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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
2章 レクちゃん、お姉さんを拾う
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8

 振り下ろされた血鎌を横に跳んで躱す。

 コンクリートの床を豆腐のように斬り裂いて、中に埋まって行った。


 床に注目。

 次の瞬間、私の真下から血鎌が飛び出してくる。


 後ろに跳んで回避……


 直後、血鎌が私の目の前で弾けた。

 無数の血の針に形を変えて、迫り来る。


「くっ!?」


 薙刀で防ごうとしても、空中で形と軌道を変えてスルスルと掻い潜ってくる。

 それでもなんとか回避と防御。


 前からの猛攻。左右からの挟撃。背後から奇襲。

 多種多様で変幻自在な針たちに対処が間に合わず、服の端や皮膚に切り傷ができていく。二つ、三つ、四つ五つ六つ……


 私が防戦に徹する中、フィアーが跳んだ。


 血の鎌を生成して、そのまま左手に握るのが視界の端に見える。


 前後左右の血の針群に合わせて、頭上からの強襲。



「輝け。――原初の衝撃(ファースト・ブレット)――!」



「!?」


 発動の衝撃で針を吹き飛ばして。

 フィアーの鎌に、薙刀をぶつけた。


 刃迫り合い。

 そのまま、鎌を砕いてフィアーに届かせようとする。

 けれど……


「くぅ……っ!」


 鎌を砕くどころか、少しも前に押し出せる気がしなかった。


 とても血でできているとは思えない。

 鉄塊相手にナイフで斬り付けているかのようだ。


(そんな……、まさか傷一つ付けられないなんて……)

 スォーの絶望の思念。


「……これは、ちょっと押し切れないな」


 フィアーが呟いて、後ろに飛んだ。

 誰も居なくなった空中を薙刀が通り過ぎる。


(あの血の鎌、というか、血の武器……)

(現実にあり得ないほどの高密度で圧縮されています。これが、フィアーの魔法なのでしょう。

 ……申し訳ありません。今の私では、太刀打ちできません)


 鋼鉄すら遥かに凌駕する硬度と威力。

 しかもそれが、鎌にも針にも縄にも、自由に変形するんだから嫌になっちゃう――。


 フィアーは針を戻して、再び大鎌を形成し始める。

 それは、先ほどまでより禍々しく表面を蠢かせて、色濃く、巨大に成長していった。


 ――その威容に、私の体が、本能的に立ちすくむ。

 二つ名の『死』を具現化した、その象徴に。


「もう分かっただろうけど、私の武器は血。傷口から血が出れば出るほど、量も密度も増していく。

 今はまだその薙刀に敵わないけど、すぐに真っ向から叩き斬ってあげる」


(ならば主様。時間掛けて失血を狙……)


「ちなみに、今最高に血多いから。早々枯れないよ。

 レクちゃんが毎日美味しいご飯食べさせてくれたお陰でね」


 禍々しい、赤黒い巨大鎌が、その先端を私に向けた。


(……主様。相手は殺しに来た相手。今回ばかりは、殺傷を辞さないことを具申致します)

(……フィアーを、殺す?)

(はい。……信念に反するとは存じます。ですがもう、フィアーまで救おうとしていては、主様もレク様も助かりません)


 ――人を殺す……? 私が?


 まだ10代だろう、この子を。

 レクも懐いてる、この少女を。

 ホムラに利用されているだけの、彼女を……。


(主様。どうか、お覚悟を。この戦いは最早、命のやりとりに他なりません)


 ……確かに、スォーの言うとおりだ。

 ナナやソラより、圧倒的に強い相手。手加減なんてしていられない。



 レクか、フィアーか、どちらかを選ぶしかないのなら。

(……迷う余地なんて、あるわけない)


(……お辛い思いをさせ、申し訳ございません)


 ――でも。


(本当に?)


 ――思い出す。

 前世、戦争の日々を。


 殺意を持って、挑んだ戦を。

 死と隣り合わせだった、毎日を。


 人間殲滅を叫ぶ先代魔王を、この手で(しい)した時のことを。


 ――殺し殺されの日々が嫌で、前世では平和のために奔走した。


 なのに、転生した先で、まだこんな幼さすら残る少女を、殺さなければいけないのか。



(……いや、違う)



 もしこの戦いが戦争ならば。

 目の前の少女は、それに巻き込まれただけ。


 その彼女を敵として殺めるのは、違う。

 ――絶対、違う。


(主様。お気持ちは分かります。ですが、このままでは……)

(ふふ。ありがとうスォー。あらためて、相棒があなたで良かった)

(……もったいないお言葉です)


(初めてガーゴイルと戦った時、あなたは知覚できない、って言ってくれたわね)

(え? は、はい。左様ですが……)

(ナナとソラの時は、どうだった?)

