姿を隠す。

 ヒメが居た場所から死角になるように。


「……流石ですね。この一瞬で理解しましたか」

 ヒメの声が反響して聞こえてくる。


 ――とにかく、ヒメの視界の中に居てはいけない、ということは分かった。


 ……だったら、取れる手はただ一つ。

 ヒメの目に知覚されない速度で、動くのみ。


 すぅ、と息を吸って。

 妖力で棚を店外に押し出すと同時に、それを隠れ蓑にするように外へ出た。


 ――店外に出て、最高速で空を飛ぶ。それでもあの圧迫感は襲ってこない。

 ということは、なんとか成功したみたいだ。


「凄いです。とっても、速い」


 その声の方を見ると、ヒメはまた目を閉じていた。


 直線的な動きにならないよう、旋回するようにヒメとの距離を詰める。

 この速度に慣れていない内に、なんとか攻撃を――



「暗目。――我が目に映る(ブリンク・ブランク)物は無し(・ブラインド)――」



 ()()()()()()()、ヒメの左目が光った。


「きゃぁっ!?」

 天井に叩き付けられる。

 咄嗟に両腕で体を庇うけれど、関係なしに張り付けにされた。


(まさか、あの速度を知覚した……!?)

 スォーの驚愕の思考が漏れて聞こえてくる。


「……私にとって、速度はほとんど意味がありません。

 視覚障碍者は、聴力が発達する、と聞いたことありませんか?


 この城はBGMを切ってるし、空調も最低限。エスカレーターも最遅で、とにかく騒音を抑えています。

 妖力で強化された今の私には、あなたが空気を裂く音、良く聞こえましたよ。


 外だったら風の音などに邪魔されて、上手く捉えられなかったかもしれませんけど。

 この城の中で、私の視界から逃れるのは不可能です」


 ――だとしてもその音は、数瞬前に通り過ぎた時の音だったはずだ。

 勘で撃ったのでなければ、その音から逆算して、私が居る位置を割り当てた、ということになる。


 そして、私と目が合ったタイミング。

 間違いなく、勘ではない。


 ……なんて戦闘センスと計算力、それに空間把握能力。

 先ほどの会話の時もそうだったけれど、およそこの世界の11歳と思えない。


 ――と、不意に圧力が弱くなり、消えた。

 次の瞬間、ヒメがまた目を閉じる。


「まだ戦いますか? 降参して、お友達になってくれるなら、許しますよ?

 あんまり人殺しとか、したくありませんから。

 ……でも、必要なら、躊躇うつもりもありません。

 どうされます?」


 可愛らしい口で、可愛らしい声で、真っ直ぐに脅迫してくるヒメ。


 ――それが一番、悲しい。

 誰だ。この子にこんなことを言わせるまで追い詰めたのは……!




 私は脱力……

 するフリをして、また店の壁裏に飛んで隠れた。


「……まだ、お分かりいただけませんか」

 落胆したような、沈んだヒメの声が響く。


 ――インピュアズもピュアパラも、必殺技には時間制限がある。

 撃ちっぱなしで永続させることはできない。


 先ほど、ヒメが目を閉じる前に効力が切れたのも、そうだ。

 ――当たっても永遠に動きを止められないのなら、勝機はある。


「見ただけで相手を遠ざけ、制圧する。

 暴力が嫌いだから、こういう技にしたの?」

 私は大きな声でそう話しかけてみた。


「そうかもしれません。故意じゃありませんが。

 変化後の武器や技は、本人の資質や性格に合わせたものになる、と聞いたことあります」


「ピュアパラも同じよ。

 ……だからこそ、あなたの技は威力に乏しい。

 二回直撃しても、私はまだ元気だし」


「二回でダメなら、三回でも四回でも、十回でも二十回でも当てて差し上げます。

 この城の中で私に近付けるわけないんですから」


(……さあ、それはどうかな?)


