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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
44/77

3

 北側に回り、見つけた入り口から中に入る。

 二重の自動ドアを潜ると、フロアガイドやエレベーターがあるエントランス。


 通路を抜けると、3フロア分吹き抜けになったメインホールに出た。

 煌々と眩しい照明。縦にも横にも広い景色は、圧巻の一言。敵地だというのに、思わず吐息が漏れてしまう。


 買い物施設の名目だけど、エンターテインメントに溢れた設計。見るだけでワクワクしてきちゃう。

 下手すると遊園地より好きな子も多そうだ。


(なんと……、凄まじいですね……)

 ショッピングモールを初めて見たスォーが、感嘆の思念をこぼした。


(今度、近くのモールに連れて行ってあげるね)

(い、いえ、お気遣い無く。今はそれより、救出のことを考えましょう)


 問題は、それだ。

 遊びに来る分には良いけど、敵地となると、この見晴らしの良さは不安になる。


 とはいえ敵が4人程度なら、こんな広い施設いちいち全部監視してられないと思う。

 というか、思いたい。


「……とりあえず、近くのお店や部屋から探してみましょう。ペロ、なるべく音立てないように」


 言って、私は靴を脱いだ。

 靴下のまま床に立って、靴をペロに渡す。

「靴持ってて」


「そこまでするペロ……?」

「ちょっとの靴音でも反響凄そうだから」


 そのままホールに出る。

 

 空調の音。

 誰もいないのに動き続けるエスカレーター。

 私の靴下と床が擦れる音が、いやに大きく聞こえる気がした。


 ――気にしすぎても仕方ない。

 敵がこんなところに監視を置いてないと信じながら、まず近くの雑貨ショップを覗き込んだ。



   †



 それから壁沿いに各お店を15分ほど探してみた。

 が、残念と言うべきか当然と言うべきか、手がかり一つ見つからない。


(このペースだと、本当に朝まで掛かりそうね)


 外から見た時点で予想は付いていたけど……。

 実際に始めてみると徒労感が凄まじい。


「トアちゃん、ぽぷら地区の子たちと精霊がナナちゃんたちと合流したペロ」

 と、ペロが小声で報告してきた。


「了解。南側から入って、まず一階を探索して欲しい、って伝えてくれる?」

「分かったペロ」

「一階の最北は一通り見たから、次は少し南下して見てみる、とも」


 ということで、次は通路を挟んだ隣の区画へ。

 北側エスカレーターのすぐ近く。

 二階が普通より高い位置にあるから、そこまで真っ直ぐに続くエスカレーターはとても長くて、圧巻だ。


 エスカレーターの先、二階と三階は空中回廊になっている。

 ――あとで上に昇る時、絶対楽しいだろうな

 なんて、想像しちゃう。


 楽しんでる場合じゃない、っていうのは分かってるんだけど。

 誰もいないショッピングモール、っていう非日常も相まって、駆り立てられちゃうのだ。




(……いけないいけない。真面目にピュアパラを探さないと)

