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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
53/77

12

(主様。撤退を進言致します。核羽を全て砕いてしまわれました)


 チャリオットから離れてエスカレーターに向かう途中、スォーが念話してきた。


(しかたない。なんとかするよ)

(レオによると、姫という者は今の騎士長と同等以上とのことです。流石に勝算が低すぎます)

(相性もある。騎士長は相性が最悪だったから、こうなっただけ。

 姫って子がどんな戦い方するか分からないけど、今から悲観しても仕方ないよ)

(ですが……)

(あらためて言うけど、もう少しなの。

 もう少しで、インピュアズに支配された地区を取り返すことができる。今を逃すわけにはいかないのよ)


(ここの敵の情報はかなり集まりました。それを元に態勢を立て直せば、それこそ勝率は上がります。後日であれば、トキア様含めて再度挑むことも可能です。

 今のこの状態は、むしろ勝機が低いものと存じます。

 ……どうか、ご再考を)


(……どうしたの? やけに食い下がるじゃない)

 ここまで反対するなんて、最近のスォーにしては珍しい。


(……レク様は、今も主様の帰りを待っておられます。

 それがもし傷だらけであったら……よもや帰ることすらできなかったら。

 主様が、レク様を深く傷付けることになります)


(……レクの名前出すのはズルいよ)

(申し訳ありません。ですが、撤回する気はございません)


 ――強くなっちゃって。

 ちゃんと意見が言える従者を持てて鼻が高いよ、ホント。


 ……今ごろ、レクは寝ただろうか。

 もしまだ、起きて私の帰りを待っていたとしたら……


 ついそんなことを考えてしまったせいで、私の足取りは、少しだけ遅くなってしまう。


(……ごめんなさい。少しよろしいですか?)

 と、そこでエリンが念話に入ってきた。


(撤退するというなら、それを止める権利は私にありません。

 ……ですが、核羽……スォーさんの魔力を回復するお手伝いなら、できると思います)


(本当?)

(人と人が魔力を受け渡せるように、タマハガネ同士もある程度可能ですから)


(エリン……)

 余計なことを言うな、とばかりにスォーの思念が漏れて聞こえる。


(ごめんなさい、スォーさん。……でも、私も、ブレイドの意見に賛成です。

 できるだけ早く、ここを制圧し返すべきだと考えています)


(エリンにとっては、ムツキのこともあるしね。

 姫って子をなんとかしないと、仲直りもままならないでしょうし)


(それは……そうですが、そこはお気になさらず。

 先ほども申したとおり、撤退するならお止めしません)


(いいのよ。正直にいきましょう。前に進むことで、エリンとムツキの問題も解決するかもしれない。

 その理由が加われば、私もやる気になれるんだから)


(ブレイド……。ありがとう、ございます)


(早速魔力の譲渡してもらえる?)

(分かりました)


 ポケットが光り、エリンが顕現する。


「スォーも顕現した方が良い?」

「いえ、武器に触れるだけで大丈夫です」


 エリンが薙刀の背に触れる。

 そこから魔力の光が溢れ出す。


 光はやがて、三本目の核羽がある場所の少し下に結実して――

 四本目の核羽になった。


 他の核羽とは少し色が違い、黄色掛かった水晶みたいだった。


 光が収まると、エリンは尻餅をついてしまう。


「大丈夫?」

「……ブレイド。どうか、この地区を……ムツキちゃんを……

 ムツキちゃんの友達を、助けてあげてください」


 僅かに潤んだ目で、エリンは私を見上げてきた。


「うん。任せて。ありがとうね」

「とんでも、ありません。よろしく、お願いします……」


 そう言い残して、エリンはタマハガネに戻る。

 床に転がるタマハガネを拾って、再びポケットに入れ直した。


(……スォー。

 ごめんね、私は行くよ。

 できることがあるのに、我が身可愛さで帰ったら……

 きっと、レクと心の底からイチャイチャできなくなっちゃうから)


(……そう言われてしまっては、反論の余地ございません。

 レク様とイチャイチャしていただくためにも、尽力いたします)


(ふふっ、よろしく)

御心みこころのままに)


 心の中で笑い合いながら、二階へと昇っていく。



   †



 三階。北側の一番奥。

 ひときわ広いジュエリーショップに、彼女は居た。


 お店の物は左右にどかされ、中央には車椅子。

 そこに座る、目を閉じた小さな女の子。


 その横には、先ほど逃げられた二人のインピュアズと副騎士長が立っている。


「いらっしゃいませ。ようこそ、私の城へ」

 車椅子に座りながら、女の子は私に向かって言った。


 鈴のように可愛らしく通る声。


 座っているのを差し引いても、とても小柄だ。八歳くらいに見える。

 

