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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
2章 レクちゃん、お姉さんを拾う
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9

 首から噴き出す、妖力を纏った血の奔流。

 流石に浴びる気にならず、後ろに飛んで距離を取った。


 背後にレクを庇うような位置になる。


「……これ使った後は倒れちゃうから、あんまり好きじゃないんだけど。仕方ない」


 ゆっくり立ち上がるフィアーの左半身は、血の鎧が覆っている。

 首から伸びる血鎧が、やがて左手首の傷口と繋がって、一振りの戦鎌(いくさがま)を作った。



「もう一度言うね、ブレイド。私は、あなたを、殺しに来たの。

 助けるとか救うとか、そんな戯言(ざれごと)でどうにかなる日々は終わったのよ」



 立ち上る妖力が、禍々しい瘴気になって目に見え始める。


 その強大な妖力は、けれどソラと違って炎に変化したりしない。

 それは緻密に正確に、自分の妖力を完璧に制御できている証拠だ。


(あ、ありえません……。こんな膨大な妖力。いくら血を媒介にしたと言っても、人間が扱える量を遥かに超えている……)

 震える声でスォーが呟く。

 魔力で作られた彼女は、自分との格の違いをダイレクトに感じているのだろう。


(……だから、『成功作』……なのかな)

 ――ただ、単に本人の才能な気もするけれど。


 再び薙刀を構える。


「いくら変化してるとはいえ、そんなに血を失っていいわけない。私が救うって言ってるんだから、諦めて救われなさい」


「……生意気。まあ、姉妹揃って、可愛いところだけど」


(主様、あれは無理です! いくらなんでも人間の身では受け止められません!)


「これなら、武器破壊は私ごと斬らなきゃダメでしょう!?」


 跳躍。

 その速度は私に勝るとも劣らない、知覚外の神速。


 右下から襲い来る血鎌。

 後ろに飛んで回避。

 コンクリートを砕きながら、血鎌が私の目の前を素通りした。


 ……が、血鎌が巻き上げたコンクリートの瓦礫。

 その大きな破片が一つ、レクに向かって真っ直ぐ飛んでいく。


「……えっ?」

 反応できず、身動きも取れず、ぼんやりとそれを見つめるレク。


「レク!」


 右腕を伸ばして、薙刀で破片を防いだ。


 無理にそんなことしたから、私の体は伸びきって隙だらけ。

 すぐ目の前には、鎌を構え直してるフィアー。


 直後に襲ってくるだろう一撃を覚悟して、目を閉じた。




「……?」

 が、数瞬待っても、来るはずの攻撃がやってこない。


 目を開けると、フィアーは鎌を構えたまま、私の前に立っていた。

 視線が合う。


「……くっ!」


 思い出したように、フィアーは戦鎌を振り下ろしてきた。

 右に飛んで避け、再び距離を取る。


 再びお互いの射程外で見合う。


(……今の……?)


 ――レクが心配で攻撃が止まった?

 いや、それにしては私を真っ直ぐに見ていた。


 ――私を『殺す』と言った彼女が、恰好のタイミングで、棒立ちしていた。

 ……それは、つまり……


「……早く死んでよ。さっさとあなたを殺して、レクちゃんに無理矢理朝ご飯作らせて、血を補給しなきゃいけないんだから」


 血鎧が左頬を昇り左目に辿り着くと、仮面のように隠して覆っていく。


(……うん。多分、そういうことだ)

(どういうことですか……?)

(今に分かるよ)


 スォーに答え、再び意識をフィアーに向ける。


「……そうね。早く終わらせて何か食べた方が良い。

 レクはきっと進んであなたの朝ご飯を作るし、私も支度を手伝うから」


「……そろそろ可愛くないよ、お姉さん」


 フィアーの傷口から流れ出る血は増えていき、鎧も鎌も見る見る大きく、密度も上がっていく。


「うああああああああああ!」


 咆哮。

 フィアーの姿が消えて、すぐ目の前に。


 左手の先から無数の針が、うねうねと伸びて私を襲う。


 避けて踏み込んで、脇構えから切り上げ。

 それをバックスウェーで躱しながら、左手を振って戦鎌の先端を伸ばすフィアー。


 あまりに素早い反撃に知覚追いつかず、私の左脇腹に突き刺さった。


 ――まるでトラックが全速力でぶつかってきたかのような衝撃。


「うあぁっ!?」 

(あ、主様ぁ!!!)


