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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
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6

Interlude(インタールード) 【ナナ 2】~



 長さは持ち主の二倍以上。体積は四倍ありそうな大剣を、軽々振り上げる少女。


 私は低い姿勢から横に振りかぶって、迎え撃つ。

 

「はああっ!」

 斜め上から振り下ろされる大剣。


「うらぁ!」

 その真横から、思い切り車輪をぶつけた。


 ――的が大きくて助かるぜ。


 大剣は軌道を逸れて、真横の地面を斬り砕く。


「っ!?」

 大剣少女の意外そうな呼気。


 まさか、私なんかになされると思わなかったんだろう。


 車輪を振り抜いた勢いのまま横に一回転。

 一歩踏み込んで、大剣少女の肩めがけて車輪を振り下ろした。


「くっ!」

 大剣少女は大きく飛んで、ペットショップの入り口近くまで下がる。


「ぐあぁっ!?」

 ほぼ同時にランスの少女が、悲鳴を上げてショーウィンドウに叩き付けられた。


 ランス少女はそのままずり落ちて、ショーウィンドウの下に倒れ込む。


 横を見ると、ソラが振り抜いた斧を再び構えていた。


「大丈夫、委員長?」

 私たちへの警戒は外さず、大剣少女は心配そうに声をかける。


「……変化前の呼び方すんなって言ってんだろ。エロふともも」

 ゆっくり起き上がりながら、ランス少女が大剣少女を睨み上げた。


 ――角度的に下着見えてそう。 


「んなこと今どうでも良いでしょ。それより、どうなってるの? あの二人、ピュアパラに負けたんじゃなかったの?」


「シチビも言ってたし、ムツキも言ってたよな……」

 ランス少女が立ち上がり、埃を払いながら言う。


「偽の情報掴まされたってこと?」


「いいや? 事実だぜ」

 そう訂正すると、二人は私に視線を移した。

「うちらのボスは私たち二人より強い、ってだけだよ」


 私の言葉を黙って聞いた後、ランス少女と大剣少女が互いを見やる。


「……エロふともも。こうなりゃ出し惜しみなしだ。やるしかねえ」

「分かってるわよ、委員長」

「だから、変化したら別人格だ、っつってんだろ……」


 二人がそれぞれ自分の眼帯に手を掛けた。


「……あなたたちが平均以上のインピュアズってのは、よく分かったわ」

「くっくっくっ。だが所詮、心臓に妖玉入れてる旧式ども! どうやったって私らには勝てねえんだよ!」


 眼帯が二つ、放り捨てられる。


 露わになったランス少女の右目と、大剣少女の左目は、それぞれ瞳の部分に幾何学模様が浮かんでいた。


 ――いや、瞳の部分以外も、人の目じゃない。


 それはここ最近、見覚えがある球体。

 チィとビィを顕現するようになってから、手に持ったこともある、それは……


「あーあ、開眼させちまったな」

 ランス少女はランスを肩に担いで、ゆっくりとこちらに歩いてくる。


「……その目は……」


 小声で言うと、「待ってました」とばかりにランス少女は犬歯を剥き出した。


「私らのは妖玉じゃない、妖眼ようがんだ。視神経通じて、脳に直接妖力注ぎ込めるようにした最新型さ!」


「開眼すると手加減が難しいの。できれば五体満足で捕まえたいけど……まあ、多少はお許しいただきましょう」


 示し合わせたように構える二人。

 その妖眼から、黒くて禍々しい妖力が、大量に溢れ出している。


「仕切り直しだ! もう逃げても遅えからな!」


 さっきと比べものにならない速度で、二人が同時に襲いかかってきた。



   †



Interlude(インタールード) 【ソラ 1】~



 ――妖眼……?


 心臓ではなく、目に妖玉を埋め込んだ、インピュアズ……?


(それじゃあ、元の眼球は……?)

 もし、インピュアズをやめたら、この子達の片目は、どうなっちゃうの……?


「……なんて、ことを……!」

 気付けば無意識のうちに、歯が軋む音がした。 

(シチビ……!)

 

