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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
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9

 レオの紹介もそこそこに、まずは捕らえられているピュアパラたちを助け出す。


 ナナと二人で、ケージに鎖で結ばれている彼女達を解放。

 ウィンドウに貼られてた値札は剥がしておいた。


 店内の鳥かごの中には、精霊も気を失って閉じ込められていた

 ペロ曰く、さくら地区の精霊、ポムだそうだ。


「息はあるけど、大丈夫かな……」

 ホールに運んできた子と精霊を見下ろしながら言う。


 ここまで運んでくる間も、目を覚ます気配すらなかった。


「これは、ソラがイズミとホウセンに掛けたのとおんなじ昏睡の術だ」

 もう一人を横たえながら、ナナが言った。

「残留してる妖力から見て、多分今夜一晩は起きないと思う」


「明日にはシチビが来るんだっけ?」

「って言ってたな。それまで眠らせるようにしてるんだろう」


 それからもう一人も救出して、再び全員合流。


 私とナナソラ、レオ、それにインピュアズの一人以外、全員気を失っている。丁度半数同士だ。


「あらためてだけど、この子はレオ。インピュアズだけど、なんか友達になったみたい」

 みんなにレオを紹介しておく。


「ああ、ピグから聞いてる。たらし込んだ、って」

「人聞き悪い! 利害が一致しただけよ」


「いや、利害は一致してない。私は手を貸さない、って言ったのに、トアがワガママ言うから付き合ってあげただけ」

 レオが真っ向から否定してきた。


「ほら」

 なぜか得意げなナナだ。

 ――あなたは私の仲間でしょ!


