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~Interlude 【ナナ 3】~
「っ、らあ!」
「くっ!?」
大剣対車輪、四撃目。
互いに必殺技を乗せ合った攻撃は、四度、相手に届かず弾き合うに留まる。
(崩せねえ……)
これが妖眼によるパワーアップの恩恵なのか。あるいは初撃の油断がなくなったからか。
私と大剣少女の戦いは、完全に均衡状態だ。
「……まさか、ここまでとは……」
一方、大剣少女の方も焦りが見える。
妖眼でもっと早く勝負を付けるつもりが、予想以上に長引いてる……ってところか。
「……邪魔くさいわね、この火……」
苛立たしそうに床の火を蹴って消そうとする。
が、ちょっと揺らぐだけで、火は燃え続けていた。
「うちの妹が悪いね。場所変えるか?」
そう提案すると、大剣少女の視線が一瞬、ランス少女に向く。
そちらでは、ソラがランス少女にゆっくりと近付いているところだった。何か話してるようだが、聞き取れない。
「……失敗作だと聞いてたけど。あなた、全然強いじゃない。他人の情報なんて、信じるもんじゃないわね」
「他人の情報もだし、自分の先入観もだな。
で? 降参でもしてくれるのか?」
「まさか」
大剣を真横に構える。
「そっちこそ、私に一撃も与えられてない」
「ま、確かに」
――妖眼とやらの力なのか。大剣がなかなか逸らせない。
……だったら、まあしゃあない。
直接、ぶつけ合うしかないってわけだ。
床で燃え続ける火に車輪を当てた。
刃に燃え移る。それは回転の摩擦で、見る見る大きな炎に成長していった。
「的がでかいのは変わらない。
単純な破壊力なら、こっちが上。
一回でも直撃できりゃ、私の勝ち……のハズ」
――トアみたいに完璧に回避されたら厳しいけど。
まあ、あれはトアが異常すぎただけだ。
「……ヒメちゃんの邪魔はさせない」
「トアとソラが邪魔するって言ってるんだから、そりゃ無理だ」
大剣少女は肩幅に足を広げ、剣を真横に掲げた。
妖眼を中心に、妖力の渦が巻き起こる。ソラの火が吹き消されていく。
「騎剣。――あの方に齎せ、尊い幸せの……」
瞬間、周囲が真っ白になった。
凄まじい爆発。まるで打ち上げ花火の真下に居るみたい。
一瞬、大剣少女の攻撃か、と焦るが……
「きゃああああっ!」
目の前から悲鳴が聞こえてきて、違うと分かった。
「なんだ……?」
爆心地の方を見る。
降り注ぐ炎の雨。
と、一緒に落ちるランス少女。服は焦げて、袴スカートの大半が燃えている。
慌てたように、そちらへ駆け寄るソラ。
「……ソラがやった……のか……?」
間に合ったソラが、ランス少女を受け止めた。
そこから少し離れたところに、ランスが落ちて突き刺さる。
(無茶苦茶強くなってるんですけど、うちの妹)
それとも私が知らなかっただけで、最初からこれくらいできたのか……?
気付くと、大剣少女も同じくソラ達の方を見ていた。
そして視線を切って、再び私に剣を構える。
「……心配じゃないのか。あのランスの女、黒焦げだったぞ」
「心配したって、しょうがない」
大剣少女が私を睨む。……とても、しょうがなくなさそうに。
「今のアキラは、自分が心配されたって全く喜ばない。
私が駆け寄ったら、怒られるだけ。
だから、私はあなたを倒す。……アキラのためにもね」
「そうかい。薄情だな」
大剣少女のまなじりが釣り上がる。
「……何も知らないくせに、私たちの関係決めつけないで」
「んなこと言われたって、知るわけ無いだろ」
「あの子は、ヒメちゃんのために全部をかなぐり捨てた。
最初は、声も小さいし、どんくさいし、ウジウジしててキライだったけど。
……今は、尊敬っていう点では、ヒメちゃんより誰より、尊敬してる」
「……へえ」
「ヒメちゃんの夢を叶える――それを叶えたい、っていうアキラの願いを叶えるのが、私の夢よ。もちろん、私もヒメちゃんのこと好きだから」
「……そうかい。大変だな、アンタも」
車輪の回転数を上げる。
「トアやソラもそうだけど。よく、他人を背負って戦えるな。
私には、正直良く分からん。
『誰かのため』なんて動機、私はとてもじゃないけど、続く気がしない」
「じゃあ、あなたはなんのために戦ってるの?
