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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
2章 レクちゃん、お姉さんを拾う
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Interlude(インタールード) 【レク 1】~



 道端に女の人が倒れていた。


「……えっ?」


 小学校帰り。

 近道の公園を進み、道路へ出る角を曲がってすぐだった。


 多分高校生。ワイシャツとプリーツスカートを着ていて、おそらく制服だ。でも、この辺では見ない色と柄のスカートだった。


(……どうしよ)


 周りには誰もいない。

 ――救急車呼んだ方が良いのかな?

 でもスマホ持ってないし……


 と考えていると、その人が動き出した。


 目が合う。美人さんだ。ほっぺに土付いてるけど。


「……お迎え?」

 お姉さんが小さい声で言った。


「あの、大丈夫ですか?」

 生きてることに安心しつつ、しゃがみ込む。


「あ、うん……」

「人呼びましょうか?」

「いや、大丈夫……」


 ゆっくり起き上がる。

 そのまま公園のベンチに向かおうとするも、すぐ辛そうに膝を付いた。


「あの、無理しない方が……」

「……もう平気だから。放っておいて」


 そうは言われても、流石に放置できない。


 少し考えて……ふらふらとベンチに向かうお姉さんを、横から支えた。


「…………」

 お姉さんは横目で私を見るだけで何も言わず。

 そのままベンチまで行って、座り込んだ。


「……ありがと。助かった」

「いえ……」


 お姉さんが公園の中にある自動販売機に目を向ける。


「……もし良ければなんだけど、飲み物、買ってきてくれないかな?」

 言って、ポケットから財布を取り出す。


 それをそのまま、私に差し出してきた。

 なされるがままに受け取る。

 ――私が盗んだらどうする気なんだろう……?


「……何が良いですか?」

「なんか、ポカリ的なヤツ」

「分かりました」


 自動販売機へ。

 ポカリはなかったのでアクエリを買って、そのままお姉さんのところに戻った。




 財布とペットボトルを渡すと、一気に半分くらい飲む。

 ほぅ、と美味しそうにため息を吐いたお姉さんは、やつれてはいるけどやっぱり美しい。……土が付いてることに目をつむれば。


「生き返ったー。本当ありがとうー」

 笑顔のお姉さん。思わず少し、ドキッとする。

「どういたしまして……」


「そういえば二日くらいなんも食べてなかったわ」

「ふ、二日?」


 そんなことある?


「いや三日だったか、四日かも」


 最近学んだ『絶句する』という言葉の意味を今、身を以て学ぶ。


「……危ないですよ。なにか食べてください」

「食べるのめんどくさくて。めんどくさがりなの、私」

「それは、めんどくさがりってレベルじゃ……」


(……ダメ人間……?)

 失礼だけどそんな言葉が思い付く。


「いやでもホントありがと。もう大丈夫だから。じゃあね」

 のほほんとした顔で言う。


 ……未だに頬の土に気付いてない時点で、『大丈夫』と言われても信じられない。


 このまま帰ったら、一生この人のこと気にして生きる、と直感した。

 だから……


「あの、何か食べ物買ってくるんで、お金だけいただけますか?」


 そう言ってみた。

 ――せめて一人で歩けるくらいにはなってもらわないと。


 さっき見た財布の中にはまだまだお金入ってたし。


 お姉さんはきょとんと目を丸くして私を見る。

 

「……いいの?」

「いいですよ。すぐそこにコンビニありますから」

「……じゃあ、お願いしちゃおうかな」


 また財布まるごと渡してくるお姉さん。


「千円とかでいいです……」


 受け取った財布を開く。

 ……結構な枚数のお札が入っていた。


(お金こんなにあるのに、なんで……)


 まあ、あんまり見るのも失礼だ。

 千円札だけ抜き出して、すぐに財布を畳んで返す。


「それじゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃーい」


 呑気に手を振って私を見送るお姉さん。


(あなた今、わりと命の危機だと思うんですけどね……)



