表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
52/77

11

 二階に昇り、三階に続くエスカレーターへ。


 吹き抜けを飛んで行っても良いけど、空中で狙い撃たれたら逃げ場がない。

 なので、回廊とエスカレーターを使って上へと昇っている。


 エスカレーターを歩き昇り、三階。

 ……エスカレーターを昇った先、丁度正面。


 広くなった回廊の丁度反対側に、一人の少女が立っていた。


「姫様にあだなす者。良くもまあ一人で昇ってきたものだ。

 ……そこまでして、彼女の幸せを邪魔したいか」


 両目に巻いた目隠し。

 男性ものの黒スーツに、ネイビーのネクタイ。『姫様』呼びも相まって、執事を彷彿とさせる。

 年齢は、多分高校生くらい。……背が高めだから、そう思っただけだけど。


「あなたは様付けなのね。他の子達は、呼び捨てやちゃん付けだったけど」


「……約束があるのでな」

 男装の執事は、そう言って両目の布を外す。


 右目は閉じたまま、左の妖眼で私を真っ直ぐに捕らえた。


「変化――開眼」


 妖力が爆ぜる光。

 次の瞬間、変身したインピュアズがそこに……


 ……いる、と、思ったんだけど……


「えっ……?」


 しばらく、何が起きてるか分からなかった。

 さっきまで男装の執事がいた場所には、私の身長より大きな……多分、馬が居た。


 ――正確には、私の知ってる馬じゃなかったけど。

 なんと呼ぶかと聞かれたら、馬としか答えられない。


 その馬は、全身が鉄の鎧で覆われていた。

 兜の向こうにある両目は、私を――敵を、射貫くように睨み付けてくる。


 良く見ると、その背中に人が乗っている。

 男装の執事だった子だ。

 今は、上半身はインピュアズらしく和装。

 だけど、下半身は馬の鎧と一体化して覆われ、万が一にも落馬できないようになっている。


 ――まさかとは、思うけど……。


「……その馬、あなたの武器……?」


「私は『蹂躙』の『チャリオット』にして、姫様の騎士長。

 小さき敵よ。我が愛馬の蹄鉄の錆びとなるがいい」


 馬が嘶く。

 主のその言葉が、開戦の合図だと理解しているかのようだった。




 初速から馬鹿馬鹿しいくらいの速さで襲いかかってくるチャリオット。

 空を飛んで、吹き抜けの上に回避。


(ここなら、追ってこれな……)

 頭の中ですら言い切る暇をくれず、馬は空中蹴ってこちらに向かってきた。


(どこ走ってんのそれ!?)


 空中だろうがお構いなしに走って突っ込んでくるチャリオット。


「くっ!?」


 あの質量だ。往なすとか逸らすとかできるわけない。すれ違う風圧だけでダメージ受けそう。

 とにかく距離を取って、回避に専念する。

 小回りは私の方が上のはず。そう信じなきゃやってられない。



「騎馬。――我が姫に捧げよ鉄騎(シュバリエ・マグナス)――」



 チャリオットの全身を光が覆う。

 さらに速度を上げて、一瞬で殺到してきた。


「こ、のぉっ!」


 横薙ぎで、なんとか薙刀を鎧に当てる。

 相手の速度を利用し、コマの要領で回転しながらなんとか避けた。


 ――予想通りとてつもない風圧に襲われて、私の体は意図せず吹き飛ぶ。

 上下も前後も分からなくなりながら、それでもなんとか床に着地。どうやら一階のようだった。


 吹き抜けの真下は、広場になっている。

 ここだけ妙に何もないのは、土日祝日にイベント会場となるからだろう。


(……どうすればいいの、あれ……)


 空中で旋回して、こちらに向き直るチャリオット。


(狙うとしたら、鎧を着てない本人……なんだけど……)


 ――正面から狙うには、長い首と頭、そしてそれを覆う大きな兜と鎧が邪魔だ。

 かといって、横や後ろから狙えるような速度じゃない。


「あれを無傷で避けるか。なるほど。およそピュアパラの戦闘力じゃない。

 ――覚えておこう、リトルウィッチィズ」


「お褒めにあずかり光栄ね、騎士長さん」


「最初に私の必殺技を回避した敵として、亡き後も語り継いでやるさ!」


 吹き抜けから降りてきて、即突進してくる。


「だから! 命を粗末にすること言うなっての!」


 上に回避。

 すれ違いざま、薙刀をチャリオット本人に振り下ろした。


 が、ガントレットに弾かれて、そのまま行き違いに。

 歯噛みしながら、着地して床を滑る。


「……もうこの速さに適応してきたか」

 チャリオットは馬を振り返らせながら、ガントレットの接触部分を見下ろして呟く。

「これ以上時間は掛けられん。お前は、強すぎる」


「早めに決着付けるのは、私も賛成よ」


 ――万が一掠っただけでも、致命傷になりかねない。

 相手に試行回数稼がせる前に終わらせたいのは、私も一緒だ。


 が、半端な攻撃では通じないことが分かっている。

 速度もあって、馬上の彼女に私の攻撃を直撃させるのは困難だ。


 だと、するならば。

(……私の勝ち筋は、ただ一つ)


(主様。如何様に?)

(あの妖眼。変化してるのに、今も左目にある)

(確かにそうですが、それがなにか?)