 すっきりと整った顔立ちに、真っ黒で艶やかな美しい長髪。

 大きなリボンに、フリルがたくさんあしらわれた、薄いブルーのワンピースドレスがよく似合っている。


 まるでお人形のように、完璧な造形で。

 思わず、目が奪われてしまった。


「私はヒメ。万丈院ばんじょういん緋芽ひめと申します」

「ご丁寧にどうも。春日野トアです」


「トア様。私の騎士達がすみません。お怪我などありませんか?」


 親切に尋ねられて、キョトンとしちゃう。


「……怪我は、ないですよ」

「良かった♪」


 満面の笑顔で、ポン、と両手を軽く叩く。


「本当にごめんなさい。……どうも、血の気の多い子が多くて。

 副騎士長なんか、独断でレオさんに攻撃しちゃうし……。私はどうぞお帰りください、って言ったのに。

 メッ、ですよ?」


 唇を尖らせて、横の副騎士長を見る女の子。


「……ごめん、ヒメ」


 再び私の方に顔を向ける。


「騎士長も、槍士も、剣士も。

 みんな、私を守ろうとしてくれただけなんです。

 許して、とは言いませんが、酌量いただければ幸いです」


 深々と頭を下げるヒメ。


「酌量もなにも、最初から罪に問う気なんてありません」

「なんと、心の広い……」

「心が広いかは分かりませんけど。なんにしろ、話し合いで済むなら、それが一番です」

「全く同意見です。お優しい方で良かった。どうぞ、中へ」


 ――そう言われて、ズカズカと入り込むほど素人じゃない。


 罠や奇襲を警戒しながら、ジュエリーショップの中へ入る。

 

 中程まで進んでも、特になにも無かった。

 

「それで、こちらには何用で?」

 ヒメが尋ねてくる。


「何用……。そうですね。ここから出て行って欲しいです」

「? それはまた、どうしてでしょう?」


 ――どうして?

 そんなこと、分からないわけないでしょうに。


「この地区のピュアパラを捕らえて、シチビに渡すような真似しておいて、本気で聞いてるんですか?」

「シチビさんに渡すことの、なにが悪いんでしょう?」

「……人の心や体を改造して、自分の配下に仕立て上げようとするヤツだからよ」


「はい。それは知ってます。それの何が悪いんですか?」


 本気で分からない様子で、小首を捻る。

 そんな可愛らしい仕草でそれを尋ねること自体、空恐ろしい。


「世の中なんて、そんな人ばっかりじゃないですか。

 力の弱い人間に暴力で言うこと聞かせたり。

 ……目が見えない人間に親切するフリをして、利用しようとしたり」


 何か思い出したのか、一瞬悲しげな表情になり。

 直後、儚げに微笑む健気さが、なぜか心に響く。


 彼女の事情を知らない私の方が悪者なんじゃないか、とすら感じてしまうくらいに。


「その点、シチビさんはとても明快な方です。

 この世界を支配する、という目的に真っ直ぐで。

 その手伝いをした暁には、対価として私たちにも世界の一部をくれると仰ってくれました。


 ……だから私は、あの方を、信じることにしたんです」


「世界の一部。それが、あなたたちの目的?」


「一部と言うと語弊があるかもしれません。

 私がシチビさんに望んだのは、『視覚障碍者も晴眼者せいがんしゃも公平平等に暮らせる世界』です。

 私の言う一部は、地域的な意味ではありません」


「それだけ聞くと応援したいくらいだけど……。

 そんな世界を実現するために、ピュアパラを差し出す、っていうのは賛同できない」


「彼女達もシチビさんから力を与えられ、協力することで対価を得られます。

 どのような世界を望むかまでは分かりませんが、それで全員がWinWinだと、そう考えています」


「……どうも、あなたの中でのシチビは理想化されてるみたいね。それとも、そう思い込もうとしてるだけ?」


「そうかもしれません。が、どちらでも良いことです。

 私たちに希望をくれたのは、シチビさん以外に現れなかったんですから」


 ちらりと三人を見る。

 誰も彼も、私の方には目もくれず。

 ただただ、話すヒメを見ていた。


「『暗目あんもくの姫と明目めいもくの王子』という昔話をご存じですか?」


「……申し訳ないけど、知らない」


「私たちが通っていた施設では、ポピュラーな物語なんです。

 目が見えないお姫様が、世界を救うと言われる光の眼――明目を持つ王子様と出会うお話。


 現代の常識からすると差別的だし、男尊女卑の描写も多いですが、それでも私は大好きです。

 差別にも格差にも負けず、清く正しく、学ぶことを怠らず、したたかに生きて。

 そして、その王子の心を射止めたお姫様が、今でも私の憧れなんです」


「……だから騎士を従えて、姫様、なんて呼ばせてるってこと?」


「それはアヤちゃん――騎士長だけですね。小さい頃の私のワガママを今でも聞いてくれている、優しい子です」


「私、その優しい子を放置して来ちゃった」


「それは仕方ありません。先に攻撃を仕掛けた方が悪いです」

 にっこりと、イタズラっぽく笑った。


 ――屈託の無い、この笑顔にほだされちゃいそうになるけど……

 どうしてだろう?


