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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
1章 セヴンスヘヴンズ
21/77

14

 それから五分ほどして、ロープを調達しに行ったピュアパラが帰ってきた。


 四人が二人を拘束しに、土手を降りていく。

 ――仕方ない、のか。

 拘束後に事情を話せば分かってくれる、と信じるほか、ないのか……


「な、なんにゃ? なにごとにゃ!」

「なにする気にゃ! 泣いて駄々こねるぞ! 母性本能くすぐられて耐えられなくしてやるぞ!」

 牙を見せ、爪を立てて威嚇する二匹。


「……アバター、だよな? 初めて見るけど……」

「ねえ、この子たちタマハガネに戻してくれない?」


「ああ、えっと……戻れ! ……でいいのか?」

 ナナが言うと、ポンッ、と一瞬光って、一匹だけ妖玉に戻った。

「お、本当に戻った」


「えっと、あなたも戻って」

 ソラが言うと、同じようにもう一匹も妖玉になる。


 それからナナとソラの背後にそれぞれ一人周り込んで、後ろ手に両手を縛り始めた。




「……スノウ」

 ナナの手を縛っていた子が、手を動かしながらスノウを呼ぶ。


「なんです?」

「……こんなロープだけで大丈夫ですかね」

「と言うと……?」

「もし変身されたら、こんなの意味ないんじゃないですか?」

「でも、何もしないわけに行かないわ」

「ブレイドが消耗させてくれたお陰で、変身する力残ってないみたいですし。

 だったら今のうちに、ちゃんと動けないようにしておくべきだと思います」


 ピュアパラたちの視線がその子に集まる。

 ソラもナナも、顔だけ振り返っていた。


「私がコイツらの足と腕の骨を折ります。一応総合格闘やってるんで、出来ると思います」

「……ヴァイオレット。降伏の意思を示してる相手に、それは……」

「そんなの関係ないです! コイツらの気が変わったら、私ら一瞬で全滅ですよ? 足や手を斬られてからじゃ遅いじゃないですか! 念には念を入れておくべきです!」


 ヴァイオレットが声を荒げて、そう主張する。


「こんなロープじゃ、普通のピュアパラだってすぐ切れます。

 外の世界の法律とか、ここじゃ関係ありません。

 どんな手段を使っても、安全を取るべきです。

 ……タマハガネを持ってるのは、もうここに居る私たちだけなんだから……」


 ヴァイオレットの語尾が小さく消えていくと、場はシン、と静まりかえった。


 そこで小さく、「確かに」と誰かが呟く声。

「変身前の怪我は、変身で治ったりしないし……」

「ブレイドもボロボロだし、変身されたら今度こそ、取り返し付かなくなるわ」

「そもそもスカーレットの足切ろうとした奴らだし、配慮する必要ないよね」


 ヴァイオレットの意見に賛同する声が、段々と大きくなってくる。


「スノウ、ヴァイオレットに賛成です。口が利ければそれでいいかと」

「私も、ヴァイオレットの言うことはもっともだと思います。まあ可哀想だとは思うけど……自業自得でもあるし」


 スノウはしばし考えこんで……

「……分かったわ。ヴァイオレットの意見を採用しましょう」

 そう、宣言した。


「ヴァイオレット、お願いできる? 骨を折るって、結構なことだと思うけど……」

「はい、問題ありません」


「待ってくれ!」

 そこでナナが叫ぶ。

「やるなら私だけにしてくれ! 私たちは、密着しないと変化できない! 私を動けなくすれば、ソラはしなくて大丈夫だから!」


 そんなナナの足を引っかけて、うつ伏せに倒すヴァイオレット。

 ナナの髪を掴んで、頭を地面に押しつける。


「……うるせえんだよ。

 お前らのせいで、スカーレットはアキレス腱損傷して、心に傷を負った! ピュアパラ辞めるって言ってた!