それ次第じゃ私たち、仲良くできるかしら?」
「私はただ、シチビをぶん殴ってやりたいだけだ。
それを邪魔するアンタたちとは、多分仲良くなれねえよ」
「……シチビを、ね。確かに、それはまだ、困る」
「だろ?」
「じゃあ、仕方ないか」
「ああ、仕方ねえ」
私たちの話し声がやむ。
周囲の小火が燃える音と、私の車輪が回る音。
ふぅ、と大剣少女が大きく息を吐いた。
「五度目の正直。今度こそ、その車輪、粉々に斬り裂く――!」
再び足を肩幅に広げ、大剣を真横に。
「ピュアパラなんか、シチビに最も与えちゃいけねえもんだ。アイツにピュアパラ渡すってなら、アンタも許しちゃおけねえ!」
上段に車輪を掲げた。
「騎剣。――あの方に齎せ、尊い幸せの剣――!」
「踊って曲え。――アルフゲリウスの車輪――!」
ソラの火を借りた私の車輪が、最高速で回り出す。
火はさらに燃え盛って炎になり……やがて、周囲を照らすトーチになる。
回転しながら燃えるそれは、きっと太陽に似ていた。
対して。
炎の明かりに抗うように、大剣は黄色く激しく光っている。
赤い火と、黄色い灯。
激突して、互いを貪り合う。
†
それからもさらに、二度、三度、四度五度と、撃ち合いが続いた。
互いに互いの必殺技に対して、致命的な一撃が与えられずに居る。
――そうして撃ち合いながら、ふと思った。
(……前までだったら、とっくに私は負けてるよな)
特に、開眼されて以降は刃が立たなかったはずだ。
でも、今は普通に戦えてる。
なんなら、ちょっと私の方が優勢気味。
このプレシャスなんちゃらソードも、前までの必殺技じゃ相手にならなかったはず。
でもさっき、こうして互角以上に撃ち合える必殺技が、自然と脳裏に浮かんできた。
(私も、強くなってる……?)
――まあ、ソラは強くなりすぎだけど。
キィン、と金属同士が弾かれる音がして、大剣少女が距離を取った。
肩で息をして、それでも私を睨んでいる。
(……コイツらの言うとおり、妖眼は心臓にあるより強いと思う。私たちのこと旧式、って言ってたのも、その通りなんだろう……)
でも、だとしたらどうして、ソラも私も負けてないんだろう?
(タマハガネは所有者と仲良くなれば強くなる、ってスォーも言ってたにゃ。
それを参考に作られた妖玉も、きっとそういうことにゃ)
(チィ……)
私の疑問に反応して、チィが念話してきた。
(アイツらは自分の妖玉と対話したことないはずにゃ。
同じ屋根の下で、同じ釜の飯食って、同じ風呂と布団に入ってる私たちの方が、強くなるに決まってるにゃ)
(……なるほど。そういうことか)
(ナナとソラは、魂が二人で一つにゃ。私ら両方と仲良くすれば、その効果も二倍以上にゃ!)
(そうなのか……?)
(きっとそうにゃ! 知らんけど!)
(知らんのかい)
――……まあでも、それなら確かにソラのトンデモ火力は納得できる。
私がそうでもないのはなんで? ってなるけど。
(まあ、そこは才能の差か)
(というより、ソラの方が私らと仲いいにゃ。美味しい物作ってくれるし、遊んでくれる回数も多いにゃ)
(そこかよ……)
(だからナナもこれからもっと仲良くするにゃ! もっと私らに構うにゃ!)
(そんなこと言われても、菓子も料理も作れないしな……)
と、そこで動き出した大剣少女に意識を戻す。
「……なんてスタミナしてんのよ……。こっちはもう、妖力枯れかけだってのに……」
言われて、大剣の光が淡くなっていることに今更気付いた。
私の車輪は、まだまだ轟々と燃え盛って回転を続けてる。
残った力を振り絞るように、大剣少女がフラフラになりながらも剣を構えた。
「……無理すんな。妖力欠乏すると、本当に指一本動かせなくなるぞ」
聞こえてないのか、聞こえてるのに無視してるのか。大剣少女はやはり剣を下げない。
……武器を構えてくるなら、私だって加減はできない。
私も車輪を腰だめに据える。
(楽にしてやるにゃ。そんで帰ったら、もっと私らと遊んでおけば、もっと楽勝だったな、って反省するといいにゃ)
(……反省ってのは、自主的にするから反省なんだよ)
でも、まあ。
それで強くなれるなら、してやってもいい。
(帰ったら、めちゃくちゃ遊んでやるよ。
……これで嘘だった時は、許さねえけど)
(ホントだから安心するにゃ! ほら来るにゃ!)
「はあああああっ!」
大剣少女が飛ぶように襲ってきた。
文字通り、渾身の一撃。
これなら、刃迫り合いにもならずに済みそうだ。
「……残念だったな。ほんの一ヶ月前なら、アンタらの圧勝だったろうに」
迎え撃つように、私も走り出す。
「やっと掴んだ幸せよ! 私たちは、こんなところで負けてられないんだからぁ!」
車輪と大剣。
私と少女。
炎と光。
交差して、すれ違う。
私も少女も、得物を振り抜いて。
その残心で、しばし、静止した。
「……ぐぁ……」
小さい呻き声とともに、大剣少女が倒れ込む。
大剣が床に転がる音が、けたたましく壁や吹き抜けに反響した。
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