 レオと違って、仲良くなれる気がしないのは。


 ――なにか、根本的に、嘘をついてる。

 根拠のない、そんな疑いが拭えない感じ。




「……なんとなく、ヒメさんの背景とか目的は分かった。

『視覚障碍者も晴眼者も公平平等に暮らせる世界』というのは、私も大いに賛成。

 協力は惜しまない。

 ……だから、シチビとの協力を解除してくれる可能性はない?」


「うーん、まあ、ありえませんね」

 まるで明日の天気でも語るようなヒメ。

「世界が今のままなら、絶対に訪れない未来ですから」


「そんなことはないでしょう?

 今も、そんな世界の実現に向けて動いてる人が、現実でもたくさん居るはず」


「たくさん居ますね。

 今だけじゃ無く、歴史上、大勢いらっしゃいました。

 にもかかわらず、実現できてない。


 ……つまり、そういうことです。実現なんて、土台不可能なんですよ。

 今の世界は、『視覚障碍者なんてどうでもいい』。

 そういうルールが、すでに敷かれている世界なんです」


「それは、主語を大きくしすぎ」


「では何百年、もしかしたら何千年と、多くの人が尽力してきたはずなのに、それでも実現できてない理由はなんだと思いますか?」


「そもそも、実現できていないというのが主観でしょう。

 客観的に見て、過去に比べたら現代の方が確実に生きやすくなってるはず」


「ええ。主観です。

 でも、多くの主観が集まって、客観になるわけですから。


『歴史的に見たら今が一番良い環境だ』、というのは否定しません。


 ですが、私も、仲間のみんなも、誰一人『今のままで良い』とまでは思えません。

 視覚障碍者たちの主観の総意が、すなわち、『この世界は良くない』という客観的な結論です」


 ――とてもじゃないけど、小さな女の子と話してる気がしない。


 その見た目と発言のギャップに、目眩がしそう。


 これが、いわゆるカリスマというやつか。

 これが、騎士たちやムツキが付いていこうと決めた、ヒメという女の子か……。


「……じゃあ、具体的にヒメさんはどう世界を変えるつもりなの?」


「はい。まず私が思うに、お互いがお互いを知らないから、距離も縮まらないと思うんですよ。


 だって晴眼者からしたら、目が見えない人って、不気味でしょう?


 まず、話題選びが難しい。うっかり視覚をもとにした話をしてしまったら、傷付けてしまうかもしれない。

 だから話題もとても慎重に選ぶし、神経をすり減らして気を遣う」


「……まあ、そういう気持ちは、あるかもしれないね」


「ですよね?

 実際、晴眼者の方と話すと、目が見えないことを異様に重い話と捉えられてしまいます。

 キャラとしてイジってくれるくらいがいいのに、っていつも思うんです。


 目が見えないというのを、ただの一要素として捉えて欲しい。


 たとえばメガネを掛けてる人に、メガネの話題を避けたりしないですよね。でも、レンズに触れないようにしよう、くらいは気を遣うはず。

 それくらいでいいんです。


 でも、『メガネ』じゃなくて『盲目』となると、途端にそういう風にならない。

 相手のことを知らないから、踏み込んで良いラインが不透明になる。

 だから、まずは晴眼者のみなさんが、私たちのことを知れば良いんです」


 ――言いたいことは、分からないでもない。


 今、私は彼女に罪悪感に近い、漠然とした感情を抱いている。

 この感情はきっと、正常に私の目が見えることと、無関係では無いのだろう。


 

「なので、まず最初に、晴眼者全員の視力を奪います」



 ――そんな、漠然と抱いていた罪悪感が……

 その言葉で、吹き飛んだ気がした。


「もちろん永劫とは言いません。

 今はまだ予定ですが、私が盲目に生きた年月と同じ、11年くらいかなって考えてます。

 その頃、私は22歳。

 お互いがお互いを理解し合える、素晴らしい世界になってるはずです。

 その時はきっと、多くの人とお友達になれるに違いありません。

 今から、11年後が楽しみです!」


 屈託無く笑うヒメ。

 ――全ての晴眼者の11年を踏みにじる……それを正義と信じている笑みだった。


『視覚障碍者なんてどうでもいい』と、世界に言われた気になって。

『晴眼者なんてどうでもいい』という世界を作ろうとしている。


 それはよくある、子供特有の思い込み。

 年を取ったら枕を叩きたくなる、そんな黒歴史の一つかもしれない。


 けれど、実現できる力を得た今、微笑ましく見守ってあげるのは無理だ。


 誰かが止めてあげないといけない。

 誰かが正してあげないといけない。


「……なるほど。確かに、それは話し合いの余地ないかもね」

「はい。そう思います。……悲しいですけど」


 薙刀を構える。

「あなたの夢は……野望は、ここで食い止める」


「残念です。……あなたも、私に暴力を振るうんですね」

「あなたがしようとしている暴力に比べたら、可愛いものだからね」

「私は暴力なんて振るいません。私はただ……」


 ゆっくりと、ヒメの瞼が開く。


「……晴眼者の皆とも、仲良くなりたいだけです」


 細かく緻密な陣が描かれた、輝く右の妖眼と。

 涙に濡れた、くらい左目。



「変化――開眼」



 妖眼の輝きが強くなり、光が彼女を包み込む。

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