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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
3章 さくら地区奪還戦
42/77

1

 秋も深まり、冬の気配が近づいてきたある日の夜。

 私とレクはいつものように一緒にお風呂に入ろうと、二人でバスルームに向かっていた。


「二人とも、すっかり仲良しに戻って良かったわね」

 と、夕飯の片付けをしている母に声を掛けられた。


「まあ、色々あって……」

 思わず言葉を濁す私。


「お姉ちゃんへの反抗期は終わったっぽい」

 レクは妙に他人事みたいに言った。

「お母さんたちへもそのうち終わると思うから、今は様子見しといて」


 ポカンとするお母さんと私を尻目に、レクはスタスタとバスルームに歩いて行く。


「……反抗期の子はそんなこと言わないと思う……」

 私の遅れたツッコミに、お母さんも「確かに」と小さく笑った。


 子供の情緒は不安定、という知識を自分に当てはめて考えられるのだ、この子は。

 確かに反抗期の子っぽくはないけれど……、レクらしい言葉だとは思った。




 それからレクの後を追って、更衣室兼洗面所へ。


「今日は怪我しなかった?」

 下着を脱いだレクが、そう尋ねてきた。


「怪我? うん。特になかったけど」

 シャツに手を掛けながら答える。


 今日の放課後はひまわり地区から2地区離れた、あじさい地区へ応援に行ってきた。ナナとソラの三人で、『零れ』を討伐に。


 レクは黙って、私のお腹……左の脇腹付近を見つめる。


「どうかした?」

 いつもだったら、服を脱いだらすぐお風呂に行っちゃうのに。


「今朝、お姉ちゃんがトキアさんに殺される夢見て」

 言いながら、次にレクは私の目を見る。

「……あの時、突き刺した脇腹から……」


「ああ、あれね。あの時は、本当に死を覚悟したなぁ」


 左脇腹を突き刺された瞬間、『お姉ちゃん』と悲鳴のように呼ばれたことを思い出す。

 レクにとって、あの光景はトラウマなのかもしれない。


「レクにとって、私が死んだらトキアさんも死ねるようになっちゃうもんね」

「……そういうんじゃなくて。普通に、悲しいよ」

「え、あ、ごめん……」

 どうも、軽口を言える雰囲気ではないらしい。


「今日一緒に寝よ」

「そりゃもう喜んで」

「……ん」


 それから私が準備を終えるまで、そばで待ってくれたレクだった。


 ――あれ以来、お風呂場ではすごく素直になってくれるけど。

 今日は夢のせいか、入る前からちょっとセンチメンタルみたいだ。



   †



 体を洗い終えて、二人で湯船に。

 私にもたれかかってくるレクは、ほぼ毎日なのにやっぱり可愛くて。ときめいちゃう。


「……ごめんね」

「なにが?」

 優しくレクを抱き留めながら、謝罪の真意を問う。


「本当は、私も戦えるようになって、お姉ちゃんの役に立ちたいけど……。

 ……あんな戦い見た後だと、怖くて」


「無理しなくて良い。っていうか、レクに戦って欲しくない。

 戦いなんて、しないで済むならそれでいい」


「……お姉ちゃん、やっぱり凄いね」

「今日のレク、可愛いー♪」


 バシャバシャ、とお湯の跳ねる音が響き渡る。


「どうせ、いつもは可愛くありませんよ」

「そんなことないってばー。今日はとびきり可愛いってことー」

「私的には割と真剣な悩みなんだけど……」

「真剣に悩んでくれるのが可愛いものなのよ、姉としては」

「……あっそ」


 ――一度は諦めた、姉妹水入らずのお風呂時間。

 今日は特に、心配される幸せも相まって。


 このまま出たくない、今日は長風呂しちゃおう、なんて決意した……


 その時だった。



 いつかのように、バスルームの中央が光り始める。



「ペロー!」

 聞き覚えのある鳴き声。


 レクは見えないし聞こえてないから、光の方向に見向きもしない。


「トアちゃん! こんな時間にごめんペロ、大変なこペギュィ!?」


 近付いてきたペロの頭を掴んで、バスタブの縁に叩き付けた。


「な、なに!?」

 レクがびっくりして振り返る。


「ごめん、前に言った精霊が今ここに出てきた」

 優しくレクに言って、次にペロを見下ろす。

「大丈夫。ここ数秒の記憶全部飛ばしておくから」


 ――一度ならず二度までも。私のみならずレクの裸までも見やがって。

 この覗き見ウサギは、記憶どころか存在を抹消しておいた方がいいかもしれない。


「この変態野郎。私とレクのお風呂時間を邪魔しておいて、無事で帰れると思うなよ」


「ごめ……本当に、ごめんペロ……、ボクもまさかまたここに出るなんて思わな……やめて! 目玉だけは許して!」



   †



 ペロと初めて会った時と同じく、私の部屋へ。今回はレクも一緒だ。


 レクにも姿が見えるように調節させる。

 ペロを見たレクは、「可愛い」と呟いた。


「心許しちゃダメよレク。本当にメスかどうかも怪しいんだから」

「本当に女の子だペロ! というか今それどころじゃギュムッ!?」



「レクの裸見ておいて、それどころ、とか言った? アンタ」



 粉々にする勢いでその顔面を握りつぶす。


「トアちゃ゛、……息、い゛ぎ、でぎな゛……」

 ペロの顔が段々と青ざめてきた。


「私はそんな気にしてないから。謝ってるし、もういいじゃん。

 それより、話聞いてあげよ? なんか重大そうだし」


「レクは優しすぎる……」

 手を離してやる。

「レクに感謝しなさい」


「ほ、ホントにありがとうペロ……。あと初めまして」

 フラフラと宙を浮かんで、私から逃げるようにレクの方へ移動した。


「初めまして。お姉ちゃんが『私のところに来たのがペロじゃなかったら、今頃現世は侵略されてたかもしれない』って言ってた。

 私からも、ありがとう」


 レクが言いながらペロを抱えた。


「レクちゃん……」

 レクの胸の中に収まり、真っ直ぐに見上げるペロ。


(……堕ちたな)