(……なら、信じるしかない)

(信じる?)

(あの子を死なせてしまわないことを。私が死なないことを)


 まあ、ある意味、トキアさんの時と一緒だ。


 息を吸う。

 馬が右前足で床を掻く。

 チャリオットの左目に、妖力の火が灯る。



「騎馬。――遠き日の約束を(コマンドール)果たせ愛情(・ダンテ)――」



「砕け。――再来の撃滅(セカンド・ブレット)――」



 チャリオットの全身が白く輝く。

 薙刀の刀身が黒く光る。


 チャリオットが動き出すと同時に、私も真っ直ぐ走り出した。


 知覚外の速度の私と。

 規格外の威力の彼女が。


 真っ正面からぶつかって、黒雷と赤炎の火花を撒き散らす。



   †



「なっ……!?」

 驚愕の声は、馬上のチャリオットのもの。


「ぐうぅぅぅっ!!!」

 絞り出すような声は、噛み締めた私の歯の隙間から。


 薙刀を真っ直ぐに馬の兜にぶつけたまま、拮抗状態だった。

 私の薙刀を頭で受け止めつつ、馬の方もどこか驚いたように目を見開いてる……多分。


「正気か、この体格差で……」


 ――そこはリトルウィッチとインピュアズ。ある程度なら、魔力の大きさで埋められる。

(……だとしても、この質量差は、やっぱキツいけど……)


「このまま轢き殺せ!」

 馬は大きく鳴いて、主の命令に答える。


 私の靴がズルズルと床を削り、後退させられる。


「だ、か、らぁ……、簡単に、殺すとか、言うな、っつってんでしょうがぁ!」


 押し込む。

 馬の鳴き声が、どこか頼りない……ちょっと可愛らしいものに変わる。


(主様、もう効果が切れてしまいます!)



さんざめけ。――轟参の滅却(サード・ブレット)ォッ――!!!」



 核羽が砕ける。

 必殺技の重ね掛け。

 これまでにない体の負荷だが、その分押し返す距離が一気に増えた。


 兜の表面に、ヒビが入る。

 パキパキッと音を立てて、そのヒビは見る見る広がっていった。


「馬鹿な、こんなことが……」


「うあああああああああああああああああ!!!」


 バキン、と大音響。

 薙刀を振り抜いて。


 チャリオットとすれ違う。


 走りながら、チャリオットの鎧は砕けて、床に落ちていった。

 

 鎧を落としながらしばらく走った後、馬は力尽きたように横転。

 チャリオット本人は、その勢いで放り出されるように地面に転がった。



   †


 

 上がった息を整えるのもそこそこに、私はチャリオットの元へ駆け出す。


 馬は「ブルルッ」と鼻を鳴らすように鳴いた後、ゆっくりと消えていった。


「大丈夫? 生きてる!?」


 チャリオット本人の横でしゃがみ込んで、様子窺った。


「……? なにを……?」


 心底不思議そうな顔で、チャリオットは私を見返す。

 今は変化も解けて、男装の執事に戻っていた。


「妖眼にダメージはない?」


「……妖眼は、普通の妖玉やタマハガネとは違う。

 私が変化してる時も、左目にあっただろう」


「やっぱり、そうなんだ。良かった、予想通りで……」


 実際は妖眼と繋がってたらどうしようかと心配だったんだから。

 安心して、思わず座り込んじゃった。


「……変な敵だ。倒した相手の心配なんて」

「私はこの世界の人間を敵と思ったこと、一度も無い」

ごとを……」

「そもそも、同じ人間同士なのに。敵だとか、殺すだとか言い過ぎよ」


 ――まあこの世界は人間同士で争うことが多いみたいだから、無理も無いけど。


 前世では、敵と言えばすなわち別の種族のことだった。

 魔族にとっての人間、人間にとっての魔族、妖怪にとっての魔族と人間、みたいな。


 同じ種族同士で争うなんて、無くはないけど、とても少なかったのだ。


「ともかく、命に別状ないなら良かった」

「甘いな。また私が変化したら、どうするつもりだ?」

「その時はまた叩きのめすだけよ。その様子だと、しばらく変化できなそうだし」


 そういえば、ナナとソラと合流した時も、妖眼の子たちは変化が解けていた。

 妖玉を元にしない分、戦闘時の妖力の消費が激しいのかもしれない。


 ――とにかく。また三階に向かうとしよう……

 そう思って、踵を返した。


 瞬間、かくん、とつんのめる。

 私のスカートを、執事の少女が掴んでいた。


「行かせない。姫様の元に行くなら、私を殺してからにしろ……!」

「……全く」


 私は一瞬息を吸って……


「ていっ!」

 延髄にチョップした。


 気を失って、執事の少女は倒れ込む。


「……またあなたの姫様と過ごせる日は来るから。間違っても死ぬなんて言わないの」


 女の子を寝かせっぱなしにするのは気が引けるけど。

 まあ、この子の本拠地だし。流石にベッドがあるところまで運んであげる時間も余裕もない。


 ということで三度みたび、私は一階から三階を目指すのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

もし「面白い」、「続きを読みたい」などと思っていただけましたら、

↓にある星の評価とブックマークをポチッとしてください。

執筆・更新を続ける力になります。

何卒よろしくお願いいたします。

「もうしてるよ!」なんて方は同じく、いいね、感想、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