 吹き出した私の血が、血鎌を鮮やかに染める。


 フィアーはそのまま左腕を挙げて、戦鎌で突き刺したまま私を空中に持ち上げた。


「ぐぅ……」

 重力で食い込む戦鎌を抜こうと、なんとか左手で掴む。

 けれどやはり、ビクともしない。


 直後、左腕が勢い良く振り下ろされた。

 私の全身がコンクリートに叩き付けられる。


(主様、主様っ!)


 衝撃で戦鎌が抜け、私の体は二度、三度と屋上をバウンド。


「お姉ちゃん!」

 レクの悲鳴のような叫び声。

 ――レクにそう呼ばれるの、一年ぶりだ。


 最後に給水塔にぶつかって、私は止まる。




(……スォーの言う通りね)

 ――斬首の方は、人間辞めてるレベルだわ……


 今の私ですら見えないなんて。

 妖力もさることながら、本人の戦闘能力も高い。回避しながらあんな鮮やかに反撃されたの、前世含めても数えるくらいだ。


 これが、『死』のフィアー。殺人能力第1位の本気か。


 平衡感覚が戻らず、頭がクラクラする。

 左脇腹が燃えるような熱を持って、出血が止まらない。


(主様、主様……)

 完全にパニック状態のスォー。


「……言わんことじゃない。殺さない、なんて甘いこと言ってるから、そうなるのよ」


 ゆっくりとこちらに歩いてくるフィアー。


(主様、一度撤退を! ヤツは単独で戦うべきではありません! ナナ様とソラ様に応援を……)


「……じゃあ、なんで今、殺さなかったの?」


 スォーを無視して、フィアーに言う。

 左脇腹を押さえながら、なんとか立ち上がった。


「……あなたなら、あのまま内側から血の針を伸ばして、八つ裂きにするでも、内臓ズタズタにするでも、できたでしょ。なんで、私のこと、離したの?」


「……別に。ただ勢いで外れちゃっただけ」


「嘘。それだけの妖力を完璧に制御できるあなたが、そんなミスするわけ無い」


「……なにを言ってるの? お腹に大穴開けられたのよ?

 そんなこと気にする意味な……」



「あなた、私を殺す気なんて無いでしょ」



 フィアーの動きと言葉がピタリと止まる。


「レクを拘束しておいて、人質に取らない。

 瓦礫を壊して隙だらけの私を攻撃しない。

 変幻自在の血を突き刺したのに、さっさと離す。

 明らかに立つのがやっとなのに、喋って回復の猶予を与えてる。

 ……これだけ続けば、流石に分かるよ」


「おめでたいね。どこまで平和ボケしてるのか……」


「まだ認めないの? ……まあ、でもそうか。

 この状態じゃ、ただの負け惜しみに聞こえちゃうかもね。

 だからやっぱり、さっきも言ったとおり。

 私が圧勝して、もう一度同じ事を言ってあげる」


 小さく呼吸をして、薙刀を持ち上げた。


「この殺し合いは、私が全員救って、おしまいよ」


「……顔真っ青にして、なに言ってるんだか」

「血が足りないのはお互い様でしょう?」

「……私はレクちゃんのご飯のお陰でまだまだ元気だから」

「そう。なら私は、レクの師匠であるお母さんのご飯で元気いっぱい」


「…………はあ」

 呆れたようにフィアーが左手を下げる。

「もう良い、分かった」


 そして右手を、自分の首と同じ高さに持ち上げた。

 その手には、匕首。



斬死(ざんし)。――咲かせ、生命と(フラワリング・)血の華束(ノヴァ)――」



 フィアーが匕首を右の首筋に突き刺す。


(嘘だ……まだ、これ以上が……)


「出し惜しみなしよ。……まだ甘っちょろいこと言ってる、あなたが悪いんだからね」

 匕首を抜いて、首の右からも血を流しながらフィアーが見下ろす。


「……またそんな傷作って。痛々しくて、見てられない」

 姿勢低く構えて、そんな彼女を見上げた。


 新しい血は襟の下に潜り込み、そのまま右腕の先まで行き渡る。

 こちらは巨大な鉤爪のようになって、右手と匕首を覆って形成されていった。


 それによって襟元が大きく広げられ、ほとんどはだけてしまう。ちょっと色々、危ない。

 本人は気付いていないのか。気付いていて、どうでもいいのか。

 



 静止。

 遠くで飛行機の音。

 鳥の鳴き声。


 最初の一歩は、二人同時に。


 知覚外の神速 VS 知覚外の神速。

 人智を超える超威力 VS 人智を超える超威力。


 レクの涙目に見られながら、私たちの最後の攻防が始まる。

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