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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
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7

Interlude(インタールード) 【ナナ 3】~



「っ、らあ!」

「くっ!?」


 大剣対車輪、四撃目。

 互いに必殺技を乗せ合った攻撃は、四度よたび、相手に届かず弾き合うに留まる。


(崩せねえ……)


 これが妖眼によるパワーアップの恩恵なのか。あるいは初撃の油断がなくなったからか。


 私と大剣少女の戦いは、完全に均衡状態だ。


「……まさか、ここまでとは……」

 一方、大剣少女の方も焦りが見える。


 妖眼でもっと早く勝負を付けるつもりが、予想以上に長引いてる……ってところか。


「……邪魔くさいわね、この火……」

 苛立たしそうに床の火を蹴って消そうとする。

 が、ちょっと揺らぐだけで、火は燃え続けていた。


「うちの妹が悪いね。場所変えるか?」


 そう提案すると、大剣少女の視線が一瞬、ランス少女に向く。

 そちらでは、ソラがランス少女にゆっくりと近付いているところだった。何か話してるようだが、聞き取れない。


「……失敗作だと聞いてたけど。あなた、全然強いじゃない。他人の情報なんて、信じるもんじゃないわね」


「他人の情報もだし、自分の先入観もだな。

 で? 降参でもしてくれるのか?」


「まさか」

 大剣を真横に構える。

「そっちこそ、私に一撃も与えられてない」


「ま、確かに」

 ――妖眼とやらの力なのか。大剣がなかなか逸らせない。


 ……だったら、まあしゃあない。

 直接、ぶつけ合うしかないってわけだ。


 床で燃え続ける火に車輪を当てた。


 刃に燃え移る。それは回転の摩擦で、見る見る大きな炎に成長していった。


「的がでかいのは変わらない。

 単純な破壊力なら、こっちが上。

 一回でも直撃できりゃ、私の勝ち……のハズ」


 ――トアみたいに完璧に回避されたら厳しいけど。

 まあ、あれはトアが異常すぎただけだ。


「……ヒメちゃんの邪魔はさせない」

「トアとソラが邪魔するって言ってるんだから、そりゃ無理だ」


 大剣少女は肩幅に足を広げ、剣を真横に掲げた。

 妖眼を中心に、妖力の渦が巻き起こる。ソラの火が吹き消されていく。



「騎剣。――あの方に(プレシャス・)齎せ、尊い(オーディナリィ・)幸せの……(グレート……)




 瞬間、周囲が真っ白になった。

 凄まじい爆発。まるで打ち上げ花火の真下に居るみたい。


 一瞬、大剣少女の攻撃か、と焦るが……

「きゃああああっ!」

 目の前から悲鳴が聞こえてきて、違うと分かった。


「なんだ……?」

 爆心地の方を見る。


 降り注ぐ炎の雨。

 と、一緒に落ちるランス少女。服は焦げて、袴スカートの大半が燃えている。

 慌てたように、そちらへ駆け寄るソラ。


「……ソラがやった……のか……?」


 間に合ったソラが、ランス少女を受け止めた。

 そこから少し離れたところに、ランスが落ちて突き刺さる。


(無茶苦茶強くなってるんですけど、うちの妹)

 それとも私が知らなかっただけで、最初からこれくらいできたのか……?


 気付くと、大剣少女も同じくソラ達の方を見ていた。

 そして視線を切って、再び私に剣を構える。


「……心配じゃないのか。あのランスの女、黒焦げだったぞ」


「心配したって、しょうがない」

 大剣少女が私を睨む。……とても、しょうがなくなさそうに。

「今のアキラは、自分が心配されたって全く喜ばない。

 私が駆け寄ったら、怒られるだけ。

 だから、私はあなたを倒す。……アキラのためにもね」


「そうかい。薄情だな」


 大剣少女のまなじりが釣り上がる。


「……何も知らないくせに、私たちの関係決めつけないで」

「んなこと言われたって、知るわけ無いだろ」


「あの子は、ヒメちゃんのために全部をかなぐり捨てた。

 最初は、声も小さいし、どんくさいし、ウジウジしててキライだったけど。

 ……今は、尊敬っていう点では、ヒメちゃんより誰より、尊敬してる」


「……へえ」

「ヒメちゃんの夢を叶える――それを叶えたい、っていうアキラの願いを叶えるのが、私の夢よ。もちろん、私もヒメちゃんのこと好きだから」


「……そうかい。大変だな、アンタも」

 車輪の回転数を上げる。

「トアやソラもそうだけど。よく、他人を背負って戦えるな。

 私には、正直良く分からん。

『誰かのため』なんて動機、私はとてもじゃないけど、続く気がしない」


「じゃあ、あなたはなんのために戦ってるの?

