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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
2章 レクちゃん、お姉さんを拾う
32/77

6

『メイプルとタンザナイトが襲撃された』


 ペロからそんな報告を受けて、私とナナとソラは、境世界のいつものカフェにやってきた。


「今日の午前11時ごろよ。二人が西区画のゲート……トアちゃんが初めて境世界に入った時の公園ね。

 そこでゲートを開こうとしたところに、すでに居たんだって」


 トモエさんが説明する。


 私の家のすぐ近くにある、あの公園。

 まさかつい2、3時間前にそんなことが起きてたなんて……。


「それで、二人は無事なんですか?」

「ええ。ピュアパラの回復力で完治できる範囲」

「良かった……」

「ただかなり深手を負ったから、しばらく二人とも安静にしてもらうつもり」

「……心の方は?」

「それは、まだ正直なんとも。大丈夫、とは言ってるけどね」


 スカーレットのことを思い出してしまう。

 ――正義の味方に憧れた少女にとって、悪意に傷つけられる痛みは、きっと心にも傷を与えるだろう。


「……二人を倒して、襲撃犯は『ブレイドはどこ?』って尋ねたんだって」

「私を?」

「ええ。……色々あって、二人とも最終的には『今は共に行動していないから知らない』と伝えたそうよ。

 そうしたら、それ以上なにもせず去って行った」


 ――『色々あって』『最終的に』。


 深手を負ったのは、最初私の事を隠そうとしてくれたからか。


(もう別勢力の人間なんだから、そんなこと気にしないでさっさと喋って良かったのに……)


「……その犯人の見た目は?」

「和服版のピュアパラ……ナナちゃんやソラちゃんと似た姿だったそうよ。

 右側は普通の和服と同様、襟から袖まで続いてるけど、左側は肩から先が裸で左右非対称だった、って」


「なるほど……。武器は分かりますか?」

「どこからか大きな刃を取り出して、伸縮させて攻撃してきた、と言っていたわ」


 ナナとソラと、三人で視線を交わす。


「……それって……」

「シチビの言ってた、『成功作』のインピュアズだろう」

「だよね……」


「なにが目的か分からないけど、トアちゃんのことを探してる。気を付けて」

 トモエさんが言う。

「……と言っても、ナナさんやソラさんと同じ存在なら、私たちで力になれることもあまりないだろうけど……

 なにか困ったことがあったら頼って。できる限り力になるから」


「ありがとうございます。その時は、よろしくお願いします」


「最近の『零れ』の処理から、すでにお世話になりっぱなしだもの。本当に、遠慮せずね」


『零れ』自体は以前から良くあったことで、15年間ピュアパラのメイン討伐対象だったらしい。

 が、最近は零れ出てくる妖魔――正確には召喚獣――たちの脅威度が増しているという。


 私たちもペロというスパイからピュアパラの消耗激しい地区を聞いては、そこに出向いて討伐する日々だ。


 けれどそれも、ひまわり地区から行ける範囲だけ。

 それより遠い場所では、撤退を余儀なくされた地区もあるという。


 ペロをはじめ精霊たちは今、天界にタネやタマハガネの強化、あるいはさらなる上位の変身アイテムを要求しているそうだ。


 それが叶うまで、インピュアズと戦える戦力は私たちリトルウィッチィズだけということになる。

 敵がその王である私を狙いに来るのも、当然と言えば当然だろう。



   †



 その夜。

 夕ご飯を食べて宿題も終えて、そろそろお風呂に入ろうかな、と考えていた頃。


 ノックの音がした。


「? はーい」


 ドアを開けると、パジャマ姿のレクが立っていた。


「珍しい。どうしたの?」

「あ、うん。……ちょっと話、いいかな」

「……私の部屋で良いの?」

「うん」


 レクは二歳年下の妹だ。

 昔は仲良しだったけど、二年ほど前から私への態度がぎこちなくなってきた。

 そして一年前にはお風呂を断られて、以来、明確に避けられている。


 私は凄くショックだったけど、母から「思春期とか反抗期、って呼ばれる時期だから。気にしなくて良いのよ」と教わった。

「トアちゃんにはそういうの無かったけど、人それぞれだから」と。


 以来、自分からはなるべく接触しないようにしてきた。


 そんなレクが一年以上ぶりに私の部屋に入ってくる。

 

 ――ちょっと緊張してきた。

 姉なのに情けないけど……今はとにかく、レクの話に集中だ。


「あのさ、これからの話は、絶対内緒にして欲しいの。お父さんお母さんにも」

「うん、分かった」

「……本当の本当だからね。裏切ったら絶交だから」

「分かったって。絶対言わないから」


 ――なんだろう。

 もしかして、レクはレクなりに、仲直りしたいとか思ってくれてたのかな?

