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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
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10

 レオと、レオに組み敷かれているムツキに近付く。


「やられた。回復魔法は聞いたことあるけど、回復妖術なんて……」


 少なくとも、私が魔界に居た頃は聞いたことがない。

 妖怪って好戦的なのが多いし、自然回復力も強いから。

 私が転生した以降に開発されたのか、それとも副騎士長と呼ばれた子が発明したのか……。後者だとしたら天才過ぎる。


「だから言ったでしょ? 背中から刺されても知らないよ、って。あの時私を止めない方が良かったかもね」

 レオが冗談めかして言う。


「あの時はレオに殺意が無いなんて分からなかったし。死なせるくらいならこうなった方がマシ」

「……トアは慈悲が深すぎる」

「この世界の一般的な感覚でしょ」

「それをこの場で持ち続けられるのが、異常なのよ」


 ――そうなのかな?

 そう言われちゃうと、そうなのかもしれない。

 だからといって考えを変える気も無いけど。


「ともかく。レオ、ありがと」

「……さっき聞いたよ?」

「あれは、人質にしようとしたことに対して。今のは、咄嗟にムツキを押さえてくれたことに対して」

「そう。じゃあ、素直に受け取っておく」

「うん」

「……人たらしだなあ、君は」

「別に普通のことでしょ?」


 ――お礼言ったのに、誹謗中傷で返されたんですけど……


「……エリンは……私のタマハガネは、どこ?」

 そこで、レオの下からムツキが尋ねてきた。


「私が持ってるよ」

 ポケットからとりだして、タマハガネを見せる。

「返せ」

「今のあなたには返せない。返したらまた酷いことしそうだし」

「それは私のだ! 返せ!」

「とりあえず今は私が預かっておく」

「エリン、アバター顕現!」


 ムツキの声で、エリンが顕現する。


「そいつから離れて私に触れろ」


 だが、エリンはそのまま動かなかった。


「……私の言うこと聞け、エリン!」


 エリンは断るように、僅かに首を左右に振る。


「……ムツキちゃん。さっき、ブレイドのタマハガネ……スォーさんから念話で聞いた。

 親友の次に隷属系ランクがあるのは、『友情の先は、信頼』という理念に基づくものだ、って。

 この『信頼』は、タマハガネから所有者に対してのもの。所有者からタマハガネへの感情は関係ないんだって。

 タマハガネが心から信頼して、かしずける所有者だと思えたら、その時初めてランクが上がるそうよ」


「……なに? 後ろ盾ができた途端お説教?」


 言われて、エリンが悲しそうに唇を食いしばる。

 けれど再び、力を抜いてゆっくりと口を開いた。


「……まだアバター顕現できなかったころは、ムツキちゃんはもっと純粋だった。

 ただ純粋に、この地区を……

 この地区の盲学校に通う幼なじみと、その友達を守るために、強くなりたい、って」


「そうだよ。他のピュアパラは、どいつもこいつもタネから卒業できない遊び半分なヤツらばっかりだから。

 ……私が、頑張らなくちゃ、強くならなくちゃ、この地区は終わっちゃう、って。だから……」


「知ってる。分かってる。全部見てきたもん」


 ――トモエさん達は、アバター顕現はそうそうできないことだと言っていた。

 それを実現したムツキとエリンは、今世代のトップ中のトップになっていた……はずなのだ。


「最初は、隷属って言葉が良く分からなくて。とりあえず主従関係を真似してみよう、ってなって。

 ……予想以上にムツキちゃんがサディスティックでびっくりしちゃったけど。

 それでも、私はムツキちゃんを信頼できてたから、日に日に強くなれていったよね。

 

