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レオの紹介もそこそこに、まずは捕らえられているピュアパラたちを助け出す。
ナナと二人で、ケージに鎖で結ばれている彼女達を解放。
ウィンドウに貼られてた値札は剥がしておいた。
店内の鳥かごの中には、精霊も気を失って閉じ込められていた
ペロ曰く、さくら地区の精霊、ポムだそうだ。
「息はあるけど、大丈夫かな……」
ホールに運んできた子と精霊を見下ろしながら言う。
ここまで運んでくる間も、目を覚ます気配すらなかった。
「これは、ソラがイズミとホウセンに掛けたのとおんなじ昏睡の術だ」
もう一人を横たえながら、ナナが言った。
「残留してる妖力から見て、多分今夜一晩は起きないと思う」
「明日にはシチビが来るんだっけ?」
「って言ってたな。それまで眠らせるようにしてるんだろう」
それからもう一人も救出して、再び全員合流。
私とナナソラ、レオ、それにインピュアズの一人以外、全員気を失っている。丁度半数同士だ。
「あらためてだけど、この子はレオ。インピュアズだけど、なんか友達になったみたい」
みんなにレオを紹介しておく。
「ああ、ピグから聞いてる。たらし込んだ、って」
「人聞き悪い! 利害が一致しただけよ」
「いや、利害は一致してない。私は手を貸さない、って言ったのに、トアがワガママ言うから付き合ってあげただけ」
レオが真っ向から否定してきた。
「ほら」
なぜか得意げなナナだ。
――あなたは私の仲間でしょ!
「ともかく! 多分、きっと、まあ今のところは危害を加えてこないと思うから。微妙に安心して良いよ」
「その言い回しは安心させる気ないだろ……」
「まあ実際、戦闘能力ほぼ残ってないし。そこは安心していいよ」
と、レオ。
「それより二人とも可愛いね。ネコミミとか目の色とか。良ければライン交換しない?」
「はっ?」
「なに言ってるのこの人……」
ナナもソラもドン引きだ。ざまあみろ。
「……そんなに変なこと言ってるかな?」
「変なことは言ってるでしょ。一応私たち、戦いに来てるんだから」
「トアは受け入れてくれたじゃん! 急に敵に回るのズルくない!? てか最初っからトアはズルいのよ!」
「うっさいな! そんなに言うなら私も交換するのやめるよ!?」
「……みんな冷たい。私は友達欲しいだけなのに……」
レオがいじけちゃった。
まあ、話進めたいし。今はいじけさせておこう。
「二人とも、まずはお疲れ様。ペロ、さくら地区のピュアパラはこれで全員?」
「うん。ムツキちゃん含めて、四人全員ペロ」
「ナナ、ソラ、この子達をぽぷら地区のみんなの元に連れて行ってくれる?」
「「分かった」わ」
「その後は、後詰めの役割を変わってあげて欲しい。ぽぷら地区の子達には、さくら地区の子達を保護してもらいたいから」
「後詰め? 目的は達成しただろ? このまま撤収じゃないのか?」
ナナの質問を後押しするように、ソラも私を疑問の視線で見つめてくる。
「これまで、他の地区がいくつも陥落させられてきたけど……。
ここはまだ制圧されたばかりで、敵戦力も揃ってない。
それに、すでに敵戦力をかなり削げてる。
取り返すなら、今が絶好の機会。
今を逃したら、他の地区同様、四人しか居ない私たちじゃ手出しできなくなっちゃう」
「……まあ、理屈は分かるけど……」
「でもトアちゃん、ごめんだけど、私しばらく変化できないよ……?」
「分かってる。だからナナ、一度ソラを送ってから、その後で後詰めをお願い」
「待て待て。こっから一人で行くってことか!?」
「うん。大丈夫よ、必殺技あと二回残ってるし」
「無茶だ! まだあと何人残ってるか正確に分かってないのに」
「残ってるのはあと二人。いや、逃げられたの入れれば、あと三人」
と、そこでレオが――多少元気を取り戻した声で――教えてくれた。
「騎士長って呼ばれてるのと、姫って呼ばれてるの。
……ただ、やめておいた方が良い、ってのは私も賛成。
あの二人は、インピュアズの中でも数段レベルが違うわ」
「なら余計、私一人で行く」
「なっ!?」
「現状、それが一番、勝てる確率高いと思うから」
「あはははっ!」
笑い声が響き渡る。
ふとももと金髪が眩しいインピュアズが高笑いしていた。
「流石にヒメちゃんと騎士長を舐めすぎ。
レオの言う通りよ。あの二人は、私達より遥かに強い。
……どこからそんな自信が湧いてるのか知らないけど。
それは自信じゃなくて、ただの慢心」
「どこからって。多分、ここの一番強い人より、さらに強いであろう人に一応勝ってるから」
「……は?」
――まあ、あれはトキアさんの心理状態のお陰もあったけど。
だとしても、事実は事実。ちゃんと自信の根拠に変えさせていただく。
「……あなたは他の二人を信頼してるから、まだ心も折れずにいるんだね」
「なにを……?」
「前に私が倒したフィアーの妖玉をよく分析したら、負けただけではなく、心折れて諦めたタイミングで自爆するよう仕組まれていた。……あなたたちも同じかは分らないけど」
「妖玉が自爆? そんな……」
そこで、インピュアズの子がこちらを振り返る。
目が……左目が、合った瞬間。
ゾワゾワ、と背筋が粟立った。
「嘘……あなた、左目、それ……」
「ああ、そうだトア。一応共有しておくよ」
そう切り出して、ナナが二人の状況を説明してくれた。
二人とも、目に妖玉を埋め込まれていること。
金髪の少女曰く、それはここのインピュアズ全員であるということ。
元々は盲学校に通う、盲目、もしくはそれに近い者だったこと。
妖玉……妖眼を埋め込まれてから、変化中だけ、目が見えるようになったこと。
「……吐き気がするわ。シチビの悪辣さに」
ソラが珍しく、憎悪のこもった声で呟いた。
「まあ、シチビに悪という認識はないでしょうね」
と、レオは言う。
「ちょっとした好奇心レベルよ。
目に妖玉を埋めたらどうなるか?
