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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
2章 レクちゃん、お姉さんを拾う
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13

 私とレク、二人並んで、黙って帰り道を歩く。


 家に着く頃には、空はオレンジに染まっていた。

 今日デートに行ってる両親は、まだ帰ってきていない。


「少し話、できる?」

「……いいけど」


 ということで、私の部屋へ。

 レクはベッドに座り、私は椅子に腰掛けた。


「まず、ごめんなさい」

 頭を下げて謝る。


「……?」

 レクは黙って私を見、続きを促す。


「『思春期だから』『反抗期だから』……

 そんな便利な言葉を鵜呑みにして、思考停止してた。

 トキアさんに言われて、自覚したよ。

 ……もっと、レクと話をするべきだった」


 レクがどこか居心地悪そうに、視線を逸らす。


「……別に。謝る必要、ない。私も、悪かったし。

 話しかけられても、前までだったら無視してただろうから……」


 でも、今は無視せず、こうして部屋まで来てくれる。

 それだけの関係改善が、お姉ちゃん、嬉しい。


「いや。そもそも一番最初は、レクのこと考えず、お風呂入るの当然、って態度だった私が悪い。

 断られる前から、あんまり楽しそうじゃない、って気付いてたはずなのに」


「……あれはだって、膝の上に座らせようとするから。お湯の中でくっつくの、暑いのよ」


「それもひっくるめて、私は『仲良し』にこだわりすぎてた。

 これからは、そういう強制みたいなことしないから。

 年齢相応の姉妹として接してくれたら嬉しいな」


「……うん。それは、こっちも、よろしくお願いします」

「ありがと」


 ――良かった。仲直りできて。

 そのきっかけをくれただけで、トキアさんには感謝しなければならない。


 ……物心着いた頃からずっと一緒だったお風呂が無くなって寂しいのは、変わらない。

 トキアさんと出会って、すぐにでも家族離れして行くだろう、というのもそう。


 でもそれは、私も妹離れをしなければいけない、ということなのだろう。

 レクの人生は、レクのものなんだから。


「……じゃあもう、一緒にお風呂は入らないの?」


「……ん?」

 なにその質問?


「あのビル、ホコリっぽくて。実はずっと、早くお風呂入りたい、って思ってたの」

「え、ああ……、ごめん気付かなくて」


 そこで、レクはもじもじと落ち着かないように動き出す。



「……だから今お風呂入りたいんだけど。一緒に入る?」


 