 なんて、少し期待する気持ちも出てきて……



「ブレイド、って渾名の人に、心当たりない?」



 心臓が冷や水浴びせられたように、きゅっ、と締め付けられた気がした。


「13歳の女の子らしい、以外にまともな情報無いんだけど。日本人なのかすら、多分、って言ってたし……」


「……どうしてそんなこと聞くの?」

 できる限り声が強張らないよう、意識して問い(ただ)す。


「……本当の本当の本当に、誰にも言ったら許さないから」

「大丈夫だって。私がレクとの約束破ったことあった?」


 レクは黙って上目遣いで私を見る。

 そして、少し言いにくそうに俯いた。


「……前に夕飯の時、行き倒れてた人の話したでしょ?」

「ああ、うん。スープとサンドイッチだけ買ってあげた、っていう」

「実は、そのまま帰った、っていうのは嘘で。

 その人のこと家まで送ったの。それで、なんか意気投合して……今はほぼ毎日、その人のところに遊びに行ってる」


「……そう、だったん、だ……」


 私の返事に身構えているレク。

 ――怒られる覚悟をして、今ここにいるんだ。この子は。


「……それでその人、ブレイド、って人を探しにひまわり地区まで来たんだって。

 西区画に居るかもしれない、って言ってたから。

 ……だから、何か知らないかな、と思って。同い年らしいし」


 ――なんと答えよう。

 そう考える、一瞬の間。


「……心当たり、あるんだ」

 それだけで看破するレク。


 この子は昔から、人の心理を読むのが天才的に上手い。

 ……本人は、『他人の視線ばっか気にしてる陰キャだから』なんて卑下するけど。


「……まあね」

 認めざるを得ない私。


 ――レクに見抜かれた以上、知らぬフリはできない。

 ここで嘘を答えても、レクから『姉は知ってる素振りだった』と伝わるだろう。

 そうなれば、後はレクを人質に取られて呼び出されるだけだ。


「それなら、その人とトキアさん……あ、例の行き倒れの人ね。会わせてあげることとか、できない?」


「……私がその人に直接話すことならできる」

 一応、イエスともノーとも言わず、そう返す。


「あ、本当? なら明日とか平気?」

「ええ。……私としても、なるべく早くお願いしたい」

「分かった。じゃあ、明日の朝9時くらいに」

「……了解」

「家出る時は別々でね。お母さんたちに変な勘ぐり入れられたくないから」


 そう言って、レクが部屋を出て行こうとする。


「レク」

「……なに?」

 立ち止まって振り返ってくれる。


「その、トキアさん? って人に変なことされてない?」


「……されては、ないよ」

 若干間を置いて、レクは視線を合わせずそう答える。


「たとえば……胸に何か埋められたり、とか……」

 私の問いに、レクはきょとんとする。


「……なに? 胸に埋めるって?」

「ああ、いやその、丸い宝石みたいなのとか……」

「……中二病みたいな妄想、流行ってるの? トキアさんもなんか、柄の長い武器がどうとか言ってたけど……」


「いや、分からないなら分からないで良いの。ごめんね呼び止めて」

「……ともかく、明日9時ね。裏の公園で待ち合わせで。お母さんはもちろん、誰にも絶対内緒だから。絶対に絶対だからね」

「うん。言わないって」


 ――言えるわけ、ないから。


 レクが部屋を出て行く。


(スォー)

(はっ)

(どうだろう。レク、洗脳とか、されてると思う?)

(……洗脳されてるにしては、あまりに直接的すぎるかと。

 別件で呼び出して油断させ、トキアという人物が奇襲してくる、というなら分かりますが……)

(そうよね……)

(もちろん、狙いが分からない以上断言は禁物ですが)

(うん……)


 ――どうしよう。

 思考が上手くまとまらない。


 レクが……

 小さい頃からずっと一緒だったレクが、敵の手に落ちたかもしれない、と考えるだけで手が震えて、膝が笑い出す。


(……主様。お気を確かに。今レク様を救えるのは、トア様しかいらっしゃいません)

(分かってる。分かってるよ……)


 ――まさか自分が、ここまで人間のような精神になってるなんて。

 妖魔時代だったら、仲間だろうがもっとドライでいられたのに。


 この十三年の思い出が……

 レクと出会ってから十一年の記憶が……


 私にとって、こんなに大事なものだったなんて。


 これが、『家族』。


 それが、人間だったのか。

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― 新着の感想 ―
こんばんは。 家族愛という『人としての情』を自覚してしまった元魔王さま……果たしてこれは『強さ』になるのか『弱さ』になってしまうのか?
うわあーうわあー(のたうち回る)
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