   †



 カップのコーンスープとたまごのサンドイッチ、それと水を買って公園に戻る。

 スープはポットのお湯で作ってきた。


 お姉さんは私を見て、にっこりと笑う。

「おかえり」

「……ただいまです。これお釣り」

「いや、いいよ。あげる」

「知らない人からお金もらうな、って言われてるので」


 手に持ったスープをベンチに置く。

 勝手にお姉さんの財布を奪って、小銭入れにお釣りを入れた。ふたたびお姉さんの手に返す。


「しっかりしてるなぁ……」


 お姉さんの隣にサンドイッチと水が入ったレジ袋を置く。

 と、早速サンドイッチに手を伸ばそうとしていた。


「ダメです!」

 ビクッ、と叱られた子犬みたいになるお姉さん。

「何日も食べてないのにいきなりそんなの食べたら胃がびっくりしちゃいます! まずスープ飲んでください」

「あ、うん……」


 ――とは言ったものの。

 今の状態で熱いもの持たせるのも怖い。


 袋からスプーンを取り出す。封を破って右手に持ち、左手でスープカップを持った。


「あ、あの……」


 カップの中身をかき混ぜて、スプーンの半分くらいスープを掬う。


「口開けてください」

「いや、自分で飲むから……」

「こぼす未来しか見えないんでダメです」

「でも流石に恥ずかしい……」

「生き倒れてる時点で恥ずかしいです。イヤなら人を呼びますけどどうします? 私はどっちでも良いですけど」

「……いただきます」

 

 観念して口を開けるお姉さん。

 そこにスプーンを差し入れて、飲ませた。


「ああ、美味しい……」


 すぐ二口目を用意する。


 それからは恥ずかしさも忘れたようで、黙って夢中でスープを飲む。

 そんなお姉さんは小動物みたいで、なんかちょっと、可愛い。




 あっという間にスープを飲み干した。

 私は次にサンドイッチを取り出して封を開ける。


「よく噛んで食べてください。辛かったら無理しないように」

「……それも食べさせて欲しいなぁ」

「はっ?」

「いやすみません冗談ですごめんなさい……」


 一回叱ったからか、お姉さんはすっかり私を怖がってしまった。


「……別に謝らなくて良いですよ。それじゃ……」

 サンドイッチを小さく千切る。端っこなので、なるべくたまごが多くなるように。

「はい、あーん」


「…………」

 しばらく私とサンドイッチの切れ端を見比べるお姉さん。


 けれど私が少し睨むと、ゆっくりとまた口を開けた。


 そこにサンドイッチを入れてあげる。


「20回は噛んでほしいですけど、噛む力ありますか? ダメそうなら次からたまごだけにしましょう」

「……たふんらいじょぶ……」


 もぐもぐしてる間、お姉さんの頬に付いた土をティッシュで拭いてあげる。


 それから小動物……というよりもはや小鳥に餌をあげるように、サンドイッチを食べ終えるまでお世話してあげた。



   †



「あー、美味しかった。生き返ったみたい」


 割と本当にその通りだろう。


「優しいお嬢さん、良ければお名前教えてくれない?」


「……レク。恋愛の恋に永久の久で、恋久(レク)です」

 一瞬考えて、下の名前だけ答えることにした。


「レクちゃんか。可愛い名前だね」

「……ありがとうございます」

「私はトキア。時計の時に、亜空間の亜で、時亜(トキア)

「素敵なお名前ですね」

「あはは、ありがとー」


 トキアさんは本当に嬉しそうに屈託無く笑う。

 褒められたから褒め返さないと、と思っただけなのに……。

 なんだか私の方が心が汚いように感じてしまって、少しだけ居心地悪い。


 ――いい人は、いい人なんだろうなあ。


「レクちゃん、良ければお礼したいんだけど……これから少し時間ある?」

「そんなの要らないんで無事に帰ってください」

「……本当にしっかり者さんだ。レクちゃんくらいの子なら、欲しいものいっぱいあるだろうに」

「歩くのも辛そうな人からもらえません」


「それじゃあ、無事に帰るまで見送ってくれないかな?」

「見送るって……どこまでです?」

「すぐ近くだよ。あのビルの手前のアパート」


 トキアさんが指をさしたのは、ここから歩いて三分と掛からない高層マンション。


「それなら、まあ……」

「大丈夫だよ、変なことしないから」


 私の心配を察してか、トキアさんは笑って言った。


「……とか言うヤツの方が信用できないか」

「まあそうかもしれません」

「じゃあ、ちょっと変なことするかもしれないけど」

「なら絶対付いていきません」

「冗談だってぇー」

「冗談のセンスないんで言わない方が良いですよ」


 辛辣……、と小声で呟いて、トキアさんは静かになった。


 それから少し食休みを挟んで、私とトキアさんは彼女の住処に向かう。

 ……一応、防犯ブザーから手を離さないようにして。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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