 と思考を切り替えて、エスカレーターから視線を切ろうとした……

 その時。


 微かに物音が聞こえた。

 断続的に、段々と近付いてくる。


 何かが擦れるような音。

 何かが床を叩くような音。

 金属がぶつかるような音。

 女の子の叫び声。


 丁度、エスカレーターの上から聞こえてくる。

 妖力の気配も強い。


「……誰か戦ってるペロ……?」


 薙刀を右手に、重心を落として、なるべく音を立てないようにエスカレーターへ。


 ――もしピュアパラが戦っているなら、早く加勢してあげたい。


 と、姿が見えた。二階エスカレーターの乗降口すぐのところ。


 浴衣ゆかたのような衣装を着たインピュアズだ。飛び退いたように着地。

 左右の手に、それぞれ妖力を纏わせている。武器も持っていないから、恐らく遠距離戦タイプなんだろう。


 私から見て右方向を睨んで、光線のような妖術を放つ。


 それを斬り裂きながら浴衣の少女に迫るのは、こちらも着流しのような服を着た……多分インピュアズ。

 ナナやソラとも、トキアさんとも、浴衣の少女とも違って、その衣装は極めてシンプルだ。


 着流し少女は空中で回転しながら、日本刀のような武器を上段に構えて、



逆巻さかまけ。――秘氷剣ひひけん戦乱せんらん蒼嵐そうらん――」



 竜巻のような風を纏ったその刀を、浴衣少女に振り下ろした。


「……ヒメ、ごめんなさい……」

 浴衣少女の呟き。


 その直後、空気が爆発するような音と共に、凄まじい風の奔流が周囲に吹き荒ぶ。

 一瞬で一階まで雪崩なだれ込んで来て、私は思わず右腕で顔を庇った。


 その風が触れた箇所は、見る見る凍り付いていく。一瞬でエスカレーターが異音を立てて止まり、床も柱もオブジェクトも例外なく霜に覆われた。


 周囲の気温が一気に下がり、私の吐息は白くなる。

 ペロも体を縮こまらせて自分の体をさすっていた。


 次いで、ガタガタッ、と大きな音。

 再び前を見ると、浴衣の少女がエスカレーターから転がるように落ちてくる。

 一階に落ちて、小さくうめき声を上げて止まった。


「そんなちっぽけな光じゃ、私の氷は溶かせない。良かったわね、冥土の土産になって」


 言いながら、着流し少女が一階まで飛んできた。

 浴衣少女の横にゆっくりと降りる。


「自分の力量も分からず調子に乗ると、末路はこうなるの。来世は殊勝に生きなさい」


 着流し少女が刀の先端を浴衣少女に向ける。

 そのまま、まな板の上の魚を捌くような気軽さで振り下ろされる刀を……



「ちょっと待ったぁ!」



 一足飛びに近付いて、薙刀で弾いた。


「!?」

 びっくりしたように目を丸くして、私を見る着流し少女。

 すぐに真後ろに飛んで下がって行った。


 知覚外の速度で接近した私を警戒したのだろう。思考の切り替えも、身のこなしも素早い。


「あなたもこの子も、インピュアズでしょ? 仲間割れか知らないけど、命まで取ること無いじゃない」


「……ピュアパラ? なに、今の動き?」

 着流し少女がゆっくりと刀を構える。


 その衣装はフリルや装飾がほとんど無い、本当に現実でも着てる人が居そうな着流しだった。

 が、前を結ぶ紐は緩く、ほとんど開きっぱなし。胸と太ももの付け根にはサラシが巻いてある。

 そういう意味では、現実で同じ恰好する人はまず居ないだろう。


 ――ナナもソラも、トキアさんも、インピュアズは自分の露出に無関心すぎる。唯一ソラは恥ずかしがってたけど。

 視線のやり場に困ることが多くて、そこが一番強敵かもしれない。


「ピュアパラじゃない。リトルウィッチィズよ。最近立ち上げたの。以後お見知りおきを」


「……なんでもいいけど。ソイツは私を殺す気で来た。だから、殺し返す。それだけよ」

 着流し少女の刀身に、再び冷気の風が渦巻き始める。

「邪魔するなら、あなたもここで死んでもらう」


「インピュアズはすぐ死ねだの死ぬだの言う。もっと楽しく生きればいいのに。せっかく平和な世界なんだから」


 薙刀を構える。

 

「ピュアパラはすぐ理想を唱える。実力も無いくせに」

 着流し少女が吐き捨てるように言った。


「すぐピュアパラを見下すのも悪い癖ね」



「渦巻け。――秘氷剣、偶冷ぐうれい愚礼ぐれい――」



「輝け。――原初の衝撃(ファースト・ブレット)――」



 次の瞬間、黒雷と白風が、ぶつかり合った。



   †


 

 刃迫り合い。

 着流し少女の刀から出る冷気で、私の手どころか腕や顔まで凍ってくる。


「くっ……!」


 けれど、向こうも向こうで私の一撃に表情をしかめていた。


(主様。冷気の持続攻撃がある以上、長引くと不利です。必殺技も切れてしまいます)

(うん……)


 距離を離すか、それともこのまま二発目を重ね掛けするか、と考えた瞬間。


 キィン、と相手が刀を弾いて後退して行った。


「はぁ、はぁ……」

 肩で息をしている着流し少女。


 私は手や顔に付いた霜を、内側から魔力を放って吹き飛ばした。

「はー、はー……」

 と両手に暖かい息を吹きかける。


「……渦とはいえ、まさか私がピュアパラに力負けするなんて……」

「リトルウィッチィズだってば」


「そうだったね。……なるほど、名実ともにあなたが他の連中と違う、ってのは良く分かった」


 一度真横に刀を振るう着流し少女。


 私もあらためて薙刀を構え……

 ようとしたら、少女はそのまま刀を鞘に収めた。


(抜刀術……)