「ともかく! 多分、きっと、まあ今のところは危害を加えてこないと思うから。微妙に安心して良いよ」

「その言い回しは安心させる気ないだろ……」


「まあ実際、戦闘能力ほぼ残ってないし。そこは安心していいよ」

 と、レオ。

「それより二人とも可愛いね。ネコミミとか目の色とか。良ければライン交換しない?」


「はっ?」

「なに言ってるのこの人……」


 ナナもソラもドン引きだ。ざまあみろ。


「……そんなに変なこと言ってるかな?」

「変なことは言ってるでしょ。一応私たち、戦いに来てるんだから」

「トアは受け入れてくれたじゃん! 急に敵に回るのズルくない!? てか最初っからトアはズルいのよ!」

「うっさいな! そんなに言うなら私も交換するのやめるよ!?」

「……みんな冷たい。私は友達欲しいだけなのに……」


 レオがいじけちゃった。

 まあ、話進めたいし。今はいじけさせておこう。


「二人とも、まずはお疲れ様。ペロ、さくら地区のピュアパラはこれで全員?」

「うん。ムツキちゃん含めて、四人全員ペロ」


「ナナ、ソラ、この子達をぽぷら地区のみんなの元に連れて行ってくれる?」

「「分かった」わ」

「その後は、後詰めの役割を変わってあげて欲しい。ぽぷら地区の子達には、さくら地区の子達を保護してもらいたいから」


「後詰め? 目的は達成しただろ? このまま撤収じゃないのか?」


 ナナの質問を後押しするように、ソラも私を疑問の視線で見つめてくる。


「これまで、他の地区がいくつも陥落させられてきたけど……。

 ここはまだ制圧されたばかりで、敵戦力も揃ってない。

 それに、すでに敵戦力をかなり削げてる。


 取り返すなら、今が絶好の機会。

 今を逃したら、他の地区同様、四人しか居ない私たちじゃ手出しできなくなっちゃう」


「……まあ、理屈は分かるけど……」

「でもトアちゃん、ごめんだけど、私しばらく変化できないよ……?」


「分かってる。だからナナ、一度ソラを送ってから、その後で後詰めをお願い」

「待て待て。こっから一人で行くってことか!?」

「うん。大丈夫よ、必殺技あと二回残ってるし」


「無茶だ! まだあと何人残ってるか正確に分かってないのに」


「残ってるのはあと二人。いや、逃げられたの入れれば、あと三人」

 と、そこでレオが――多少元気を取り戻した声で――教えてくれた。

「騎士長って呼ばれてるのと、姫って呼ばれてるの。

 ……ただ、やめておいた方が良い、ってのは私も賛成。

 あの二人は、インピュアズの中でも数段レベルが違うわ」


「なら余計、私一人で行く」


「なっ!?」

「現状、それが一番、勝てる確率高いと思うから」


「あはははっ!」

 笑い声が響き渡る。


 ふとももと金髪が眩しいインピュアズが高笑いしていた。


「流石にヒメちゃんと騎士長を舐めすぎ。

 レオの言う通りよ。あの二人は、私達より遥かに強い。

 ……どこからそんな自信が湧いてるのか知らないけど。

 それは自信じゃなくて、ただの慢心」


「どこからって。多分、ここの一番強い人より、さらに強いであろう人に一応勝ってるから」

「……は?」


 ――まあ、あれはトキアさんの心理状態のお陰もあったけど。

 だとしても、事実は事実。ちゃんと自信の根拠に変えさせていただく。


「……あなたは他の二人を信頼してるから、まだ心も折れずにいるんだね」

「なにを……?」

「前に私が倒したフィアーの妖玉をよく分析したら、負けただけではなく、心折れて諦めたタイミングで自爆するよう仕組まれていた。……あなたたちも同じかは分らないけど」

「妖玉が自爆? そんな……」


 そこで、インピュアズの子がこちらを振り返る。

 目が……左目が、合った瞬間。


 ゾワゾワ、と背筋が粟立った。


「嘘……あなた、左目、それ……」


「ああ、そうだトア。一応共有しておくよ」

 そう切り出して、ナナが二人の状況を説明してくれた。




 二人とも、目に妖玉を埋め込まれていること。

 金髪の少女曰く、それはここのインピュアズ全員であるということ。

 元々は盲学校に通う、盲目、もしくはそれに近い者だったこと。


 妖玉……妖眼を埋め込まれてから、変化中だけ、目が見えるようになったこと。




「……吐き気がするわ。シチビの悪辣さに」

 ソラが珍しく、憎悪のこもった声で呟いた。


「まあ、シチビに悪という認識はないでしょうね」

 と、レオは言う。

「ちょっとした好奇心レベルよ。

 目に妖玉を埋めたらどうなるか?

 目の不自由な者を手駒にしたら、どういう働きをするようになるか?