(知覚できない、というほどではありませんでした。……が、私が単に見慣れたからでございます。決して主様が弱くなったとか、そういうことでは……)


(ううん。事実、ナナとソラと戦った時の方が、弱かったよ私)

(そう……でしたか? あまりそうは感じませんでしたが……)

(あの時は、ナナとソラに刃を向けるのが正しいのか、内心迷ってた。

 ……だから、教えてあげるわ)



「砕け。――再来の撃滅(セカンド・ブレット)――」



「……っ、なに……?」

 周囲に広がる黒光に、フィアーが戸惑った声を出す。


「みんなを救うためだったから、私はアイツに勝てた」

 ――私の前の魔王、ギデルリオン。間違いなく、私が戦ってきた中で最強だった。


「弱きを助けたいと思うとき、私は誰より、強くなれた――!」

 憎しみや殺意が、私に力をくれたことなんかない。

 ――そもそも、嫌いだから。そんな感情。


「『これは殺し合いだ』って気付かせてくれてありがとう。

 だったら、私の勝利は『この場の誰も死なせない』以外にあり得ない」


 フィアーを見る。

 ……良く見ると、凄い美人さんだ。どこか暖かい雰囲気で、愛嬌もある。


 大人になったら、きっともっと、綺麗で素敵な人になるだろう。



「時間が経ったら失血しちゃうわ。早めに終わらせなくっちゃね」



 薙刀が放つ黒光は、これまでより激しく波打って。

 これまでよりずっと、明るさを増している。


 フィアーが眉を顰めた。

「……この状況で、まだ私を殺す決意できないの?

 負けたら自分がどうなるか、妹がどうなるか、本当に理解できてる?」


「うん。もちろん理解できてる。

 だから、私は、負けない」


 薙刀を構える。

 黒光が、朝空を黒く照らす。


「『負けない』って言って勝てるなら、誰も苦労しない」

「普通の人ならね。でも、私だから」

「……嫌でも殺し合いせざるを得なくしてあげるよ」


 巨大鎌がその首を伸ばして、振り下ろされた。


(主様! 殺さない場合、武器の方をなんとかしないと)

(分かってる)


 私に触れる瞬間、巨大鎌が中央から断ち斬られた。

 手首とのつながりを斬られた鎌の前部が、ただの血になって私の背後にびしゃりと落ちる。


「……えっ?」

(なっ……!?)


 私は駆け出して、()()()()フィアーに襲いかかった。


 フィアーはすぐに残った血を分散させ、無数の針に変えて私を迎え撃つ。


 ――でもそれは、さっき見た。

 しかもさっきより少なくなっている。


 受け、避け、躱し、弾き、逸らし……

 全てを回避して、フィアーの懐に。


「み、見えな……」

(ち、知覚、できない……っ!)


 左手首の傷口から伸びる血の根元を、斬り落とした。


「くっ、こんな、なんで……!」


「あなたが言ったのよ。血はいくらでも湧いてくる、って。

 つまり、妖玉の本体とは通じてないって事。

 だったら、武器破壊しても命に別状無いでしょ?」


(あ、ありえません……あの血の鎌も針も、今の私より数段強かったハズなのに……)

(私の込めた魔力が、あなたより数段弱いわけないでしょう?)


 魔力は、意思の力。

 魔法は、想像の具現化。


 百年来『救う』ことに研ぎ澄ませた私の意思と想像が、十数歳の子供の意思と想像に負けるはずない。


「このっ!」


 少なくなった血で何とかしようと左腕を振るうフィアー。

 薙刀を真上に投げ、空いた両手でその左腕を取る。

 そのまま足を掛けて背中を潜り込ませ、背負い投げの要領で投げた。

 ……もちろん、頭をコンクリート床にぶつけないよう、角度調整して。


「がはっ……!」


 背中を打ち付けて、フィアーが鈍い悲鳴を零した。

 ――変化状態だし、これくらいなら大丈夫よね……?


 落ちてきた薙刀を掴む。


「あなたの負けよ。今、妖玉取り出してあげるから」

 そう言って、フィアーの横に膝を付く。


「……ふふ、本当に甘いのね。性格も、詰めも」


 フィアーが匕首を持つ。



「斬首。――愚かに漁れ、(ナイトメア・)好奇の秘密(ハンテッド)――」



 一切のためらいなく、自分の左首筋を真横に斬り裂いた。


「トキアさん、もうやめて……!」

 レクの悲痛な呼び声が、響き渡る。 

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