 ――あなたがまさか、ここまで外道だったなんて。


 斧を握る手が震える。


「……ピグ、トアちゃんにここに来るように言って」

「わ、分かったピグ!」


 この前のお風呂会議で言われた。

 インピュアズから妖玉を取り出せるのは、トアちゃんだけ。

 ――今この子達を救えるのは、トアちゃんしかいないんだ。


「ナナ」

「なんだ?」

「勝つわよ。あの子たちのためにも」

「……ああ、わーってるって」


 ――心臓じゃなく眼球の場合でも助けられるのかどうかは、分からない。

 けど、トアちゃんなら。

 それでも、トアちゃんならなんとかしてくれる、って信じるしかない。


 だから今は、私たちにできることを、全力で。



「熱して浄め。――半妖の両刃斧ラブリュス――」



「廻して刻め。――ロジャーの車輪――」




「そのキレイな顔に風穴開けてやんぜ、ネコミミちゃんよぉ!」

 ランスの先端が、すぐ目の前に。


 でも直線的な攻撃は斧を使うまでもなく、横から掌で叩くだけで簡単に逸れていく。


「んなっ!?」


 走ってきた速度そのまま、反対の壁際近くまで行っちゃうランスの子。


「……おいおい。開眼した私の槍だぞ? そんな、ハエ叩きみたいに……」

 訝しげに振り返るランスの子は、私を見て目を見開いた。

「……おねーさん、めっちゃ燃えてますけど……?」


「感情が高ぶると、こうなっちゃうの」


 斧は赤白く熱され、シュゥゥゥ……、と陽炎と湯気をたゆたせて。

 周囲の床が、立て看板が、柱が、案内板が、ちらほらと燃え始める。

 その中心にいる私の体には、最も激しい炎がまとわり付く。けれど、全部私自身の妖力。髪も服も、燃えたりはしない。


「あ、ありえねえ……なんだ、この妖力……? 本当に人間なのか?」

 ランスの子がおののいたように後ずさる。


「……そっか。あなた、自分より強い相手と、戦ったことないんだ」

「んだと?」

「だから、見誤る。自分より弱いと、なめてかかる。

 分かるよ。私もそうだったから。

 ……今日はあなたにとって、良い機会だったんでしょう。

 反省したら、あなたが辱めた子達に誠心誠意謝りなさい」


 言いながらランスの子に歩み寄る。


「……上から目線で言いやがって。

 なにを勝った気でいやがる!

 私は負けらんねーんだよ!

 まだまだ、これからなんだ!

 ヒメッちは、誰より幸せにならなきゃいけないんだ! だから私は、戦って勝たなきゃいけねーんだよ!」


(――さっき、ボクって言ってたけど……)


 それはやっと垣間見えた、この子の本音のようで。

 必死に自分を鼓舞する、呪文のようだった。


「勝ちたいのは別にいいけど。負かした相手に値札なんか貼るな、って言ってるの」


「うるせえぇぇぇぇぇ!」

 ランスの子の特攻。


 妖力で推進力を上げて突撃してくる。

 とはいえ、やはり奇をてらわない真っ直ぐ。難なく躱せた。


 それでもランスの子は床を滑りながら反転。再び私に向かって来る。

 


「騎槍。――お前のことが大嫌い(いらいランス)――」



 さっきよりも速い。

 ――けれど、それは呆れるくらいに愚直。

 技の威力は、もしかしたら私より強いのかもしれないけど……


「そんなんじゃ、当たってあげない」

 ――負けられないのは、私だって同じなんだから。


 斧でランスの側面を叩く。

 その斥力を利用して、反転。


 そのままランスの子は後ろのカバンショップに突っ込んだ。

 轟音と地響きを立てて、高そうなカバンやマネキンを盛大にまき散らす。

 

「くっ……、なんでだ。なんで、当たんねぇ……」


 肩に引っかかったカバンの紐を苛立たしそうに千切って、ショップから出てくるランスの子。


「さっきから攻撃が真っ直ぐすぎる。あなた、暴力に慣れてないでしょう?」


「……慣れてる方が珍しいだろ」

「いやまあ、それはそうなんだけど……」

 急に正論言われて、ちょっとびっくり。


「アンタは慣れてるってのか? カワイイ顔して、えげつねえな」

「慣れてなんかないよ。暴力なんか、変化できるようになるまで一回も振るったことない。

 そのせいで、トアちゃんに手も足も出なかったんだから」


「……私もだよ」

 呟くように言って、ランスの子はぐっ、と強くランスを握りしめた。

「ついこの前まで、()()()は暴力なんか見るのもキライだった。血を見るのも無理とか言う軟弱で……自己愛の強いガキだった」


 言いながら、ランスの子はどこか目に光を宿す。

 妖眼の纏う妖力が、心なしか、明るい色に変わってきたように見えた。


「……でも、世界はこんなに残酷じゃねえか。

 暴力でしか、あの子は幸せになれないじゃないか。


 だったら、いくらだって振るってやる。


 暴力が嫌だなんて言う人格、捨ててきた。

 今の私は暴力が大好きで、敵をいたぶるのが大好きで、人を人とも思わない!

 あの子のためなら、インピュアズだろうが悪魔だろうがなってやる!


 あの子が笑って生きられるなら、あんたみたいなバケモノとだって戦ってやる! そういう人格に、生まれ変わったんだよ!」


 ランスの子が飛び上がる。

 最初に私に仕掛けてきたような、上からの攻撃。


 ――つまりこの子は、ヒメって子のために、もう一つの人格を作り出したのか。

 ……だいぶ元の人格漏れてるけど。


 委員長って呼ばれてたし。根は真面目な子なんだろう。


 ――どうしよう。

 この子のこと、好きになっちゃいそう。


 誰かのために自分を歪められる、その信念と勇気。

 素直に敬意を覚える。


 ――惜しむらくは、付いていく人、または妖魔を、間違えたこと。


「でも、大丈夫」

 私だってやり直せたんだ。

「あなただって、遅くない」


「しゃあああ!」



「噴きてぜ。――陸を照らしてえる星――」



 落ちてくるランスを、斧で焼き溶かしながら往なして。

 巻き上げた炎塊が、ランスの子に正面から直撃した。


「があああああああああああああっ!?」


 敵を捕らえた私の星は、そのまま吹き抜けを舞い上がっていく。


 三階近くまで到達すると、モールのどの照明よりも明るい光を放って、爆発した。


 音が遅れて聞こえてくる。

 自分で自分の耳を塞ぎたくなるくらいの爆音。


 店の商品や観葉植物は吹き飛び、壁や柱の一部が剥がれ、モール内を嵐のように飛び交った。


 ランスの子は意識を失ったようで、ランスを手放す。

 その後、重力に従って落ち始めた。


 ――まあ、あの子なら大怪我はしてないでしょう。

「……してない、よね……?」


 ……段々心配になってくる。

 私自身、たった今「できるかも」って思い付いただけの必殺技。まさか、ここまでの威力が出るなんて思って無かったし……


 私は早足で、ランスの子の落下点に駆け出した。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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