 ということは、ペロが女というのも信じていいのかもしれない。


「で、お姉ちゃんに話って?」

「あ、うん。実は……」


 レクに抱えられながら私に振り向いて、ペロは話し始めた。




 ひまわり地区から電車で約1時間ほどのところにある、さくら地区。

 今日の夕方、そこのピュアパラたち、および担当の精霊と連絡が付かなくなったという。


 遠隔視のピュアパラ――以前、ナナとソラの姿を絵に描いてくれた子――が見てみたところ、複数のインピュアズに侵攻されたところと、敗北したシーンが見えたという。

 さくら地区のピュアパラ達は、そのまま捕虜にされた可能性が高い、とのこと。


 侵攻したインピュアズたちは、そのまま今もさくら地区に陣取っているという。


「他にもインピュアズに侵攻された地区はあるけど、ピュアパラが捕らえられたのは初めてペロ。

 みんなには、インピュアズを見た瞬間逃走してもらってるはずなんだペロ。

 でも今回、さくら地区の子たちは応戦したらしいペロ。

 その理由は、遠隔の過去視でも分からなかったらしいペロ」


「なるほど。それで、私たちに救出して欲しい、ってことね」


「……そうだペロ。今のピュアパラじゃ、何人居てもインピュアズに勝てないペロ。ごめんペロ……」

「謝る必要ないってば。それに関しては」


 ――まったく。お風呂場に入ってこなければもっと早く話が進んだものを。


 私はスマホを取り出して、ソラに通話を掛けた。


「……あ、ソラ? ごめんねこんな時間に。

 実は今ペロが来て、さくら地区のピュアパラがインピュアズたちに捕らえられた、って聞いてさ。

 今から助けに行くんだけど……どうする? 動ける? 無理はしなくて良いから」


「ま、待つペロ。もう時間も遅いペロ。今夜は寝て体調を整えてからでも……」


「そんな悠長なことしてる暇、無いかもしれないでしょ」

 

 ――ナナとソラは以前、スカーレットたちを『シチビにあげる』と話していた。

 おそらくピュアパラを実験体に――自分の手駒に、しようとしてるのだろう。

 もしかしたら、すでに堕ちた者もいるかもしれない。


「……あ、二人とも大丈夫? ありがとう。なら一度、合流しましょう。

 ペロ、さくら地区に行けるゲートある?」


「直通はないけど、その隣のぽぷら地区なら行けるペロ。いつもの公園で大丈夫ペロ」


「オッケ。ソラ聞いてた? 私の家の近くにある公園分かる? ……そうそう。そこで落ち合いましょう」


 通話を切る。


「レクごめん、今日は一緒に寝れなくなっちゃった。

 悪いんだけど、もしお父さんお母さん来たら誤魔化しておいて」


「それは良いけど……」


 歯切れの悪いレクを見る。

 レクはペロを離して、私のお腹付近を……左脇腹に、視線を移した。


「……怪我、しないでね」

 そう言って俯くレク。


 その頭を、そっと撫でた。

 嫌がる素振りもなく、レクはされるがまま。


「気を付ける。明日は一緒に寝ようね」

「……うん」


 それからペロを部屋から追い出して、私服に着替えた。


 勝手知ったるペロはその間に私の靴を窓の外、一階の屋根の上に持ってくる。


「……私もやっぱり、ペロのことキライかも」

 私が窓を開けたところで、レクが言った。


「ぺ!? 急になんでペロ!?」

「お風呂邪魔した上、連れて行くんだもん」

「それは、ごめんなさいペロ……」


「私の気持ち、ちょっと分かってくれた?」

「うん。私が間違ってたわ。やっぱソイツ許しちゃダメ」

「ふふっ、レクのと意見が合って嬉しい」


「ボクとこの姉妹の相性悪いペロ……」


「あのさ。今私が泣いて駄々こねて、『行かないで』って言ったら、お姉ちゃん、行かないでくれる?」


 ――どこか冗談のような、真剣なような、レクの問い。


「……いや。それは、多分無理。なんとか説得しようとする。

 レクがどうでもいいとかじゃなくて。

 できることがあるのに、誰かを見捨てるようなこと、したくないから」


「……そうだよね。そういう人だよね、お姉ちゃん」

「ごめんね」

「ううん、別に。ただのたとえ話だし」


 一歩、レクが私に歩み寄る。


「ただ、私が心配して待ってる、ってこと、忘れたら許さないから」

「うん。もちろんよ」


 どちらからともなく、ぎゅっ、とお互い抱き合った。


「……いってらっしゃい。気を付けて」

「ありがとう。いってきます」


 レクの言葉と体温が、嬉しい。


 さっきも思ったけど、今日のレクは異様に可愛くていじらしい。


 ――もしかしたら、反抗期の反動で甘え期みたいなのが来てるのかもしれない。


 トキアさんが居なくなったこととも、無関係ではないだろう。

(……そう考えると、トキアさんが居ないうちに寝取る間女みたいだな……)


 いやいや。素直に『姉に甘えたい期』が来てくれた、と考えよう。うんうん。

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