 ……でも、あの子たちが妖眼を得た、と知ってから……

 ムツキちゃんがヒメちゃん達に……妖魔側に付く、って言った時、私はムツキちゃんを信頼できなくちゃったんだよ」


「……つまり? 私の元から離れる、ってこと?」


「私はタマハガネ。人類を守る存在。

 別のタマハガネと所有者……スォーさんとブレイドに直接武器を向けたムツキちゃんとは、もう一緒に居られない」


「……あっそ」

 素っ気ない口調で言うムツキ。


 その表情は、私の角度からは見えなかった。


「……ブレイド。改めて、申し訳ありません。助けてくれて、ありがとうございました」

 エリンが私に向かって、深々と頭を下げた。


「どういたしまして。

 ……ナナ、レオ、みんなの保護、お願いね」


「ああ。分かったよ」

「そりゃ構わないけど……」

 素直に頷くレオに、何か言いたげなナナ。


 ――まだ私が攻め込むことに異議があるんだろう。


 でも悪いけど、今の私を説得できる言葉なんて、この世に存在しない。


 あの二人は回収されちゃったけど、まだ回復しきってないし。

 今がチャンスなのは、変わっていないんだ。


 ナナもそれを分かってるんだろう。それ以上続きの言葉は出てこなかった。


 私は再び、ムツキに視線を下ろす。


「……ムツキ。約束する。

 私は、誰一人見捨てるようなことはしない。

 すぐにここの皆とも仲良くできる、って信じてる。

 私は……私たちは、あなたやあなたの友達を不幸にしに来たんじゃない。

 一緒に、笑える未来を作りに、ここに来たの。

 それだけは、信じて」


「……理想主義が過ぎる。レオが嫌いなタイプじゃなかったの?」

 組み敷かれながら、ムツキが上に向かって尋ねた。


「自分でもそう思ってたんだけどね。単に口先だけのヤツが嫌いだっただけみたい。

 トアはすでにセヴンス、ヘヴンズと仲良くなってる。フィアーともそうらしいし。

 理想論でも、行動して現実にできたなら、嫌いになる余地がないわ」


「ともかく。これからのことをまとめましょう」

 パン、と一回手を叩いて、話を変える。

「皆はムツキ含めたピュアパラ達を、ぽぷら地区の子たちに引き渡して保護してもらう。

 ソラは安全のためにも、境世界から出て回復に専念して欲しい。ぽぷら地区の子達と一緒に帰るも良し。ただ、回復が間に合うなら、強制はしない。その辺は臨機応変に」


「分かったわ」

 ソラが頷く。


「私はこのモールを制圧に行く。私や、無力化したインピュアズの回収のためにも、ナナに後詰めで居て欲しい。

 でも、それも強制はしないし命令もしない。ソラの安全を第一に動いて欲しい、ってくらい」


「分かったよ。私が思う、最善で動かせてもらう」

「うん。信頼してる」

「……レオの言うとおりだぜ。人たらしが上手すぎる」

「なんか今日のナナ、私に手厳しくない?」

「じゃれてるだけだって。親愛の証だよ」


 ――本当かなぁ……

 まあ、今そこを言い合ってても仕方ない。


「レオも、ピュアパラ保護手伝ってくれてありがと。

 もう帰ってくれて大丈夫」


「帰ったら連絡先交換できないでしょ?

 私も後詰めで待機しておくよ」


「ホント? なら嬉しい。

 ナナと同じく、自由に動いてくれて良いから」


「……ええ。やりたいようにやらせてもらうわ。

 今日の最重要任務は、トアと連絡先交換することだからね」


「ふふ、これは週末のデート頑張ってエスコートしなくちゃね」

「そんなこと考えなくていいってば。気楽にリラックスして行きましょ」


「そんな約束までしてたのか……」

 呆れたようなナナの独り言。


「エリンは、ムツキと離れるためにも、私と一緒に行きましょう」

「分かりました」


 再びタマハガネ状態になったエリンをポケットに入れた。


「ペロは私とよ」

「もちろんペロ!」

「ぽぷらの精霊さん、何かあったらペロに連絡お願いね」

「分かったピグ!」


「それじゃ皆、また後で」

 言って、私は踵を返す。


「気を付けて!」

「負けるなよ!」

「一撃分くらい妖力が戻ったら援護に行くから」


 三人の声に、顔半分で振り返る。

 右手を振って、さくら地区後半戦に向かって歩き出した。

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