 と警戒した、次の瞬間。


「やめにしましょう。これ以上はどっちも得しない。

 ソイツを生かしたいっていうなら、好きにしたらいい。……起きた時、背中を刺されても知らないけど」


 そう言って、柄から手を離した。


「……急になに? 絶対殺す、くらいの勢いだったのに」

 まだ罠を警戒して、構えは解かない。


「気が変わった。私、強い女の子好きなの。近くで見たら、顔めっちゃタイプだったし。ちっちゃくて可愛いし。これ以上戦いたくなくなっちゃった」

「……それはどうも……」


「一人で敵地に挑む勇気も気に入ったわ。その強さで、なお敵に慈悲をかけるなら、それも一つの正義でしょう。あ、ライン交換しない?」

「……えっと……」


 ――若干思考が追いつかない。

 ある意味、今まで会った誰より手強いかも……。


「……あなた、インピュアズなのよね? 私は、捕まったピュアパラを助けに来た。だから、あなたの敵だと思うんだけど」


「いや別に? 確かにここの連中とは仲間だったけど、さっき決裂したから。

 私はこんな塔から遠いところに、こんなでっかい拠点、嫌だって言ってんのに……。

 そもそも前々から気に入らなかったの。群れなきゃ何にもできない意気地無しのくせに、態度だけ大きくて。

 あなたが壊滅させるってなら応援するわ。まあ、流石に手は貸せないけど」


 言いながら手を懐に入れる素振りをして、自分が変化中だと気付いたらしい。


「ゼロ、アバター顕現」


 瞬間、少女の全身が光り、収束していく。

 着流しからブレザーになった少女と。

 ホムラにそっくりな女が、その傍らに立っていた。

 

 少女は懐から、メモ帳とペンを取り出す。


「ラインのコード分かる? 分からなかったら電話番号でも」

「……レオ様。私は妖玉になった方が……」

 ホムラそっくりの女が、ホムラとは真逆の言葉遣いで少女に言う。


「そんなことしたら警戒されちゃうでしょ。戦う気はありません、って意思表示かねてるの」

「ですが、この状態で私が倒されたら、レオ様は変化できなくなります」

「……だから、そう見せてるんだ、って言ってるでしょ」


 レオと呼ばれた少女が、ホムラそっくりな彼女――話し方も佇まいも全く別人だけど――を睨む。


「いつから私に指図できるほど偉くなったの?」

「も、申し訳ございません……。出過ぎた真似を」


 ホムラ……に似たアバターは、深く頭を下げて一歩下がった。


「……あなた、どうしてアバター顕現できてるの……?」

 インピュアズは、そういった機能は削ぎ落とされていたハズなのに。


「さあ。この妖玉が0号だからじゃない? 詳しくは知らないけど。

 私が好き勝手するから、以降は機能が消されたのかもね」


 0号……つまり、1号と2号だったチィとビィよりも前に作られた、ということか。


「そんな話より、仲間を助けに来たんでしょ?

 今友達になってくれたら、特典にピュアパラの場所情報も付いてくるけどなー。チラッ、チラッ」


 ――軽いなこの子。さっきまで人殺そうとしてたくせに。

 だが、情報は確かに重要だ。ピュアパラの位置もだし、0号やインピュアズについても。


「分かった。友達になりましょう」

「やった!」

「で、早速友達として、お願いがあるんだけど」

「ん? なに?」


「ここのピュアパラを助けるのに、手を貸して」


 沈黙。


「……いやいや、流石に手は貸せない、って言ったでしょ」

「友達が困ってるのに?」

「あのさ、いくら見た目が好きなタイプだからって、調子乗りすぎ」


「調子に乗るっていうか……

 困った時にお互い助け合うのが、本当の友達だと思うんだけど」


「……私は曲がりなりにもシチビの仲間。シチビと利害が一致してるうちは、裏切る気は無い」


「でも、すでにインピュアズ倒してるじゃん。それは裏切りじゃないの?」


「あっちから仕掛けてきたの。しかもだまし討ち。だから、あれはただの正当防衛」


「ふうん、そっか。じゃあ、しょせん容姿目当てだったんだ。残念だなあ、もっと仲良くなれると思ったのに」


「……いや、容姿目当てって言うのは、聞こえが悪いじゃん……」


 ――よしよし、ちょっと揺れてきてる。

 もう一歩だな、これは。


「まあ、しょうがない。友達が困ってる時に助けてくれない意気地無しのくせに、『調子に乗ってる』とか言っちゃう態度大きい人って、私苦手なんだけど。

 まあ、うわべだけの、なんの中身もない友達になってあげるよ」


 レオの顔が無表情になる。

 それを見たゼロの顔が、徐々に青くなっていく。


「言わせておけば、私がここの連中と同じとでも言いたいの!?」

 爆ぜたようにレオがまくし立てた。

「いいわよ! 手なんかいくらだって貸してやる!

 その代わり、今度の土日は朝から晩まで制服デートだからね!」


「泊まりじゃなければ良いよ全然」


 こうして、冷徹なんだかチョロいんだか良く分からないインピュアズが協力してくれることになった。




 ――そんな間抜けなやりとりしてる間に、浴衣少女は姿を消していた。

 レオは「まさか、気配遮断!?」と驚いていたけど……


 普通に会話の隙に逃げただけじゃないかな……

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