 あまりに驚きすぎて。

 頬を赤くして目を逸らすレクが、可愛すぎて。


 なんて答えたか、記憶が無い。



   †



 お風呂の準備をして、着替えを用意。

 二人で一緒に脱衣所に入って、服を全部脱いだところで、やっと現実を理解した。


「……いいの?」

「なにが?」


 バスルームに入りながらレクが振り返る。


「あ、いや、その……」


 ――トキアさんの手前、なんか、罪悪感というか……

 いや、別に姉妹なんだし、なにが悪いわけもないんだけど……


「……なに? トキアさんのこと?」

 相変わらず察しが神がかってる。


「まあ、うん……」

「すぐ恋愛に結びつけるのなんなの? 仮にもしそうだとしても、別に姉妹なんだしいいでしょ」

「いやまあ、そりゃそうなんだけど」

「じゃあいいじゃん。早く入って。寒いから」


 言われるがままバスルームへ。


 先に体を洗う派のレクがまずシャワーを開ける。

 少し考えて、一年前までと同様、私は先にバスタブに入ることにした。


 体を洗うレクを、なんとなく眺める。


「どうして一緒に入ってくれたの?」

 思わずそう尋ねた。

「……誘ったの私なんだから。入ってくれた、は私側」

「いやいや、私もレクとのお風呂入るの好きだったんだもん。……もう二度と無いんだ、って諦めてたのに」


「……ずっと、あの日のお姉ちゃんの顔が、忘れられなくて」

「あの日?」

「私がお風呂入るの断った日。凄い顔してたから」

「そ、そんなに変な顔してた!?」

「この世の終わりみたいな顔だったよ」

「そこまでだっ……た、かも……」


 あの時の心理状態を思い出すと、確かにそう言われてもおかしくない。


 レクが小さい声で笑う。

「もう、どんだけ私とお風呂入るの楽しみにしてたの。子供みたいなんだから」

「……だってまだ子供だもん」

「まあでも、誘った側の私が言えないか」


 体の泡を流すレク。


「頭と背中、洗ってあげる」

「ん」


 それから湯船を出て、まずレクの頭を洗ってあげた。


「かゆいところ無い?」

「うん。気持ちいい……」

「そう。なら良かった」


 鏡に映るレクは、本当に気持ちよさそうに目を閉じている。


 昔より会話の弾みは悪いかもしれないけど。

 久しぶりにレクの体を洗ってる時間は、不思議なくらいに、楽しい。


 次にレクは私の髪と頭を洗ってくれて。

 そんな時間もまた、幸せに過ぎていく。




 体を洗い終えて、再びバスタブに浸かった。

「はあ~、きもちー」


 大分リラックスしてきて、お湯の気持ちよさを味わえるようになってきた。


 と、すぐレクの存在を思い出す。


「ああごめん、今詰めるね……」


 言い終える前に、レクがバスタブに入ってきた。

 私に背を向けて。

 ふとともの上に、座る。


「あ……えっ……?」

 思考が止まる。今日はこんなのばっかりだ。


 ――今日のレクちゃん、サービス多くて、お姉ちゃんパニックだよ……


 良く見ると、レクは耳たぶまで真っ赤にしてた。


「……暑くない?」

 なんとかそれだけ尋ねる。

「……平気。お湯の温度、低めに設定しといたし」


 レクが後ろにもたれて、私に体を預けてくる。

 レクの肩までお湯が浸かる。


「……ホントだ。きもちいい……」


 そんなレクの呟きを最後に、私もレクも、黙ってそのまま暖まっていった。




 どれくらい経っただろう。

 一分か、三分か、五分は経ってないと思うけど……時間の感覚がレクの体温で溶けている。


 なにか話そうとして……でもなにを言おうか悩む、を頭の中でループしてる時。


「……これまで避けてて、ごめんなさい」


 レクが小さく、でもはっきりと呟いた。


「それと、助けてくれて、ありがとう。

 瓦礫から守ってくれた時とか、本当に嬉しかった。

 トキアさんのことも、殺さないでくれてありがとう」


 それで、察する。


 ――ああ。そうか。

 面と向かって言えないから、こうして誘ってくれたのか。


 そこまでして謝罪と感謝を言ってくれたレクが、愛おしい。

 

「……ううん。どういたしまして」


「こんな可愛くない妹、私が同じ立場だったら、とっくに見捨ててる」

「それは嘘だね。

 見捨てるような子だったらトキアさんとこうなってない。

 そもそもレクは可愛いし」

「……シスコン」

「シスコンで上等」


 呆れたようなため息。


 そっとレクの胸に両腕を回す。

 あんまり暑がられないよう、優しく抱きしめた。


「私も、昔は手放しで、お姉ちゃんのこと好きだったのに。

 お父さんお母さんが褒めてた時も、一緒になって『お姉ちゃん凄い!』って言えてたのに。

 ……なにが原因だったかな」


「……私が覚えてるのは、『テストが分からない!』って答案用紙握って泣いてた時。

 レクが9歳だったかな。

『お姉ちゃんは全部100点だったのに!』って」


「ああ……そうかも。それが最初だったと思う。

 お姉ちゃんが9歳の時は、もっと上の学年の問題すら簡単に解いてたのに。なんで自分にはできないんだ、って」


「そうそう。みんなで『全部90点以上も凄いから』って慰め……というか事実を言ったのに、全然聞いてくれなかった」


「お姉ちゃんができるから、自分も大きくなったら同じくらいできるはず、って思ってたんだ。

 それから、やることなすこと、全部敵わなくて。……もうずっと、イライラしてばっかりだった」


「……本当にごめんね。気づけなくて」


「私がバカだっただけ。

 ……それだけじゃなくて、お姉ちゃんを逆恨みしたことまで含めて全部、私がバカだったせいだよ」


「それは違う。レクがバカとかじゃない。私が、寄り添えなかったから……」


 ――私が、『この世界の人間に馴染めてるかかどうか』でしか考えてなかった弊害だから……


「でもさ。今日笑っちゃったの。

 トキアさんが、『姉として劣等だ』みたいなこと言ってたでしょ?」


「ああ、朝の戦いの時に言われたね」


「めっちゃ頭にきちゃって。劣等なんかじゃない。お姉ちゃんを馬鹿にするな、って。

 ……素で思っちゃってさ。自分一人で、恥ずかしかった」


 なんて、おかしそうにレクは言った。


 ――どうしよう。

 胸の奥から、一気にいろんな感情が込み上げて、泣いちゃいそう。


「……それで、気付いたの。

『自分が悪い』ってとっくに気付いてたんだ、って。

 ……いつまでも、お姉ちゃんのあの時の顔が忘れられなかったのは、そういうことだったんだ、って……」


 レクを抱きしめる力が、勝手に強くなってしまう。


「……えっ? もしかして泣いてる!? なんで!?」

「だって、だってぇ……」


 本当に、レクはなにも悪くないのに。

 でも、この子が自分で出した結論を、私はもう、否定したくない。

 だから。


「……ありがとう、レク。あなたの姉に生まれて、本当に良かった」


「大げさ……」

「大げさじゃないもん」

「……なんでも良いから、暑いんだけど」

「無理ぃ……離れたくない……」

「さっき、強制みたいなことはしないって……」

「嫌なら、はっきり嫌って言って……」


 沈黙。

 微かな水音だけが、バスルーム内に響き渡る。



「……嫌じゃない。

 それにもう、お姉ちゃんが傷付くような言葉言いたくない」



 ――今、理解した。


 この子は、天性の女たらしだ。

 姉すら魅了する、魔性だ。


 元魔王の魂ですら足下にも及ばないその魅了は、優れた才能に違いない。




「ちょっと! 今のなし! やっぱヤダ! キライ! 離れてこのシスコン!」

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