 人を人とも思わないお前らの言うことを、なんで聞かなきゃいけないんだ!」


「悪かった! 謝るから! お願いだ、ソラは……ソラは、今日やっと、心の底から笑えるようになったんだよ!! だから……」

「黙れ! 一人で変身できないとか信じられるか!」


「お願いやめて! 力が戻っても大人しくしてるから!」

 ナナを守ろうとするソラを、二人のピュアパラが取り押さえる。


 ヴァイオレットがナナの右足を掴んだ。




 カリンさんを突き飛ばして、空を飛ぶ。

「春日野さん!?」


 ナナの右足に体重を乗せようとするヴァイオレット。

 その襟を掴んで、勢いに任せて投げ飛ばした。


 ――全身が、割れるような激痛を思い出す。


 が、なんとか歯を食いしばって耐え、ソラを拘束する二人を見た。

「……ソラを離して」


 二人のピュアパラは互いに見合い、ゆっくりとソラを離してくれた。

 私はソラの手を引いて、ナナと三人で固まる。


「……やっぱ、罠だったか。洗脳されたのか、寝返ったのか知らんけど……」

 ヴァイオレットが立ち上がり、包拳の構えで指の骨を鳴らす。


「……スノウ」

 私は周囲を警戒しつつ、スノウの方を見た。

「私は、この二人の専有権を主張します」


 専有権は、妖魔軍で採用されていたシステム。

 戦いに勝った者が、負かせた対象を独占的に所有・管理することを認めることだ。

 たとえば、ある妖魔兵がグリフォンを倒した場合、そのグリフォンは妖魔軍の共用ではなく、その妖魔兵個人の所有物と見なす考え方である。


「……専有権?」


 スノウが首をかしげる。

 ……うん、そりゃそうだ。咄嗟に言葉が出ちゃったけど、伝わるわけない。


「……すみません。えっと、つまり、五日前のガーゴイルの群れも、今日のこの二人も、私が単独で撃破しました。私が居なかったら、もっと甚大な被害を被っていたはず。

 だからその報酬として、この二人を保護する権利を要求します」


 言って、地面に転がる二つの妖玉を見る。


「1号、2号、こっちおいで」


 アバター顕現して、二匹がこちらに来る。


「そうにゃ、よーきゅーするにゃ!」

「やるにゃ? お前らトア様とやる気にゃ?」


「……無駄に気が削がれるから黙ってて」


 自分の手で口を塞ぐ二匹。


「……ともかく、この二人の身体を害すことも、心的苦痛を伴う尋問の類いも、私が一切許しません」


「……ブレイド。あなたが敵勢力に取り込まれた可能性を否定できない以上、その主張は受け入れられない」


 スノウが理知的な、冷たい声色で答える。

 ――ついさっき、私を労ってくれた、その口で。


「……取り込まれてるんなら、とっくにあなたたちを全滅させてます。

 あなたたちが元気なのが、私が正気である証拠です」


「……貴様……」

 ヴァイオレットの殺意のこもった視線。


「私の目的は変わらず、妖魔の撃退と塔の破壊です。

 敵の攻撃が熾烈化する今、二人の必要性を主張します」


「こいつらと共闘するって言うのか? ふざけるな、こんな奴らに背中を預けられるか!