目の不自由な者を手駒にしたら、どういう働きをするようになるか?
シチビにとって人間なんて、実験動物だろうし」
「……あなたはそれが分ってて、シチビに与してるんですか?」
ソラの、非難するような問い掛け。
「まあ、そうね。
……流石に気分良くはないけど……。
それでも、利害が一致してるうちは、利用させてもらうつもり」
ソラがレオを睨む。
レオはそれを微苦笑で受け流す。
――少なくとも、ソラとレオが仲良くなる未来は、当分訪れなさそうだ。
「トア、話を戻さない? ……ソラちゃんの視線が痛いや」
レオが助けを求めるように私を見てきた。
「……そうね。とりあえず今は目の前の問題をなんとかしましょう」
「だな」
「ええ。話逸らしてごめんなさい」
「ううん、大丈夫。レオが悪いんだから」
「……いやまあ、余計なこと言っちゃったって後悔中だけどさぁ……」
なおもなにかごにょごにょ言ってるけど、とりあえず無視。
「まずは二人の妖玉。
すぐに自爆しないとしても、このまま放っておけない。
自爆機能を外しちゃいましょう。
ナナ、カミソリ貸してくれる?」
ナナからカミソリを受け取……
「騎術。――我が同志よ、早急に癒えたまえ――」
ろうとした時、そんな声がホール中に木霊した。
瞬間、インピュアズの二人とムツキの体が、淡く光り出す。
「エル! アキラ! ムツキ! こっちよ!」
そんな呼びかけに振り返ると、エスカレーター脇の柱の横に、見覚えのあるインピュアズが居た。
――最初にレオと戦っていた、浴衣の子だ。髪や衣装の一部に、まだ霜や氷が残っている。
「変化っ!」
「変化ぇ!」
「変身!」
直後、インピュアズの二人が変化の光を放った。
「わっ!?」
膝元の光に思わず悲鳴を上げるソラ。
「しまった!」
急いでソラの方に駆け寄るナナ。
――私とナナは、今保護した三人と一匹の近く。
そこから少し離れたホールの中央付近に、ソラと二人のインピュアズ。
その中間くらいに、ムツキを背負ったレオ。
ナナは間に合わず、光の中から二人のインピュアズが飛び出して行った。
二人は浴衣少女のそばに降り立つ。
「ムツキ!」
浴衣少女が叫ぶ。
ムツキだけは変身できず、レオに押さえつけられていた。
「流石に、変身できない相手を逃がすほど無能じゃない」
ムツキの腕を背中に回させて取り押さえるレオ。
「くっ、エリン! どこ行った!」
――所有者に呼ばれて、ポケットの中のタマハガネが揺れた気がした。
「ムツキ、くそっ!」
ランスを具現化しながら、インピュアズの一人がこちらを睨む。
「待って! 早急治癒だから、戦えるほど回復できてない。今挑むのは無茶よ!」
「だけど副騎士長! ムツキが戻らなかったら、ヒメちゃん悲しむ!」
大剣を手にして、もう一人のインピュアズが浴衣少女に抗議する。
「あなたたち二人まで居なくなる方がヒメは悲しむでしょ!」
副騎士長と呼ばれた浴衣少女は、訴えるように吼えた。
浴衣少女に圧倒されて、ピタリと動きを止める二人。
そこでレオが刀を手に持つ。
逆手にして、切っ先をムツキの首元に当てた。
「そこの三人動くな。動けばこの女の無事は保証しない」
三人のインピュアズが顔を青くしてレオを見る。
「この、卑怯者っ!」
「私は捨てて行きなさい! インピュアズのあなたたちが戻るべきよ!」
そこでムツキも叫んだ。
「私なんかより、あなたたちの方がずっと役に立ってるんだから……」
「バカヤロウ! そりゃムツキは私らより弱いし、性格も悪いし、ドSだけど、ヒメと生まれた頃からの付き合いだろ!
悲しむ度で言ったら、桁違いじゃねえか!
それに、私だって……」
言いながら、ランスの少女は涙目になってくる。
「待って。勘違いしないで」
私は一歩前に出た。
「私たちはこの地区のピュアパラを助けに来たの。危害を加える気は一切無い」
次にレオを振り返る。
「レオ、刀を下ろして。まだそれをその子に向けるなら、私は先にあなたを倒さなきゃいけない」
「……君たちのために、こんな真似してるんだけどなぁ」
「それも分かってる。気持ちはありがとう。でも、その行為だけは許せない」
「分かったよ。どうも、さっきから余計な言動しちゃうみたいね」
レオが刀を下ろす。
「ありがとう」
「今はヤツの言うこと信じるよ! 撤退だ!」
言うや否や、浴衣少女が妖力の塊を放つ。
私たちとの丁度中間に落ちたそれは、閃光を放って爆発した。
「ムツキ! ちゃんと回復したら、必ず助けに行くからな!」
ランス少女の声が、遠くなっていく。
「……見捨てろ、って言ってるでしょ。バカアキラ」
ムツキの小声は、きっと向こうには届かなかっただろう。
閃光が晴れたあと、三人は姿を消していた。
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