 あなたが戦闘センスの塊なら。

 こっちもそれにアジャストするだけよ。



   †



 再び店内の物を放り出しながら、一緒に外へ出る。もちろん、なるべく大きな音を立てて。


 ヒメの周りを旋回しながら、距離を詰めに行く。


「……だから、空気の音で分かるんですってば」

 少しだけ苛立たしそうな、ヒメの声。


 ヒメの瞼が動く。



「暗目。――我が目に映る(ブリンク・ブランク)物は無し(・ブラインド)――」



 私の()()()()()()が押しつぶされて真空になる。すぐに空気が補充されていく音がした。


「……えっ?」


 驚くヒメに構わず、またすぐに私は動き出す。


「そんな、なんで……」

 言いながら、ヒメは一度目を閉じて……



「暗目。――我が目に映る(ブリンク・ブランク)物は無し(・ブラインド)――」



 またも、誰もいない空間が押しつぶされた。


「っ! そうか、私の瞼が開く瞬間、動きを止めて……」


 ご名答。

 ……喋ると詳しい位置がバレちゃいそうだから、言わないけど。


 ヒメは再び目を閉じる。

 どうやら、目を開いた瞬間しかあの技は撃てないらしい。


 ならば私は、瞼の動きを注視しておけば良い。



「そこだ!

 暗目。――我が目に映る(ブリンク・ブランク)物は無し(・ブラインド)――!」



 今度は止まらず、そのまま真っ直ぐ飛んで行く。

 止まっていたら私が居たであろう場所の空気が潰れた。


「止まったり動いたり! そんなの、いつか絶対当たります!」


 ――さあ、読み合いの時間だ。


 目を開く瞬間、私は止まってるのか、動いてるのか?


 と、ヒメが少し動いた。

 私が止まってても動いてても、視界に入るような位置を取る。



「暗目。――我が目に映る(ブリンク・ブランク)物は無し(・ブラインド)――」



 が、私は真上に飛んでいる。

 またも外して、ヒメは忌々しげに私が居る方向を見上げた。


「……そのパターンもあるんですね。覚えました。どうせいつか、当ててあげますよ」



   †



 それから、ヒメは退いたり、前に出たり、下に行ったり、上に行ったりしながら、私の居る場所を視界に収めようとする。

 と同時に、距離を離そうとしていた。


 けれど、目を開く時は止まる。その隙に私は距離を詰めに行く。

 徐々に、私とヒメの距離は、縮まっていった。


「くっ、11回目、いつまで続けるつもりですか……!」

「あなたに届くまで」


 近くなればなるほど、私が不利になる。

 単純に、遠近の関係で私という的が大きくなるから。


「当たれ当たれ当たれ、当たれぇっ!」


 12回目。

 詠唱無しの暗目も、けれど私の服を少し掠めただけ。


「なんで、なんで……!」


 ――心理戦で私に勝てるとでも?


 止まる、そのまま動く、上に動く、下に動く、後ろに戻る……

 ただでさえ、私に有利な読み合いだ。


 いくらセンスがあると言っても、まだ11歳。

 外すたびに徐々に追い詰められる――そんな状況、慣れているわけがない。

 焦った彼女と、仮に当てられても致命傷にならないと分かってる私。


 この構図になった時点で、有利なのは私だ。


「ありえない。この試行回数で、当てられないなんて……」


 ただの運負けではない、とヒメも薄々気付いてきた様子。

 けれど、ならどうすれば当たるか? の答えには、まだまだ辿り着けなさそうだ。


「負けない! 私は、負けられないんだから――!」


 13回目。

 やはり、当たらず。


「くっ!?」


 再び目を閉じた――

 瞬間。


 一気に距離を詰めに行く。真っ直ぐ、直線的に。


「えっ!?」


 これまで、弧を描くような動きをしてきた中の、直進だ。


 ――ヒメは、まだ思い至らなかったのだろう。

 相手の思い至らない手を打つのが、読み合いの必勝法だ。


「いやだ、こっちこないでっ!」


 14回目。

 とにかく前に来て欲しくないヒメは、そのまま直線距離で発動した。


 ――もちろん、そこまでちゃんと、読んでいる。


 上に回避すると同時に、ヒメに向かって薙刀を構えた。


 ヒメが急いで目を閉じる。

 上を向いて。

 瞼を開……


「届いた」


 く前に、薙刀を振り下ろした。




 ――レクと同い年で、スォーに似た体格の女の子に、こんなもの振り下ろす拒否感はあったけど……。

 そんなこと言ってる場合でもない。

 

 なるべく生身の部分と急所も避けた一撃に、ヒメは吹き抜けを真っ直ぐ落ちていった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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