 スノウ! ブレイド含めて拘束と監禁するべきです! この三人を放っておくのは危険すぎる。あとブレイドは洗脳されてる可能性もあります」


「……待ってよ。ちょっと、状況ムズいって……」

 スノウがこめかみを押さえながら、素を出していた。

 まあ、あくまで戦闘指揮すると思って来たんだろうし、可哀想ではある。


 ならば、助け船を出してあげよう。

「スノウ、それに皆、状況は簡単ですよ。さっきヴァイオレットが言ってたじゃないですか」

「……なんの話だ」



「境世界に外の法律なんて関係ない、って。

 だから、この場で一番強い私が、法律です。

 私の言うとおりにしてください」



 沈黙する境世界。


 敵意の視線、驚愕の視線、見定めるような視線、疑う視線……

 それとナナの悲しそうな視線に、ソラの涙目な視線。

 ……ついでに、暇そうに遊びだしてる二匹。




「はい」

 土手の上に居るピュアパラが手を挙げて、沈黙を破った。


 カリンさんだった。


「ブレイドを全面的に支持します。

 というかブレイドが言うとおり、ブレイドが二人を庇う意思を示した時点で、選択肢なんて無いと思います。

 ……私も骨を折るのはやり過ぎだと思いますし」


「ガーネット……」

 ヴァイオレットが憎々しげにカリンさんを見上げる。


「二人がどうして叛意したのか、私たちが来るまでに何があったのか、という点は詳しく聞いた方が良いでしょう。

 ですがそれは私たちだけじゃなく、ギルドの大人達も交えた場ですべきだと思います」


 カリンさんが言い終えると、皆の視線は徐々にスノウに向いていく。


「……ブレイドは、後日ギルドと話すのはオーケー?」

 スノウがそう尋ねてきた。

「はい。問題ありません」

 他の皆にも見えるように、大きく頷いて見せる。


「よし。じゃ、ガーネットの案で」

 スノウが苦悩から解放されたかのように言った。

「軽いなぁ……」

 苦笑いのカリンさん。


「待ってくださいスノウ! それはあまりに悠長すぎます。消耗してる今のうちに、無力化しておかないと……」

「ヴァイオレット。それはガーネットも言ったとおり、ブレイドが二人を庇った時点で無理よ。

 私はブレイドと敵対する気は無いし、したくもない」

「ですが……!」

 ヴァイオレットが反論しようとして、けれど言葉が出てこない様子で、ゆっくり俯く。


「……気持ちは分かるよ。スカーレット達を思うと、私も心が痛い。

 でも、ブレイドもスカーレットたちを逃がしてくれて、ボロボロになるまで戦って、勝ってくれた。

 今も、時間稼ぎして回復した後に暴力を振るえば楽なのに、言葉で歩み寄ろうとしてくれている。

 それを踏みにじる、って言うなら……私たちにはもう、正義なんてなくなっちゃうと思う」


 いやまあ、二人の骨折ろうとした私が言うのもなんだけど――と頬を掻きながら、スノウはそう締めくくった。


 ヴァイオレットは俯いたまま、何も言わない。

 一緒にナナを拘束しようとしていたピュアパラが、ヴァイオレットに寄り添ってポン、と無言で肩を叩いた。


「ともかく。『後日、大人を交えて話し合う』という日本人的な結論でこの場は決着! はい、撤収!」


 スノウはこれまでの空気を払拭するように、明るい大きな声で宣言した。




 それから、ピュアパラ達には先に帰ってもらった。ペロやカリンさんも一緒に。

 私は体が――表面上だけでも――家族に見られて平気な程度に回復するまで時間を潰した。ナナとソラも、それに付き合ってくれる。


 ただ……なんとなく、何を話して良いか分からない雰囲気の私たち三人。


「なあ、トア」

 そういう時、先陣を切るのはいつもナナだ。


「ん?」

「……回復したら、テスト対策ノートの解説、またしてくれないか? 今日はその……あんま、ちゃんと聞いてなかったから」

「トアちゃんじゃなくて私が怒るわよ」

「あはは、全然いいって。むしろ、今からテストの心配してくれるようになったのが、嬉しい」

「トアちゃんはナナを甘やかしすぎ」

「いや、ナナに冷たくしたらソラに嫌われちゃうじゃん」

「べ、別に、嫌いになんてならないってば!」


 顔を赤くするソラに、笑うナナと私。


 その後、ナナが開いたゲートで、私たちは境世界を後にする。



 こうして、私たちの長い長い一日は終わった。

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