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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
2章 レクちゃん、お姉さんを拾う
31/77

5

Interlude(インタールード) 【レク 5】~



 お昼の12時50分。

 ドアが開いて、トキアさんが帰ってきた。


「お帰りなさい」

 お昼を作ってる最中の私。


「…………」

 目が合うと、トキアさんが黙って固まった。

「黙って入られるのちょっと怖いんで、次から何か言ってくれます?」

「あ、ごめんなさい。ただいま……」

 なんか様子がおかしい。


「もうすぐお昼できますけど……どうしました?」


「いや……」

「?」

「……誰かに出迎えられるの、いいなあ、って」


 ……またすぐそういう可愛いこと言う。

 この人はもう存在自体があざとすぎる。まんまと私も嬉しくなっちゃうから、ほどほどにして欲しい。


「ちょっとガッカリしてたけど……レクちゃんのお陰で、元気出てきたよ」

「それなら良かったですけど。ガッカリって、人捜しダメだったんですか?」

「うん。ちょっとね……」


 トキアさんが靴を脱いで上がる。

 私の横で手を洗い始めた。


「今日のお昼なあに?」

「イワシのパスタです。イワシ安かったのと、魚捌いてみたいと思って」

「パスタ? どうやって茹でたの?」

「レンジで茹でられるのが売ってるんですよ」

「なるほど……、さっきから凄い良い匂い。お腹ペコペコだよ」

「ふふっ、もうちょっと良い子で待っててください」

「はーい」


 トキアさんが部屋に行く。


「……? あれ?」


 早速違和感を覚えた模様。

 盛り付けながら、ニヤニヤしてきちゃう。


「どうかしました?」

 努めて平静を装う。


「なんか……床が綺麗な気が……」

「気のせいじゃないですか?」

「え? いやでも、踏んだ感触もちょっと違うし、角の所もホコリたまってた気が……」


 振り返るトキアさん。

 ニヤニヤが抑えられないまま見返す私。


「優しい妖精さんがハンディクリーナー掛けてぞうきんで拭いてくれたのかもしれませんね」


 また固まるトキアさんだった。


「……レクちゃんは天使じゃなくて妖精さんだった……?」

「……ジョークです。真面目に受け止めないでください」

「でもそんなのどこに……」


 言って部屋を見渡すトキアさん。

 すぐに私のカバンに目を付ける。

 次に、窓の外、ベランダで干されてるぞうきんを見つけた。


「できましたよ。キレイになった部屋でお昼にしましょう」


 両手にパスタの皿をそれぞれ持って、トキアさんを追い越す。


「……レクちゃん、それテーブルに置いて」

「? 言われなくても置くために持ってきたんですよ。なにか飲み物用意してく……」


 パスタをテーブルに置いて、手を離した瞬間、横から攫うように抱きしめられた。


 勢いそのまま、私たちは倒れ込む。

 トキアさんは倒れながら器用に体を捻って、自分を下敷きにした。


「ちょっと! 危な……」

「レクちゃん、大好き!」


 痛いくらいの力で抱きしめてくる。


「分かった、分かりましたから……」

「こんなにいっぱいしてくれて、恩返しのアテがないよ」

「……やりたくてやってるんで、別に要らないですって。それより早く離して……」

「まだ11歳なのに、謙虚で、可愛くて……私なんかに優しくしてくれる天使な妖精さんで……。

 私、夢でも見てるみたい」


「夢じゃありませんから。パスタ冷めちゃいます。早く食べて欲しいんですけど」

「そうだ、それも楽しみだったんだ」

「でしょう、だから……」

「でも今はレクちゃんとぎゅーしてたい! 離れたくない!」


 なんか琴線に触れすぎてしまったらしい。

 ……だとしても動物か、この人は。


「後でにしてください! 作りたて食べてもらいたくて、調節してたんですから!」

「健気! 可愛い! 好き!」


 ――だめだこりゃ。


「……すぐ食べてもらえないならもう作りに来ません」


 即手が離れた。

 ジト目でトキアさんを見上げて睨む。


「分かったら飲み物用意してください」

「……はい。分かりました」


 そのまま冷蔵庫に行って、ペットボトルのお茶をコップにくみ始めるトキアさん。


 ――まだ私の心臓がバクバクして、うるさい。



   †



「朝言ってた手がかりって、結局空振りだったんですか?」


 ある程度、双方の心が落ち着いた頃。

 一緒にお昼を食べながら、私はそう尋ねた。


「空振り、ではなかった。一応、ブレイドのこと知ってる人達には会えたの。けど、今は一緒に居ないらしくて。また振り出し」


 そう言いながらイワシをフォークで切って、パスタと一緒に巻いて口に入れるトキアさん。


「……ブレイド?」

「あっ……」


 露骨に『ヤベッ、言っちゃった!』って顔するトキアさん。


「……探してる人って、日本人ではないんですか?」


 口に入れた物をもぐもぐするトキアさん。

