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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
序章 はじまりはじまり
5/77

5

 目を開けると、境世界に戻ってきていた。


 正面には、気を失ったカリンさん。そして彼女を左手で抱えながら、シラハさんがガーゴイルと戦っている。


 私の横では、ペロが驚いた様子でこちらを見ていた。


「トアちゃん、その姿……」


 着てきたパジャマとジャケットはどこへやら。

 今の私は、二人と似たデザインの黒い衣装を着ていた。襟元や袖口に暗い赤が差し色で入っている。


 さっきまでスォーに触れていた右手に、薙刀に似た武器が握られていた。

 私の身長以上の柄、それをさらに超える巨大な刃。

 刃は本来付いている部分から大きくせり出して、柄の中程まで伸びている。まるでレイピアの護拳部分のように。


 刃の背には三つの羽のような赤い結晶が等間隔に生えている。


 女性どころか人間には巨大すぎるその武器は、けれど片手でも全く重さを感じない。


 服も武具も、前世で私が持っていた物とどことなく雰囲気が似ていた。……服は少々露出度高い気もするけど。

 スォーが「主様にふさわしい形で顕現」と言っていたし、そういうことなのだろう。


 まだまだ有り余っている魔力が、右手の武器に宿ってパチパチッ、と小さな黒雷を散らせる。


 空に居るガーゴイル達の視線がこちらに向いた。


 が、シラハさんと戦っているガーゴイルはまだ気付いていない。


 一歩踏み出す。

 体は嘘のように早く、軽く動いてくれた。


 勢いのまま、ガーゴイルを両断。


(おおっ! 凄い、この体でこんな速さで動けるなんて)

(お気に召していただき何よりです)

 心で思ったことにスォーが返事してくる。


 ズズンッ、と重い音を立ててガーゴイルの上半身が地面に落ちた。


 空に居るガーゴイル達の動揺が、地面に居ても良く見て取れる。

 ついでに、シラハさんの視線も。


 空を見上げる。

「うーん、ざっと200、ってとこかな?」

(正確には216体ですね)

「行ける?」

(無論です。私と主様なら取るに足りません)

「じゃ、平和のために戦いますか」

(御意に)


「gggqqqyyyyyiiiiii!」


 ガーゴイルの群れが流星のように落ちてきた。


 跳躍。

 先ほどのカリンさん達を真似て、空を飛ぶ。


(空中機動は慣れないうちは調整が難しいかもしれません。お気を付けください)

(私を舐めすぎよ)

(し、失礼いたしました……)


 空を飛ぶなんて前世で散々こなしてきた。

 この程度の数のガーゴイルに劣るほど、空中戦の感覚は衰えていない。


「蹂躙するつもりで来たんでしょうけど、残念ね。蹂躙されるのは、お前達よ」


 流星群とのすれ違いざま、先頭の八体を一振りで斬り捨てた。




 200体の殺意、敵意、悪意、警戒、観察……

 一身にそれらを浴びるのが、懐かしい。


 戦いなんて嫌いだけれど。

 戦うことでしか、平和を掴み取れなかった。

 だから、毎日戦い続けてきた。その先に、皆が笑える世界が待っていると信じて。


 つまり戦場は、いつしか私の精神的故郷になっていたのかもしれない。


「まあ、良いけどね」


 少なくとも、まだ生まれて十数年の少女達に背負わせるより、百万倍マシだ。


「……この世界の未来ある子供を傷つけた罪は、償って貰う」

 ――お前達全員の、命で(もっ)て。


 ガーゴイルを睨む。

 と同時に、前後左右と上下、計六体の一斉攻撃。


 次の瞬間、その六体はバラバラになって吹き飛んでいった。


(まさか、武器である私自身が、動きを知覚できないなんて……)

「知覚? 出来るわけ無いでしょう? 私を誰だと思ってるの」

(大変失礼しました。あまりにも、想像の埒外(らちがい)過ぎて……)

「まあ、この体でこんなに速く動けるのはあなたのお陰でもあるから。足手まといにならない程度に付いてきなさい」

(その点は心配ご無用でございます。どうぞ、存分に使ってくださいませ)


 さっきから先手取られてるのが若干イラつくので、今度はこちらからガーゴイルの群れに跳び込んでいくことにした。



   †



「ふう……」


 あれから十五分くらい経ったか。

 流石に少し、疲れてきた。


 魂の方はともかく。体の方は空飛ぶなんて初めてだし、実戦すら初めてだ。

 薙刀の試合と違って振り抜いて両断しなければいけないし、何もかもわけが違う。

 魔力を使うことにも慣れていなければ、そもそも魔力を使うような構造をしてない。その負荷も大きい。


 ガーゴイル達があれ以来警戒して突っ込んでこなくなっちゃったから、そのせいで余計時間も掛かった。


 でもまあ、なんとか残りは一体。


「gguuuuuuuuuuu……」

 

