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~Interlude 【ナナ 4】~
「反則よ。やっと、明るい未来が見えたと思ったのに。なんで、アンタたちみたいなバケモノに襲われなきゃいけないの……」
倒れた少女に歩み寄ると、そう言われて睨まれた。
「そりゃ、その明るい未来がまやかしだったからだろ」
私がそう言うと、大剣少女は右目からポロポロと涙をこぼし始める。
「シチビは、そういうヤツだよ。お前らの未来なんか考えてない。アイツは徹頭徹尾、自分のことだけだ。
……そんなヤツに付いていっても、幸せになんかなれねえよ」
「そんなこと言われたって。仕方ないじゃない。
……現代医療じゃ無理、って言われてた私たちの目を治せたのは、シチビの妖眼だけだったんだから」
「……目?」
大剣少女は、その右目を右手で覆って。
……けれど口は大きく開き、笑って見せた。
「それでも、ヒメちゃんなら……。騎士長なら。
勝ってくれる。
残念ね。あの二人は、規格外よ。
私たちなんかじゃ足下に及ばないんだから」
「……そうかよ」
さらに歩み寄る。そろそろ、互いの射程範囲内。
一応、まだ不意打ちを警戒しておく。
「ねえ。私たちを殺すの?」
「んなことしねえよ。私らのボスは、そういう主義なんで」
「……お願い。アキラだけは助けて」
「話聞けってば……」
「……信用できるわけ無いでしょ。敵の言うことなんて」
「そりゃごもっともだが」
ソラの方を見る。
ソラもランス少女も変身を解いていた。
気を失っているランス少女を膝枕しながら、ソラはこちらを見ている。
「……ま、殺そうって相手を膝枕してやらねえわな」
私の言葉に、大剣少女もソラの方を見た。
「……甘いわね。ここが敵地だって、分かってないのかしら」
「正直同感だ。でも、トアもソラもそれが信条なんでね。
私は付き合うだけさ」
大剣少女が変化を解く。……というか、勝手に解けたようだった。
「……あなたも充分、『誰かのため』に生きてるじゃない……」
「ははっ、耳が痛いな」
言い返せない代わりに、私は車輪を消した。
そのまま少女を抱え上げる。いわゆるお姫様だっこで。
「かっる!? おいおい、ちゃんと食った方が良いぞ」
「耳元でやかましい……」
そのまま、ソラとランス少女の方に向かった。
「にしても、めちゃくちゃ美人だな。ハーフ? 髪も地毛だったのか」
「……別に。よく言われるけど、私たちに見た目なんて関係ない」
「そういや、目がどうこう言ってたな」
「私たちは、全員同じ盲学校に通ってる同士よ」
「……マジか」
「半年くらい前、シチビが現れて、妖眼をくれた。
それ以来、みんな変化すれば目が見えるようになった。
……その感動は、きっとあなたには理解できないでしょうね」
「その感動は理解できねえけど……。まあ、シチビに救われた気になるのは、理解できるぜ」
?を浮かべる少女には答えず、ソラ達と合流した。
「で? なんで敵を膝枕してんだ?」
ソラを見下ろして尋ねる。
「いやだって、床にそのまま寝かせるのも可哀想だし……」
ソラが言い訳するように答えて、ランス少女を見下ろした。
変身が解けて秋物のワンピース姿のランス少女は、可愛らしい寝顔で気を失っていた。
「私も変化が解けちゃったから、ナナの加勢にも行けなかったし」
「そりゃあんな技撃ったら妖力尽きるだろ。もうちょい考えろって」
「私だって必死だったの! しょうがないじゃん……」
大剣少女を下ろす。
少女はソラの前でアヒル座りになって、一心にランス少女を見つめていた。
「とりあえず私はピュアパラ助けてくる。なんかあったら大声で……」
「二人とも無事!?」
と、そこで大音響が聞こえてきた。
振り返ると、北側の空中からトアと、もう一人、質素な衣装のインピュアズが降りてくるところだった。
†
――時間は少し戻って、ナナやソラと合流するちょっと前――
私の一撃で、ムツキと呼ばれた子は昏倒した。
……元々は、親友か対等ランク。無理矢理ランクを引き上げても、完全隷属の私には及ばない。
「流石に差がありすぎたね」
横で見てたレオが言う。
「レオ。この子外に連れて行きたいんだけど。手伝ってくれる?」
「……友達使い荒いんだから……」
苦笑しつつも、こちらに近付いてくれるレオ。
と、そこでペロがピンッ、と両耳を真上に突き立てた。