 飲み込みながら、なんと答えるか考えてる様子。


「……いや、渾名(あだな)みたいなもの。日本人だとは思う。多分」

「多分って。そこすら曖昧なんですか?」

「まあ、確定ではないけど。それはほぼ間違いないと思うよ」


「……それで、そのブレイド? って人はどんな人なんです?」

「どんな……。聞いてどうするの?」

「西区画だったら私も住んでる所なので。もしかしたら何か協力できるかもしれないと思って」


 しばらくの間、「うーん」と唸って考え出すトキアさん。

 食べる速度も遅くなっている。


「……すみません。とりあえず食べてからにしましょうか」

「あ、うん。そうだね」


 残り少ないパスタを二人無言で食べきった。


「……それで? まとまりました?」

「うーん。正直巻き込みたくなかったんだけど……西区画に住んでる人の情報は欲しいなあ、って悩んでる」

「なんかトキアさんっていっつも見当違いですよね」

「急にブラックレクちゃん……」

「巻き込みたくないとか、どの口が言うんです?」

「いやまあ、確かに、反論の余地ありませんけど……」


 また「うーん」と悩み始める。


「そんなに悩みます? 別に新しい情報が出れば良し、私が知らなきゃそれまでじゃないですか?」


「……うん。まあ、そのとおりだね……。レクちゃん頭良いね……」

「トキアさんと比べたら、まあそうかもしれません」

「小生意気なとこも可愛い……」


 予想外の角度で反撃されて、今度は私が黙ってしまった。


「うーん、まあ、それじゃ協力してもらって良いかな?

 一応、分かってる情報としては……

『多分13歳の女の子』

『ひまわり地区に住んでいると思われる』

『色味の薄い髪っぽい』

『身長は低めらしい』

『近所に中学生の友達がいる』

 ……くらい」


「……ろくな情報ないじゃないですか」

 不確定情報が多すぎる。多分、とか、思われる、とか、っぽい、とか、らしい、とか。

 13歳が中学生の友達居るなんて当たり前だし。


「あ、あと柄が長い刃物を持ってる。けど、普段は持ち歩いてないはず」

「……そりゃそうでしょうね」


 そんなの持ち歩いてる人間どこにいるのか。本当だったら即警察に捕まるだろう。


 というか………

「……もしかして、マンガかアニメの見過ぎじゃないですか?」


「いやまあ、そう思われても無理ないんだけどさ……。一応、本当の情報なのよ」


 ……まあ、妄想にしては家を借りたりお金を持ってたり、行動力がありすぎる。

 世の中そういう人も居ないとは限らないけど。


「ともかく。ブレイドって渾名の、13歳の女性ですね?

 姉が13歳ですし、なにか知ってるかもしれません。今夜にでも聞いてみますよ」


「本当? なにからなにまで、ありがとう」

「なにも手がかり出てこない可能性の方が高いですから。あんまり期待しないでください」

「とにかくなんでもいいから情報が欲しい状況だもの。聞いてくれるだけでありがたいよ」




 それからトキアさんが朝と同様にお皿とコップを洗ってくれる。


「少しお昼寝してから、また探しに行こうと思うんだけど……」

「分かりました」


 ――昼寝する猶予あるの? と心配にならないでもない。


「ちなみに帰るの何時頃で……どうしたんです?」


 なんか、もじもじし始めるトキアさん。


「……レクちゃんと、お昼寝したくて」

「…………」

「……なんか言ってよ……」

「……じゃあ、私もリフレッシュがてら寝ます」


 ぱあっ、と表情が明るくなるトキアさん。


「やったー!」


 とはしゃぐトキアさんは、そりゃまあ、可愛いんだけど……

 ――なんか段々、子供みたいになってきてない?


 まあ、私相手に素を出せるようになってきた、ってことなんだろう。素直に喜んでおくとしよう。




 それから少しして、水の音がやむ。


「洗い物終わったし、お昼寝タイムだー」


 と言うや否や、おもむろに服を脱ぎだしたトキアさん。


 ――そういえば、前に全裸で寝るとか言ってたな。


「……今日の昼寝くらいは服着ません?」

「服着てると安眠できなくて。レクちゃんも裸で寝てみる? 気持ちいいよ」

「できるわけないでしょ!」


 そう反射的に怒鳴りつけたものの……

 この分だと来週……いや、もしかしたら明日にでも、裸になって眠りたい衝動に駆られそうで、怖い。


 いやだって、流石にそれは、その……なんというか、あんまり良くないと思うから……


 でも、私が怒鳴った理由が心の底から分かってない様子のトキアさんに、多分すぐに感化されちゃうんだろう、と予想できてしまった。


 それくらい、裸のトキアさんに抱きしめられる昼寝は、心地良かった。


 ――いやでも、幸せそうに眠りにつく間抜け顔に段々腹立ってきたから、やっぱり大丈夫かも。


 寝られるわけもない私に構わず。トキアさんの鼓動は一つ、また一つと、規則的に私の耳を打つ。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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