 他のガーゴイルより大きな個体が、唸ってこちらを睨んでいる。ひときわ巨大な矛を両手で持っていた。


 ガーゴイル・キングと呼ばれる種族である。文字通り、ガーゴイルを指揮する個体の総称だ。


「親玉さん、やっと会えたわね」


「ruoooooooooooooooooooooooooo!!!」


 咆哮。

 ガーゴイル・キングの皮膚は岩のように硬い。今の私では、一撃で落とせないだろう。


 スォーに知覚できないと言わしめた動きも、今は疲れで僅かに鈍い。

 とはいえ、数発当てれば倒せるだろうけど……。


(主様。必殺技の発動を提案いたします)

(……必殺技?)

 予想外な言葉が出てきて、オウム返ししちゃう。


(刃の背に付いている結晶、核羽(カクバネ)を消費して高威力の一撃を放てます)

(へぇ)

(ただこれは、一日に三回しか打つことが出来ません)

(あっ、この結晶か。確かに三つだね)

 薙刀に生えている結晶を見る。

 ――ごめんスォー、てっきりオシャレだと思ってたわ……


(いかがいたしましょう?)

(いいわね。発動して)

(御意)


 刀身と結晶が淡く、黒い輝きを灯し始める。


(ピュアパラの必殺技は、その名の詠唱が必要になります)

(そういえばシラハさんも、なにか唱えながら撃ってたね)


(ご唱和ください。我らが必殺技、その一撃目――)



「輝け。――原初の衝撃(ファースト・ブレット)――」



 パキンッ、と音を立てて一番手前の核羽が砕けた。

 瞬間、刀身を覆う黒い光が増大。まるで刃が二倍以上に膨れ上がったかのように。


 黒光は、周囲を黒く照らすという原理的にあり得ない異次元を生み出す。


 空中を蹴って、一瞬でガーゴイル・キングの懐に。

 横薙ぎに振るわれた矛ごと、その胴体を斬り付けた。


 薙刀を振り切ると、ガーゴイル・キングの堅固な皮膚は豆腐のように裂けていた。


「うん、良い切れ味」

(ありがとうございます)


 ガーゴイル・キングとすれ違い。


 私は薙刀を持ち直し、右腕一本で血を振り落とす。

 それを肩に担ぐと同時に、ガーゴイル・キングの体は黒い光に包まれ、爆発した。




「……あのさ。技名言うのなんとかならない? ちょっと恥ずかしいんだけど」

(タマハガネの必殺機構は、所有者の音声認識必須でして……。申し訳ありません)

「作った人はなんでそんなの必須にしたのよ……」


 不正利用防止? だとしても他にやり方あるでしょ!



   †



 そこにペロがふわふわと飛んできた。


「トアちゃん、本当に魂鋼に認められたペロね……。凄いなんて言葉じゃ済まないペロ……」

「ん? まあ『今は言うことを聞け』って言って来たから、後でどうなるかは分からないけどね」

「……? そんなことあるペロ?」


「ともかく、『溢れ』って言うのはこれで終わり?」

「うん、今ので全部ペロ! 凄いペロ! ありがとうペロ!」


 一段落したのは良いことだ。

 けど、ガーゴイルは召喚獣としては一般的。最下層とは言わないが、ありふれた魔獣である。


「……これまで、ガーゴイルが出てきたらどうしてたの?」

 カリンさんとシラハさんの攻撃力では、どう上手く立ち回っても一体倒せるかどうかだ。


「これまでもなにも、ガーゴイルなんて滅多に出ないペロ。あんなに多くのガーゴイルを見たの、ボクは初めてペロ」

「そうなんだ……」


 ということは、妖魔はこれまで何らかの理由でガーゴイルやガーゴイル・キングを送り込めなかった、ということ……?

 でも今日になって送り込めたなら、明日からもまた送り込んでくる可能性は否定できない。


 遠くに霞む塔へ視線を向ける。

 ペロは「『塔』と呼ばれる拠点に居る妖魔が一気に出てくること」を『溢れ』と言っていた。


 恐らく、あの塔は魔界からの転送装置なのだろう。

 そしてその転送装置は、徐々に強力な魔獣を転送できるようになってきているのかもしれない。


「ペロ」

「なにペロ?」

「このタイミングで私を見いだしたのは、ファインプレイだったかもね」

「ボクもそう思ってたところペロ」


 お互いを見合う。

 そしてどちらからともなく、小さく声を出して笑い合った。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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