エピローグIII
~Interlude 【妖怪会議】~
「すまん! 失敗したにゃ!」
てへへー、と後頭部を掻きながら、焔陸星――ホムラはその場の全員に報告した。
「したにゃ、じゃないでしょ……。原因と、改善策は?」
角の生えた妖怪が、ホムラに問いただす。
「原因は、失敗作どもが予想以上にポンコツだったことと……」
「だから言ったのよ、失敗作使うな、って」
ホムラを遮って、翼の生えた妖怪が悪態をついた。
「サンバ、失敗作だからと廃棄してたら戦力がすぐ底を突く。挽回の機会も与えるべき、って会議で決めたでしょ。
それがダメだったなら仕方ないわ。それよりホムラ、続きを」
角の妖怪が仲裁する。
ちっ、と舌打ちをして、翼の妖怪は視線を逸らした。
「あと、トゥアイセンにそっくりな人間がいたにゃ!」
その発言で、会議場は騒然となる。
「肉体は全く別物だったけど……魂と魔力の気配が全くと言って良いほど一緒だったにゃ!
私の結界も拳一つで破ってきたし、話しながら毒の妖術を致死量の十倍くらい掛けたけど、完全に無効化してきたにゃ!」
「ホムラ、報告は正確にしろ」
「そうよ、仮にトゥアイセンの継承者が居たとしても、人間なわけがないでしょ」
「ホムラはトゥアを一番怖がってたけど、一番懐いてたからな……。幻覚でも見たんじゃない?」
「結界も張り忘れてて、毒も風向きかなんかの関係で届いてなかったんだろうし」
「きゃはは、ありそー、ホムラ、バカだし」
「失敗の言い訳としては見苦しい」
口々にホムラを否定する妖怪達。
「う、嘘じゃないにゃ……、あと懐いてなんかないにゃ……」
涙目になって反論するも、自分でも現実味がないと気付いたのか、声が小さくなっていく。
と、そこでホムラの頭を撫でる妖怪がいた。
「……私は、信じる」
長い二つの兎耳の、小柄な妖怪だった。
「センガぁ……」
ホムラが思い切りその妖怪に抱き付く。
「ホムラの体に、確かに、トゥアイセンに似た魔力が、残ってる。……気がする」
「……気がするだけかい……」
角の妖怪が小声で呟く。
「ふはは! ナンバー2がそう言ってるにゃ! ザコどもは黙ってるにゃ!」
後ろ盾を得て、俄然高圧的になるホムラ。
「……まあ、いい。で、改善策は?」
角の妖怪が話を戻す。
「もちろん、これからは最高傑作達を使うにゃ。全員、ピュアパラなんかに負けるわけがないにゃ」
「……ん、信じてる」
兎の妖怪がホムラの顎下を優しく掻く。
ホムラは「ゴロニャン……」と兎の妖怪にすっかり身を委ねた。
「センガは本当にホムラが好きだな」
その声で、会議場の空気が一変する。
私語やざわめきはピタリと止んで、まるでその声そのものに威圧感が備わっていたかのように。
「ん、好き。可愛いし、頑張ってる」
唯一、声の主と同格のセンガだけは、いつも通り返事する。
「にゃふふ、私もセンガ、大好きにゃ」
ホムラも同じように、特に変化は見受けられない。
「ふふ、嬉しい」
じゃれ合う二人。
そして、そんな二人を微笑ましそうに眺める、威圧感の声の主。
「……まあ、この二人はいつものこととして。
ともかく、だ。諸君」
威圧感の声の主が立ち上がる。
この場の上座、もっとも豪奢な玉座に座っていた、彼女達の王。
一見、人間の少女と変わらない見た目だが……口を開いた時に見える犬歯だけが、鋭く長く伸びていた。
「15年かけて、これだけの戦力が集まってくれた。
15年前、ほとんど無計画で放り出された時はリディオを恨んだものだが……集まってくれた諸君には感謝する。
そして、ホムラの研究のお陰で、塔の外に戦力を置くことすら出来た。これで、計画が50年は早まったと見て良い。
直情的でいい加減なところもあるが、実力は周知の通り、第三位にふさわしい。まあ、適当に付き合ってやってくれ。
と、いうわけで、だ。雌伏はそろそろ充分だろう。
天界がなにやら邪魔してきてるようだが、取るに足らん。
この世界、壊して殺して犯して――奪い取るぞ」
割れんばかりの鬨の咆哮。
単純な戦闘力なら妖魔よりも優れた、妖怪という種族――
その優位性を示す戦いが、ついに本番の幕を開けた。
†
会議が終わって。
兎の妖怪と、王が二人きりになる。
「センガ。報告書には、トゥアイセンに似た、という部分は全て削除してくれ」
「ん。そんなこと書いたら、絶対、生け捕り、言ってくる」
「どこまで信憑性があるか分からんが……そいつは早々に消すか、あるいは……」
「……有能なら、内緒で私たちに、引き入れる」
「そういうことだ。頼んだぞ」
そう言い置いて、去ろうとする。
「待って」
その言葉に王が立ち止まる。
「ホムラに、ご褒美、あげて」
「…………」
「…………だめ?」
「……いや、そんなことはない。この後ホムラの部屋に寄ってやろう」
「ん。きっと、喜ぶ」
「今日は何時に帰れるかな……」
くすくす、と兎の妖怪の笑い声。
この世界を侵略しに来た妖怪のトップ3人は……とても仲良しだった。
それは、元々なのか。
それとも、何かの共通項――たとえば、共通の知人の存在――が、彼女達の絆を強めているのか。
※次話から毎日17時更新となります
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