 シチビにとって人間なんて、実験動物だろうし」


「……あなたはそれが分ってて、シチビに与してるんですか?」

 ソラの、非難するような問い掛け。


「まあ、そうね。

 ……流石に気分良くはないけど……。

 それでも、利害が一致してるうちは、利用させてもらうつもり」


 ソラがレオを睨む。

 レオはそれを微苦笑で受け流す。


 ――少なくとも、ソラとレオが仲良くなる未来は、当分訪れなさそうだ。


「トア、話を戻さない? ……ソラちゃんの視線が痛いや」

 レオが助けを求めるように私を見てきた。


「……そうね。とりあえず今は目の前の問題をなんとかしましょう」


「だな」

「ええ。話逸らしてごめんなさい」


「ううん、大丈夫。レオが悪いんだから」

「……いやまあ、余計なこと言っちゃったって後悔中だけどさぁ……」


 なおもなにかごにょごにょ言ってるけど、とりあえず無視。


「まずは二人の妖玉。

 すぐに自爆しないとしても、このまま放っておけない。

 自爆機能を外しちゃいましょう。

 ナナ、カミソリ貸してくれる?」


 ナナからカミソリを受け取……



「騎術。――我が同志よ、早(クイック・)急に癒えたまえ(ヒーリング)――」



 ろうとした時、そんな声がホール中に木霊こだました。

 瞬間、インピュアズの二人とムツキの体が、淡く光り出す。


「エル! アキラ! ムツキ! こっちよ!」


 そんな呼びかけに振り返ると、エスカレーター脇の柱の横に、見覚えのあるインピュアズが居た。

 ――最初にレオと戦っていた、浴衣の子だ。髪や衣装の一部に、まだ霜や氷が残っている。


「変化っ!」

「変化ぇ!」

「変身!」


 直後、インピュアズの二人が変化の光を放った。


「わっ!?」

 膝元の光に思わず悲鳴を上げるソラ。


「しまった!」

 急いでソラの方に駆け寄るナナ。


 ――私とナナは、今保護した三人と一匹の近く。

 そこから少し離れたホールの中央付近に、ソラと二人のインピュアズ。

 その中間くらいに、ムツキを背負ったレオ。


 ナナは間に合わず、光の中から二人のインピュアズが飛び出して行った。

 二人は浴衣少女のそばに降り立つ。


「ムツキ!」

 浴衣少女が叫ぶ。


 ムツキだけは変身できず、レオに押さえつけられていた。


「流石に、変身できない相手を逃がすほど無能じゃない」

 ムツキの腕を背中に回させて取り押さえるレオ。


「くっ、エリン! どこ行った!」


 ――所有者に呼ばれて、ポケットの中のタマハガネが揺れた気がした。


「ムツキ、くそっ!」

 ランスを具現化しながら、インピュアズの一人がこちらを睨む。


「待って! 早急治癒だから、戦えるほど回復できてない。今挑むのは無茶よ!」


「だけど副騎士長! ムツキが戻らなかったら、ヒメちゃん悲しむ!」

 大剣を手にして、もう一人のインピュアズが浴衣少女に抗議する。



「あなたたち二人まで居なくなる方がヒメは悲しむでしょ!」

 副騎士長と呼ばれた浴衣少女は、訴えるように吼えた。



 浴衣少女に圧倒されて、ピタリと動きを止める二人。


 そこでレオが刀を手に持つ。

 逆手さかてにして、切っ先をムツキの首元に当てた。


「そこの三人動くな。動けばこの女の無事は保証しない」


 三人のインピュアズが顔を青くしてレオを見る。

「この、卑怯者っ!」


「私は捨てて行きなさい! インピュアズのあなたたちが戻るべきよ!」

 そこでムツキも叫んだ。

「私なんかより、あなたたちの方がずっと役に立ってるんだから……」


「バカヤロウ! そりゃムツキは私らより弱いし、性格も悪いし、ドSだけど、ヒメと生まれた頃からの付き合いだろ!

 悲しむ度で言ったら、桁違いじゃねえか!

 それに、私だって……」


 言いながら、ランスの少女は涙目になってくる。


「待って。勘違いしないで」

 私は一歩前に出た。

「私たちはこの地区のピュアパラを助けに来たの。危害を加える気は一切無い」


 次にレオを振り返る。

「レオ、刀を下ろして。まだそれをその子に向けるなら、私は先にあなたを倒さなきゃいけない」


「……君たちのために、こんな真似してるんだけどなぁ」

「それも分かってる。気持ちはありがとう。でも、その行為だけは許せない」

「分かったよ。どうも、さっきから余計な言動しちゃうみたいね」


 レオが刀を下ろす。


「ありがとう」


「今はヤツの言うこと信じるよ! 撤退だ!」

 言うや否や、浴衣少女が妖力の塊を放つ。

 

 私たちとの丁度中間に落ちたそれは、閃光を放って爆発した。


「ムツキ! ちゃんと回復したら、必ず助けに行くからな!」

 ランス少女の声が、遠くなっていく。


「……見捨てろ、って言ってるでしょ。バカアキラ」

 ムツキの小声は、きっと向こうには届かなかっただろう。


 閃光が晴れたあと、三人は姿を消していた。


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