 それ次第じゃ私たち、仲良くできるかしら?」


「私はただ、シチビをぶん殴ってやりたいだけだ。

 それを邪魔するアンタたちとは、多分仲良くなれねえよ」


「……シチビを、ね。確かに、それはまだ、困る」

「だろ?」

「じゃあ、仕方ないか」

「ああ、仕方ねえ」


 私たちの話し声がやむ。

 周囲の小火ぼやが燃える音と、私の車輪が回る音。


 ふぅ、と大剣少女が大きく息を吐いた。


「五度目の正直。今度こそ、その車輪、粉々に斬り裂く――!」

 再び足を肩幅に広げ、大剣を真横に。


「ピュアパラなんか、シチビに最も与えちゃいけねえもんだ。アイツにピュアパラ渡すってなら、アンタも許しちゃおけねえ!」

 上段に車輪を掲げた。



「騎剣。――あの方に(プレシャス・)齎せ、尊い(オーディナリィ・)幸せの剣(グレート・ソード)――!」



「踊ってくるえ。――アルフゲリウスの車輪――!」



 ソラの火を借りた私の車輪が、最高速で回り出す。

 火はさらに燃え盛って炎になり……やがて、周囲を照らすトーチになる。


 回転しながら燃えるそれは、きっと太陽に似ていた。


 対して。

 炎の明かりに抗うように、大剣は黄色く激しく光っている。


 赤い火と、黄色い

 激突して、互いを貪り合う。



   †



 それからもさらに、二度、三度、四度五度と、撃ち合いが続いた。

 互いに互いの必殺技に対して、致命的な一撃が与えられずに居る。


 ――そうして撃ち合いながら、ふと思った。


(……前までだったら、とっくに私は負けてるよな)


 特に、開眼されて以降は刃が立たなかったはずだ。

 でも、今は普通に戦えてる。

 なんなら、ちょっと私の方が優勢気味。


 このプレシャスなんちゃらソードも、前までの必殺技じゃ相手にならなかったはず。

 でもさっき、こうして互角以上に撃ち合える必殺技が、自然と脳裏に浮かんできた。


(私も、強くなってる……?)

 ――まあ、ソラは強くなりすぎだけど。


 キィン、と金属同士が弾かれる音がして、大剣少女が距離を取った。

 肩で息をして、それでも私を睨んでいる。


(……コイツらの言うとおり、妖眼は心臓にあるより強いと思う。私たちのこと旧式、って言ってたのも、その通りなんだろう……)


 でも、だとしたらどうして、ソラも私も負けてないんだろう?


(タマハガネは所有者と仲良くなれば強くなる、ってスォーも言ってたにゃ。

 それを参考に作られた妖玉も、きっとそういうことにゃ)

(チィ……)


 私の疑問に反応して、チィが念話してきた。


(アイツらは自分の妖玉と対話したことないはずにゃ。

 同じ屋根の下で、同じ釜の飯食って、同じ風呂と布団に入ってる私たちの方が、強くなるに決まってるにゃ)


(……なるほど。そういうことか)


(ナナとソラは、魂が二人で一つにゃ。私ら両方と仲良くすれば、その効果も二倍以上にゃ!)

(そうなのか……?)

(きっとそうにゃ! 知らんけど!) 

(知らんのかい)


 ――……まあでも、それなら確かにソラのトンデモ火力は納得できる。

 私がそうでもないのはなんで? ってなるけど。


(まあ、そこは才能の差か)

(というより、ソラの方が私らと仲いいにゃ。美味しい物作ってくれるし、遊んでくれる回数も多いにゃ)

(そこかよ……)

(だからナナもこれからもっと仲良くするにゃ! もっと私らに構うにゃ!)

(そんなこと言われても、菓子も料理も作れないしな……)


 と、そこで動き出した大剣少女に意識を戻す。


「……なんてスタミナしてんのよ……。こっちはもう、妖力枯れかけだってのに……」


 言われて、大剣の光が淡くなっていることに今更気付いた。

 私の車輪は、まだまだ轟々と燃え盛って回転を続けてる。


 残った力を振り絞るように、大剣少女がフラフラになりながらも剣を構えた。


「……無理すんな。妖力欠乏すると、本当に指一本動かせなくなるぞ」


 聞こえてないのか、聞こえてるのに無視してるのか。大剣少女はやはり剣を下げない。


 ……武器を構えてくるなら、私だって加減はできない。

 私も車輪を腰だめに据える。


(楽にしてやるにゃ。そんで帰ったら、もっと私らと遊んでおけば、もっと楽勝だったな、って反省するといいにゃ)

(……反省ってのは、自主的にするから反省なんだよ)


 でも、まあ。

 それで強くなれるなら、してやってもいい。


(帰ったら、めちゃくちゃ遊んでやるよ。

 ……これで嘘だった時は、許さねえけど)

(ホントだから安心するにゃ! ほら来るにゃ!)


「はあああああっ!」

 大剣少女が飛ぶように襲ってきた。


 文字通り、渾身の一撃。

 これなら、刃迫り合いにもならずに済みそうだ。


「……残念だったな。ほんの一ヶ月前なら、アンタらの圧勝だったろうに」


 迎え撃つように、私も走り出す。


「やっと掴んだ幸せよ! 私たちは、こんなところで負けてられないんだからぁ!」


 車輪と大剣。

 私と少女。

 炎と光。


 交差して、すれ違う。

 私も少女も、得物を振り抜いて。


 その残心で、しばし、静止した。




「……ぐぁ……」

 小さい呻き声とともに、大剣少女が倒れ込む。


 大剣が床に転がる音が、けたたましく壁や吹き抜けに反響した。

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