「トアちゃん! 二人が他のピュアパラを発見したらしいペロ!」
「本当?」
「今、インピュアズと交戦……。ソラちゃんがトアちゃんを呼んでるらしいペロ」
「分かった。南側よね?」
「うん。南の端っこペロ」
「南か。ここからだと迂回しないと、エスカレーター通じてないよ」
「飛んで行けばいいのよ」
と、そこでムツキの変身が解けた。
再びタマハガネのアバターと、ムツキの二人に分離する。
アバターの子は私とレオ、それにムツキを見比べて、オドオドと身を縮こまらせた。
「あなた、お名前は?」
しゃがみ込んで、そう尋ねる。
「……識別名、エリンです」
舌っ足らずな高い声で答えてくれた。
「エリン。私はあなたたちを助けに来たの。他のピュアパラも助けるから、今はタマハガネになっててくれる?」
「は、はい。分かりました」
「大丈夫。しばらくはあなたの所有者に持たせないようにするから」
「……ありがとう、ございます」
エリンがタマハガネに姿を変える。
それを拾って、ポケットに入れた。
「よっ、と」
掛け声と共にレオがムツキを背負った。
「んじゃ、行こうか」
「ありがと」
「流石に私が背負った方がいいでしょ。身長的にも」
「助かるよ。友情ポイントプラス1ね」
「ポイント制の友情やだなあ……」
「10貯まったら次は『ちょっと親しい友達』にランクアップできるから。頑張って♪」
「その制度は大幅な見直しを要求する!」
なんて言い合いながら、私たちは床を蹴って飛び上がる。
「こっちペロ」
ペロに先導され、南側に向かう。
そして南側の吹き抜けが見えた、瞬間――
「「……えっ!?」」
私とレオの声が同時に重なった。
突然、吹き抜けの天井ギリギリまで、巨大な火柱が吹き上がり……
直後、大爆発を起こした。
「きゃああああああっ!?」
「わあああああああっ!?」
「ペロォォォォォォッ!?」
急な衝撃に、私たち全員散り散りに吹き飛ばされる。
爆風に煽られながら、なんとか二階の回廊に着地。
と、空中でレオがムツキを手放してしまうのが見えた。そのままレオは右方向へ、ムツキは左方向へ飛ばされていく。
「間に合え!」
左に跳躍。
ムツキが壁にぶつかる直前、なんとか受け止めることに成功した。
背中を壁にぶつけつつ、ゆっくりと降下。回廊の上に降り立った。
「トアちゃん、大丈夫ペロ……?」
毛並みがボサボサになったペロが、私の元にフワフワと近付いてくる。
「こっちはなんとか。ペロ、全身凄いことにになってるよ」
ペロがブルブルッ、と全身を震わせて毛並みを戻した。……そんなことできるんだ。
「今の一体何だったペロ……? 敵の罠魔法? にしては強力すぎたペロ……」
「多分、ソラの技だと思う」
「ソラちゃんの!?」
「うん。炎の色と、混じってる妖力が、ソラのだったから」
「……人間が扱える威力じゃないペロ……」
「そう? 私と戦った時も、割と常識外れだったけど……。あ、その時ペロ居なかったか」
「……ソラちゃんも異常だけど、それに勝ったトアちゃんの異質さもとんでもないペロ……。今更だけど」
「今の話、本当?」
と質問しながら、吹き抜けの下からレオが飛んできた。
「嘘言っても仕方ないでしょ。味方のことなんだし」
「……だとしたら、失敗作どころか、大大大成功作じゃない。
ふふっ、シチビのヤツ、勘違いでとんでもない逸材逃したみたいね」
「……楽しそうね。レオにとっても敵になると思うんだけど」
「いやまあそうなんだけど。シチビが泡を吹かすんならそれもヨシ」
――仲が良いのか。それとも、本当に疎ましく思ってるのか。半々なのかもしれない。
「預かるわ」
言って、レオが私の手からムツキを抱き上げる。
「ペロ、向こうの様子聞いてくれる?」
「うん。
…………
ソラちゃんと戦った一人は昏倒して変化解除。ソラちゃんも、妖力欠乏で変化が解けたらしいペロ。
ナナちゃんは……、まだもう一人と戦闘中とのことペロ」
「分かった、なら急ぎましょう」
ソラが無防備となると、もしナナが負けたらソラも危険だ。
「お待たせ、私も飛んで大丈夫」
ムツキをしっかり両腕と背中でホールドして、レオが言ってくれる。
再び二人と一匹、それと背中の一人でモール内を飛ぶ。
そしてほどなくして、南側に到達。ナナとソラと合流した。
「二人とも無事!?」
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